2025年6月11日水曜日

【電子管】Testing the 2nd Converter (Part 2)

第2周波数変換をテストする(2)(追試編)

Introduction
In the Collins-type receiver I designed in my last blog, the second local oscillator determines the frequency stability. I use a self-converter circuit to save power in my design using battery tubes. I use a 1AB6/DK96 battery tube in the converter circuit, but the local oscillator coil is the most important part. The first core material I used with high permeability didn't have good temperature characteristics. So I decided to wind an air core coil. And I test it.(2025.06.11 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【ペンタ・グリッド管の第2コンバータ・追試】
 電池管を使って受信機を創るプロジェクトを進めています。 コリンズタイプで受信機を作る方向で検討を進めます。

 第2コンバータはLC回路を使った自励発振の局発を使っています。 前回のBlog(←リンク)ではコア入りボビンに巻いた局発コイルで試しました。 実用になりそうな性能ではあるものの、周囲温度変化による周波数ドリフトは大きめでした。

 その対策として、ステアタイト製ボビンに巻いた局発コイルを作ってみました。 今回のBlogはそのコイルを試すのが目的です。

                   ☆

 せっかく通信型受信機をつくるなら「まともな真空管」を使ったらどうか・・・というご意見もあるでしょう。 電池管であろうが普通の球だろうが実験・製作の手間はさして違いませんから。 乾電池を電源にする受信機を作るのが目的なら別ですが、結局AC電源で使うことになるのでは普通の球で作る方がマシな物が作れるでしょうね。 ここでは長年ジャンク箱に眠ってきた「電池管を使う」というのが一つの目的になっていますので方針を継続したいと思います。

 あまり興味が湧かないとお感じならこの先はパスしてください。永いようでも短い人生、限られた貴重な時間を有効に使いましょう。 意味を感じないことに時間を浪費してはもったいないです。

【第2コンバータの回路設計】
 回路図は前回のBlogの再掲載になりますが、このテストではおもに+B電源(真空管のプレート系電源)の電圧を67.5Vとして動作させた時のデータがまとめてあります。

 これまで手近にある電源の都合で+B=50Vでテストしてきました。 今回は50Vでは本来の性能が発揮し切れないように感じたため、+67.5Vにアップしてみました。 同時に第2グリッド(発振用三極管のプレート相当)の電圧を調整しているドロッパ抵抗を加減してみました。(27kΩ→15kΩへ変更) これによって発振部のgmがアップし、少々発振が弱い局発コイルでも何とかなるようにしています。

 本質的な対策としては、局発コイルのプレート側フィードバック・コイルを巻き直す(多くする)べきです。ここでは巻き直さずに済ませる方向で検討しました。

【トラッキング・エラーを計算する】
 既にトラッキング回路の設計は済んでいます。 今回テストするコイルもそれに基づいて製作したものです。

 理想状態で計算した結果と現実では幾分か違いが出て当然です。 ただし周波数も低いうえ、許容されるストレー容量も案外大きいことから、計算結果とよく一致するのではないでしょうか?

 計算上どの程度のトラッキングエラーが発生するのか、掴んでおきます。 その結果、たったの250kHzだけカバーする仕様では、トラッキングエラーはせいぜい100Hz程度のようです。 トラッキングの調整をする際にRF同調側を可変範囲の両端ではなく幾らか「内側の周波数」で合わせ込めば重要な周波数付近の誤差をもっと小さくできます。

 なおこの設計ではトラッキングエラーのカーブは2次曲線的になって中心付近で最も誤差が大きくなる特性です。これは可変範囲がかなり狭いからです。だからと言って問題になるほどのエラーではありません。支障なく使えます。 局発側のトラッキング調整ではコイルは固定でパッディング・コンデンサを加減する方法で行なう予定です。

【第2コンバータの発振波形】
 第1グリッドで発振波形を観測しています。 ただしこの写真は+B=50Vにおける測定例です。

 はじめは+B電源は50Vで検討を進めていました。 確実な発振は得られたのですがやや発振が弱いように感じたのです。 そこで二つの対策が考えられました。

 一つ目はコイルの巻き直しです。プレート側のフィードバックコイルを13回巻きから15回以上にすることです。 もう一つ結合を密にするために同調側との距離を減らすことです。場合によっては同調側のコールドエンドの上に重ねて巻き密着させてしまいます。

 しかしいずれも厄介なので第三の方法として回路定数である程度カバーできないか検討してみました。 それと+B電圧をアップするのも効果があるはずです。

 結局、コイルの作り直しも大変ですから回路電圧のアップと部品定数の変更で何とかしました。 まず+Bを+50Vから+67.5Vへとアップします。 さらに第2グリッドのドロッパ抵抗:R2を小さくしてみるのです。 標準設計ではR2=27kΩですが、これを15kΩや10kΩに減じます。

 そうすると第2グリッド電圧がアップし、流れる電流も増えるのでgmが大きくなって発振も強勢になります。 そうは言ってもむやみに電流を増やすのは考えものです。 電池管は特に最大電流が小さいからです。過剰な陰極電流(Ip+Isgなどの合計)はエミ減(陰極の電子放射能力の減退:エミッション減退)に繋がって球の寿命を縮めます。(今さら長寿命に拘る理由もないんですけれども・笑)

 検討の結果R2=15kΩが概ね適当な値であることがわかりました。もちろんこれは局発コイルの作り方によっても変わります。 上記の回路図はそのような部品定数になっています。 従って、現状で発振振幅は約8.6Vppが得られており、まずまずの動作状態になっています。


【局発周波数のドリフト特性:タイムラプス・ビデオ】
(参考:このビデオは再生しても音はでません)

 静止画ばかり見ていても面白くありません。 試みにタイムラプス・ビデオを撮影しました。 このビデオは20秒ごとに静止画を撮影し繋いで動画にしています。 11時17分頃から回路への通電開始とともに撮影も開始し、12時20分頃までおおよそ1時間少々の間の周波数の変動を捉えてみました。電源投入から1時間の周波数変動ということになります。再生時間は36秒間です。

 肝心の周波数変動ですが、スタートから徐々に周波数が下がって行きますが、途中から上昇に転じるのがわかるでしょうか? その間に300Hzくらい変化しました。 前のコイルは同じようなテストで10kHz弱の変化があったので明らかに改善されていると思います。

 一旦下降して再び戻るのは、周囲温度の変化があったからです。 最初温度上昇があり、その後は換気を行なったので元の周囲温度に戻ったのでしょう。 コイルの温度係数は+ですので、温度上昇でインダクタンスが増えて共振周波数は下がります。 簡単ではないと思いますが、温度係数がややマイナス気味のコンデンサで温度補償すると言う手もありそうですね。

 コイルを裸のままで観測するなんてナンセンスですが、あくまでも比較テストですので正規の測定前の様子見だと思ってください。こんな実験ですが良い結果を得たと思っています。 ステアタイトのボビンに巻いたコイルはやはり安定しています。

 タイムラプスはいまだ試行中なので、次回はもっとわかりやすい時計の指針位置にするとか、撮影を工夫してスタートしてみたいと思います。 今回はちょっとわかりにくいですが、初めてなのでsri。 見てるだけのお客サンも評価作業の雰囲気だけでも味わってください。(笑)

【コイルを固定してしまう】
 高周波ワニスを塗る順番が逆だよって言われそうですね。 経験によればサンハヤトの高周波ワニスのインダクタンスへの影響はほとんど問題になりません。 従って、あとから塗ってもあまり支障はないと思っています。

 巻き直しが発生したとき、ワニスが塗ってあると厄介なため、確認が済んでから塗布することにしたのです。

 防湿効果と巻線の固定の意味からも高周波ワニスの塗布はあった方が良いでしょう。 なお、この高周波ワニスは販売終了になっています。 代替品が線材屋さんなどで小分けされて販売されています。 できれば塗布した方が良いので手に入れておくことをお薦めします。コイル全般に使えます。(こうしたコイルを巻くことは稀になっていますけれど・笑)

 発泡スチロール樹脂をちぎって溶剤に溶かし代用品を作るというアイディアが昔からありました。しかし巻線との密着性があまり良くないので今一つだと思います。むかし作って試したことがあります。

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【高性能菅でテスト:6AJ8 / ECH81】
 低性能な電池管ばかり相手をしていたら少々疲れてしまいました。息抜きに電池管ではない高性能な真空管を試しましょう。これはオマケの実験です。(笑)

 6AJ8 / ECH81は欧州系のコンバータ管です。FM / AMラジオ用として開発された球です。

 米国系の技術が主流になった戦後の日本ではあまり知られていない存在でしょう。 真空管式のAM/FMラジオが作られたごく短い間だけ国内でも使われた球でした。(1960年代始め)

 当時、NHK-FMと東海大の実験局:東海FMしか存在しない日本では魅力に乏しいFM放送はあまり注目されず、FM付きラジオも商売にはならなかったようです。ほとんど普及しませんでした。 FM放送が大衆化したのは'70年代のラジカセ時代になってからです。もちろん真空管ラジオの時代は終わっていました。

 6AJ8は五グリッド管(七極管)と三極管の複合管です。 FM受信のとき、七極管の部分は10.7MHzのFM-IF Amp.として動作します。 AM受信では三極管の部分で局発を行ない七極部で周波数変換します。AMのIF周波数は455kHzでした。

 6AJ8は変換コンダクタンスが大きいためゲインが高く、等価雑音抵抗も低いため良く知られているコンバータ管:6BE6の3倍くらいFBな球です。 ただ、通信機への応用例はほとんど見られず、高性能とわかってはいても使われない球でした。 わたしも使ったことはありませんでした。

 その理由は、一般市販のコイルセットの局発コイルがそのままでは使えないためです。既成コイルの改造が必要とあっては手を出す人も稀だったのでしょう。それに球数をいとわない通信機用としては他のミキサ回路の方が6AJ8/ECH81よりも優れていたからです。

 今回の一連の電池管を使った実験では二次巻線付きの局発コイルが必須だったため自作しました。 その派生で6AJ8/ECH81もテストできた訳です。 いずれ詳細をレポートできたらと思っています。 ざっとした評価ですがなかなか良い球です。  なお、トランスレス管には12AJ7 / HCH81があってヒータ電圧違いの同等管です。

                    ☆

 ステアタイトボビンに巻いた局発コイルが適切か否か調べるために実験してみました。 確実な発振が起こってくれて、周波数も安定してくれたらという期待を込めて。

 どうやらそれは目論見通り旨く行ったようです。 電池管の受信機用としてはちょっと大げさですがこのコイルを使ってみましょう。 では。 de JA9TTT/1

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                 ー・・・ー

 ところで、趣味のBlogも気持ちの平穏がなくては続けられません。 永い永い『電子回路談義』は一旦お開きに致します。 ご愛読ありがとうございました。 de JA9TTT/1 T.Kato : fm

