【パーツ沼の底深く】
電子部品の話です。 長いことエレキと付き合っていると、パーツ沼・・・部品箱とも言う・・・の奥底にはたくさんの過去が沈んでいます。 この沼は底があるようでも意外に底ナシで何でも飲み込む困った存在でした。 どうやら妖精も住んでいないようで金の斧を持って登場することもありません。w
まだ若かった頃には『何時か使うから』と言うもっともらしい理由をつけて構わず沼に放り込んだものでした。 それから月日も流れ、すでに人生の折り返し点を過ぎればぼちぼち「沼さらい」で身ぎれいにしておかないと家族の迷惑が目に浮かぶようになってきました。 そう思って手を付け始めると思いがけない『発見』があって、それがまたまた寄り道の始まりになるのです。
少し前になりますが、RTL-ICと言う黎明期のロジックICを使ったキーヤーを製作したことがあります。 そのときDTL-ICの存在にも気付き、いずれ此れでも遊んで見たいと思いつつ今になってしまいました。(キーヤー:エレキーとも言うがたぶん日本だけのよう)
ずいぶん古い話になります。ジャンクの基板から調達したDTL-ICでキーヤーを作ったことがありました。 そのとき参照した回路図にはDTLではなくTTL-ICが使われていたのです。 DTL-ICとTTL-ICは混在でき、しかもキーヤーのような超低速な論理回路なら殆ど同じように動く筈です。 但し同じ論理機能を持ったチップがなかったので生半可な知識に基づく代替を図ったのが間違いのもとでした。 その結果、もちろん旨く動作してくれません。 論理回路は冷徹ですから『性能は悪いが取りあえず動く・・』と言うようなアナログチックな寛容さはないのです。
参考:写真は発掘された超古いNEC日本電気製のDTL-ICです。あとで使ってみます。
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パーツ整理と「あの時」のリベンジを兼ねてDTL-ICでキーヤーを作ります。 今どきDTL-ICなど入手できませんしロジックICを並べて作るにしてもC-MOSがお薦めです。 むしろワンチップ・マイコンで作るのがトレンディでしょうから参考にならないBlogです。 お正月が超おヒマでしたら他愛ないお話にお付き合い下さい。 でも師走にこんなBlogを眺めて『ひまそー』にしていると奥さんに叱られますよ。w
【TTL-ICのキーヤーで知る基本】
前にRTL-ICで作ったキーヤー(←リンク)のTTL-IC版と言える回路です。 RTL-ICは負論理デバイスだったのでICの単純な置き換えだけでは動きません。そのあたりが少し違っていますが動作の基本はまったく同じです。
TTL-ICとDTL-ICは互換性があって機能は類似しています。まずは良く見掛けるTTL-ICを使ったキーヤーを製作し、動作が理解できた所でDTL-ICに置き換えようと言う作戦です。
図はSN7400シリーズの標準TTL-ICを使ったキーヤーです。 4回路入り2入力NANDゲートのSN7400Nと2回路入りJK Flip-FlopのSN7473Nを各1個ずつ使ったプリミティブなキーヤーです。 長短点メモリを持たないので高速キーイングでは多少ミスが出てきますが必要な機能は備えており十分実用になるだけの性能があります。 パドルを繋ぎ実際にキーイングして確かめました。hi
特殊な部品は使っていないので製作容易です。ICや他の半導体もすべて安価な汎用品です。リレーは『リードリレー』がお奨めで後ほど説明があります。電源電圧は+5Vが標準ですが4〜6Vで支障なく動作します。
どの様に動作するのか順を追って調べてみましょう。とてもシンプルなキーヤーなのでオシロスコープで各部の動作を見ながら理解するには最適です。低速論理回路なのでオシロスコープがなくてもLEDが点灯するロジック・プローブを使えば動きがわかります。
まず、パドル(パドル:いまはマニピュレータとは言わない)が操作されず中点の位置にあるときがスタートポイントです。 クロック発振回路のQ2はONしておりQ1のベースとQ3のコレクタはGNDされ、クロックパルスは停止しています。またゲートU2a、U2bともに出力はLowです。 このためFlip-Flop、U1a、U1bともにリセット状態で静止しています。 ゲートU2cの両入力ともにHighのため出力は反転しLowの状態です。キーイング・トランジスタQ4はオフで、リレー接点もOFFのままです。
