2024年5月23日木曜日

【電子管】Using the Pentode as the Audio Amp. (1)

【AFアンプで五極管を】

introduction
The pentode tube is a vacuum tube created from the improvement of the triode. The pentode is improved high-frequency amplification characteristics and power supply voltage utilization ratio of the triode. In addition, the pentode has a large transconductance, which allows for a large amplification gain. Therefore, for the same supply voltage, a much higher gain and output voltage can be obtained than with a triode tube.
Triodes are popular in home-built audio amplifiers. I am also actively using pentodes in my own amplifiers. Of course, I also use triodes! (2024.05.08 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【五極管:6AU6】(通測用)
 6AU6(欧州名:EF94)はオーディオ・アンプでは定番の5極管です。プリ・アンプの初段からパワー・アンプのドライバ段まで幅広い用途があります。

 そのままの・・・5極管のまま使えば1段で約200倍(≒46dB)のゲインがあります。 ハイゲインで小信号を一気に増幅できますし、2段も増幅すれば十分なオープン・ループ・ゲインが得られます。従ってNFBアンプを構成すれば深いNFが掛けられ低歪なアンプになります。
 さらにスクリーン・グリッド(g2)とサプレッサ・グリッド(g3)をプレート(p)に結べば増幅率:μ=36の中μ三極管としても便利なものです。

 6AU6はかなり万能に使えるのでオーディオではごく当たり前の五極管になりました。 もともと汎用品なので入手容易で安価なのがメリットでしたが良いものは既に品薄です。

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 真空管に詳しければ6AU6は純然たるオーディオ管でない事はご存知のはず。 もともとFMラジオやTV受像機のI-Fアンプ用(映像中間周波増幅用)でした。 シャープ・カットオフ特性でgmが大きい割に帰還容量Cpgがたいへん小さくて使いやすいため汎用品になったのでしょう。 同じような球にはST管の6C6、メタル/GT管なら6SJ7があってオーディオ・アンプに使われています。しかしmt管の6AU6はスマートなのが大きなメリットです。

 6AU6は7pinのmt管で管内シールドが付いています。写真で見える灰色の円筒は管内シールドなのです。 プレートはその中にあって外からは見えません。従ってシールド付ソケットは必要としませんが振動防止或いは抜け止めにシールド付ソケットを使うメリットは大です。

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 HAMの自作では発振管やミキサ管として愛用されました。VFO発振やそのバッファ・アンプにも最適です。 変調回路のマイク・アンプにも1段で十分なゲインがあるので便利な球です。 帰還容量:Cpgが小さいためRFやI-Fアンプにも使えますがシャープ・カットオフ特性なのでAGCを掛ける用途には向きません。そちらには6BA6や6BD6を使います。この先はオーデイオの話なので「無線」はこれくらいでやめておきます。

【五極管:6267】
 数字管:6267はオーデイオ用に作られた球です。 オーディオ用というよりも微小信号のローノイズ増幅用と言うべきかもしれませんが。欧州名はEF86と言ってヨーロッパ生まれの球です。

 レコード・プレーヤ用プリ・アンプの初段や高級マイク・アンプに使って効果を発揮します。 振動によるマイクロフォニック・ノイズやヒータからの誘導ハムが極力少なくなるよう設計されたスペシャルな球です。 米国系が主流の我国では普及が遅れた経緯があるそうです。

 その後は知れ渡ったためオーディオでは真っ先に目をつけられてしまい、品薄かつ有ればプレミアム付きで取引されるありさまです。 写真に見える¥690-はナショナルがごく普通に供給していた往時の定価であって今どきこんなお値段ではとてもとても。w

 電気的な特性は特別なものではありません。6AU6と似たり寄ったりです。 gmがやや低いためゲインは6AU6の方が得られるようです。三結でも使えますがせっかくの性能が勿体ないかもしれません。 五極管として使い小さな信号をローノイズに一気に増幅すると言った使い方をしたい球です。

 オーディオに好適なので積極的に使いたい球ですが、価格高騰かつ東欧モノを銘柄物にリマークしたニセ・ブランド品が横行してます。目利きのつもりでいても注意が必要になっています。w

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 さて、真空管(五極管)の写真を展示するのがこのBlogの目的ではありません。 少し前に手持ち真空管を調べました。良いものはほんの僅か、だいたいはロクでもない球でした。(笑) その結果を踏まえて新たに買い求めることなしに手持ちの駄球を工夫しつつ消費して手作りを楽しもうと思っているのです。

 手持ちは写真に登場したオーディオに向いた球ばかりではありません。 もともとHAMが趣味でしたからRF回路(高周波回路)に向いた球が殆どです。 オーディオの用例や使用実績のない球のほうが多いのです。 それらを工夫して使い方を考えながら製作を楽しもうという作戦です。

