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2022年4月17日日曜日
2022年4月1日金曜日
Product Detectors (2)
【プロダクト検波:SSB/CWの検波器・その2】
【SSB/CW De-modulator:SSB/CW復調器】
通信型受信機の構成要素を探りながら造る『私だけの受信機設計』シリーズ・第4回です。
前回はSSB/CWの復調に向いた検波回路(←リンク)を振り返ってみました。 今回は実際に製作します。
プロダクト検波器としてはリング・デモジュレータを採用することにしました。 ダイオード4個をリング状に配線した検波・復調器です。 既に多くのメーカー機や自作受信機にも採用されているたいへんポピュラーな復調回路です。
もっと奇抜なあるいは珍しいデバイスを使った回路の登場を期待されていたとすれば申し訳なかったかも知れません。 何かの必要性がない限り、あるいは特に趣味性を強調するつもりでもなければオーソドックスで平凡な回路や部品を好んで使っています。 これは性能が安定しているだけでなく、調整が容易で作り易かったり、使用デバイスも特殊でなくて済むからです。もちろん性能が劣っていたのでは意味はないですけれど。 詳しくは回路図のところにて。
☆
この受信機設計シリーズですが、ほぼBlogの公開順に進めています。以前から懸案事項のあったBFOから始めました。これが順調に行ったことからSSB/CWの検波・復調ユニットへと進みました。これが前回と今回のお話になります。
その後はIFアンプの方向へ進めています。 Blogに投稿するには設計・部分試作・製作・データ採取、そして公開向きに纏める作業を伴います。今どきビジュアル化も大切ですから適宜、写真撮影や編集も必要です。 これくらい時間のゆとりを持たないと継続できません。遅々としているように感じるかも知れませんが・・・。
多分に拙宅の部品事情や個人の興味を反映した自家用設計です。 そんな個人的なものに「興味なんてないよ」と思うのでしたらこの先も面白くないです。 擬似体験のつもりでご覧になっても意味はないでしょう。 しかし類似のRXを構想中なら何か役立つ情報があるかもしれません?(笑) 続けてご覧を。
【SSB/CW De-mod. BFO Sch:回路図】
SSBとCWを復調するユニットの全回路です。このユニットにBFOは不可分なので含めて書いてあります。
回路は大まかに4つの部分で成り立っています。
まず、(1)Q1が発振、Q2がバッファアンプのBFO部ですが、これは既に前回Blogで済んでいます。(2)リング復調器の前にポストIFアンプ:Q3があります。(3)心臓部はD1〜D4で構成された4ダイオード型のリング復調器です。(4)復調された低周波信号を増幅する低周波アンプ:Q4があります。以下、各部の詳しくは個別写真のところで説明しています。
部品はすべて入手容易なものです。FETはジャンクション型とMOS型を使い分けています。BFOの発振にはJ-FETが適当です。あるいは前のBlog(←リンク)を参照してPNP-Trで作っても良いでしょう。 バッファアンプとして緩衝作用を重視する部分にはドレイン・ゲート間の帰還容量(Crss)が特に小さな「内部カスコード構造」のFETを使います。 低周波アンプは2SC1815Yで、ありきたりなトランジスタですがローノイズで十分なゲインが得られています。 リング検波器にはゲルマニウムDiの1N34Aを使いました。ここは他のゲルダイでもOKです。一般的な1N60や1K60で良いでしょう。ショットキ・バリア・ダイオード(SBD)も良い選択です。 BFO部分の半導体は前のBlogも参照を。
あえて特殊部品と言えそうなのがBFO発振のコイルとリング復調器のところのIFTでしょうか? この2つは同じものを使っています。これも特別なIFTではありません。トランジスタ・ラジオの段間用IFTで、同調容量が180pFの455kHz用です。 一次側のタップ位置ですが、ピン1と2の間が全巻数の約14%になっています。またピン4と6間の巻数は1次側巻数の約13%です。 具体的な巻数はIFTにより異なるため示しませんが、おおよそ似寄りの「巻数比」になったIFTなら問題なく使えます。あるいはaitendoで売っている「IFTきっと」で自作することもできます。(参考リンク→8石ラジオを作る)
【IF Post Amp.:IFの後段アンプ】