2025年5月27日火曜日

【電子管】Testing the 2nd Converter circuit: 1AB6 / DK96

第2周波数変換をテストする(活用編)

Introduction
In the Collins-type receiver I designed in my last blog, the second local oscillator determines the frequency stability. I use a self-converter circuit to save power in my design using battery tubes. I use a 1AB6/DK96 battery tube in the converter circuit, but the local oscillator coil is the most important part. The first core material I used with high permeability didn't have good temperature characteristics. So I decided to wind an air core coil.(2025.05.27 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【ペンタ・グリッド管の第2コンバータ】
 電池管を使って受信機を創るプロジェクトを進めています。 コリンズタイプで受信機を作る方向で検討を続けます。

 前回のBlog(←リンク)では第1コンバータであるクリスタル・コンバータ部をテストしました。今回はそれに続く第2コンバータを検討します。

 写真はテスト途中のものです。まずは局発コイルを巻き、オシレータ・トラッキングの設計を検証しています。必要なカバレッジが得られるか確認しているところです。 もちろんここは周波数安定度を決めますからとても重要な部分です。その検討も行ないました。

 バリコンは予定通りFM3連・AM2連のタイプを使います。カバーする周波数の範囲が250kHzと、ごく狭いことから、容量の小さい方のFM用3連バリコンの部分を使うことにしました。

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 詳しくはこれ以降の部分で明らかになりますが一般的にアマチュアが作るコリンズタイプ受信機の後半部分は単なるシングルスーパと等価なものです。要するにシンプルな短波ラジオのようなものですから周波数帯こそ違いますが中波BCバンドのラジオとさしたる違いはないわけです。 周波数カバー範囲は短波帯ではありますが、一般的に2〜3MHzあたりのごく低い方を選ぶので難しい周波数帯でもありません。

 シンプルなラジオ並みの設計ですからあまり興味の対象ではないかも知れませんね。 今回も暇人専用コンテンツです。あなたの貴重なお時間を大切に!

【第2コンバータの周波数関係】
 すでに前々回のBlog(←リンク)においてブロック図で検討していますが、もう少し具体的な設計に踏み込んでみます。 第2中間周波は455kHzの設計です。

 まず、受信周波数範囲ですが7MHzのHAMバンドをフルカバーする設計で考えます。 7.000〜7.200MHzのカバーが必要ですが、上下に多少のマージンを設けます。
 従ってカバレッジの設計としては25kHzずつのマージンを設けて6.975〜7.225MHzとしましょう。可変範囲としては7.100MHzを中心に250kHz幅になります。

 なぜもっと広い周波数範囲にしないのかと言う疑問もあるでしょう。例えば7.000〜7.500の500kHz幅にするとか、7.0〜8.0MHzの1MHzでも良いのではと思われるでしょう。

 これはダイヤル機構が関係します。 しっかりしたダイヤル機構が構築できるなら500kHzや1MHzでも良いのです。(要スプリアス検討) ここでは簡略にする必要からなるべく狭く設計したいと思っています。 ダイヤルスピードがSSBやCWのチューニングに適することも大切です。

 具体的には、バリコン付属の減速ギヤ+ボールドライブを考えているのでカバー範囲をあまり広くするとダイヤルがクリチカル過ぎて操作性が低下してしまいます。 まあ選択度も良くないのでAMの受信なら少々クリチカルなダイヤルでも大丈夫なのですが・・・ここではSSB/CWも受信対象ですので。

 バリコンは最初の写真にあるものを使い周波数範囲を決めクリスタルコンバータの局発周波数を5.12MHzとして第2コンバータの具体的な周波数設計を行なってみました。左図で確認してください。

【第2コンバータの回路設計】
  左図は具体的な第2コンバータ回路です。 コンバータ管には1AB6/DK96を使います。

 受持つ周波数範囲は1.855〜2.105MHzと中波のちょっと上ですし、カバー範囲も狭いのでコンバータ管は1AB6/DK96ではなくて1R5(-SF)でも大丈夫でしょう。上記周波数帯を455kHzへ周波数変換します。

 周波数も低いですから引っ張り現象(Pull-in)もほとんど問題にならない筈です。 ただし多少なりとも有利な1AB6/DK96を使います。もし手持ちがあるなら1L6や1U6も適する筈です。1U6は1AB6/DK96同様に25mAフィラメントの省エネ管です。(どちらも1AB6/DK96と互換球ではないので回路変更を要する)

 1stコンバータ・・・クリコン部の出力には強力な局発の成分:5.12MHzがかなり漏れて来ます。 そのため第2コンバータが入力オーバーで飽和しないよう、入力部に2段の同調回路を置きます。

 それ以外はBC帯の自励式コンバータ回路と違いはありません。 この回路もキーポイントは局発回路で、特にコイルにあります。 まずはその試作から始めました。 最初の写真はコア入りのボビンに巻いて試作した局発コイルで局発部分の動作を確認している様子です。

【発振波形で確認】
 最初にコア入りの小型ボビンで試作した局発コイル(OSC Coil)で発振を確認します。

 巻数比が適正か否かの確認が先決でそれは発振々幅の観測からわかります。他にもグリッド抵抗:R1=27kΩを流れるグリッド電流で確認する方法もあります。

 写真のように第1グリッドで見て8Vpp得られていますからマズマズと言えるでしょう。電源電圧が低いためか、やや発振が弱い感じもしますが取り敢えず使えそうです。

 具体的には東光製の「10PA」と言う形式のコイルボビンに巻いています。ツヅミ型の芯コアと外側の調整式ツボ型コアという構造になったものです。
 いずれのコア材も透磁率:μが大きいらしく少ない巻き数で大きなインダクタンスが得られます。そのため作り易いメリットがあります。また一次側巻線と二次側巻線の結合度が高くて発振コイル用には向いています。

 しかしこのコイルは少量の入手が難しいのでこれ以上の詳細は省きます。是非とも欲しいお方には差し上げますので連絡ください。少量なら手持ちがあります。
 類似のコア材としてaitendoの「IFTきっと」があって同じように使えます。(巻き回数は異なる。未製作ですが、1次側:39回、2次側:10回で良いはず)

【発振はするが・・】
 発振周波数を確認しています。2310kHzというのは受信機としての受信周波数で言えば低端にあたる6975kHzになります。(-455+2310+5120=6975(kHz))

 トラッキング回路の設計検証と周波数安定度の様子を見るのが目的です。

 表示周波数の下位桁が文字化けしていますが、カメラのシャッターが開いている間に周波数変動があって数字が多重露光になっているためです。

 1Hz以下の部分ですし、何のシールドもされていないブレッドボード製作ですから常に微小な周波数変動があっても不思議ではないでしょう。 水晶発振ではなくてLC発振ですから。(笑)

 短時間の周波数安定度を見ていて、概ね実用できそうな感触をもちました。 そのため通電のまま暫く放置して変動を観察してみました。

 目的の周波数帯:7.000〜7.200MHzが逃げてしまうほどの周波数変動はありませんでしたが、思ったより大きな変化があるようでした。 電源ONから数時間で10kHzくらいの変化するようです。 通電初期の変動は大きいのですが、すぐに安定してきて変動量が減って行きます。しかしジワジワした変動は残るようです。

 通電したままでエージングが進めばもっと安定してくる可能性もありますが、どうもミュー:μの大きなコア材を使ったコイルは周囲温度の変動に敏感な感じでした。透磁率μの温度係数がかなり大きいのでしょう。 未検討ですがaitendoの「IFTきっと」を使う方が幾らかマシかも知れません。
                   ☆

 周波数カバレッジには問題はないようです。 トラッキング回路の設計・計算は大丈夫として周波数安定度はもう少し何とかしたいと思いました。 コア入りの局発コイルは調整に便利なのですが・・・思いきって空芯コイルを試すことにしました。

【マヂック・ハンダ?】
 部材ストックからステアタイト製のボビンを見つけました。直径は1インチ:25.4mmで長さは63mmなので、2・1/2インチのようです。

 すっかり忘却していて出所不明ですが、おそらく自励発振式のLC-VFOを作るつもりでストックしておいたのでしょう。 使わなければいずれ不燃ごみの運命ですから使ってやることにしました。

 ところで「マヂック・ハンダ」って知ってますか? コイル好きでしたらバーアンテナとかコイルの端に巻線を止めるための樹脂が塗ってあったのを覚えているでしょう? いえいえ、コイル全体に塗る高周波ワニスのことではありませんよ。
 見知ってはいたのですが、どんな「物質」でどう「扱う」のかは知りませんでした。 インターネット時代になってから知識が広まり、あるとき材料の入手と使い方の情報がもたらされました。(情報源はJA2EP/JH1FCZ・大久保OMのところだったように思います)

 タイトボビンに空芯コイルを巻くなんて滅多にありませんのでコレを使うこともほとんどありません。この機会に「マヂック・ハンダ」を活用してみましょう。
 棒状の樹脂が販売されていて使い方は簡単です。 ハンダ鏝のような高温のコテ先で溶かして塗布するだけです。(サトー電気で売っていた(いる?)との情報あり)

 ただし専用コテならともかく、ハンダ鏝をそのまま使うとコテ先が傷んでしまいます。 滅多に使うものではないので応急的にハンダ鏝の先にアルミ・フォイルを巻きつけて使いました。 一般的なハンダ鏝のような300℃以上にもなるようでは高すぎるのですが、よく溶けて作業性は悪くありません。 ただし高温のまま放置するとコテ先に残った樹脂がコゲてくるようでした。

【巻数は?】
 マヂック・ハンダはうまく使えて、コイルの巻線固定に使えました。 綺麗に仕上げるにはちょっとコツがいるようですが・・・

 空芯コイルの巻数とインダクタンスの関係は昔から計算式が良く知られています。 長岡氏係数表を使って形状寸法から計算できます。

 経験からかなり高精度で算出が可能なこのとはわかっていますが、可能なら実寸法を求めてから計算する方がより精度よく求められます。 ここでは60回巻いて寸法を求めてから計算してみることにしました。もちろんインダクタンスの実測も行ないます。 巻線にはφ0.4mmのポリウレタン銅線(ウレメット線:UEW線とも言う)を使います。 周波数が低いことから大きめのインダクタンスが必要なので密着巻きで作ります。

 数えながら手巻きしたのですが、最終的には現物の巻線を数えて確認しました。写真に撮って画像拡大して数えると容易です。59回巻きでしたね。(笑) ノギスなど使って巻き幅も実測しておきます。 これらの寸法はコイル設計に使います。 59回巻きのコイルのインダクタンスは実測で約63μHありました。計算値とほぼ一致です。

 参考:寸法形状からインダクタンスを求める方法を左図に示します。 寸法を実測して電卓で計算すればかなり高精度にインダクタンス値が求まります。 空芯のコイルに限ります。コア入りのインダクターには適用できませんのでご注意を!