 そのためには自ら用法を検討しつつ用途開発も必要になるでしょう。 いずれパワーアンプまでと思っていますが、このさき暫くは小信号用の五極管を手始めに様々な球を試してみたいと思います。 自身の実験記録が目的であり、いわゆる銘管や著名球、定番アンプの製作記事は登場する予定がありません。 まずは真空管をテストすることが目的で、おそらくそんな話は興味の対象外でしょう。 決まった形式の球アンプを作りたいのでしたらBlogを眺めてもあまり意味はありません。 例によって早々のお帰りがかと思われます。 今日という貴重な1日を大切にされますように。

                  ー・・・ー

【WE-91B Power Amp.】
 趣味のオーディオアンプ製作では五極管はどうも敬遠されているように感じます。 五極管は三結で使われるケースも多いようでちょっと勿体無いと感じています。(笑)

 パワー・アンプの出力管については三極管あるいは五極管やビーム管の三結が良いと思います。しかしドライバ段までなら五極管が十分活用できます。

 回路は五極管をドライバ管に使ったウェスタン・エレクトリック社のパワーアンプWE91Bです。劇場のトーキー再生用パワー・アンプと言われています。 出力管は純三極管のWE300Aまたは300Bですが、そのドライバ管はWE310Aという五極管を使っています。WE310Aは特別設計された長寿命な通信用の球ですが冷静になって見れば6C6のような五極管です。(6C6より管内シールド付きのRCA-77の方が近いかも) 少ない段数で十分なゲインを得てなおかつ低μな出力管:300A/Bを十分ドライブする目的で使われているのです。

 三極管はシンプルさからアマチュアのアンプビルダーにウケるのでしょう。しかし電源電圧利用率が悪くて大振幅を振る必要のあるドライバ・アンプには幾分不利です。回路例が示すようにむしろ五極管が有利なのです。

 手持ちの活用でも三極管ばかり優先せず五極管の良さを活かせるよう考えたいと思っています。 そのためには特性検討とか回路での扱いなど自身にとって未知なる分野では実験が必要だと感じます。 知識に乏しければ実際に使ってみることが理解の助けになるはずです。

【R-C結合増幅器・定数表:6AU6】
 6AU6のような定番の真空管なら各メーカーから具体的な使用法が提供されています。左図は米シルバニア社のデータ・ブックから引用した用例です。

 表の見方は難しくはありません。 左の回路例のように使う場合の部品定数が一覧に纏めてあります。 表は電源電圧:Ebbによる違いで2つに分かれています。Ebb=100VとEbb=250Vです。 電源電圧:Ebbが例示と異なる場合も、どちらか近い方を使えば概ねそのままの定数で使えます。 もし幾らか変更するとしても定数例を基に加減すればうまく行きます。

 該当の真空管は用例のように使えば概ね最適な使い方ができる訳なので定数表はなかなか重宝します。 しかしすべての真空管にこうした便利な一覧表が用意されているわけではありません。

 むかし真空管が全盛だった時代なら、具体的な応用例があるような「オーディオに向いた球」を買い求めそれを使って製作すれば事足りました。 変わった球をあえて無理してまで使う必要もなかったのです。 しかし既にそうした時代ではなく、手持ちにあるものを何とか工夫して有効活用する必要がでてきました。 もちろん似た球を活用するならこうした表は参考にはなりますが、手持ちの別型番の球にはそのままでは使えないのは当たり前でしょう。その球に向いたようにアレンジしなくてはなりません。

参考:左表において:Rb、Rc2、Rcfの単位はMΩです。Rkの単位はΩです。Ib、Ic2の単位はmAです。Ec1、Ec2、Ebは直流の電圧で単位はVです。Esig、Eoutは420HzのAC電圧で単位はVrmsです。Gainは無単位で倍数(V/V)です。Dist.は歪み率をあらわし単位は%です。

【A級アンプ:6AU6】
 真空管の規格表には代表的な動作例が載っています。 ではこうした動作例は役立つのでしょうか?