このユニットへの入力信号は受信機のIFアンプ(中間周波増幅器)の最終段から取出します。周波数が455kHz付近であれば大抵のIFアンプに接続できます。
入力端子から入ったIF信号はバッファアンプで軽く増幅されます。このアンプはゲインを稼ぐと言うよりもBFO成分がIFアンプへ戻るのを防ぐ意味合いが強いものです。そのため増幅素子には帰還容量(Crss)が特に小さいFET(2SK544E or F)を使いました。なお、完全な中和調整を行なえば一般的なトランジスタやJ-FETも使用できます。2SK544Eは2SK241Yあるいは2SK439Eでも良いです。(2SK439は足の並びに注意を)
BFOの発振がIFアンプ部分に戻ると、AGC(自動利得調整)の動作に支障が出るだけでなく信号がノイズっぽくなることがあります。 このバッファアンプにAGCは掛かっていませんが、入力信号は十分にAGCが効いたIFアンプの終段部分から取り出されます。既に十分なレベル管理がなされているわけです。固定ゲインのアンプで支障ありません。
【Ring DET+ AF-Amp:リング復調器とAFアンプ】
心臓部のリング復調器です。 復調はダイオード4個の標準的なリング復調器で行ないます。その後トランジスタを使った低周波アンプで軽く増幅しています。
初めは万全を期すためにバランス調整を設けていました。 実際にはその必要がなかったので固定抵抗に置き換えてしまいました。それで支障ありません。 そもそもバランス型の復調器なのでIFアンプ方向へのBFOの漏れは少ないうえ、前段に帰還の少ないバッファンプを置いた効果もあります。無調整型にしてしまいました。これでBFOの漏れは感じられません。 復調器のダイオードはゲルマDiを使いました。SBDとの比較で大した違いがないためそのままゲルマDi(1N34A)にしています。もちろん初めからSBDでも構いません。
2SC1815Yを使った低周波アンプは約5.7倍のゲインです。初めはもっと大きなゲインを持たせていましたが、検波出力が意外に大きいため低周波アンプが先に飽和してしまいました。現在は回路図のようにエミッタ抵抗(R15:300Ω)を挿入し電流負帰還を掛けて適当なゲインに抑えています。 従って現状では復調器の方が先に飽和します。 これに続く低周波パワーアンプのゲイン次第で違ってきますが、過剰に低周波増幅する必要はありません。 なおコレクタ・ベース間のコンデンサ:C20を大きくすると高音域のノイズが低減できます。通信機用としてS/Nの改善に効果的です。数100pF〜1000pFくらいで適当に好みによって決めます。 低周波アンプに使うトランジスタはhFEが200前後のSi-NPN型なら何でも良いでしょう。
【AF Power Amp.:低周波パワーアンプ】
あらかじめ書いておきますが低周波のパワーアンプについては改めて扱うつもりです。 写真はここで暫定的に使ったものを示しています。
テストにおいて低周波アンプはLM380Nを使いました。電源電圧の+9VはLM380Nには下限値です。従ってあまりパワーは出ませんがシャックで聞くには支障のない音量です。8Ωのスピーカで250mWくらいは出ているようです。使うスピーカにもよりますが250mWと言うのはうるさいほどの大音量です。 LM380Nはゲイン50倍(電圧利得)のシンプルなパワーアンプですが実験目的には十分すぎるほどでした。むしろそのまま実用でも良いくらい。 オーディオ用ではなく通信機用のアンプですから無闇に低域を延ばす意味はありません。スピーカとの結合コンデンサは220〜330μFと小さめにします。
低周波増幅の部分についてはCW用Audioフィルタ(参考リンク→良い音のCWフィルタ)の採用も考えているところです。 そうなると回路規模が大きくなるため写真のようにユニットの片隅に搭載できません。 CW用Audioフィルタが省略方向になれば別ですが、変更の可能性を考えて上記回路図には含めませんでした。 なお、LM380NはこのBlogではお馴染みになっているLM386Nでも良いです。もちろん、ディスクリートで作っても構いません。いずれも35dBくらい(約50倍)のゲインを持つように設計します。
【BFO:BFO回路】
BFOの詳細は前回のBlogに投稿済みです。同じようなアングルからの写真ですが再掲載しておきます。
BFOの周波数がIF信号に引っ張られるのは、IF信号の一部がBFOに届いて干渉するためです。 信号入力、BFO入力、そして出力の各ポート(端子)がバランスした復調・検波器を使うことで相互の干渉は抑えられます。さらにBFOのバッファアンプには帰還容量(Crss)の少ないFETを使いました。