【コイル設計】
 ステアタイト・ボビンに密着巻きしますのでコイルの内径はボビン径の25.4mmです。

 さて、何回巻いたら目的のインダクタンス・・・この例では52μHが得られるのでしょうか?
 巻線の直径、内径、巻幅などを計算ソフトにインプットすればインダクタンスが計算できます。 これは自作の計算アプリですが、ほかにもWeb上のコイル計算サイトがあるようですから利用すれば簡単に求められます。

 形状の実測から寸法を求めていますのでかなり精度の良いインダクタンス計算ができるでしょう。 計算と実測での比較検証によれば誤差1%くらいの精度があるようでした。なかなかの高精度ですね。 ここでは51回巻けば目的とする52μHのコイルが作れそうです。

【コイルを巻く】
 実測による補正で52〜53回巻きで目的のインダクタンス付近になりました。 1〜2回違いですから計算通りと言えるでしょう。

 現実のコイルには分布容量があって、単純に共振周波数を見つけるだけではそれが分離できません。 従って高精度のコンデンサと合わせて共振点を求めて計算したところでインダクタンスは正確には得られません。

 正確なインダクタンスを求めるには2〜3つの共振周波数から計算するのが良いでしょう。未知のインダクタンスのほか実際に分布容量も含めて計算で求められます。 磁気コア入りコイルの場合、コアの周波数特性が現れるので精度が落ちます。 しかし空芯コイルなのでコアは空気ですから周波数特性は概ね無視できます。従ってかなり高精度で計算できます。数個の既知の容量値のコンデンサとそれらとによる実測の共振周波数から、未知の分布容量とインダクタンスを連立方程式で計算します。角周波数:ωなど入ってきますが計算そのものは中学生レベルの算数ですね。ww

 ちなみに4種の精密な値のコンデンサを使い、得られた4つの共振周波数から求める方法で計算した結果、このコイルのインダクタンスは52.4μH、分布容量は4.23pFでした。53回巻きでちょうど良かったようです。

 しかしながら実際に回路に入れて使う場合、配線によるインダクタンスや回路自体の分布容量とか真空管の管内容量もあって影響の完全な予想は困難です。コイル単体ではほどほどの所へインダクタンスが収まれば申し分ないはず。 最終的には周波数の微調整で追い込むわけです。 今回はインダクタンスの加減が容易ではないのでパッディング・コンデンサの方で周波数カバレッジを調整します。

 写真のようにフィードバック用コイルも巻いて完成させました。 フィードバックコイルの巻き数は決めかねたのですが、やや多めの13回巻きでやってみます。巻線の間隔は約2mmです。

 このBlogの作成時点では実回路に入れた検証は済んでいません。従ってもし旨くないようでしたら巻き直す可能性があります。 空芯コイルは本来再現性が良くて同じ材料さえあれば作り易い筈なのですが2次巻線があるとなかなか厄介なものですね。

                    ☆

 中波ラジオのコンバータ回路と同じような製作ですが周波数安定度を決めますので重要度の高い部分です。 肝心の局発コイルはコア入りボビンを使うと製作・調整が容易ですが温度係数は大きくなりがちです。 φ1インチのタイト・ボビンで空芯コイルを作るのは少々やりすぎかも知れませんが興味のおもむくままに製作してみました。あとはきちんと発振してくれたら良いのですが・・・もちろん周波数安定度も気になります。 乞うご期待。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1

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つづく)←リンクnm

2025年5月13日火曜日

【電子管】Testing the Battery Tube X-tal Converter : 1AB6 / DK96

1AB6 /DK96でクリスタル・コンバータを(活用編)

Introduction
I have made a prototype crystal converter circuit using a 1AB6/DK96 battery tube. This circuit is located at the top of the Collins-type receiver and has a significant impact on the receiver's performance. I made a prototype for design verification. The results obtained were good. When the antenna was connected, it was found that the received signal in the 7 MHz band could be received with good sensitivity. This is a step forward to the production of the receiver.(2025.05.13 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【ペンタ・グリッド管のクリコン】
 いわゆるコリンズ・タイプと称する形式で受信機の検討を進めています。(前回のBlog←リンク参照) コリンズ社が考案者という訳ではないのですが、メカトロニクスの粋を結集し一つの受信システムとしてまとめ上げた功績からそう呼ばれるようになったようです。

 入力信号は水晶発振器を使った局発により周波数変換されます。 その後、可変I-Fの第1中間周波を経たのち再度周波数変換されて固定周波数の第2I-Fに変換されます。 今回のBlogではこの最初の周波数変換、1st コンバータを扱います。

 第1周波数変換は受信機のはじめの方にありますので真っ先にローノイズな性能が求められます。 RFアンプを前置するのは当然ですが、全体のノイズ性能を左右するのでやはりローノイズなコンバータ回路が望まれるのです。 特にHF帯のハイバンド以上では空間ノイズが低下することからローノイズ・コンバータ(ミキサー)は必須です。

 ここでは5グリッド管の自励式コンバータをテストします。 目的は7MHz帯の通信用受信機のコンバータとして必要な性能を備えているか否かを判断するためです。 もちろん最適な動作条件(回路の部品定数)を得るのも目的です。

 常識的に言えば水晶発振の局発を用意し五極管のグリッド注入型ミキサーとするのが良いでしょう。ローノイズでゲインも十分得られるからです。(ただし2球必要です) ここでは球数の削減を目的に5グリッド管(7極管:コンバータ管)で自励式コンバータ回路を試みます。(もちろん局発は水晶発振ですけれど) 5グリッド管を使えば単球で済みますが、これで性能は大丈夫でしょうか?

                    ☆

 ケチケチ設計のコリンズ・タイプ受信機になってしまいそうです。w マトモな設計の受信機を作るつもりならそもそも電池管なんかやめた方が賢明です。普通の球を使って作る方が報われやすいです。電池管はデバイスとしての性能が違い過ぎですね。
 例えば米軍用トランシーバ:RT-66〜68シリーズの基本設計は電池管式です。ただし高周波増幅だけは6AK5を使っています。たぶん電池管の1T4とか1L4では性能不十分なのでしょう。このRTシリーズがHF帯ハイバンドからVHF帯というのも関係ありますけれど。

 すべて電池管で作ると性能は期待できませんが7MHz帯ですから何とかなるんじゃないかと思ってテストしています。 つまらんと思ったらこの先はおやめください。 上っ面をざっと眺めたところで貴方が企んでいる高性能受信機設計にはほとんど役に立たないでしょう。 まあ考え方次第ですが。 私は得るものはあると信じています。(笑)

【七極管クリコン回路】
 「クリコン」とはクリスタル・コンバータの略で、クリスタル・・・水晶発振子のこと・・・を使った発振器を使うコンバータ回路のことです。 真空管としては1AB6/DK96だけでなく1R5-SFで作ることもできます。 1R5(-SF)でも水晶発振で使えば引き込み現象も実用上問題にならないはずです。 実際に水晶発振のテストまでは進めてあります。

 今回は1AB6/DK96で試すことにしました。 1AB6/DK96でも問題なく水晶発振が可能でした。 発振回路はピアースPG相当(無調整回路)で周波数は5.12MHzです。のちに写真がありますがきれいな正弦波(第1グリッド側で観測)で発振しています。

 第4グリッドはB+直結の回路になっていますが、追加の試験によるとドロッパ抵抗(100kΩ)とバイパス・コンデンサ(0.01μFくらい)を挿入しておく方が良いようです。ドロッパ抵抗を挿入すると状態が変わるため各実測値は異なってきます。 回路図のまま作っても支障はないため、図中の数値や以下の評価結果はドロッパ抵抗なしの例で示しました。

 入力の同調回路で昇圧された7MHz帯の受信電波は第3グリッドに加えられ、局発の5.12MHzと混合され差のヘテロダインで1.88〜2.08MHzに周波数変換されます。 なお、今回はコンバータ回路の要素実験なのでRFアンプなしのコンバータ単独でテストします。

 実際の受信機ではコンバータの前に高周波増幅(RFアンプ)を設けます。 またこの第1周波数変換の後ろは、おなじく1AB6/DK96を使った第2周波数変換が続く予定です。

 今回は第1周波数変換単独でテストする都合から、そのままテストできるよう便宜的に低インピーダンスにステップダウンして変換出力を取り出しています。そのため変換利得は犠牲になってしまいます。

 既存のジェネカバ受信機で1.88〜2.08MHzを受信してみることで実際に7MHzのHAMバンドがどのように周波数変換されて聞こえるのか、コンバータ回路としての性能が感覚的にわかるはずです。

 従って製作する受信機とはT2(出力同調回路)の部分が異なります。 受信機では2段の同調回路を重ねた形の可変同調回路を予定します。 その構成なら50Ωにステップダウンはしませんから2つの同調回路の結合損失程度の僅かなロスで済むはずです。 第1周波数変換回路としてはプラスのゲインになるでしょう。

【キーポイントは水晶発振】
 やはりキーポイントは水晶発振にあります。 確実な発振が起こらなければ周波数変換はなされません。 第1グリッド、第2グリッド(プレートに相当)とフィラメント(カソード)の三極によるスタンダードな水晶発振回路を構成します。

 ただし電池管はgmが低いため発振回路の部品定数を最適な状態に選ぶ必要があります。 たいへんポピュラーなラジオ用五極管:6BA6と同じような部品定数では発振してくれないことがあります。

 発振強度はC4(10pF)とC6(27pF)によって加減します。 この定数は比較的強力に発振するように選んであります。 もう少し弱い発振でも大丈夫そうですが強めに発振するよう選びました。もちろん選び方が悪いと発振してくれません。 さらに1R5-SFとではかなり異なりました。

 水晶発振子は5.12MHzですが、これは手持ちの都合です。 幸いスプリアスがバンド内に入ることはありません。 周波数の選び方が悪いとスポットでスプリアスが現れることがあります。
 5.12MHzの水晶発振子は市販品があります。使ったものの形状はHC-49/Uです。他の形状の水晶発振子でも大丈夫ですが発振子によっては回路定数の見直しを要する場合があります。gmが低い電池管はゲインが低いため部品定数選びは幾分シビアというのが大まかな印象です。

【発振波形を見る】
 第1グリッド側で発振波形を観測してみました。

 19Vppあって、かなり大きいように感じるかもしれません。 これくらいで支障はないようです。 むしろ変換コンダクタンス:gcの点から見てこれくらい必要なようでした。 これが小さいとだんだん変換ゲインが低下してきます。

 プローブを当てると対GND間のキャパシタンス:Cが増えたのと等価になります。 C4(10pF)が数pFくらい増えたことになります。 その結果、やや発振振幅は大きくなる(発振が強くなる)方向の影響が出ています。(グリッド電流Ig1を測りながらプローブを当ててみると影響がわかります)