 答えはYesとも言えますし、No!とも言えるのです。 ただ、R-C結合のアンプに限ればほとんど役立たないと思って間違いありません。

 検証してみましょう。
 左の例からプレート電圧が250Vの例でやってみます。 まず、プレート側からやると:プレート電圧は250Vでこのときプレート電流は7.6mAです。 いま、プレートの負荷抵抗をC-R結合アンプでは常識的な250kΩとします。 するとこの250kΩにおける電圧降下は250kΩx7.6mAとなり、1900Vになります。 従って電源電圧はプレート電圧の250Vに加えて1900Vの合計2150V必要です。 なお、250kΩは14.4W消費しますので安全を見て30W型の抵抗器を選びます。
 もうこの先をやる必要もないと思いますが、スクリーン電圧もこの電源からもらうとすればスクリーンのドロッパ抵抗は(2150-125)/3.0=675kΩとなります。そして675kΩの消費電力は約6Wなので15W型が適当でしょう。

 たかが小信号増幅器の動作に2kV以上の電源電圧が必要で、さらに数10Wが消費可能な大きな抵抗器が必要とあってはまったく非現実的です。このように規格表に出てくるこうした代表動作例はR-C結合のアンプ設計には役立たないのです。 もし代表動作例が役立つとすればトランス結合とかチョーク結合のアンプくらいでしょう。

【Ep-Ip特性:6AU6】
 それでは動作特性曲線のグラフは役に立つのでしょうか? これで正しく設計ができるなら用例のない未知の真空管も活かせます。

 これも答えはYesともNo!とも言えます。
 試しに電源電圧250Vのとき負荷抵抗が270kΩだとしましょう。 これは常識的な電源電圧と負荷抵抗と言えます。 図にロードライン(負荷線)を引くと赤の線のようになります。 ここから適当と思える動作点を決めて、その点におけるグリッド・バイアス電圧を読取って得れば設計完了のハズなのですが・・・。 それにしてもずいぶんグラフの下の方に張り付いてしまいますね。 細かく読むのは難しいです。

 ところで、対象は五極管なのでスクリーン・グリッド(c2)の動作が問題になります。 このグラフはc2が150Vだとして得た特性図です。 実際にはEc2=150Vと言えば、いま使おうとしているプレート電圧:Epをはるかに超える電圧になってうまくありません。プレート電圧は負荷抵抗によってドロップしているので下がった分だけもっと低いスクリーン電圧で使う必要があります。 五極管の使い方の基本はEp≧Ec2なわけです。EpよりもにEc2の方が大幅に高いのはうまくありません。 Ec2をもっと低くする必要があって、そうなるとこのグラフ自体の前提条件:Ec2=150Vが崩れてしまい図に引かれているすべてのカーブが変わってしまうでしょう。 グラフが違ってしまうのですから先ほど引いたロードラインから動作点は決められません。

 結局のところ、こうしたプレート特性のグラフはあってもR-C結合アンプの設計はできないことになってしまいます。

【Ep-Ip特性:6BX6】
 これは6BX6という五極管の動作特性を実測したものです。
 R-C結合の小信号用アンプに適するようスクリーン・グリッド電圧を35Vとしています。またプレート電流もずっと小さな範囲がわかりやすいように測定しています。 こうした特性図があれば設計も可能になります。

 おいおい使うつもりの球を実測してみたいと思っていますが、ある程度やってみると実はそれほど難しく考えなくても何とかなることがわかってきました。 結局のところプレート負荷抵抗や電源電圧が決まってしまえば、適当とされるスクリーン・グリッド電圧も決まってきます。

 適当とされるプレート電圧も決まるのでバイアス電圧も求まります。 制約条件があるとすればあまり浅いバイアスはうまくないことくらいです。 だいたいEg1≦-1.0Vが必要です。これよりバイアスが浅いと(0Vに近いと)初速電子流によるグリッド電流が流れ始めて入力インピーダンス低下とそれに起因するひずみの発生が起こります。

 手持ちがあって活かしたい小信号用の五極管(電圧増幅用の五極管)について、メーカーが用意してくれていたような「R-C結合アンプ部品表」が作れたらFBです。 実験を通じ実用的な情報に纏めたいと思います。 まあ、私の手持ちを積極的に活用するのが目的なので情報に一般性はないかもしれませんけど。w

【ブレッド・ボードで】
 いつものようにブレッドボードを使って実験します。 真空管回路は電源電圧が高いので注意は必要ですが、それを除けば実験に十分使えます。

 写真は6BL8相当のトランスレス管:9A8です。 こうしたTV用の球も使い方しだいで十分活きてきます。 用例がないから使わないのでは勿体ないです。 まずは実験して工夫しながらアンプの手作りを楽しみたいと思っています。 そうした準備の目的にはブレッドボードは最適です。

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 6AU6や6267のようにオーディオ用として認知されている球ばかり使えるなら有難いのですが手持ちはそんなに都合良くありません。 むしろそうしたオーデイオ向きの手持ちは限られているのが現実です。 冷静に見たら手持ちなんて駄球ばかりですけれどせっかく集めた球ですから捨ててしまったら可哀想です。 何とか活かす道を考えてみましょう。 もちろん五極管だけでなく三極管だって使いますよ。あるものは何でも試しましょう。
 製作物は何でも構わないので、これからぼちぼち手持ち真空管で遊ぶBlogが登場します。 球式のラジオ作りは予定にありませんが途中で何か閃いたら気にせず寄り道します。各駅停車で楽しみましょう。 ではまた。 de JA9TTT/1 T.Kato

