【秋月のDDS発振器】
これは有名な秋月電子通商の「DDS発振器」です。多くの自作好きのお方と同じように過去に何台も製作しています。
一見して周波数設定の部分をジャンパ・プラグ式で製作したので、DIP-SW式と違うように見えるかもしれません。 他にも少し変更した箇所があって、あとで説明があります。
もう既に「中華DDSモジュール」でさえ盛りを過ぎた今頃になって何で「秋月DDS」なのだろうか? 疑問を持たれたかも知れませんね。
ここに来て製作した理由は2つあります。
(1)理由の一つは、このまま活用しないと勿体ないと思ったからです。このキットは最近買ったものではありません。かなり前に買ったまま死蔵していたのです。活用しなければいずれゴミになります。
(2)二つめの理由は検討している目的にマッチしていそうだからです。今となっては高性能ではありませんが発生周波数を半固定で使うには便利そうなのです。 アキュムレータのビット数も適当です。
☆
以下、思い付きのニーズからリバイバルさせてみたものです。 既に高性能なDDSモジュールがたくさん登場しています。これを今どき使う必然性はあまりないでしょう。 しかし、この秋月DDSが登場したころを懐かしく思い出しながら、味わいつつ製作したいと思います。 今回は単にキットを組み立てるだけでオシマイです。懐かしさは感じられても何かの役に立つとも思えません。単なる製作記録なのです。(笑)
【自分で作る必要があった】
秋月のキットには有料の製作サービスが有ったと思います。 しかしDDS発振器が必要なら殆どの人は自分自身で製作したはずです。
これ単体でも最低限の使い方ができるように考えられています。 基板の端面に並んだDIP-SWで発振周波数のセットができたからです。(実際にはマイコンで制御しないと実用性はあまりないのですが・笑)
DIP-SWで周波数セットするのは手間が掛かります。 欲しい周波数を決めたら、クロックの周波数とアキュムレータのビット数からセットすべき数値を求めます。 しかもその数値を純2進数でDIP-SWにセットする必要があります。 関数電卓を駆使してセットすべきビット列を求めなくてはならないのでした。
それでもマイコンのプログラムなしに単独でテストできるのは大きなメリットかも知れません。作ってすぐにテストできるからです。 今回、リバイバルさせてみようと思ったのもそんな特徴からです。 周波数を半固定して組み込み用に使います。そのような時には外付けマイコンなしで済むのは便利です。
キットではハンダ付けの難しい部品は予め実装済みです。 DDS-ICとR-2R式のDAコンバータ用抵抗アレーは基板にハンダ付けされていました。
初期のバージョンではクロック発振器が16.777216MHzになっていた記憶があります。あるいは16MHz丁度の発振器だったかも知れません。 その後、高い周波数が発生できるように67.108864MHzに変更されました。 現在でも後継のキットが発売されていますが(*注)、クロック発振器が写真とは異なるタイプに変更されています。プリント基板もそれに合わせたニューバージョンに更新されています。
(*注:当初の6,400円が5,400円に値下げされたあと、暫く販売されていましたが現在はすべて販売終了したもようです。その役割も終わったと言う事でしょうね。2017.05.14)
【部品はそれほど多くない】
写真に写っている部品がすべてです。 大した部品数ではないので容易に製作できます。
購入時には周波数設定用のDIP-SWが3つ付属していたような気がします。 しかし何かの製作に流用したらしく欠品していました。
基本的に付属してきた部品をそのまま使って製作します。 但しキットのままではローパス・フィルタ(LPF)の遮断周波数が低すぎました。 フィルタ部分のみ手持ち部品に置き換えることにします。 また、テストが済んだらクロックの67.108864MHzは外部から与えます。テスト時のみ付属の発振器を使います。
【DDSの心臓部:Wellpine-DDS】
心臓部のDDS-ICです。 Wellpine社というのは設計会社だったように思います。 製造はどこかの半導体メーカーのはずです。型番から何となく東芝製のようにも見えますが・・・。
中身はゲートアレーなのではないでしょうか? DDSの論理回路を汎用のゲートアレー上に実現したものと想像しています。
ピン数が多くハンダ付けが難しいので、写真のように予め右隣のD/A変換用R-2Rラダー抵抗器と一緒に実装済みになっています。 従って残りは普通のリード線型の電子部品をハンダ付けするだけですから作るのは容易です。
【旧キットはきれいなクロック】
これはキット付属のクロック発振器です。 消費電流が大きい、周波数の微調整ができない・・・などの欠点はありますが、出力信号そのものは奇麗だったのでDDS発振器の基準クロックとしては支障のないものでした。