これでBFOへ入力信号が混入・干渉することはなくなっています。課題であったBFO周波数の引っ張り現象も解消されたわけです。バッファアンプの効果については前回のBlogに書いても良かったのですが、検波器との関係も大きいことからここで説明しました。
あらためてBFOの周波数安定度を見ていますが、CW用としては十分な安定度です。SSBの復調にも支障はないのですが、長期的にみるとキャリヤ周波数の再現性には幾らか課題があるように思いました。当該の受信機がSSB用の良い性能のフィルタを使っているのであれば周波数の再現性が良いBFOが適当です。その場合フィルタの通過帯域特性が明確になっており、伴ってSSBの復調に最適なキャリヤポイントの周波数もはっきりしている必要があります。
その実現には水晶発振器が安直な方法ですが多くの場合、水晶発振子は特注になるでしょう。現在可能で経済的な方法はDDSあるいはPLLを使ったBFOです。 SSBの受信をメインに考えているのでしたらそのような「固定した」周波数のBFOが適当です。 ここでは目的の違いから現状のLC発振形式のBFOで進めます。CW用としては何ら性能的な不満もありませんので。
【SSB/CW Unit:SSB/CW復調ユニット全景】
BFO回路を含むSSB/CW復調ユニットの全体を撮影しました。
とりあえずの仮設ですが低周波パワーアンプも含めたので、これで独立したユニットとして機能します。右下に茶色のリードが出ていますが、これは低周波ゲインの調整用ボリウムが付いています。
受信機全体のゲインの配分はRFやIF部とも関係しますが、低周波アンプとして必要なゲインは十分確保されています。フルボリウムの状態で低周波部は50dB弱のゲインを得ています。
参考までに7MHzの受信テストではかなり絞って聞くことになりました。残留ノイズが小さくて静かな検波・復調ユニットです。あとはIFアンプまでがローノイズに仕上がると静かな受信機になるでしょう。いまからそれを書くのはチト早いかもしれませんが。(笑)
【SSB/CW Unit In-Out:復調ユニットの入出力特性】
製作したユニットの入出力特性です。
このカーブから検波・復調ユニットとして最適なIF信号の大きさがわかります。 青色のカーブがIF信号の入力端子の電圧と低周波アンプの出力電圧の関係を示します。 赤色のラインは検波・復調された直後の電圧を示しています。これは参考的なものです。
なお測定は復調された低周波信号が800HzになるようにBFOの周波数を設定して行ないました。(参考:IF信号が455kHzでBFOは455.8kHzまたは454.2kHzとなります) 入力端子は50Ωで終端しています。AF出力電圧は10kΩの抵抗負荷を付けてそこで測定しました。
グラフから入力としておおよそ100dBμ(100dBμは100mVですがEMFなので負荷端では50mVrms)を超えぬようにすればリニアな範囲になります。 まだ変更する可能性もありますが、このユニットの標準出力は500mVrmsであるとして全体的な設計をしています。(この時のIF入力端子の電圧は34.5mV(rms)となる)
グラフで左下の部分に曲がりが見られます。この部分は復調されたAF信号が小さ過ぎて測定環境のノイズ,etcと区別がつかない部分です。 グラフでは直線的に下がって行きませんが実際の使用に於いて支障はありません。きちんとシールドを施してノイズの誘導を防ぎ精密に測定するとこの先もずっと直線的であることがわかります。(微小電圧の測定は低周波スペアナや選択レベル計が好ましいです。定性的でよければ人の耳でも可でしょう・笑)
【SSB/CW復調ユニットの試用法】
以上、SSB/CWを復調するためのユニットができました。ただしこのユニット単独では有用な機能はありません。ここでは仮に短波ラジオに接続して試用する方法を考えてみました。
図は既に投稿済みの短波ラジオの製作(←リンク)から引用したものです。ごくシンプルな短波ラジオですからこのユニットには不釣り合いですが、さしあたってのテストには十分使えると思います。それにシンプルな短波ラジオとは言ってもHAMバンドが受信できるだけの感度は十分にあります。
完成した復調ユニットを左図の短波ラジオの中間周波出力(IF-Out)端子に接続します。さらに、この復調ユニットの低周波出力(AF-Out)を短波ラジオの「低周波増幅入力端子」(LM386N手前のところへ音量調整用VRを経由して接続)に戻してやれは復調ユニット側のパワーアンプ:LM380Nは省けます。 図の短波ラジオは電源電圧が+6VなのでSSB/CW復調ユニットと合いません。別個に電源を与えるかラジオの方も+9Vで動作させると言った検討を行ないます。この復調ユニットを+6Vで使うのは適当でありません。安定した+9Vを与えて使います。