つづく)←リンクfm

2024年5月8日水曜日

【回路】Repair the Antenna Tuner , FC-700

【アンテナ・チューナの整備と研究】

abstract
I am repairing a Yaesu Musen FC-700 antenna tuner. I have been using this antenna tuner for a long time. It seems that the contacts of the switch have oxidized due to years of use. It will be possible to repair it by cleaning the contacts of the switch.
And I will use this repair opportunity to study the inside of the FC-700. I have also considered several antenna tuners.(2024.05.08 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

FC-700:Antenna Tuner
 FC-700は八重洲無線のアンテナ・チューナです。FT-77、FT-707といった1980年代のトランシーバのアクセサリでした。 今では上位機種でなくてもオート・アンテナ・チューナ(ATU)の内蔵が普通になっています。しか30数年前はまだ外付けの手動式アンテナ・チューナが一般的だったのです。

 このFC-700はもともとモバイル用に購入したものです。 固定局のアンテナはインピーダンスが50Ω付近になるよう作っていたのでチューナーは特に必要としていませんでした。 しかし整合が難しい車載用アンテナで使おうと思って購入した経緯があります。(1990.11.21:3.5MHz Mobaileに初OA)

 ところがバリコンで同調する形式のチューナは振動でズレれしまい車載では使えないことがわかりました。 すぐに引退したのですがシャックにあってもあまり使う機会はありませんでした。 それに最近のトランシーバはATU内蔵が普通になったので50Ωから大幅に外れていなければ内蔵ATUで支障なく整合可能です。 それと、オートに慣れると手動は不便に感じますね。(笑)

 走行中に使うのでなければ支障はありません。 移動運用先の半固定でアンテナ整合の補助として使うのなら十分役立ちます。 最近復活した移動運用にあらためて使うことにしました。 ところがずいぶん古いため接触不良が目立っていたのです。 外観はまずまず綺麗でしたが内部のスイッチ接点は酸化・硫化が進んだのでしょう。整備することにしました。

                   ☆

 こんな古いアンテナ・チューナを整備する人は稀でしょう。あまり役立たないとは思いますが自身の整備記録としてBlogにまとめます。 また、せっかくの機会ですからよく観察してメーカー製アンテナ・チューナを研究することにしました。 もしも興味があればこの先もどうぞ。 アンテナ・チューナの自作は意外に挑戦者が多いので幾らか役立つかもしれません。

FC-700:内部構造
 後ほど回路図も出てきますが、アンテナ・チューナは単純な装置です。従って見たところもシンプルです。 部品配置がわかるように取扱説明書からコピーしました。

 写真で、左上の入力コネクタにトランシーバ(送信機)を接続します。 アンテナは右上の出力コネクタに接続します。 単線式のワイヤーアンテナも使えますが、その場合は必ずアース側の配線も必要です。 右の出力コネクタ寄りにアース用のターミナルがあります。

 入力コネクタから入ってすぐにSWR検出回路があります。C-Mカプラ式のオーソドックスなものです。そのあと心臓部の整合回路になります。

 このアンテナ・チューナはいわゆるπ-C型(パイ・シーがた)と称する形式です。 後ほど詳しく触れますが市販のアンテナ・チューナではT型と共に良く使われる形式です。 最近の内蔵型オート・アンテナ・チューナでも良く見られる形式です。 特別変わったものではありません。 八重洲無線のアンテナ・チューナにはπ-C型、T型のいずれも存在しますのでどちらかが特に有利と言うこともなかったようです。

接点の清掃
 さっそく整備を始めましょう。 メーカー製だけあってFC-700はなかなかうまく出来ていると感じました。

 専用に作らせたスイッチが使われていて電流容量が必要な部分はダブル接点になっており、また耐圧が必要な部分はステア・タイト絶縁になっています。インピーダンスの低い部分はベークライト絶縁で済ませています。 この辺りが自作ではなかなか真似のできない部分です。

   接点板と接触子は銀メッキのようです。 そのため長い年月の経過で硫化が進んだようでした。 観察すると黒ずんでいたのでそれで接触が悪くなったのでしょう。 サビと汚れを上手に清掃すれば復活できるはずです。(写真は清掃後のもの)

接点復活剤:コンタクト・スプレー
 接点復活剤(コンタクト・スプレー)と称するケミカル製品は様々なものが売られています。 電子機器用と称するものでしたら大抵のものが使えると思います。
 ここではホーザンの製品を使いましたがだいぶ古くなったので腐ってる(?)かもしれません。 でも取りあえずまだ効果はあるので使ってます。w