いま、パドルが短点:Dotの側に倒されると、U2aの出力は反転し、Flip-Flop U1aのリセットが解除されます。同時にQ2のベースもD2を通してGNDされるためQ2はオフになります。 ただちにクロック発振のQ3がONしコレクタ電流がベースに流れ込んでQ1もオンするため正帰還が掛かってC1の電荷は一気にディスチャージ(放電)されます。R4とR5の接続点には鋭く下方に向かうパルスが現れます。これによりFlip-Flop U1aはただちにトリガされ/Qは反転しLowになります。 放電によってC1の電位が急速に低下するとただちにQ1とQ3はOFFになります。下方に落ちていたパルスは正方向へ急上昇に転じ、R4とR5の接続点にはごく幅の狭いパルスが発生します。
Q1とQ3がOFFするとC1にはVR1を通して電荷がチャージされます。 C1の電位即ちQ3のエミッタ電位がR4とR5の接続点の電圧によって決まる電圧に達すると再びQ3がONし、Q1もONします。パドルが短点側に倒されている限り上記の動作を繰り返します。 狭いクロックパルスの立ち下がりエッジでFlip Flop:U1aは継続的にトリガされ、その出力:Qと/Qはクロック発振器の周期ごとに反転を繰り返します。 U1aの/Qは短点の周期でHighとLowを繰り返すことになります。 同時にU2cの出力もLowからHighになってリレードライバ:Q4がONしリレーの接点が短点の長さ分(クロック1周期の分)だけ閉じます。
次にパドルが長点:Dashの側に倒されると、短点の時と同じようにクロック発振器によりパルスが発生します。なお、D1のルートによりパドルの短点側もGNDした状態になります。 こんどはFlip-Flop U1bの方もリセットが解除されるため、U1aの出力によりトリガされて反転を繰り返します。 U1aとU1bの/Q出力はU2cにより負論理のORが取られていて、いずれかがLowのときHighを出力します。この出力によってリレードライブのトランジスタはONします。 今度は短点一つ分と長点側のFlip-Flopで作られ、一周期遅れた短点2つ分の長さに相当するパルスが繋がって出力がでるので、合計で3短点分のパルスに相当する長点が作られます。U2cの出力がHighになってリレードライバ:Q4がONしリレーの接点が長点の長さ分だけ閉じます。
パドルが中点に戻されると、次のクロック・パルスの到来でFlip Flopは反転し、そのときパドルは離れているため、ただちにU1aとU1bの/QがHighとなってFlip-Flopはリセット状態に戻り保持されます。U2cの出力もLowになりリレー・ドライバ:Q4もOFFになってリレー接点は開きます。クロック・パルスも停止します。 これで短点も長点も出ない初期の状態に戻ります。
以上がクロック発振器の周期で短点とスペースが作られ、また周期の3倍の長点と1周期の長さでスペースが作られる仕組みです。 かなり簡略化しましたが大まかなキーヤーの動作です。各部の動きはクロック発振器に基づいたタイムチャートを作るとわかり易かったです。
参考:このTTL-ICを使ったキーヤーは古い雑誌記事(JA-CQ誌)を参照しました。 但し記事の回路図には誤植と思われる間違いがあったほか、回路の形式や部品定数にあまり適当でない所がありました。 そのまま作っても正常に動作しないので記事の引用はせず、図面は書き直しました。上の回路図は修正してありこのまま作れば旨く動作します。製作容易で費用も掛からないため入門用のキーヤーとしてお奨めできると思います。
【発掘したDTL-IC】
DTL-ICと言うのは、Diode Transistor Logicの略です。その名の通りダイオード使ったANDやORと言った論理回路と論理レベルを再生するためのトランジスタ式反転アンプで構成されています。後ほど内部回路の説明図があります。
写真の上側に3つ並んだM5946とM5952がDTL-ICで三菱電機製です。もちろんたいへん古くて1970年前後のICでしょう. 三菱電機はDTL-ICでは逸早くファミリを構築していたようです。 他の日本メーカーでも作っていたようですが見掛けませんでした。 ICが珍しい時代でしたし秋葉原でもデジタルICはまだまだ一般的ではなかったからだと思います。 このDTL-ICはFairchild社のDTμL9930ファミリと互換性があります。(セカンドソースです)
参考:M5946PとM5952Pはたくさんありました。いずれ捨てるので欲しい人はお早めに。但し、いずれも元々ジャンクの中古品です。動作確認済みを差し上げます。(2016年12月現在)
【DTL-ICで作ってみた】
M5946PはSN7400Nとピン接続も含めて互換です。従って、そのまま置き換えできます。 しかし、問題はSN7473Nの方でした。 DTL-ICのファミリにはそのまま置き換え可能な互換品はなさそうです。それにもしカタログに存在したとしても手に入りません。