図のようなラジオは簡単なものですからAGCの働きが貧弱であり検波の所のレベル管理は十分ではありません。従って検波・復調ユニットが入力オーバーになる可能性があります。この辺は受信に使うアンテナ次第とも言えましょう。 まずは左図の短波ラジオのIF出力ボリウム:VR2を中位にセットすれば良いと思います。もしピークで歪むようならさらに絞ってやります。VR2を最大に上げると大きな音になって感度が良くなったように感じるかもしれません。それでは強い信号で歪むので正しい使い方ではありません。大きな音がすれば良いわけではなく、強い信号でも歪みなく良い音で復調できなくてはいけません。
短波ラジオのIFフィルタがIFT(=中間周波トランス)のみでは選択度が足りません。だいぶ混信します。しかし手元の短波ラジオでテストしたら賑やかに受信できました。使ったのがHAM局用の効率の良いアンテナですからそれも効果的なのでしょう。 しばらくこの状態でテストしていますが楽しそうな各局のQSOがFBに聞こえてきました。
同じような短波ラジオがあればテストに使えます。検波回路の部分を小改造してIF信号を引き出してやります。 真空管の短波ラジオでもテストは可能ですがIF信号が非常に大きいことがあります。入力が過大にならぬよう絞ってやれば良い音で復調できるはずです。 やはりちゃんとしたBFOとプロダクト検波器はSSB/CWの受信に効果的でした。
☆
たいへん古い話で恐縮ですが、JARL会長も勤められたJA1FG梶井OM(故人)の名著『通信型受信機の解説と実際』(CQ出版社1966年)によれば、受信機の設計は検波回路を基準に据えれば良いとあります。すなわち検波部が必要とする入力電圧がわかり、また復調出力がわかってしまえばあとはその前後の回路に必要なゲインも明確になると云うのです。 真空管時代の書籍ですから今ふうの設計には必ずしもマッチしませんが、受信機を自分で作ってみたい人にとっては一読に値すると思います。ご興味でもあれば図書館を利用されてください。このころはHAMが受信機を自作する時代だったことがわかります。
梶井OMの提言は実際に受信機を企画してみれば実感できます。一般に通信型受信機が必要とするゲインは140dB程度(1000万倍)であると言われます。ではどこを基準に設計するのが合理的なのかと言う話になるわけです。 入力や出力の大きさを基準とする考えもあるでしょう。しかし実際は各部のゲインに自由度があり過ぎるため明確には決めにくいのです。それに受信機は常にフルゲインで動作しているのではありません。AGCの関係もあって漫然とアンプ段を重ねただけではどこかの段で破綻してしまいます。 検波器・復調回路は受信機の中央部分にあってRF段とAF段の境界です。ここの信号レベルがわかれば前後のゲインの割り振りもかなり明確になるでしょう。
なんとなく唐突にBFOやSSB/CWの検波・復調ユニットから作り始めたように感じられたと思います。後付けの言訳になるかも知れませんがSSB/CWの復調部分から始めたのはそれなりの合理性もあったわけです。
この検波・復調ユニットの場合、後続する低周波部のゲインは40dBもあれば十分なようですから容易に実現できます。続いて中間周波増幅器(IFアンプ)と、それと不可分のAGC回路について検討を始めているところです。 IFフィルタ以前でゲインを稼ぐとS/Nには有利ですが大入力特性が劣化します。電波が輻輳する現代においては必然的にIFアンプであらかたのゲインを稼ぐ設計になるでしょう。近代的な受信機に於いてはすべての受信モードで良く効くAGCも必須であります。
この辺りをどのように構成するのか、なかなか悩ましい課題もありそうです。逆に面白みを感じる部分とも言えるでしょう。そう感じるのは私だけかも知れませんけれども・・・。 ではまた。de JA9TTT/1
(つづく)←リンクnm
【私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)
第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→いまここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ
【SSB/CW De-modulator:SSB/CW復調器】
通信型受信機の構成要素を探りながら造る『私だけの受信機設計』シリーズ・第4回です。
前回はSSB/CWの復調に向いた検波回路(←リンク)を振り返ってみました。 今回は実際に製作します。
プロダクト検波器としてはリング・デモジュレータを採用することにしました。 ダイオード4個をリング状に配線した検波・復調器です。 既に多くのメーカー機や自作受信機にも採用されているたいへんポピュラーな復調回路です。
もっと奇抜なあるいは珍しいデバイスを使った回路の登場を期待されていたとすれば申し訳なかったかも知れません。 何かの必要性がない限り、あるいは特に趣味性を強調するつもりでもなければオーソドックスで平凡な回路や部品を好んで使っています。 これは性能が安定しているだけでなく、調整が容易で作り易かったり、使用デバイスも特殊でなくて済むからです。もちろん性能が劣っていたのでは意味はないですけれど。 詳しくは回路図のところにて。
☆
この受信機設計シリーズですが、ほぼBlogの公開順に進めています。以前から懸案事項のあったBFOから始めました。これが順調に行ったことからSSB/CWの検波・復調ユニットへと進みました。これが前回と今回のお話になります。
その後はIFアンプの方向へ進めています。 Blogに投稿するには設計・部分試作・製作・データ採取、そして公開向きに纏める作業を伴います。今どきビジュアル化も大切ですから適宜、写真撮影や編集も必要です。 これくらい時間のゆとりを持たないと継続できません。遅々としているように感じるかも知れませんが・・・。
多分に拙宅の部品事情や個人の興味を反映した自家用設計です。 そんな個人的なものに「興味なんてないよ」と思うのでしたらこの先も面白くないです。 擬似体験のつもりでご覧になっても意味はないでしょう。 しかし類似のRXを構想中なら何か役立つ情報があるかもしれません?(笑) 続けてご覧を。
【SSB/CW De-mod. BFO Sch:回路図】
SSBとCWを復調するユニットの全回路です。このユニットにBFOは不可分なので含めて書いてあります。
回路は大まかに4つの部分で成り立っています。
まず、(1)Q1が発振、Q2がバッファアンプのBFO部ですが、これは既に前回Blogで済んでいます。(2)リング復調器の前にポストIFアンプ:Q3があります。(3)心臓部はD1〜D4で構成された4ダイオード型のリング復調器です。(4)復調された低周波信号を増幅する低周波アンプ:Q4があります。以下、各部の詳しくは個別写真のところで説明しています。
部品はすべて入手容易なものです。FETはジャンクション型とMOS型を使い分けています。BFOの発振にはJ-FETが適当です。あるいは前のBlog(←リンク)を参照してPNP-Trで作っても良いでしょう。 バッファアンプとして緩衝作用を重視する部分にはドレイン・ゲート間の帰還容量(Crss)が特に小さな「内部カスコード構造」のFETを使います。 低周波アンプは2SC1815Yで、ありきたりなトランジスタですがローノイズで十分なゲインが得られています。 リング検波器にはゲルマニウムDiの1N34Aを使いました。ここは他のゲルダイでもOKです。一般的な1N60や1K60で良いでしょう。ショットキ・バリア・ダイオード(SBD)も良い選択です。 BFO部分の半導体は前のBlogも参照を。
あえて特殊部品と言えそうなのがBFO発振のコイルとリング復調器のところのIFTでしょうか? この2つは同じものを使っています。これも特別なIFTではありません。トランジスタ・ラジオの段間用IFTで、同調容量が180pFの455kHz用です。 一次側のタップ位置ですが、ピン1と2の間が全巻数の約14%になっています。またピン4と6間の巻数は1次側巻数の約13%です。 具体的な巻数はIFTにより異なるため示しませんが、おおよそ似寄りの「巻数比」になったIFTなら問題なく使えます。あるいはaitendoで売っている「IFTきっと」で自作することもできます。(参考リンク→8石ラジオを作る)
【IF Post Amp.:IFの後段アンプ】
このユニットへの入力信号は受信機のIFアンプ(中間周波増幅器)の最終段から取出します。周波数が455kHz付近であれば大抵のIFアンプに接続できます。