【Philipsのデータシートでは?】
 いくら低性能なコンバータ管とは言っても諦めずにフルに性能を発揮させたいものです。 動作状態確認のためPhilips社の1AB6/DK96のデータシートを参照しましょう。

 横軸には第1グリッドに加えられる局発の電圧がとってあります。 描かれたカーブは変換コンダクタンス、プレート抵抗、第1グリッド電流です。

 このうち、変換コンダクタンスに着目しましょう。 それによると局発の電圧が5Vrmsあたり(=14Vpp程度)でピークになります。それより小さくても大きくても変換コンダクタンスは低下します。 ただし大きい方の変化は緩やかです。

 周波数が固定の水晶発振器ですから最適化はだいぶ容易です。 何か条件が変わって発振振幅が変動しても影響が少ないようにやや大きめの局発が加わるようにします。

 グラフを読むと変換コンダクタンス:gcはだいたい300μ℧くらいになります。 6BE6の変換コンダクタンス:gc≒475μ℧と比べたら小さいのですがこれが電池管コンバータの実力です。 むしろ五十分の1にも満たない陰極(フィラメント or カソード)の加熱電力で300μ℧が得られるとは驚きとも言えます。

【受信してみよう】
 RFアンプなしのコンバータ単体ですが、実験的にそのままアンテナを繋いで受信してみました。

 7,000kHzが1,880kHzに周波数変換されますから、7006.64kHzを受信していることになります。 実際には局発の5120kHzに+250Hzほど誤差があるため、その分だけ高い周波数を受信しています。まあ、わずかですが。

 スペクトラム表示を見てもらうとわかりますが、HAM局の電波が並んで結構良く聞こえます。 すこしノイズっぽい感じもしますが、コンバータ管直結ですからこんなものなのでしょう。 RFアンプをつければ間違いなく実用性能になります。 7MHzは空間ノイズのレベルが高くてNF≧20dBの受信機でも支障ないくらいです。 低性能な電池管で作った自称「通信型受信機」ではあってもまずまずの実力を発揮するでしょう。

 定性的な評価だけでなく定量的なゲイン測定も試みました。 簡易な測定ですが、はじめにSSGで7010kHzで40dBμを与えます。 そのときのIC-756のSメータの読みを精密に記録(記憶)しておきます。 その後、IC-756にSSGから変換された周波数とおなじ1890kHzを直接与えて同じだけSメータが振れるようSSGの出力を加減します。 その読みと先の40dBμとの差からゲインがわかります。 簡易ですがこれである程度の精度でゲインが測定できます。

 各部のインピーダンスが正確に50Ωではないと言った誤差要因はありますが10dBも狂うことはないでしょう。 実測によれば-4dBくらいのゲインになりました。 T2がステップダウントランスなので20dBくらいゲインを低くしている訳です。

                    ☆

 コンバータ管で「周波数変換できるのは当たり前だよ」 確かにそうなのですが、クリコンの製作例が見当たらなければ当たり前のことでも自身で確かめてみるのが近道です。 机上の検討だけでなく要素実験しておけば設計の確度はアップします。 今回は受信機の感度に関して重要なポイントになりそうな第1周波数変換回路(クリスタル・コンバータ)をテストしておきました。 意外に良い成績だったと思います。 まずまず使い物になる感触が得られました。

 次回もHAM用受信機に向けた回路要素を検討したいと思っています。電池管を活用した通信機の可能性が広げられたらだんだん面白くなってきます。 ではまた。 de JA9TTT/1

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2025年4月28日月曜日

【電子管】Planning a Battery Tube receiver

【電池管で受信機をプランする】(計画編)

Introduction
I started thinking about how I could make a receiver using a battery tube. There are two directions for that receiver. One is a single-super heterodyne format. It's just like what you'd find in a home radio receiver. The other is a double-super heterodyne format. The Collins type is especially wonderful in the double-super format. I decided to go for it. I've started looking for parts that I can use for the receiver. I'm really hoping I can find the right parts.(2025.04.28 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【これから造る受信機は:】
 中波BCバンドあるいは短波を含む2バンドのポータブル・ラジオならすでに検討した回路の延長で作れます。 当地は関東地方にあって比較的都会に近いのでラジオ局はみな強力です。スタンダードな4球式電池管スーパーで実用になるのです。「電池管を使ってみたい」という願望に対し、それも一つの回答と言えるでしょう。

 ここではもう一歩踏み込んで通信型受信機と言えそうなRadio Receiverを計画したいと思うのです。 一般的なラジオと何が違うかと言えば、感度、選択度、安定度でしょう。 これらは受信機の3要素と言われるものです。 もう一つ付け加えるとすればダイヤル機構の重要さがあります。

 ラジオ放送局は一般に大電力であり巨大なアンテナで送信しています。それに対して多くのHAM局はせいぜいPo=1kWであってアンテナも貧弱で大したものではありません。 HF帯のLow BandではフルサイズのDPアンテナに100Wが標準でしょうか? それでさえアパマンHAM全盛の昨今では贅沢なくらいかも知れません。

 要するに放送局と比べれば1/100〜1/1000くらいの設備と言えます。電界強度で考えると40dB〜60dBは違うはず。それだけ高感度でなければ満足な受信はできません。十分なゲインを望めば増幅段数は増えます。ラジオ並みの設計では不足です。
(参考:TA2003Pのようなラジオ用ICチップで受信機を作るとHAM用としては不十分な性能になってしまう理由でもあります。やはりラジオ放送用のチップなのです)

 選択度に関しては微妙なところです。 もちろん本格的な通信型受信機を目指すなら受信対象とする電波形式にあった帯域幅のI-Fフィルタを備えねばなりません。それでは簡易な受信機には高級過ぎるでしょう。フィルタのロスを補おうとすれば増幅段数は増えてしまいます。 耳フィルタで頑張る前提で簡略化する必要がありそうです。

 いかなる受信機も周波数安定度は良いに越したことはありません。 しかし電池管の受信機をFT-8の様なデジタルモードで使おうとは思いません。CWとSSBが普通に聞こえれば良いでしょう。 そう考えてLC発振の局発で何とかならないものでしょうか?

 こんな前提から受信機の構成を考え始めました。

                   ☆

 電池管とはどんな電子デバイスなのか?・・・答えはあらかた得られたと思っています。 ラジオを超えた通信型受信機の範囲へ発展させることも十分可能だと思います。可能性がわかったらもう十分なのかも知れません。 あえて低性能な電子デバイスを無理を承知で使って性能の良くない機械を作ったところでだれも感心しません。 物好きと思われるだけです。(笑)
 その通りだとわかっていますが乗りかかった船とも言いますのでもう少しこの方向で検討しておきます。 おヒマでしたらお付き合いを。もちろんさしたるお役には立たんでしょう。 暇人専用、忙しい貴方は時間を無駄にされませんように。

【シングルかダブルか?】
 現実味のない「夢の受信機」を語ることも可能ですが、ここでは実際に手元にある部品を活用する前提で「超現実的な方向」で考えてみたいと思います。

 ラジオを超えた受信機とは言っても、スーパ・ヘテロダイン形式で作る以上基本は同じです。
 一つはそのままシングルスーパを拡張する方向です。 感度や選択度が不足する部分は増幅段数を増す方向で考えます。 低周波を増やせば音量は増えますが感度は良くなりません。感度向上にはRFアンプとI-Fアンプを補います。

 左図の(A)はそうした構成の一例です。 一般的な球を使った高1中2と違うのところは局発回路でしょう。球数をケチるために自励式コンバータで済ませます。 これはプロダクト検波回路部分も同じです。 セラロックを使った自励式BFOのプロダクト検波器として最少の球数で実現します。 周波数安定度に多少の心配はありますが、受信周波数範囲を狭く絞ってやれば実用的な安定度も難しくはないはずです。

 左図の(B)はより発展させた形式です。 いわゆるコリンズタイプのダブルスーパになっています。 ただしここでも最少の球数にこだわっており、第1・第2のいずれの周波数変換も自励コンバータです。 もちろんプロダクト検波も同様です。I-F1段ではゲイン不足かも知れません。想定ではおおよそ5球スーパ以上、高1中2以下になるはずなので少々不満を感じそうです。

 もしも暫くのあいだシャックで実戦的に使いたいのでしたらI-F2段が良いでしょう。 コンバータ部にも変換ゲインはありますから丸々一段分のゲインが不足する訳ではありません。 IFTにもゲインが得られ易いものを使うと言った配慮を行なえばかなりカバーできます。1段少なくして多少なりとも簡略に済ますか、それとも安心を取るのかここは思案どころ。

【部品を吟味:IFT】
 7メガ帯くらいまでなら高1中2形式でも十分な実用性があるでしょう。 しかしラジオの延長のようであまり面白くありません。(笑) 上記(B)のダブルスーパで行きたいと思います。

 球数を減らすと性能が下がるのでホントを言えばI-Fは2段がいいです。その場合IFTはT-11かT-21が良いでしょうね。 メカフィルも良いのですが通過Lossが大きくて電池管1本分のゲインは確実に損します。 無理は承知でこの1段用のIFTを使ったダブルスーパを考えたいと思います。

 写真のTRIO T-6 IFTは昔買ったものです。受信機の計画変更のためお蔵入りなってそのまま時が過ぎました。 最近テストしたところ大丈夫そうですから使ってやりたいと思います。 いちおう選択度重視のIFTですがラジオ放送に対しての重視を意味しますからHAMバンドでは選択度が不足なのは当然です。耳フィルタで頑張りましょう。(爆)

【1段用IFT:TRIO T-6】
 IFT T-6は1段増幅用なのでハイ・インピーダンスの設計になっています。ただしgm =2m℧程度の球、例えば6BD6や6D6が想定です。検波は6AV6あるいは6Z-DH3Aの2極管検波を想定している筈です。IFT-Bのインピーダンス50kΩはそれが前提です。

 電池管:1AJ4/DF96あるいは1T4(-SF)を使うとgmはせいぜい1m℧ですからゲイン半減です。 検波回路の負荷インピーダンスをなるべく高くとって所定の負荷インピーダンスよりも高くなるような使い方を工夫する必要があるでしょう。選択度も良くなる方向なので悪くないはずです。

 図右下の特性曲線に鉛筆書きの選択度が書いてありますが、これは私が東光の簡易メカフィル:MFH-40Kの特性をプロットしたものです。T-6は高選択度型とは言っても簡易メカフィルにさえも負けるくらいですから碌にキレないのです。ラジオ用ですからねえ(爆)

                   ☆

 IFT以外のコイルも必要でTRIOのSシリーズコイルで言えばSE-RF付きがあれば使えそうです。 残念ですが持ってませんし手にも入りませんので何かのボビンに巻いて自製するしかありません。 200〜300kHz幅をカバーすれば良いので難しくはありませんが、周波数安定度を確保する必要からイイカゲンなボビンに巻くと失敗するでしょう。手持ちから検討する必要があって素材のチョイスが肝心です。