 こうしたスプレーにはストローのような噴射チューブが付属しています。 そうしたもので直接噴射しても良いのかもしれませんが、それには接点以外の余計な場所に付着した分を洗い流す必要があります。洗い流すには専用の洗浄剤が必要です。

 それも大変なので、私は綿棒の先に付けて要所のみ清掃することにしています。 少々手間ではありますがスプレーの残渣だらけでベトベトになってしまうと後々埃が付着し固着するのでかえって厄介なことになります。機器の寿命を縮めることにも繋がります。

 残渣が残らない無水アルコールなどで清掃する方法もあります。 しかし汚れを落とす能力はこうしたスプレーの方が優っているようです.使い過ぎると旨くありませんが要所に上手に使えばかなり効果的です。

汚れが・・・
 綿棒の先には汚れがいっぱい付いてきました。w

 ひどい汚れが除去できたら綺麗な綿棒に交換して仕上げの清掃をしておきます。 アンテナ・チューナのロータリー・スイッチは接点がたくさんあります。 丁寧にやろうとすればかなり時間が掛かるでしょう。
 はじめ、上蓋だけを外して雑に作業していました。 それである程度良くなったのですがまだ不完全でした。 それに綿棒を押し込んだ結果、少々無理な清掃をしてしまいました。そのため接点の一部を曲げてしまい致命的な接触不良を作ってしまったのです。orz

 それで止む無く底蓋も外し丁寧にやり直すことにしました。 曲げてしまった奥のほうの接点もピンセットで慎重かつ丁寧に元の形に戻しました。 特にデリケートさを感じたのはコイルのタップを切り替える接点で難しさを感じました。 何とか接点による不安定さは改善できました。 清掃によって全般に接点が綺麗になったためか接触不良も感じなくなりました。 アンテナ・チューナは機器としては単純なものです。 デリケートな部分もあって初心者向けとは言えないかもしれませんが、目視でわかる不具合も多いので良く観察して作業すればうまく直せるのではないでしょうか。

 再整備としてはSWR計の反射調整とパワー計に切替えた際のメーター再校正などが残っています。 外付けのダミーロードで確認した範囲ではこれらに問題はなかったので今回は手をつけませんでした。 もしSWRの表示やパワー計の指示ズレが目立つようならきちんとした終端電力計や50Ωダミーロードなどを併用して再調整を要します。

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FC-700の回路図
 蓋を開けたのでせっかくですからFC-700を研究してみました。

 取扱説明書からコピーした回路図です。 メーカーのサイトで取扱説明書がダウンロードできるので正式な図面はそちらを参照してください。 左の図はBlogの説明用です。

 スイッチがたくさんあるので複雑そうですがアンテナ・チューナの回廊としてはπ-C型の単純なものです。 後ほど単純化した図面があります。
 書籍などアンテナ・チューナ関係の資料を参照するとスイッチで切り替えている:C1〜C13というコンデンサがバリコンになっているものがありました。 FC-700ではトランシーバの出力インピーダンスは50Ωであるとの前提で、バリコンではなくバンドごとの固定コンデンサに置き換えたものでしょう。 バリコンにすると操作部が増える上、コストもかさみますから固定コンデンサの切り替えですませる方法は現実的です。

 コイルはL01とL02の2つに分けられています。 各コイルとも使わないタップは間をショートするようにしています。 複数のタップ間を細かくショートしてショート部分で無用な共振などが起こらぬように特別に構成されたスイッチが使われています。 芸がこまかいと言うか、こうしないと旨くないのでしょう。

 入力コネクタから入ってすぐにSWR検出回路があります。C-Mカプラ式のオーソドックスなものです。 バイファイラ巻きのトロイダル・コイルを使ったカレント・トランス式なので基本的に周波数特性は平坦です。

 50Ωのダミーロードが内蔵されています。 ただし切り替えにリレーを使っている関係で外部からDC電源(+8V)を供給しないと機能しないのは残念です。
 ダミーロードはシャックの必需品です。 メーカー機ばかり使っていると必要は感じないかもしれませんがRigの修理や自作送信機のテストには是非とも欲しいものです。

 近頃はオンエア前にPlateとLoadバリコンを調整するようなトランシーバ(FT-901やTS-820,etc)は見なくなっていますが、もしこのアンテナ・チューナを併用するなら内蔵のダミーロードは重宝します。 まずダミーロードに切り替えてトランシーバのPlateとLoadを加減し所定のパワーが出るよう調整します。続いてチューナに切り替えて整合調整を始めることになります。