入力端子から入ったIF信号はバッファアンプで軽く増幅されます。このアンプはゲインを稼ぐと言うよりもBFO成分がIFアンプへ戻るのを防ぐ意味合いが強いものです。そのため増幅素子には帰還容量(Crss)が特に小さいFET(2SK544E or F)を使いました。なお、完全な中和調整を行なえば一般的なトランジスタやJ-FETも使用できます。2SK544Eは2SK241Yあるいは2SK439Eでも良いです。(2SK439は足の並びに注意を)
BFOの発振がIFアンプ部分に戻ると、AGC(自動利得調整)の動作に支障が出るだけでなく信号がノイズっぽくなることがあります。 このバッファアンプにAGCは掛かっていませんが、入力信号は十分にAGCが効いたIFアンプの終段部分から取り出されます。既に十分なレベル管理がなされているわけです。固定ゲインのアンプで支障ありません。
【Ring DET+ AF-Amp:リング復調器とAFアンプ】
心臓部のリング復調器です。 復調はダイオード4個の標準的なリング復調器で行ないます。その後トランジスタを使った低周波アンプで軽く増幅しています。
初めは万全を期すためにバランス調整を設けていました。 実際にはその必要がなかったので固定抵抗に置き換えてしまいました。それで支障ありません。 そもそもバランス型の復調器なのでIFアンプ方向へのBFOの漏れは少ないうえ、前段に帰還の少ないバッファンプを置いた効果もあります。無調整型にしてしまいました。これでBFOの漏れは感じられません。 復調器のダイオードはゲルマDiを使いました。SBDとの比較で大した違いがないためそのままゲルマDi(1N34A)にしています。もちろん初めからSBDでも構いません。
2SC1815Yを使った低周波アンプは約5.7倍のゲインです。初めはもっと大きなゲインを持たせていましたが、検波出力が意外に大きいため低周波アンプが先に飽和してしまいました。現在は回路図のようにエミッタ抵抗(R15:300Ω)を挿入し電流負帰還を掛けて適当なゲインに抑えています。 従って現状では復調器の方が先に飽和します。 これに続く低周波パワーアンプのゲイン次第で違ってきますが、過剰に低周波増幅する必要はありません。 なおコレクタ・ベース間のコンデンサ:C20を大きくすると高音域のノイズが低減できます。通信機用としてS/Nの改善に効果的です。数100pF〜1000pFくらいで適当に好みによって決めます。 低周波アンプに使うトランジスタはhFEが200前後のSi-NPN型なら何でも良いでしょう。
【AF Power Amp.:低周波パワーアンプ】
あらかじめ書いておきますが低周波のパワーアンプについては改めて扱うつもりです。 写真はここで暫定的に使ったものを示しています。
テストにおいて低周波アンプはLM380Nを使いました。電源電圧の+9VはLM380Nには下限値です。従ってあまりパワーは出ませんがシャックで聞くには支障のない音量です。8Ωのスピーカで250mWくらいは出ているようです。使うスピーカにもよりますが250mWと言うのはうるさいほどの大音量です。 LM380Nはゲイン50倍(電圧利得)のシンプルなパワーアンプですが実験目的には十分すぎるほどでした。むしろそのまま実用でも良いくらい。 オーディオ用ではなく通信機用のアンプですから無闇に低域を延ばす意味はありません。スピーカとの結合コンデンサは220〜330μFと小さめにします。
低周波増幅の部分についてはCW用Audioフィルタ(参考リンク→良い音のCWフィルタ)の採用も考えているところです。 そうなると回路規模が大きくなるため写真のようにユニットの片隅に搭載できません。 CW用Audioフィルタが省略方向になれば別ですが、変更の可能性を考えて上記回路図には含めませんでした。 なお、LM380NはこのBlogではお馴染みになっているLM386Nでも良いです。もちろん、ディスクリートで作っても構いません。いずれも35dBくらい(約50倍)のゲインを持つように設計します。
【BFO:BFO回路】
BFOの詳細は前回のBlogに投稿済みです。同じようなアングルからの写真ですが再掲載しておきます。
BFOの周波数がIF信号に引っ張られるのは、IF信号の一部がBFOに届いて干渉するためです。 信号入力、BFO入力、そして出力の各ポート(端子)がバランスした復調・検波器を使うことで相互の干渉は抑えられます。さらにBFOのバッファアンプには帰還容量(Crss)の少ないFETを使いました。
これでBFOへ入力信号が混入・干渉することはなくなっています。課題であったBFO周波数の引っ張り現象も解消されたわけです。バッファアンプの効果については前回のBlogに書いても良かったのですが、検波器との関係も大きいことからここで説明しました。