【部品を吟味:ギヤ付バリコン】
 コリンズタイプですから第1-IFは周波数可変です。簡単に言えば1.88〜2.08MHzのシングルスーパを作るのと等価です。(実際には250kHzカバーを予定) バリコンを使って局発を可変し第2コンバータの局発と段間同調回路をトラッキングさせます。 この設計は既に済んでいます。

 左写真Bのバリコンを実測したところ、FM用のセクション(3連分ある)の実質的な可変容量は18pFありました。 設計してみるとあまり無理のない定数で可変同調回路が実現できました。 1:3の減速ギヤが付いているので1回転半で周波数範囲をカバーすることになります。

 ダイヤル・ノブ直結でもなんとか実用可能かも知れませんが、かなり同調はシビアになるでしょう。更に1:3のボールドライブ等で減速するのが良さそうですね。 このバリコンを使うと右回転で周波数が下がるダイヤルになってしまいますがこれは止むを得ません。折り返して裏返るという手もありますけれど・・・。

                    ☆

 ダイヤル機構はもう少し考える必要もありそうですが取り敢えずこれ以上思いつきませんのでここまでにしておきます。 モノバンドで考えていますのでバンド切り替えのスイッチは不要です。コイルは切り替えず2〜3バンドカバーなら可能でしょう。 他に必要そうな部品もありますが何とかなると思っています。 プリセレクタのバリコンは電気的に見てポリバリでも大丈夫です。ただし構造からポリバリでは発振が恐ければ上記のエア・バリコンと同じものを使う手もあります。AMセクションを使うとカバー範囲が広く取れます。

 シンプルな路線で行きますので手持ち部品の工夫・流用で何とかしたいものです。

                   ☆ ☆

【1AB6/DK96のプロダクト検波】
 前回ネタ(←リンク)の続きとして同じ5グリッド管の1AB6/DK96でもプロダクト検波器を試作しました。

 1R5-SFの手持ち本数があれば1AB6/DK96での試作は不要でした。 あいにく1本しかなかったので回路設計の自由度をアップする意味で1AB6/DK96でも追試してデータを採っておきました。

 よく似た球ではありますが使い方は異なっています。刺し替えただけでは動作しません。一旦解体して再組み立てしています。写真は試行途中の様子なので部品リードが長いままだったり配置も最適化されていません。

 おなじセラロックを使って試作していますが、最適な回路定数は微妙に異なっており試作して確認する意味がありました。 最適化した上で得られる性能には大差はないようですから、機能ブロックとして置き換えは可能でしょう。

 フィラメント電流:If=50mAの1R5を使っても良いのですが、少しでも省エネに作りたいので1AB6/DK96でも試しておきました。 1AB6/DK96でプロダクト検波を試した人なんて世界中にほとんどいないでしょうね。 ここだけの話し、けっこう使えます。w

【1AB6/DK96のプロダクト検波回路】
  (図面:Ver. 1.0.1 UP 20250504)
 1AB6/DK96が1R5-SFと大きく異なるのは第4グリッドの扱いです。 1R5(-SF)の第2・第4グリッドは内部で結ばれてからピンに引き出されています。従って分離はできません。

 1AB6/DK96ではそれぞれ独立です。 第2グリッドが発振管のプレートに相当します。第4グリッドは五極管のスクリーン・グリッド相当で純粋に電子加速用のグリッドであり加える電圧によって特性は大きく変わります。 電圧を高く掛ける方がIpが大きくなりgm(gc)もアップするようです。

 ただし電圧には制限があります。Ep=85Vで使うときは第4グリッドの電圧を60Vに抑えて使います。逆にプレート電圧も64.5V以下で使うならドロッパ抵抗は不要でプレート電源に直結でも大丈夫です。ここではEp=50Vですから左回路図におけるドロッパ抵抗のR6=120kΩは必ずしも必要なかったようです。(その後の検討によれば第4グリッドのドロッパ抵抗:R6は常に入れる方が良いようです。100kΩを推奨)

 この実験回路の詳しいデータを必要とする人はまずおられないでしょう。今回は省略します。 まったく同一と言うわけではありませんが1R5(-SF)のプロダクト検波器と似たものと思って間違いではありません。もし必要ならあらためて前回Blog(←リンク)の参照を。

                    ☆

 要素実験は済んできたので、そろそろ最終的な着地点を考えないといけません。事前のテストが必要な項目があれば順次進めて行きましょう。 モノバンドのコリンズタイプ受信機を構想して更に考えたいと思います。次回もHAM用受信機に向けた検討を続けます。具体化してだんだん面白くなってきましたかね?(笑) ではまた。 de JA9TTT/1

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つづく)←リンクnm

2025年4月13日日曜日

【電子管】Testing the Battery Tube Product Detector : 1R5-SF

1R5-SFをプロダクト・検波でテスト(活用編)

Introduction
I tried out a product detector circuit with a pentagrid battery tube. The Battery tube 1R5 is the converter tube of the super receivers. The product detector works on the same principle as the converter circuit. It should work well. I used a ceramic resonator for the BFO, which is essential for SSB/CW detection. While the frequency stability is a bit lower than a crystal oscillator, it's still good enough.(2025.04.13 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【ペンタ・グリッド管のプロダクト検波器】
 1960年代のはじめ日本のHAMは未だ戦後の復興期にありました。そのころのお話です。 ハム再開(1952)から間もないころ、米国で新しい電波型式(モード)が登場しました。

 従来のAM波から搬送波と片側の側波帯(サイドバンド)を取り除いた文字通りSSB:シングル・サイド・バンドが登場したのです。当初、AM波でのオンエアでさえ精一杯だったJAのHAM局にはさして相手にされませんでした。しかし米国での動向を見て(聞いて)DXerから徐々に電話モードSSB化の機運が高まって行ったのです。

 高1中2受信機を持つのが当時のHAM局の標準であり開局予備軍の目標でもありました。そうした受信機でもSSB波を聞くことは可能ではありましたが、もともとAMとCWが前提の受信機です。やはり快適ではありません。

 何が問題だったかといえば検波回路です。それらの受信機ではSSBの復調にもCW用の検波器を使うのですが、一般にダイオード(二極管)検波器にBFOを注入しただけと言った単純な回路だったのです。 CW受信を考えるとBFOはあまり強く注入しません。強いCW波が飽和傾向になる特性を利用したかったからです。

 弱いSSB波なら悪くないものの、59+と言った強い局は飽和して歪みます。場合によって音にすらなりません。結局、RF-IFゲインを絞り、CW検波器への入力をわざと小さく絞ってSSB受信する方法にならざるをえませんでした。 しかもCWでは常識的だったAGC/AVCをOFFする受信法もSSB受信の快適さを損ねていました。

 そのため、CQ誌や無線と実験、電波科学と言った雑誌のSSB関連の記事では既存の受信機に付加するSSB検波器の製作記事が頻繁に登場したのです。まずはSSB化の推進は受信にあって「プロダクト検波器」の付加はその入り口と捉えられていたからでしょう。

 写真は5グリッド管:1R5-SFを使ったプロダクト検波器を実験している様子です。当時、1R5-SFで試した人も居られたかもしれませんが、一般的にはポピュラーな6BE6が使われていました。6BE6は標準的な5グリッド・コンバータ管です。

 今回はそれに倣って電池管の5グリッド・コンバータ管である1R5-SFでプロダクト検波を試します。行く行くは電池管で短波帯の受信機を目指しており、SSBやCWの受信機能は必須です。そのための準備としてテストすることにしました。

                   ☆

 物好きでもなければ、いまさら電池管でプロダクト検波でもありますまい。見たからと言って役立つお方は皆無でしょう。もっぱら自身の興味とこの先のRX開発準備のためにデータを蓄積しています。 一年で最も素晴らしい季節です。お部屋にこもってネットではもったいない。人生長いようでも短いもの。 こんなBlogを眺めるのはもうやめにして部屋を飛び出し春を満喫しましょう。

【七極管プロダクト検波回路】
 6BE6のような5グリッド管(7極管)を使ったプロダクト検波器は雑誌の記事ではたいへんポピュラーでしたが、メーカー製の受信機ではあまり見なかったように思うのです。どちらかと言えば自作HAMが付加装置で使う簡易回路のように感じていました。

・参考リンク:プロダクト検波器(←ここ)

 ですから本格的に製作した経験はありません。三極管3本の回路やリング・ダイオード検波器が本命と思っていました。

 今回テストしてみたのは5グリッド管のプロダクト検波器は復調ゲインが得られることからです。やや低周波アンプのゲインが少ないことから検波器でゲインが得られれば有利です。 どの程度のゲインが得られ、また最適な入力信号の範囲(大きさ)はどれ位なのか検波器として基本的な性能を掴むことを目的とします。

 さっそく実験回路ですが、プロダクト検波器にはBFOが必要です。 電池管で作る意味から言えばできるだけ球数は増やしたくないですから自励式で行くことにします。 最適化にやや難しさもありますが検波管の1R5-SF自体でBFO発振まで行なうわけです。
 簡易な付加装置と考えられていたころはコンバータ管の6BE6をLC発振の自励式BFOで使うケースが多かったように思います。その場合、入力信号が強く(大きく)なるとBFOの発振周波数が「引っ張られて変動するのが問題だ」とされていました。1R5(-SF)でも同じ傾向はあるでしょう。

 そのためBFOは初めから水晶発振式にすることにしました。それで引き込み対策は万全になるはず。 やがて実験しているうちセラミック発振子でも十分な性能が得られることが判明します。それで最終的にはセラミック発振子を使うことにしました。 水晶発振子よりも周波数調整がやりやすいことも理由です。(入手の容易さも大きな魅力です)

 水晶(セラロックですが)発振器としてはピアースPG型(無調整型)に相当します。電池管にセラロックという組み合わせはこれまで見たこともなく回路定数の設定に苦心しましたが結果としてオーソドックスな回路定数に落ち着きました。

 以前、入力信号を中間周波に変換するのがコンバータであり低周波に変換するのがプロダクト検波だと書いたことがありました。 確かにその通りなのですが、1R5(-SF)でプロダクト検波する例など実例がありません。プレート負荷を変えてデータを取る、グリッド抵抗はどうか?・・・ほかにも各部を試行的に追求して決定しています。概ね最適化されたと思っていますが、例えばEp=90Vにすると言った変更の際は見直しが必要かもしれません。

【復調用キャリヤ:BFO】
 SSB/CWの復調にはBFOが必要です。 水晶発振器が最適なのですが455kHz付近の水晶発振子は市販品がありません。 特注という手はありますが納期と費用がかかるでしょう。 写真のようにセラミック発振子を使うことにしました。