手持ちのDTL-ICでSN7473Nと類似のJK Flip-Flopは写真のM5952Pしかありませんでした。 このM5952PもJK Flip-Flopが2回路入っているのは同じなのですが、2つのFlip-Flopのリセット端子が共通になっているのが困りものです。 おそらく同期式カウンタを構成する時に便利なように考えられているのでしょう。作ろうとするキーヤーでは個別にリセットが掛けられないと旨くないのです。 おまけに両方のFlip-Flopのクロック端子が共通ピンなのもまずいです。
何か補うとか、少し工夫すれば使えそうにも思うのですがそれも面倒なのであっさり2パッケージ使うことにしました。外付けのICが増えるくらいならM5952Pを2つ使っても同じことですからね。 それぞれ半分は遊ばせる訳です。これでクロックとリセットの各入力端子はFlip-Flopごと独立にできたので問題は解決です。
余った方のFlip-Flopが勿体ないのですが、このような置き換えでTTL-ICの時と同じように旨く動作してくれました。 これでDTL-ICでキーヤーを作ると言う目標はあっさりクリヤです。 まあ、論理回路なのですから「論理」の辻褄が合うように作ればちゃんと動いて当然ですよね。
リベンジできたのでこれでオシマイでも良かったのですが「パーツ沼」の底をさらっていたら超古いDTL-ICらしき物体が発見されたのです。なので、以下は更なる続きです。
コラム:『TTLとDTL 』
キーヤーにTTL-ICが使われ始めたころ『TTLは高速なのでRFの回り込みで誤動作し易い』と言われたことがありました。今ではRFI対策を行なえば支障ないことが周知されていますが、当時はTTL-ICを嫌ってDTL-ICのキーヤーに戻ったHAMもあったと聞きます。確かに、DTL-ICの最高クロック周波数は低いのでRFの回り込みには幾らか有利だったのかも知れません。ただ、DTL-ICで作ったキーヤーの実物は回路図を含めてお目にかかったことはなかったように思うのです。DTL-ICはあまり流通しなかったので噂ほどには使われなかったのではないでしょうか? 1970年代中ころのお話です。
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【さらに初期の国産DTL-ICで】
最初は三菱のM5900シリーズのDTL-ICで出来たらおしまいにしようと思っていました。 しかし、使えそうなDTL-ICを探している途中で最初の写真にあるような日本電気製の超古いDTL-ICが出てきたのでした。それで何とか此れも使ってみたいと思ったのです。 引出しの奥から出てきたのはμPB2A、μPB3A、μPB7Aの三種類でした。
そのDTL-ICは10ピンの金属缶パッケージに入っています。たぶん1960年代前半の製品でしょう。 まもなく60年前にもなる初期のデジタルICです。 μPB1AファミリはNEC日本電気が市販した最も初期のバイポーラ・デジタルICではないでしょうか? (1965年発売の半導体解説書には登場するのでそれ以前に開発されたようです)
もともとハンダ付けの跡がある中古品でした。 まずは壊れていないか確認しました。NANDゲートのμPB2AとμPB7Aは簡単に調べられ全部大丈夫そうでした。 μPB3AはRS Flip-Flopなのですが、どうも様子がおかしくて壊れていそうです。 しかし数個ある全てが同じ症状と言うのもちょっと不思議です。
やがてわかったのですがこのDTL-ICファミリは全てオープンコレクタ出力だったのです。参照した簡単な規格表にそのことは何も書かれていなかったのです。 結局どのICもプルアップ抵抗の外付けが必要なのでした。 まさかRS-Flip-Flopまでオープンコレクタ出力とは思いもよりませんでした。 初期のDTL-ICはまだ手探りだったのでしょう。ファンアウト、スピード、消費電力が出力端子のプルアップ抵抗で変わるため回路の自由度を上げる目的で外付け式にしたのではないでしょうか。
古い古いDTL-ICの特徴がわかったので置き換えることができました。 JK Flip-Flopがないのが問題でしたが、RS Flip-FlopにCRを外付けしT Flip-Flopにする方法でこれも解決できました。写真はキーヤーの全貌です。以下、経緯など纏めます。
【初期のDTL-ICで苦戦?】
さっそく最終的な回路図です。 ゲート、フリップ・フロップともに、すべての出力端子がオープン・コレクタ形式なのでプルアップ抵抗:RLの外付けが必要です。