あらためてBFOの周波数安定度を見ていますが、CW用としては十分な安定度です。SSBの復調にも支障はないのですが、長期的にみるとキャリヤ周波数の再現性には幾らか課題があるように思いました。当該の受信機がSSB用の良い性能のフィルタを使っているのであれば周波数の再現性が良いBFOが適当です。その場合フィルタの通過帯域特性が明確になっており、伴ってSSBの復調に最適なキャリヤポイントの周波数もはっきりしている必要があります。
その実現には水晶発振器が安直な方法ですが多くの場合、水晶発振子は特注になるでしょう。現在可能で経済的な方法はDDSあるいはPLLを使ったBFOです。 SSBの受信をメインに考えているのでしたらそのような「固定した」周波数のBFOが適当です。 ここでは目的の違いから現状のLC発振形式のBFOで進めます。CW用としては何ら性能的な不満もありませんので。
【SSB/CW Unit:SSB/CW復調ユニット全景】
BFO回路を含むSSB/CW復調ユニットの全体を撮影しました。
とりあえずの仮設ですが低周波パワーアンプも含めたので、これで独立したユニットとして機能します。右下に茶色のリードが出ていますが、これは低周波ゲインの調整用ボリウムが付いています。
受信機全体のゲインの配分はRFやIF部とも関係しますが、低周波アンプとして必要なゲインは十分確保されています。フルボリウムの状態で低周波部は50dB弱のゲインを得ています。
参考までに7MHzの受信テストではかなり絞って聞くことになりました。残留ノイズが小さくて静かな検波・復調ユニットです。あとはIFアンプまでがローノイズに仕上がると静かな受信機になるでしょう。いまからそれを書くのはチト早いかもしれませんが。(笑)
【SSB/CW Unit In-Out:復調ユニットの入出力特性】
製作したユニットの入出力特性です。
このカーブから検波・復調ユニットとして最適なIF信号の大きさがわかります。 青色のカーブがIF信号の入力端子の電圧と低周波アンプの出力電圧の関係を示します。 赤色のラインは検波・復調された直後の電圧を示しています。これは参考的なものです。
なお測定は復調された低周波信号が800HzになるようにBFOの周波数を設定して行ないました。(参考:IF信号が455kHzでBFOは455.8kHzまたは454.2kHzとなります) 入力端子は50Ωで終端しています。AF出力電圧は10kΩの抵抗負荷を付けてそこで測定しました。
グラフから入力としておおよそ100dBμ(100dBμは100mVですがEMFなので負荷端では50mVrms)を超えぬようにすればリニアな範囲になります。 まだ変更する可能性もありますが、このユニットの標準出力は500mVrmsであるとして全体的な設計をしています。(この時のIF入力端子の電圧は34.5mV(rms)となる)
グラフで左下の部分に曲がりが見られます。この部分は復調されたAF信号が小さ過ぎて測定環境のノイズ,etcと区別がつかない部分です。 グラフでは直線的に下がって行きませんが実際の使用に於いて支障はありません。きちんとシールドを施してノイズの誘導を防ぎ精密に測定するとこの先もずっと直線的であることがわかります。(微小電圧の測定は低周波スペアナや選択レベル計が好ましいです。定性的でよければ人の耳でも可でしょう・笑)
【SSB/CW復調ユニットの試用法】
以上、SSB/CWを復調するためのユニットができました。ただしこのユニット単独では有用な機能はありません。ここでは仮に短波ラジオに接続して試用する方法を考えてみました。
図は既に投稿済みの短波ラジオの製作(←リンク)から引用したものです。ごくシンプルな短波ラジオですからこのユニットには不釣り合いですが、さしあたってのテストには十分使えると思います。それにシンプルな短波ラジオとは言ってもHAMバンドが受信できるだけの感度は十分にあります。
完成した復調ユニットを左図の短波ラジオの中間周波出力(IF-Out)端子に接続します。さらに、この復調ユニットの低周波出力(AF-Out)を短波ラジオの「低周波増幅入力端子」(LM386N手前のところへ音量調整用VRを経由して接続)に戻してやれは復調ユニット側のパワーアンプ:LM380Nは省けます。 図の短波ラジオは電源電圧が+6VなのでSSB/CW復調ユニットと合いません。別個に電源を与えるかラジオの方も+9Vで動作させると言った検討を行ないます。この復調ユニットを+6Vで使うのは適当でありません。安定した+9Vを与えて使います。