 はじめ手持ちに456.5kHzのHC-6/u型水晶発振子があったので、それでテストしていました。

 当たり前ですが周波数安定度も良くBFOとしては最適でしょう。そのまま使っても良かったのですが手元にたくさんあったセラミック発振子(セラロック®︎:CSB455E村田製作所製)でも試してみることにしました。

 少し回路定数を変更する必要はありますが同じように良好な発振が得られています。 さらにセラミック発振子には良い点があって周波数の微調整が容易なのです。使ったセラミック発振子は455kHz用ですがトリマ・コンデンサを抱かせて調整することで±800Hzくらいなら容易に可変できます。

 さらに回路定数も幾分変えてやれば±1.5kHzの可変も可能そうですからSSBフィルタに合わせた復調用キャリヤが得られます。

【BFOの周波数】
 455.000kHzに合わせています。 すこし追い込み不足で4Hz弱の誤差があります。

 この誤差も入念に合わせ込めばゼロに近づけることが可能です。 ただしセラミック発振子には温度係数があって周囲温度の変化で発振周波数が微小に変動します。そのため常に455.000kHzを保つことはできません。 ところが実際に製作し測定していて周波数のふらつきはあまり感じませんでした。 ぞれに少々の変動はあっても実用範囲であれば支障はないのです。 少し検討しておきましょう。

 発振子メーカ:村田製作所の仕様書によると-20〜+80℃の範囲で周波数の変動は±0.3%以内が規格になっています。 同時にグラフの記載があって、おそらく代表的な特性と思われますが、それによると同じ温度範囲で±0.1%くらいが実力値のようです。 これを参考にすると455kHzに対して約9Hz/℃の温度による変化が有りそうなことがわかります。

 この数値だけを見ると高級な受信機ではちょっと課題がありそうです。 しかし実際にテストしていて周波数の不安定さは感じられませんでした。発熱の少ない電池管というもの有利なのでしょう。従って電池管で作る簡易な受信機には合格点です。それにLC発振のBFOと比べたら10倍以上安定していると感じられます。 かなり実用的であることが確認できたのです。 どうしても心配なら水晶発振がベストですがその必要は感じない筈です。

【入出力特性】
 入力信号の大きさと出力に得られる復調電圧の関係です。

 BFOは455.000kHzに合わせてあります。入力信号は455.400kHzですから復調出力は400Hzということになります。

 プロダクト検波器はI-Fアンプの後に置きますので、ある程度大きな入力信号・・・ここではmVオーダから測定を始めました。

 測定を始めて意外だったのは大きな入力電圧まで復調の直線性が保たれることでした。 予想ではせいぜい数10mV程度で飽和してしまい、直線性が失われるだろうと思っていたのです。 実力的に1Vpp、即ち300mV(rms)あたりまで十分直線的ですからずいぶん大きな入力まで使えるわけです。

 高1中2受信機のI-Fアンプ出力は時に10Vにも及ぶことがあって、そのまま加えたら大きすぎるでしょう。 上手な使い方としては1/30〜1/50くらいに絞ってプロダクト検波器へ加えれば良いはずです。 それでもこれは意外な結果でした。 300mVも加えて大丈夫とは・・・。

 ずいぶん前になりますが、ミキサー管の歪みについて検討したことがありました。 ビーム偏向管7360,etcについて評価していたのです。そのとき比較のため6BE6も評価しました。
 2信号を使って評価していたのですが意外にもずいぶん大きな入力までIMD特性は劣化せず、ちょっと誇張して言えば7360と比べて極端な違いはないのではないかと思ったほどです。メーカー製管球式ダブルスーパ受信機で第二ミキサに6BE6を採用する例が多い理由がわかったような次第です。上手に使うとペンタ・グリッド管の歪み特性はなかなか優秀なのです。(ノイジーという欠点はあるのですが・・・)

 もちろんバランス型ではありませんので出力のプレート側で局発やRF入力信号のアイソレーションはありません。ほとんどそのまま出てきます。 しかし受信ミキサやプロダクト検波器なら必要な周波数帯と離れているので支障ありません。 ペンタ・グリッド管のプロダクト検波器は思った以上に良好です。 テストしてみた甲斐がありました。

【出力波形】
 入力として100mVpp(≒35.4mVrms)を加えた時の復調出力波形です。

 BFOは455kHzで入力信号は455.8kHzですから、復調出力は800Hzになります。 このように綺麗な正弦波が得られ、リニヤリティの良さが感じられました。

 同時に復調ゲインは約6.7倍、16.5dBくらい得られることがわかります。(ゲインは復調出力が800Hzのとき) なお、信号のピーク部で輝線がやや太く見えますが、これはBFO(455kHz)のモレが取りきれていないためです。

 LPFを強化すればモレはさらに減らせます。 なにしろBFOの発振振幅は20Vppもあって非常に大きいため完全に除くのも大変なのです。 I-Fアンプ系に漏れないよう十分注意しないとBFOによってAGCが掛かってしまうと言ったトラブルも起こり得るのです。

【復調周波数特性】
 復調出力の周波数特性です。

 BFOは455kHzで、入力信号を455kHzに対して30Hz〜7kHzまで離して周波数特性を測定しました。信号のレベルは100mVppです。

 意外に低い周波数から出力が低下して行きますが、これは回路図のC6とC9が1000pFとやや大きめだからです。 これらを470pFあるいは270pFに交換すれば3kHz程度までフラットにできるので目的次第で選択します。

 一般に男声は低音が豊かであり、この程度の周波数特性でも問題ないです。 必要以上に高音域を伸ばすよりも聴感上のS/Nは有利になります。 好みに応じで変更して構いませんので適宜コンデンサを選びます。

【引込み特性】
 入力信号によってBFOの周波数がどれくらい引き込まれるか(影響を受けるか)実測しました。

 実はほとんど意味のないようなグラフになってしまい、公開すべきか迷ったのですが事実は事実として掲載します。

 測定方法ですが、入力信号として大きさが1Vppというかなり大きめの信号を用意します。信号が大きいほど影響が出やすくて影響度がわかり易いのです。 BFOは周波数カウンタで常に監視しておきます。 その上で、入力信号の周波数をBFOの発振周波数の前後で変えてみて、そのときBFOの発振周波数が影響を受ける度合いを観察します。

 結果として、ほとんど影響を受けないことがわかりました。 精密にいうと0.1Hz以下の引き込み現象は存在するように思います。ただし、発振回路自体の微小な発振周波数変動の影響もあって明確にはわかりません。 入力信号をON/OFFしながらFカウンタを見ていると何となく感覚的にほんの少し引き寄せられるような感じを受けます。しかし復調出力を耳で聞いている程度では、まず判別できないでしょう。 要するに引き込み現象は耳ではまったく感じられないことがわかります。

 実はこれにも伏線があって、以前セラミック発振子を使ったオートダイン式受信機を作ったことがありました。驚いたことに体感できるほどの引き込み現象は存在しなかったのです。 今回の回路も言わば発振器の入力端子に信号を加えているわけでオートダイン検波器と同じような状況です。セラミック発振子を使った発振器は外部信号の影響を受けにくく一定した発振周波数を保つことが良くわかりました。 もちろんこれは水晶発振子でも同じです。 発振子を使うと引き込みを気にせずに使えるプロダクト検波器です。

                   ☆

 以上で1R5-SFを使ったプロダクト検波の評価はおしまいにします。 おもにフィラメント電流が25mAの1R5-SFで実験しましたが、50mAのノーマルな1R5でも違いは感じません。 同じ回路定数で同等の性能が得られると思って良いです。

 電池管の弱点はマイクロフォニック・ノイズです。 1R5はコンバータ管ですから、おそらく低周波で問題になるマイクロフォニック・ノイズは考慮されていないでしょう。そのため、低周波ゲインが存在するプロダクト検波器に使うと問題になるかも知れません。 実際に受信機として纏める際には考慮しておく必要がありそうです。(参考・追記:組み合わせテストを行ないましたが支障ありませんでした)

                  ☆ ☆

 ところで、JAにおけるSSBのその後の普及ですが少なくとも1970年までにはHF帯のすべてがSSB化されました。 もはやごく少数の愛好家がAM(全搬送波・両側帯波)でオンエアするだけになったのです。 同時にメーカ製SSBトランシーバが隆盛になり自作機が主体の時代も完全に終わったと言えるでしょう。 講習会生まれのHAMが大挙して出現し彼ら・彼女らが新たな顧客になったわけです。(6mはもう少しAMの時代が続きました)

【1D8-GTアンプに固定バイアスを】
 これは前回のテーマですが、1D8-GTの低周波アンプを改造しました。

 出力用五極管のバイアス電圧を乾電池で与えるようにしました。 改造前は+B電源の負極側に抵抗器を入れ、電圧降下でバイアス電圧を得る形式でした。

 写真で黒い扁平な容器がバッテリーボックスです。CR2032型リチウムマンガン電池が2個直列になって入っています。実測で6.2Vの起電圧があってグリッド抵抗:470kΩを通して1D8-GTの五極管部・第1グリッドへ加えられています。少し高いように感じますが起電圧まかせなので自由度がありません。 なおバイアスは負電圧ですから電池のプラス極側をGNDに接続しグリッド抵抗側が負極になります。 パワー・アンプはA級増幅器でありグリッド電流はほとんどゼロです。マイナス6Vも掛かっていれば初速電子流によるグリッド電流も完全に遮断されてしまいます。 従って電池の消耗は自己放電程度でしょう。リチウムマンガン電池は自己放電が少ないですからかなり長期間使えるはずです。

 この改造によって+B電源の電流値によってバイアス電圧が影響を受けることがなくなります。+B電源の負極側はそのままGNDへ接続されます。電源利用率も1割近く改善され各段の動作に有利に働きますし結果として電池の持ちも良くなります。 欠点はバイアス電圧に自由度がないことです。幸い1D8-GTの五極管部はだいたい-5〜-6Vのバイアス電圧で良いため十分使い物になりそうです。 なお、使用した中華モノの電池ボックスは作りがちゃちでイマイチでした。もう少し信頼できるような製品はないものでしょうか?(笑)

                    ☆

 コンバータ管から始めて低周波アンプまで一通りの電池管を評価しました。 中波帯(BCバンド)のラジオ作りが目的でしたらそれでお仕舞いですが、目標はHAMが使える受信機です。 HAMバンドで必須となるSSB/CW検波器に絞ってペンタ・グリッド管を使ったプロダクト検波器を追試しました。たいへん有望な結果が得られたと思います。 簡易な受信機だけでなく本格的な「通信型受信機」に使っても支障のない性能が得られています。

 残念ですが1R5(-SF)は電池管なので一般性に欠けています。いまさら電池管の時代じゃありません。 まあ6BE6だってすでに真空管の時代でもないのですが、同じような評価をしておけば有益な設計情報が得られるかも知れません。 もしも機会があったら手がけてみたいと思います。 次回もHAM用受信機に向けた付加機能を検討したいと思っています。電池管の活用が通信機の範囲へと広げられたらだんだん面白くなります。 ではまた。 de JA9TTT/1