また、CRによる微分回路を外付けしてT フリップ・フロップを構成しています。このようなことからコンデンサ:Cと抵抗器:Rが増えました。この超古いDTL-ICを活用する以上やむを得ないでしょう。このμPB1Aファミリは電源電圧:Vcc=+6Vです。開発された当時はまだ電源電圧は+5Vと言う「常識」はなかったのでしょう。
ほか、これはお遊びですが半導体は全て古いNEC製を使ってみました。 NPNトランジスタは2SC32です。PNPトランジスタにはゲルマニウムの2SB218を使いました。もっと近代的なシリコンのPNPもあったのですが時代を揃える意味でゲルトラを使いました。 ダイオードもNEC製で古い型式の小信号シリコンDi:SD101です。 ついでにキーイング・リレーもNECのリード・リレーを使います。 レトロな日本電気製の部品だけでキーヤーが作れました。(まあ、NECで揃えたからと言って大して意味はありませんけど)
回路図の部品は1960年代末にはすべて存在した筈ですから、その当時、国産のDTL-ICを使ったキーヤーが作れた訳ですね。
備考:数に限りがあるようですが、μPB2AとμPB3Aがサトー電気で売ってます。どれも単価100円だそうです。各2個ずつあれば作れます。しかし、古くて珍しいと言うだけのもので他に何のメリットもないのでお奨めはしません。ゴミ扱いだから@100円なんです・爆 (2016年12月現在)
【ある物を工夫して使う】
NEC製の古いDTL-ICだけでキーヤーが出来たらと思ったものの残念ながら肝心のJK Flip-Flopがありませんでした。 カタログにはμPB10Aと言うJK Flip-Flopも存在するのですが、私のジャンク沼には沈んでいなかったのです。
最初はゲートの部分だけNEC製でFlip-Flopは三菱のM5900ファミリからでも良いと思ったのですが・・・何となくそれも残念です。
左図・右下の様にRS Flip-FlopとゲートICを組み合わせてJK Fkip-Flopが合成できます。 しかしICの数ばかり増えて大変です。どうしてもダメそうならそれも考えたのですが・・・。 それにキーヤーの回路を見るとJ = K = Highに固定して単なる2分周器(バイナリカウンタ)として使っています。絶対にJK Flip-Flopである必要もないでしょう。
RS Flip-FlopにCRを外付けすれば2分周器が作れることを思い出しました。 その方法でμPB3AがJK Flip-Flopの代用にならないかテストしてみました。 少しCRの値を加減したら旨く分周動作してくれます。 直接リセットする為にリセット端子も必要なのですが、μPB3Aは元がリセット・セット型のフリップ・フロップ(RS Flip-Flop)なのですから、余った入力ピンを使えばこれも簡単にOKでした。それに「セット端子」の方は使いませんから禁止されているR=S=Lowになって、Q=/Q=1や出力が「不定」になることもありません。これでμPB3Aが代替になった訳です。 なお、μPB3AがなければμPB2AあるいはμPB7AをRS Flip-Flopの形に外部で配線すれば同じように使えます。
図の左上にDTL-ICの等価回路を載せておきました。回路は2入力のNANDゲートの例です。 但しμPB1AファミリのDTL-ICでは図のRLと言う抵抗器がすべて外付けになっているのです。 あとは概ね同じような等価回路でしょう。
なお、EXPと言う端子は「エキスパンダ」端子です。これはダイオードを必要な数だけ外付けすれば任意の入力数のゲートが作れると言ったDTL-IC特有の便利端子です。 従って多入力のゲートは必要なくて、入力数を増やしたいならダイオードの外付けで間に合わせることができます。μPB2AにあるEXP端子はキーヤー回路には不要なので遊ばせておきます。
【DTL-ICキーヤー:左半分】
写真左側に古いNEC製トランジスタ、2SB218と2SC32(2個)を使ったクロック発振器があります。
2SC32と言えば、その昔50MHzトランシーバの終段増幅に使いましたね。 50MHzで数100mWのパワーが出ましたからHAMの間ではファイナルの石として有名でした。メーカーのカタログにもVHF帯まで使える中電力のRF用デバイスと書いてあります。 しかし当時の一般的な(工業的な)用途を調べると、どうやら汎用のシリコントランジスタの扱いだったようです。 いまで言うところの2SC1815のような存在でしょうか。要するにゲルトラで満足できない時はどんな回路にでも使ったようです。まだ汎用に使えるシリコンの小信号用トランジスタが無かったのでしょう。このような低速パルス回路に使って何も不思議ではありません。
コラム:『2SC32と2SC945』