暫く前のBlog(←リンク)に書きましたが、いま手に入る「秋月DDSキット」にこの写真のタイプは付属しません。 写真の物が調達できなくなってから「プログラマブル・水晶発振器」を使ったクロックが付属するようになりました。 特に信号の奇麗さを要求されない用途なら新しいプログラマブル・水晶発振器でも支障はないかも知れません。
しかしHAM用の送・受信機に使うなら写真の旧クロック発振器の方が遥かに望ましいのです。 そうは言っても手に入らないのですから仕方ありません。もし最近購入したキットを製作するなら、クロックは前回のBlog(←リンク)のような発振器を作って与えたいところです。
【組立完成】
写真は秋月DDSモジュールの完成状態です。
一部に付属にはない部品を使っています。そのため多少見た目が違うかも知れません。
周波数設定用のジャンパ・プラグは未挿入です。 このあと必要な周波数に合わせて所定の位置に装着します。
様々に周波数を変化させたいなら外付けマイコンでシリアル・コントロールする方が良いでしょう。 しかし、なかば恒久的に同じ周波数を発生させるのが目的ならジャンパ・プラグのセットで周波数を「プログラミング」する方法が手っ取り早いです。このあたり、どの様に使うのか目的次第でこのキットの扱い方も変わってくるところでしょう。
【LPFは部品定数変更】
DDSに必須のローパス・フィルタですがキットのままでは約8MHzの遮断周波数になっていました。
クロック周波数が低い時にはそれが適当ですが、67.108864MHzのクロックで使うには遮断周波数が低すぎて最適とは言えません。
ここでは遮断周波数:fcが約15MHzになるように変更しています。 具体的にはL1〜L3に0.47μHを使います。C12とC15は220pF、C13とC14は440pF(=220pFのパラで実現)にしました。 これで15MHzあたりまで使えるようになります。
【クロックは着脱式】
付属してきたクロック発振器は完成後の基板テストの時だけ使用します。 ハンダ付けしてしまうと取り外すのは厄介です。ここでは「ピンソケット」という部品を使って着脱式にしました。
テスト時には写真のクロック発振器を装着し動作確認が済んだらクロックを外部から与えるようにします。 なお、外部クロックで動作させる際に追加を要する抵抗器:R20(=100kΩ)は基板の裏面に実装しておきました。この抵抗器は付けたままで支障ありません。外部クロックの与え方次第ですが、この抵抗はなくても良いことが多いはずです。
☆
ありふれたキットを当たり前のように組み立てただけです。 他のDDS発振器が登場している今となっては少々色あせて見えるかも知れません。 しかし、1990年代の末にこのキットが登場した時のインパクトたるや強烈でした。 PLL発振器では困難だった1Hzや10Hzといった細かいステップで周波数変化が可能な発振器がいとも容易に可能になったからです。 PLLのような自動制御に付きものだった過渡応答のようなものはありません。PLLで細かい周波数ステップを実現するには多大な努力が必要でした。その殆どすべてが一発で解消されたのですから・・・。
DDS(ダイレクト・デジタル・シンセサイザ)はそれ以前から存在していた技術です。しかし、それはたくさんのICを並べたとても高級な製作でした。 それがキット化されコンパクトで扱い易い形状で発売されたのです。 無銭家にとって6,400円はお手軽とは言えませんが「高度な技術を買う」と考えれば十分納得できるものでした。 だからこそ死蔵せずに活躍の機会を与えてやりたいと思うのです。
それで、きちんと動作したかって? ずいぶん長い間、眠り続けてきたキットでしたが大丈夫でした。 付属してきたクロック発振器の状態でちょうど10MHzが出るようにセットしてみました。 出力は正弦波で、0.7Vppくらい得られました。 肝心の周波数を測定した結果は3.7Hzくらい低くなりました。これは0.4ppmくらいのマイナス誤差です。 クロックの周波数精度は±5ppm程度でしょう。0.4ppmの誤差なら十分スペックに入っています。 これで製作したDDS発振器の動作は正常だと確認できました。 ではまた。 de JA9TTT/1
【コラム:はんだコテ】(おわり)nm
製作には2回前のBlogで紹介した「温調式ハンダこて」(←リンク)を使ってみました。細かいパターン部分の作業に付属していたコテ先チップはやや大きめでしたが、概ね支障なくハンダ付けできました。 温度設定は300℃で使いました。焼け過ぎることもなくハンダの乗りも良好です。 但しベタGNDの部分では長めにコテを当てる必要がありました。なかなか快適に作業できましたが、もう少し高めの温度設定でも良さそうです。