*何かご質問とかご要望などあったらコメント欄でお願いします。
→私で可能な範囲で対応いたします。


つづく)←リンクfm

2025年3月29日土曜日

【電子管】Testing the Battery Tube Audio Amp. 1D8-GT

1D8-GTでオーディオ・アンプを作る(製作編)

Introduction
I'm making an audio amplifier with a 1D8-GT, which is a battery tube with a combined diode, triode and pentode. This 1D8-GT has been in my parts box for ages, so let's wake it up!
The 1D8-GT was a vacuum tube made before WW2, so it's not as efficient as the battery tubes made later, but it's good enough for what I need. It should work well enough as an audio-frequency amplifier for a communications receiver using battery tubes, so let's give it a try right away.(2025.03.29 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【2・3・5極の電池管:1D8-GT】
 乾電池を電源に使う真空管・電池管でラジオ(受信機)を作っています。その4回目で今回は低周波アンプ部を検討します。 日本では作られなかったようですからポピュラーとは言えませんが、低周波アンプ(Audio Amp.)に向いた電池管が手元にあります。 たしかネットのどこかで何かの製作例を見て手に入れたように思います。ずいぶん前のことで、1D8-GTは購入当時、高価な球ではありませんでした。 AESの古い2002年版プライスリストには$3.10-とあります。(AES : Antique Electric Supply 米国の部品屋)

 RCA社の真空管データブックを探ると1940年版:RC-14にも記載があって第二次大戦前からあった球とわかります。 フィラメントは1.4Vで100mAです。標準的なプレート電圧は67.5Vあるいは90Vが必要なので電源効率が良いとは言えませんが、これ一本でスーパの第2検波と2段増幅の低周波アンプ部が構成できる便利さがあります。

 後世の改良された電池管と違ってプレート電圧の割にあまりパワーは出ませんが100mWもあれば静かなシャックには十分ではないでしょうか。フィールドに出たら両耳レシーバ(ヘッドフォン)を使えばうるさいほどの音量が得られます。

 mt管を使ったポータブル・ラジオでは「第2検波〜低周波アンプ〜パワー・アンプ」の部分は1S5-3S4のラインナップが標準的です。

 オーソドックスに、これらmt管が確実なのかも知れませんがこの機会に永く死蔵されてきた1D8-GTを試します。 もちろんこれから1D8-GTを探す意味などなくて1S5-3S4のラインナップで十分ですからそちらをお薦めします。 さらに1S5-SFと3S4-SFならフィラメントは1.4Vx75mAで済むので省エネです。5極管の2段アンプになって低周波ゲインもたっぷり得られてラジオの感度もアップするでしょう。

                    ☆

 いまなお真空管アンプには静かながらも熱い人気があって持ち歩けるヘッドフォン・アンプを作りたいお方もあるようです。 電池の部分に工夫を要しますが現代の優れた電池、例えばエネループやリチウム電池,etcを使えば思った以上に長時間鳴らせます。
 1D8-GTにmt管のようなスマートさはなく、かなり無骨ですが巧くやればむしろカッコよく作れそうです。 いまどきラジオなんかに興味はないけど、と言う若い貴方もアンプ作りに挑戦されてはいかが? 発熱しないので3Dプリンタで作った洒落たプラ箱でOKです。

【米国ホビー誌に見る1D8-GT】
 左は1D8-GTを使ったシンプルなラジオの製作記事で、Radio Craftと言うホビー誌の1940年(昭和15年)7月号から引用しています。

 この例では三極部をRFアンプに使っています。その後で二極部で検波して五極管のところでパワー・アンプします。 乾電池を内蔵しポータブルに作っています。持ち運んで聴くときには両耳レシーバの使用が想定です。大きなスピーカとアウトプット・トランスは持ち運びには適さないので外付けにして軽量化を図ったのでしょう。

 そのまま作るのも面白いかも知れませんが低μ(ミュー)な三極管を使ったRFアンプでは碌なゲインは得られず、三極管でTGTP回路は発振の危険もあってちょっと心配のある構成です。 ダイオード(二極管)検波ゆえ負荷インピーダンスが低くて発振などしないのかも知れませんが・・・。 凝ったことにAVCまで掛けてあります。

 米国において1D8-GTは戦前からホビーストに愛されていたようです。他誌にもこれを使ったラジオ記事が見られます。 多くはダイオード部で検波したあと低周波2段増幅する形式のようでした。 この回路例のように三極部をRFアンプに使うのとどっちが良く聞こえるのか比較してみたいところです。 何れにしても短いアンテナだけでは遠方のラジオ受信は無理でもっぱらローカル放送を試すと言ったホビー用です。

 日本の場合、戦前にUX-111/Bと言う空間電荷格子四極管を使ったポータブルラジオが流行ったと言うお話を古老より伺いましたが、こちらも球が特殊なので田舎者に製作は困難だったでしょうね。それとスピーカは無理なのでマグネチック・レシーバで聴くスタイルだったはずです。試してみたくてもUX-111/Bなんて持っていないのが残念なところ。hi
 ポータブルなラジオは日米を問わず昔っから少年たちはに魅力的だったのでしょう。 そう言えば今年2025年はラジオ放送開始から100年でしたね。 真空管式ポータブル・ラジオでノスタルジーに浸るのも感慨深いのかも。

【低周波アンプを作る:1D8-GT】
 図はこれから製作する低周波アンプの回路図です。 1D8-GTを1本だけ使ったシンプルなアンプです。

 1D8-GTには検波用の二極管が内蔵されていますがラジオの高周波部(I-Fアンプ部)とは別体に作る関係で使わない方針です。

 1台のラジオとして纏める場合、1D8-GTをI-Fアンプ(中間周波増幅器)の近傍に置き、あまり配線を引き回すことなく直ちに検波できるよう作ればベストでしょう。
 後ほどラジオの全回路図がありますが純真空管に拘るなら別ですが検波はゲルマニウム・ダイオード(1N34Aなど)がスッキリするように思います。その方が真空管の配置に自由度があって作りやすくなります。1D8-GTの二極部は五極部に「同居」しているのでフィラメント電流が損になることもありません。

 低周波のパワー・アンプの場合、高抵抗をグリッドに入れるだけの「コンタクト・ポテンシャル・バイアス」ではうまくありません。 そのため、B+電池のリターン経路を使って一種のカソードバイアスのような方法でバイアス電圧を得るようにしています。 これは4球ポータブル・ラジオなどにも見るオーソドックスな手段です。ただしB+電源の全電流量の影響を受けるので、具体的に言えば、R4:1.5kΩは抵抗値の加減が必要です。

 1D8-GTの五極管アンプ部(A級アンプ)は-5〜-6Vくらいのバイアス電圧があれば良いので、いまでしたらリチウム・ボタン電池2個で固定バイアスを作ったらスッキリします。 改造したいと思って電池ホルダなど部品を手配しています。 上手にやればこのリチウム電池は殆ど消耗しないのでかなり長期間使えるでしょう。

 話の順序が前後しますが、入力信号は三極部で電圧増幅されます。 1D8-GTの三極部は増幅定数:μ(ミュー)はμ=25くらいしかありません。そのため回路を工夫しても10〜15倍の電圧ゲインが精一杯です。μが70とか100もある6Z-DH3Aや6AV6のようなハイ・ゲインは得られないのです。 三極部で電圧増幅したのち五極部で電力増幅されます。 また、五極管はずっと電圧ゲインは大きいのですが、インピーダンス・マッチングのためにステップダウン・トランスがあってパワー・アンプ部としての電圧ゲインは思ったほどありません。 ただし微弱な入力信号でなければ大丈夫なのでヘッドフォン・アンプのような用途でしたら実用的なアンプとして使うことができます。

 回路は簡単ですが、アウトプット・トランスなど大きな部品があってそれほどコンパクトに作れません。 大してパワーは出ないので、必要なインダクタンスがあれば小型アウトプット・トランスでも十分なのですが市販品はないのでそれほどコンパクトには作れないのです。

【出力トランスはT-600-12k】
 アウトプット・トランスには東栄変成器のT-600から、1次インピーダンスが12kΩのタイプを使います。

 もともと安価なトランスでラジオのような製作に向いたトランスでした。 残念ながら銅が値上がりし、人件費もアップしてきたのでだいぶ値上がってしまいました。 ただ、あまり適当な既製品もない現在、むしろ有難い存在といえるでしょうか。

 使い方に実験的な要素が含まれています。 RCAの資料によれば1D8-GT(五極管部)の最適負荷インピーダンスはプレート電圧:Epによってかなり異なるようです。 一応、Ep=67.5Vで考えていますが、その場合は16kΩとなっています。 あるいは、むしろ低いプレート電圧で使うことも考えていて20kΩあたりが良さそうです。

 動作点(バイアス電圧の大きさ)にも依るので、明確には決めかねていますが2次側の4Ω端子に8Ωのスピーカを接続する場合、1次側は12kΩの端子で使うのが良さそうでした。 一次インピーダンスも上昇しますが、インダクタンスはそのままですから低域の周波数特性は不利になります。 このあともう少し条件を変えながら最適なところを探ってみたいと思っています。

【元祖BBスタイルで】
 真空管が大型なのもありますが、アウトプット・トランスのように重くて大きな部品もあるので、いわゆるブレッドボード(ソルダーレス・ブレッドボード)に作るのはやめました。 ホームセンタにあった端材の加工品を調達してきました。 土台に使います。

 金属板のシャシがないと不安を感じるかも知れません。 しかしローゲインな低周波アンプですから、金属製のシャシに作らなくても支障はありません。 ある程度配線の引き回しを考えてやれば安定に動作します。

 写真は形状の大きな部品の配置を決めて木板に固定して様子を見ている状態です。 もう少しコンパクトに作りたかったのですが売っていた適当な端材に作っている関係で思うようにはなりません。 材質はベニヤ合板で寸法は178x118x15(mm)です。角が丸めてあるなど、切りっぱなしの端材ではないので見栄えも悪くありません。¥200-くらいで買えます。 木板の底面には四隅にクッション材が貼り付けてあります。

余談:ラジオをシャシとアルミのパネルなり、本式の板金ケースに組むのはなるべくやめています。板金が嫌いというものありますが(笑) 実用品はもうたくさん持ってる訳ですし、後に自作のガラクタが残っても処分に困るでしょう。なるべく残さないよう考えています。その趣旨から言えば「木板ブレッドボード・スタイル」も感心しませんが、そのままゴミでも構わないということで採用しました。解体も簡単ですし部品の流用も効きます。木板は可燃物ですから分解すれば危険ゴミも最少で済みます。そんな心配より集まったジャンクを何とかするのが先なんですけど・・・。