図のようなラジオは簡単なものですからAGCの働きが貧弱であり検波の所のレベル管理は十分ではありません。従って検波・復調ユニットが入力オーバーになる可能性があります。この辺は受信に使うアンテナ次第とも言えましょう。 まずは左図の短波ラジオのIF出力ボリウム:VR2を中位にセットすれば良いと思います。もしピークで歪むようならさらに絞ってやります。VR2を最大に上げると大きな音になって感度が良くなったように感じるかもしれません。それでは強い信号で歪むので正しい使い方ではありません。大きな音がすれば良いわけではなく、強い信号でも歪みなく良い音で復調できなくてはいけません。
短波ラジオのIFフィルタがIFT(=中間周波トランス)のみでは選択度が足りません。だいぶ混信します。しかし手元の短波ラジオでテストしたら賑やかに受信できました。使ったのがHAM局用の効率の良いアンテナですからそれも効果的なのでしょう。 しばらくこの状態でテストしていますが楽しそうな各局のQSOがFBに聞こえてきました。
同じような短波ラジオがあればテストに使えます。検波回路の部分を小改造してIF信号を引き出してやります。 真空管の短波ラジオでもテストは可能ですがIF信号が非常に大きいことがあります。入力が過大にならぬよう絞ってやれば良い音で復調できるはずです。 やはりちゃんとしたBFOとプロダクト検波器はSSB/CWの受信に効果的でした。
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たいへん古い話で恐縮ですが、JARL会長も勤められたJA1FG梶井OM(故人)の名著『通信型受信機の解説と実際』(CQ出版社1966年)によれば、受信機の設計は検波回路を基準に据えれば良いとあります。すなわち検波部が必要とする入力電圧がわかり、また復調出力がわかってしまえばあとはその前後の回路に必要なゲインも明確になると云うのです。 真空管時代の書籍ですから今ふうの設計には必ずしもマッチしませんが、受信機を自分で作ってみたい人にとっては一読に値すると思います。ご興味でもあれば図書館を利用されてください。このころはHAMが受信機を自作する時代だったことがわかります。
梶井OMの提言は実際に受信機を企画してみれば実感できます。一般に通信型受信機が必要とするゲインは140dB程度(1000万倍)であると言われます。ではどこを基準に設計するのが合理的なのかと言う話になるわけです。 入力や出力の大きさを基準とする考えもあるでしょう。しかし実際は各部のゲインに自由度があり過ぎるため明確には決めにくいのです。それに受信機は常にフルゲインで動作しているのではありません。AGCの関係もあって漫然とアンプ段を重ねただけではどこかの段で破綻してしまいます。 検波器・復調回路は受信機の中央部分にあってRF段とAF段の境界です。ここの信号レベルがわかれば前後のゲインの割り振りもかなり明確になるでしょう。
なんとなく唐突にBFOやSSB/CWの検波・復調ユニットから作り始めたように感じられたと思います。後付けの言訳になるかも知れませんがSSB/CWの復調部分から始めたのはそれなりの合理性もあったわけです。
この検波・復調ユニットの場合、後続する低周波部のゲインは40dBもあれば十分なようですから容易に実現できます。続いて中間周波増幅器(IFアンプ)と、それと不可分のAGC回路について検討を始めているところです。 IFフィルタ以前でゲインを稼ぐとS/Nには有利ですが大入力特性が劣化します。電波が輻輳する現代においては必然的にIFアンプであらかたのゲインを稼ぐ設計になるでしょう。近代的な受信機に於いてはすべての受信モードで良く効くAGCも必須であります。
この辺りをどのように構成するのか、なかなか悩ましい課題もありそうです。逆に面白みを感じる部分とも言えるでしょう。そう感じるのは私だけかも知れませんけれども・・・。 ではまた。de JA9TTT/1
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【私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)
第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→いまここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ
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