 整合調整はまず目的のバンドに切り替えます。SWR計を反射波側にセットし適度なパワーに絞ったのち送信をはじめます。チューナのTuneとLoadのバリコンを交互にゆっくり回しSWR計の「反射」が最低になるよう調整します。 慣れると勘が働くようになってバリコンを「予測」で余分に回せるようになり素早く整合できるようになります。(勘の悪い人は手間取ります・笑)

 このようにSWR計はアンテナ・チューナに不可欠です。 使用時には「必ず」メータを見ながら反射電力が最小になるようにTuneとLoadのバリコンを「入念に」調整する必要があリます。 また、このC-Mカプラ式の内蔵SWR計は簡易なパワー計としても機能するので重宝です。 ただしメーターは小さいですし多分周波数特性も完全なフラットではないでしょう。パワー計としての精度はあまり良く無いと思いますが無いよりもずっとマシなのは間違いありません。
 このチューナが接続してあればスイッチがスルー状態でも常にSWR計としてアンテナ系を監視できます。 また通過型のパワー計としても便利に使えます。 パワー計の目盛は15Wと150Wフルスケールの2レンジあります。

 ところで、こうしたアンテナ・チューナは便利なものですが、必ず「通過損失」が存在します。 これは50Ωの終端電力計をつないでスルー状態とチューナを入れた状態を比較すればすぐにわかります。 だいたい5〜10%くらい損すると思えば良いでしょう。チューナを通すと10Wが9Wになってしまうのです。 しかも50Ωを大きく外れるような負荷(SWRがとても高いアンテナ)の場合はさらに大きな通過損失がチューナ内部で発生すると思って間違いありません。 ですから、なるべくアンテナそのものが50Ω付近になるよう製作(調整)してアンテナ・チューナなど必要としないようにすべきなのです。

コイルに注目
 このアンテナ・チューナで私が注目したのはコイルの部分です。 従来のアンテナ・チューナでは決まって空芯型の大型コイルが使われていたからです。 そうしたQの高い空芯コイルを使うのが「アンテナ・チューナの常識」だと思っていました。

 トロイダル・コイルが使えるというのは目から鱗と感じるほどだったのです。 もちろん空芯のHigh-Qなコイルを使う方がロスは少ないでしょう。 しかしFC-700のように薄型でコンパクトに作ることはできません。 これは他社のアンテナ・チューナの内部を見れば良くわかることです。トロイダル・コイルとは、ちょっと思い切った方法なのでびっくりしたものでした。

 3.5MHz〜14MHzと言ったローバンドではトロイダル・コアに巻いたコイルは省スペースになってFBです。 しかしハイバンドになるとトロイダル・コアのロスが増えるのと、うまくタップが取り出せないことから空芯コイルの2つに分けたものと思います。


2つのバリコンは・・
 バリコンは2つ使われています。 いずれもギャップは狭くてあまり耐圧は高くないでしょう。 せいぜい1kVではないでしょうか。

 仕様上の整合可能なインピーダンス範囲を狭くとっているため1kV程度でも何とかなるのでしょう。
 それでも10Ω〜250Ωとなっているので最近のRigに内臓のATUよりも整合可能な範囲はずっと広いです。この辺りがテキトーに張ったワイヤ・アンテナでも意外にうまく整合できる理由なのでしょう。 まあ、そう言った”アンテナ”は整合はできても飛びは別の問題なんですけれども。(笑)
 注意としては1/2λに近いワイヤーのようにインピーダンスが高くなりそうなアンテナはやめた方が良さそうです。 QRPならともかく100Wではバリコンの耐圧が問題になってきます。

入力側コンデンサ
 写真はπ回路の入力側コンデンサです。 既に書いたようにRig側のインピーダンスは50Ωであると想定しているので、容量が固定されたコンデンサで済んでいるのでしょう。 各バンドともXc=25Ωになるような設計で整合範囲を広く取るのが目的でしょう。

 コンデンサはすべてディップド・マイカ(シルバード・マイカ)です。 E12系列を基本とし一部にはE24系列の市販品から容量を選び、それでも適切な容量が無い場合は2個並列で必要な容量を合成しています。 従って、使用できるHAMバンドはWARCバンドを含む3.5MHz〜28MHzの8つですがコンデンサは13個あります。

 アンテナ・チューナを自作する場合もこうした手法は参考にできるでしょう。 単一のバンド用チューナなら切り替えスイッチも要らず容易に作れます。

SWR・パワー計検出部
 C-M型のSWR・パワー検出回路になっています。 原理的に周波数特性はフラットなのでバンドによって感度の変化はありません。(そうは言っても完全なフラットではないでしょうけれど・・・しかし実用上の支障はないはずです)