【入力ブロック】
 入力の端子にはRCA・ピンジャックが欲しかったのですが、手持ちがありませんでした。 まあ、なんでも良いので3.5mmのイヤフォン・ジャックを使いました。 イヤフォン・ジャックに続いてゲイン調整の可変抵抗器:VRが付きますので入力ブロックとして組み立てました。

 片面紙エポのプリント基板・端材を加工してジャックとVRを取り付けまました。 VRはそのままでは軸が長すぎたので切断してあります。

 木板への固定は大きめのスタッドを使います。 木板に貫通穴を開けて長ビスで固定しています。 このあたりは手持ち部材の都合なので木ねじで止めても良いでしょう。 製作者各自の好みとか部品事情が反映できる部分です。

【USソケット周り】
 回路図には書いてないけれど重要な部品が真空管ソケットです。 真空管ばかり集めてみてもソケットがなかったら使うのに困るでしょう。 真空管集めは転売が目的なんですか?(笑)

 1D8-GTは8ピンのUSソケットと言うものを使います。 幸いなことに8ピンのUSソケットを使う電機部品はいまだに存在しており、プラグイン型リレーやタイマーなどシーケンス制御系の部品として残っています。 もう暫くは入手に困らないのではないでしょうか。

 ソケットの固定には大きめのスタッドを使っています。 これも貫通穴で長ビスによる固定です。 トランスは重いので太めの木ねじで十分な強度が出るように締め付けています。 部品取付に使う平ラグ板も回路図にはない部品です。 これは木ねじで固定しますが、写真は配線を行なう前なのでまだ完全には締め付けていません。 平ラグ板はφ=6mm、h=8mmのベークライト製円筒型のカラーで浮かせてあります。

【端子台とラグ端子】
 電源の供給とスピーカの接続には端子台(ターミナル・ブロック)を使うことにしました。端子台からの配線引出しには圧着端子も考えたのですが、使う配線材が細い関係でハンダ付けすることにします。

 この端子台は秋月電子通商で購入したものです。 作りが良くて構造も悪くないのですが材質がハンダコテの熱で溶けるのが弱点でした。 うっかりコテ先が当たったら溶けてしまいました。 確か国産の端子台はベークライト系の樹脂なので簡単に溶けたりはしなかったと思うのですが・・・。 これはいま流行りの中華部品のようです。安価なのがメリットです。

 ラグ端子(タマゴ・ラグ)は買い置きがありました。 なければ配線をそのままねじ止めすれば良いだけのことなので必須のパーツではありません。 ただし持っていればシャシからGNDを引き出すとか、様々な場所で使えますから揃えておきたい補助パーツでしょう。 地方で手に入りにくければホームセンタで売っている小ぶりの圧着端子で代用できます。

【グリッド・リングは自家製】
 1D8-GT:三極部のグリッド電極は球の頭部に引き出されています。 一般的にグリッド・キャップ(プレートキャップとして売っていることもあります)を使って配線を接続します。

 ちょうど良いサイズのグリッド・キャップの手持ちがなかったのでゼムクリップを加工して自作しました。 グリッド端子の太さは1/4インチで、metricで言えば6.35mmなのでそれに合わせて作ります。φ6.0mmのドリル刃に巻くと丁度良かったです。 (参考:UY-807、6146等のプレート・キャップはφ3/8インチ≒9.53mm。ほかにφ1/2インチ=12.7mmがあり)

 大電流が流れるわけでもなく接触さえ安定していれば良いので自作品で十分です。 材質に適度なバネ性があるのでいい感じにフィットします。 グリッド端子なので触っても感電の恐れはないためカバー付きキャップでなくても危険はありません。

 なお、電池管はぜんぜん熱くならないのでリングと引き出し線の接続はハンダ付けで大丈夫です。秋葉原が近かったら作ったりせずに買いに行くのですけれども・・・遠いです。 中華通販という手もありますが・・・。

【1D8-GTアンプ完成】
 真空管1本だけの簡単な製作ですが、こうした形式で作ることは滅多にありません。 試行錯誤を繰り返しながら午後いっぱい使って楽しみながら配線を終えました。

 昔のブレッドボード・セット(まな板セットとも言う)と言えば太い単線を使って直角配線で仕上げた見事な”芸術品”のような作例が思い浮かびます。 とても真似できないので、そうした作り方には拘らず信号の流れを考えつつあまり不合理にならぬよう配線を心がけました。 まずまず安定に動作するようですからこれでヨシとしましょう。 電池管を使ったラジオや受信機の低周波アンプとして共通に使うつもりです。

 左に写ったミノムシ・クリップの付いたケーブルは他端がφ3.5mmのイヤフォン・プラグ(モノラル用)になっていてアンプへの入力信号の接続に使います。 どこかにプラグ付の作り置きケーブルがあったように思うのですがちょっと探せなかったのでやむなく新規で作りました。 つまらん製作ですが意外に手間が掛かってます。 ケーブル材は細い同軸ケーブル(75Ω)です。75Ωの同軸ケーブルは分布容量が少なくて好ましいのですが芯線が細くて切れやすいのが弱点です。ただし安物のシールド線と違ってシールド効果は抜群です。

【1D8-GTとT-600】
 安定化電源から必要な電源:67.5Vと1.4Vを供給して動作させてみました。

 最初から予想されていたことですが、ちょっと低ゲイン気味です。 まあ、それでも別のブレッドボード(前のBlog参照)に作ってあったコンバータ+I-Fアンプ部の検波出力に接続してみました。

 NHK第1、第2、FEN、東京放送(TBS)、文化放送、ニッポン放送と言った在京の強力局はまずまずの音量で鳴ってくれました。 十分楽しめて普通の聴取に何ら支障はありません。 音の感じはベッドサイドのトランジスタ・ラジオとは違いますし同じアウトプット・トランスを使った真空管式ラジオともまた異なる印象を持ちました。

 もちろんそれぞれスピーカが異なりますし公平な比較ではありません。 耳で聞く感じは悪いものではなくて中域がしっかりしたAMラジオらしい音と言ったら適切でしょうか。 ご贔屓アナのアナウンスが歯切れ良くそれらしく明瞭に伝わってきました。

 残念ながらゲインが足りないため、いつも感度テストに使っているCRTラジオ栃木(1062kHz、足利サテライト、空中線電力:100W)は音量が足りません。 距離は近いんですが、たった100WのAM放送局ですからねえ。w その辺のHAM局にさえ負けそうなパワーです。(笑) 低周波ゲインがもうちょっと欲しかったですね。予想通りでした。

【フィラメントに異常はないが・・】
 1D8-GTは2本手持ちがありました。実はそのうち1本は音が出てくれませんでした。

 ゲッターはしっかり銀黒に輝いていて真空が破れた訳ではないしフィラメント電流も正常値です。 念のため正常に点灯しているのか暗闇に置いて写真撮影してみました。 流石に100mAも流れる球なので暗闇で目を凝らして観察すれば肉眼でも点灯がわかります。 写真の長時間露出ではこのように写りました。

 点灯状態は正常ですしガラス越しにルーペで観察すれば電極への溶接も大丈夫そうに見えます。それに三極部はちゃんとアンプとして動作します。 何でダメなのでしょうか?? 五極管部分にトラブルがあります。

【1D8-GT足ピンのハンダが!】
 アンプ回路に入れて電流を確認してみます。ほとんどプレート電流は流れませんが、観察すると極わずかだけ流れるのでプレートは断線していないようでした。スクリーン・グリッドの電流も流れませんね。

 何故だろうと思いつつ足ピンを拡大したら問題が見つかりました。(写真)
 このピンは五極管のスクリーン・グリッドが引き出されています。 なるほど、スクリーンに電圧が掛かっていなければプレート電流はほとんど流れません。症状から考えてもこれが不具合の原因ですね。

 しっかり接着されていてベース部分は容易に外せそうにありません。 引き出し線の先端部分を良く磨いてハンダ付けを入念に行ないました。 さっそく通電したら今度は快調です。 1D8-GTが2本活きていれば何時かステレオ・アンプが作れるかもしれません。

 mt管とちがいGT管やメタル管は足ピンの部分がハンダ付けで組み立ててあるのでこうしたトラブルが起こるのです。 旨くなかったら足ピンのハンダも観察する必要アリです。

【電池管ラジオに纏める】
 初めて扱う電子デバイスと考えて、特徴的な電池管をそれぞれ個々に動作させて評価してきました。 おおよそその素性は掴めたと思います。

 個々の評価回路を繋ぎ合わせればラジオになる訳ですが、それでは見通しが悪いでしょう。 スーパ・ヘテロダイン形式の電池管式ラジオとして一つの回路図に纏めておきます。 *1は出力管のバイアス電圧発生用の抵抗器で要調整です。バイアス電圧が-5〜-6Vになるよう加減します。
 A4用紙に印刷すると数字が小さくて見辛くなるので可能でしたらA3用紙に印刷されると宜しいです。そのまま画像で参照するのもお薦めです。 この回路はそのまま電池管式のラジオとして通用するはずです。大きなアンテナがあれば夜間になると遠方の局も良く聞こえてきます。

 今回のBlogで扱った1D8-GTを使った低周波アンプ部はあまりゲインが取れませんでした。 そのため低周波部全体の電圧ゲインは2〜4倍程度になってしまいました。それでもスーパ・ヘテロダイン式の威力、検波までに十分なゲインがあってとりあえず実用になるようです。強い局を受信すると検波出力は1Vpp程度得られますから結構大きくて、スピーカから出てくる音量として十分なものでした。

 ローカル放送用としては問題ありませんが、ごく弱いラジオ局を受信する際にはゲイン不足を感じますので一般的な4球スーパ(電池管式)のように低周波アンプは五極管で2段増幅が良いでしょう。 ここではちょっと考えがあって1D8-GTで済ませますが本式に4球ポータブル・ラジオを作りたいのでしたら、オーソドックスなラインナップが間違いなさそうです。
 例えば、1R5(コンバータ)→1T4(I-Fアンプ)→1S5または1U5(第2検波+低周波増幅)→3S4(低周波電力増幅)と言う構成です。 フィラメント点灯用A電池の省エネのためにPhilips/松下のDシリーズ管や国産の-SF管の採用もお薦めです。

                    ☆

 永く眠っていた電池管をAMラジオの回路で試すと言ったテーマで何回かBlogを連載しました。だいぶ様子がわかってきたように思います。 いずれ真空管ジャンクは処分される運命なので、それまでに少しでも通電して遊んでみるのが目標です。 次回はHAM用受信機に向けた付属回路の研究を予定しています。 クリコンとか切れの良いI-Fフィルタなど通信機の範囲へと広げられたら面白いと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

*何かご質問とかご要望などあったらコメント欄でお願いします。
→私で可能な範囲で対応いたします。


つづく)←リンクnm