2SC32研究家のJG6DFK/1児玉さんに伺ったお話です。児玉さんのご友人によれば『2SC32を半分にしたのが2SC945』とのこと。 汎用の小信号用トランジスタとしては半分くらいが丁度良いと言うニーズが多かったのでしょう。2SC32が祖先ならRFにも向いた汎用トランジスタとして2SC945が重宝されたのもわかります。実際、2SC945は2SC32(但し新型のほう)の半分と良く似た特性です。ちなみに写真の黒い2SC32は1964年製の旧型です。
クロック発振器の右にはμPB3Aを使った分周器が2つ並びます。 一つ目でクロックパルスの周期に従い短点とスペースの長さを決めます。 もう一方で更に分周し続くゲートでORをとって三つの短点分の長点を合成するとともに短点一つ分のスペースを作ります。 動作は先のTTL-ICの説明と同じです。
μPB3Aの部分にはCRによる微分回路やプルアップ抵抗があるのでアナログICのように見えます。 この辺が在り合せのDTL-ICで構成する上で工夫を要した部分でした。 趣味の電子工作だから良いものの、仕事のお方にはつまらん工夫と言われそうですね。
【DTL-ICキーヤー:右半分】
長点を合成するORゲート(負論理)とクロック発振器を制御するゲートなどが並んでいます。いずれもμPB2Aを使っています。型番捺印は古い書体です。
後に続く回路の状態に応じてプルアップ抵抗:RLを変えています。 ファンアウトが1で済むところは4.7kΩ、負荷が重いところは2.2kΩにして十分な論理レベルが確保できるように加減しました。同時に消費電流の低減もできました。
リレードライバは2SC32です。 すこしhFEが小さいようですが取りあえずリード・リレーがドライブが出来ています。 なるべく高感度なリレーが良いのですが写真のNEC製リード・リレーの電流は多めです。ぎりぎりドライブできると言った状態でした。 無理そうなら2SC32を2つ使ってダーリントン接続にすれば良いでしょう。
パドルが接続される部分はダイオードを使ったOR回路になっており、クロック発振器のスタート・ストップをコントロールします。 この部分の黒いダイオードはNECのSD101ですが、まあここは小信号用のシリコンDiなら何でも大丈夫です。1S1588とか1S2076Aで十分なんですがネ。
【クロック発振器で味がきまる?】
正確に言うとクロック発振回路に使うPNPトランジスタでキーイングの感触に違いがあるんですよ!?
写真では2SB218を使っています。 2SB218はゲルマニウム・アロイ型のPNP型トランジスタです。 もともとスイッチング用に作られたトランジスタなので旨く働いてくれます。
ところがシリコンのPNPトランジスタ、例えば2SA1015Yなどと比較すると、どうもキーイングの感触に違いを感じるのです。 クロックの波形を観測してみると、ゲルトラだとパルス幅が30μSくらい広くなるようでした。 PNPシリコンでは負方向へ向かう狭いパルスの幅は40μSくらいですが、2SB218では約70μSに広がります。 たった0.00003秒の違いが人間の感触として捉えられるとも考え難いのですが、キーイング・スピードを上げてパドル操作が早くなると、パドルを離すタイミングで微妙に効いてくるのかもしれません。
最初はまさかと思ったのですが、どうも(低速な)ゲルトラを使うと符号ミスが増えていま一つな印象がありました。 比較のため同じゲルトラでも高速なMesa型に交換したらパルス幅はずっと狭くなってキーイングの感触も変わります。 結局、スイッチングスピードが遅いアロイ型のゲルトラはどうもイマイチみたいなんです。 クロック周波数が僅か数10Hzのキーヤー回路でトランジスタのスイッチング速度の差を体感するなんて思いもよりませんでした。 まあ慣れれば何とかなる程度のごく僅かな違いなんですけれど・・・。
#使った石の種類でキーヤーの打ち味が変わるとは面白いね。
【いまどきリードリレーでもないが】
リードリレーはHAM局にはあまりお馴染みでないかもしれません。 リードスイッチと言う磁気に感じるスイッチを使ったリレーです。
特徴は高速なことにあります。ON/OFFが1mS以内で可能です。 極端なところ、1kHzでON/OFFできるほどです。 但し、機械的な寿命があっという間に来てしまうのでそのようなお遊びはお奨め出来ませんけれど・・・。
また接点が不活性ガス中に密封されているので酸化や汚れによる接触不安定が殆どありません。 欠点は接点の電流容量があまり大きくないことと、OFF時の耐電圧がやや低いことにあります。