 SWR計はアンテナ・チューナには必須の機能です。もし内蔵されていなければ外付けする必要があります。
 アンテナ・チューナに必要なことは整合状態の検出です。 整合しているかがわかれば良いのであってSWR値は読めなくても支障はありません。 従ってSWR測定回路ではなくて、インピーダンス・ブリッジ形式の整合検出回路を内蔵するアンテナ・チューナも存在します。 しかしせっかくですからSWR計になっている方がFBでしょう。 オンジエアしながらSWRが監視できますし通過型のパワー計にもなって便利です。

 検証はしていませんが検出部に使ってあるトロイダル・コアはT-37-#1のように見えます。 #1材はあまりポピュラーではありませんがカーボニル・コアのTシリーズでは最も透磁率が大きいマテリアルです。 フェライト・コアのFTシリーズで自作する例が多いのですが、カーボニルの#1材の方が何か良い点があるのかも知れません。(これは要確認です・笑)

内蔵ダミーロード
 50Ω/100Wのダミーロード部分です。

 抵抗器は1kΩ/5Wのごく普通のものが20本並列で使われています。抵抗器は小型で耐熱性に優れる酸化金属皮膜型です。周波数特性を補償する目的で10pF/1kVのマイカ・コンデンサが並列に入っています。

 5Wが20本ですから計算上は100Wですが連続的にそれだけの電力を消費できるわけではありません。 FC-700の仕様書には30秒と書いてあります。 抵抗器が密集していますし中の方は熱放散が悪いでしょう。連続ではとても持たないわけです。

 昔、似た方法でダミーロードを作ったことがあります。 周波数特性もHF帯なら問題なくうまく動作します。 課題は冷却で、強制空冷するとか何か効率的に放熱して冷却する方法を考えておかないとすぐに過熱するのが問題でした。hi

                   ☆

 以上、FC-700の各部を眺めてみました。 流石にメーカー製だけあって構造や部品配置が工夫されており各部は最短距離で配線されていてます。 スイッチなど特殊品なのでそのままそっくり真似はできないと思いますが工夫された部分は学びたいものです。

このあとはちょっとしたアンテナ・チューナ回路の雑談です。

アンテナ・カプラの基本回路
 今では送信機(トランシーバ)とアンテナを整合する装置は「アンテナ・チューナ」の呼称が定着しています。
 私が若かった時分は「アンテナ・カプラ」と呼ばれていました。

 同軸ケーブルでの給電が常識になる以前は「ハシゴ・フィーダ」と言った平衡給電が行なわれていました。 たいてい同調フィーダとして使いますからフィーダ上に定在波が立つのは常識でした。そのためアンテナ・カプラはシャックの必需品だったのです。

 その後、不平衡型のケーブル・・同軸ケーブル・・で給電する時代になってもアンテナ・カプラは良く使われました。(左図は古い形式の例です)
 もちろん今でも有効に使える回路ですが、この形式で厄介なのはコイルの1次側と2次側の結合度を可変する必要があることでしょう。コイルを機械的に動かして結合度を可変するケースが多いのですが、代わりに1次側(送信機側)のリンク・コイルにも直列にバリコンを入れる形式もあります。バリコン形式にするときにはリンクは2倍くらい多く巻きます。

 もし作るのでしたら(b)の中間型にしようと思います。 端子板を使って配線換えで(a)や(c)に変えられるように作っても良いのですが煩雑になってしまいます。 しかしうまく作るとバリコン一つで済みますから経済的で悪くない回路だと思っています。 固定局のようにアンテナの形状がだいたい決まってしまうと一度調整すれば良いわけですからコイルの結合調整も煩わしいと言うほどではありません。

 コイルとバリコンで運用周波数に共振させることになります。 共振させるためのコイル(インダクタンス)とバリコン(キャパシタンス)の組み合わせは無数にあるわけですがアンテナ・カプラとしてはHigh-C、Low-Lの組み合わせが適しています。

 部品数の少ないアンテナ・カプラです。 コンパクトに作って移動運用にも重宝する「小型アンテナ・システム」になりそうです。 何の変哲もない「同調回路」ですが眺めていてそう思いました。

 古よりシャックで使うアンテナ・カプラといえば太い線を巻いた立派な(巨大な)コイルとギャップの広い大型エアー・バリコンと相場は決まっています。 しかしそれでは移動運用には大げさです。パワーに見合った部品を使うと言ったちょっとした発想の転換も必要そうです。

L-Zマッチのアンテナ・チューナはいかが?
 上記の古いアンテナ・カプラを眺めていて「Zマッチ」を使ったらどうだろうかと思いました。
 Zマッチというのは2連バリコンを使いコイル一つで広い周波数可変範囲を持った共振器を構成する方法です。

 左図の左側の囲みのようにLとCを並列共振と直列共振に組み合わせた回路です。 作り方次第ではHF帯を一つのコイルと一つの2連バリコンでカバーできます。 上記のアンテナ・カプラのLC共振器をこの回路に置き換えれば少ないパーツでオールバンド・アンテナ・チューナorカプラが作れそう。