高速動作が可能なのでキーイングリレーには最適です。 真空管のカソード回路を直接キーイングするのは無理ですが、ブロッキングバイアス式のキーイングなら支障ありません。 開閉寿命は数100万回あるので普通にオンエアするならまず交換する必要はないと思います。 接点に無理を掛けないのがポイントなので、開閉電圧が高い時は接点保護にスナバ回路など入れておくと良いかもしれません。 機械的なリレーですから接点の開閉で幾らか動作音がします。
写真上側のような円筒タイプは古い形式です。 Photo-MOSリレーの登場で活躍の場も少なくなっていますが、よく使われるのは手前のDIPタイプです。これは14ピンのDIP型ICと同じサイズです。 動作電流も10mA前後と高感度なのでドライブは容易です。 ドライバを介さずマイコンのポートから直接駆動できます。 OFF時の接点間キャパシタンスが小さく、RF用スイッチや測定器など小電流の開閉に最適です。
やはり、機械的な接点ですからチャタリングは皆無ではありません。 どうしてもチャタリングが支障になるなら水銀接点型のリード・リレーもあります。
参考:入手容易なリードリレーとして秋月電子通商のこれ(←リンク)が見つかりました。 5V10mAで動作するのでちょっとした回路の開閉には便利です。マイコンから直接駆動できます。 すごく安いので信頼性などは国産品に及ばないかも知れませんがキーヤーのような用途なら支障ないでしょう。
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【DTL-ICでキーヤー:ムービー】(注意:音が出ます)
キーヤーで恒例(?)のムービーです。 リレーをドライブする代わりに圧電ブザーをON/OFFしています。 実際にパドルを繋いでキーイングしてみました。 長短点メモリーがないので長短点が出たのを見計らって次のパドル操作をします。なので超高速キーイングには向きません。しかしムービーの速度くらいなら余裕で可能でした。 HAMバンドをウオッチすればわかりますが、他局に合わせた早さで支障なくキーイングできます。簡単なキーヤーですがごく当たり前に実用になるでしょう。
#いずれブレッドボードの試作から脱却してハンダ付けで製作します。
参考:写真のシングルレバー式パドル:Hi-Mound MK-701はJR7HAN:花野さんがシャックをリニューアルされた際にお譲り頂きました。シンプルで扱い易いパドルで愛用致しております。 VY-TNX! JR7HAN
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パーツ沼の「底さらい」から始まったノスタルジックなお遊びです。 部品の入手に難点がありますから、そっくり真似てNEC製DTL-ICで作るのは難しいでしょう。
しかし最初の動作検討に使ったTTL-ICのキーヤーなら今でも難なく作れます。 回路図通りのSN7400NやSN7473Nと言った古いTTL-ICもまだ手に入ります。 もしそれらのスタンダードTTLが難しければ74LS00と74LS73と言ったLS-TTLファミリでもOKです。 さらにC-MOSの74HC00と74HC73でも大丈夫なよう考えておいたのでHC-MOSファミリでの代替もできるでしょう。 近代的なマイコン式と大して違わぬ実用的なキーヤーが作れます。もしもエレクトリック・キーヤー未体験でしたら作ってみたら面白いでしょう。
その上でCWのオンエアにハマってきたら長短点メモリ付きなりマイコン式なりのキーヤーを製作したら良いです。その頃にはキーヤーの良し悪しもわかる筈です。 なお、どんなに良く出来たキーヤーでも初めは上手く打てません。 30分も練習すれば誰でも上手になります。 一度エレクトリック・キーヤーを覚えるともう過去には戻れなくなりますけれど・・・。hi
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パーツ沼を覗き込んで、古い半導体の悲哀を感じてしまいました。きちんと動作する機器が作れるのにほとんど無価値な存在になっています。 真空管なら中古品でも十分価値が認められ高額取引されることも珍しくありません。 しかし古くなった半導体にそんなんことはまず稀です。どうやら頃合いを見てきれいサッパリ整理するしかないようです。その前に少しでも使ってやるのが供養と言うものでしょうか? この先も部品供養の製作が続きそうです。
2016年もありがとうございました。良いお年をお迎えください。新年の挨拶に代えさせて頂きます。 ではまた。 de JA9TTT/1
(おわり)nm
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