 実はそう思ったHAMはたくさんいたようです。 ネットで探すと似た発想のアンテナ・チューナが幾つもヒットします。

 図はARRLのAntenna Compendium Volume3という書籍にあった回路です。(Page:191〜、W6JJZの執筆) 記事には2つ回路があって左図はそのうちの簡略版の方です。いくらか制約はあるようですが回路はシンプルです。 うまく使えればマルチバンド対応の移動用アンテナシステムがコンパクトに構成できるかもしれません。 基礎的な実験からでも初めてみたいと思っています。

 なお、先人のテスト結果もネット上にいくつか見られました。 それによればZマッチを使ったチューナは回路自体の通過損失がかなり大きくなって効率的でないケースがあるそうです。 さらなる検証は必要そうですが、ある程度のディメリットはあってもシンプルさと言った特徴が発揮できそうなら採用する意味はあるかもしれません。

 実験していませんから推測にすぎませんがZマッチを構成するコイルのインダクタンスとバリコンの容量によってもかなりの違いはありそうです。 さらにLow BandとHigh Bandではたとえ共振はしていても共振インピーダンスに大きな違いがあるはずです。 アンテナ・チューナ回路として負荷をかけた状態(=アンテナをつけた状態)であまりにもHigh-Qになる(例えばQL>30)ようでは損失が激増するのも当然です。
 従ってLとCの組み合わせの上手いところを探す必要があるのでしょう。 それにしても可能性がありそうなチューナ回路だと思いました。

FC-700の解析
 回路図の最後はFC-700の解析結果です。

 取説の回路図に書かれていて部品定数がわかるパーツは実際に内部を見ただけでもおおよそ理解できるものです。 しかし問題のコイルだけは現物を見てもどんな部品定数なっているか、にわかにはかわかりにくいのです。

 幸いトロイダル・コイルはコア材がわかりました。 T-157-#2に間違いないためAL値は簡単に判明します。 数えれば巻き数もわかりますから計算でインダクタンスも求まるでしょう。 空芯コイルの部分も寸法と巻き数がわかったのでかなり精度よく計算できました。

 ただし、見落としてはいけないことがあります。 多バンド型アンテナ・チューナ特有の構成のためインダクタンスには不確かさがありそうなのです。
 全巻線を使わないほとんどのバンドでは途中タップを使って小刻みに巻線をショートしているからです。そのショートされた部分は影響しないのでしょうか? そのため実効的なインダクタンスは計算される大きさとは異なっているかも知れません。
 まあ、まったくの同等品を作りたいのであれば同じ材料で同じ形状・構造に作れば実現できるるわけで、そういう意味での再現性は十分にあるでしょう。 しかし図に参考として書いてあるインダクタンス値は確かではない可能性が残っています。

 この図は独自の研究によって推定して得たものですからメーカーの設計意図を正しく反映していない可能性があリます。 従ってこの図をもってメーカーにご質問などされることはおやめください。 ご迷惑をかけるだけです。

 どうしても確かめたいのなら材料はわかっているのですから自ら同じように作ってみたら良いわけです。 確証が得たいなら是非そうされてください。 私からのお願いです。

アンテナ・チューナの参考書
 アンテナ・チューナの関連で蔵書を漁っていたらこのような書籍を見つけました。 買ったことを忘れていたくらいなので中身の記憶はぜんぜんありませんでした。

 書名が「アンテナ・チューナ」とはなっていませんからチューナの製作記事を期待してはいけないのかも知れません。 おもにチューナのオートチューニング技術を扱った内容と言ったら良いでしょうか。

 しかしアンテナとRigの間のチューニングのお話としては面白い研究内容です。 こうした分野にご興味があったら一読をお薦めしたいと思います。 絶版と思われますので図書館の利用がよろしいでしょう。 また、私見ですが無理してまで手に入れるほどの内容はないと思います。

                   ☆

 不調になったアンテナ・チューナをリペアすると言った単純な話のつもりでした。 色々眺めて散策しているうちにだいぶ道中が長くなってしまいました。 このBlogに欠けているのは数式によるアンテナ・チューナの解析です。 この辺りはπ型の変形インピーダンス整合回路として専門誌では詳しい扱いがなされていました。

 もちろん数値による解析は重要な手がかりを与えてくれます。 みずから設計するには避けられないはずですが、ここは娯楽のBlogなのであえて数式には触れぬことにしておきました。 興味の向きは是非ともご研究を!  アンテナに限らず整合回路の奥深さが楽しめるでしょう。 ではまた。 de JA9TTT/1 T.Kato

(おわり)