抵抗:R、キャパシタ:C、インダクタ:Lを測定することができます。 直流のブリッジでは測定できないLやCの値が測定できるのが特徴です。従ってLCRブリッジと呼ばれることがあります。
ラジオに興味をもったらまずはテスター(回路計)を手に入れるでしょう。 そのうちCやLを測定したくなりますが、それにはインピーダンス・ブリッジが最適でした。 最近のテスタにはオマケの機能でC測定が付いていますが、測定原理からブリッジほど精度の良い測定ができるわけではないようです。
テスタのあとは無線家なら
グリッド・ディップ・メータ/GDM/GDOが欲しくなります。めでたく開局すれば次はSWR計でしょうか? 電子回路に興味をもった私はGDMの次はデリカのミニブリッジを購入しました。1975年のことでした。SWR計の方は自作しました。
注:アンテナ・インピーダンス・ブリッジも同様に交流ブリッジの原理に基づく測定器です。但し、高周波での測定に適するよう部品定数や構造が工夫されています。一般に測定範囲は狭くて、測定値で数100Ωまで、周波数範囲では上限50MHzあたりまでが多いようです。高級なものではR+jXの複素インピーダンスが求められます。機会があれば改めて扱いたいと思います。(2010.8.8)
最近は何でもデジタル・リードアウトになりました。シャックのLCR測定器もデジタル式に移行したので半ば遊休化しています。 それに暫く前に使ったとき少々不調だったのでそのままになっていました。
何時か様子を見てやりたいと思い、気になっていたのでした。それで思い出すように取り出してみた訳です。 流石に34年も前の購入なので段ボール箱も焼けています。それでも箱があれば中身を保護してくれています。 DELICAの測定器は他にGDMとSSGがあってどちらも元箱に入れてあるので未だに中身は奇麗です。(笑)
測定器にとって取扱説明書は重要です。 どのような意図で設計され、どんな機能があってどのように操作するのかは取扱説明書で確認すべきです。 そのうえで応用測定ができれば使いこなしていることになるでしょう。
新品で購入したので簡単な冊子ですが取扱説明書も付いています。 単純なLCRの測定のほかトランスの対比や二次側に定格の負荷を付けた状態における一次側から見たインピーダンスの測定など、応用にも触れられています。
当時のこの製品の宣伝広告には、購入したら「まずはジャンク部品の測定で操作を習得し同時に怪しい部品を片付けよう」と書いてありました。 確かにこうした測定器なしに評価できない電子部品も多て、ジャンク活用の為にも役立ったわけです。 RF用小容量コンデンサの容量抜けなどテスターでは発見困難でしたから。
電源スイッチ系統に接触不良が見られるようでした。使おうと思った時に電源が入らず役立たなかったことがあります。 だんだん頻繁に発生するようになったので原因を探査する必要に迫られていました。
実は三田無線/DELICAの測定器はほぼ永久的に修理してもらえます。もちろん、故障・破損の程度によるし補修部品の有無にも関係します。しかし可能ならたとえ戦前の測定器でさえも修理してもらえるそうです。もちろん初期精度が保たれるように校正もしてくれます。何とも心強いものがあります。(文末・追記参照のこと)
もちろん、それなりの費用は掛かりますが、初期価格はKeysight(旧hp,Agilent)やTektronixとは桁が違います。当然請求額も相応です。 なんとなく高級なプロ用測定器に憧れを抱くかも知れませんが、壊れたら費用の捻出は厄介でしょう。 ですから永く楽しむ自作アマチュアにとってDELICAの測定器は良い道具だと思います。いつか壊れそうなジャン測よりずっと安心です。
従って三田無線に校正込みの修理に出すのが良さそうです。 だが間欠的な不調だから様子を見てからにしようと思っています。 それに今はこれを校正できるだけの設備・手段もあるから安心して(?)開けられます。 常識的には素人が精密な測定器を無闇に開けるものではありません。開けたら精度の保証はなくなります。確認手段を持たない限りやめた方が良いです。
不調になったら迷わずDELICAに・・・と言うのがDELICAオーナーへのお薦めです。hi
折角だから観察ツアーをしましょう。 交流ブリッジの測定基準はこの1μFのコンデンサです。 取扱説明書によれば、MPコンデンサとありましたが、改良されMFコンデンサのようです。 良くはわかりませんがポリカーボネート型かも知れませんね。
このコンデンサの長期的な安定性と温度特性が測定確度を決めます。 ダイヤル目盛からアナログ的に読取る測定器だからこれで十分なのでしょう。 実際、hp 4440B DECADE CAPACITORを使って比較測定したら十分な初期精度が保たれていました。安価ではあっても要所を押さえた設計と部品選定がなされています。
ダイヤル目盛板が直結されている可変抵抗器(1.1kΩ)です。大型で寿命の永いしっかりしたものが使ってあるようです。 可変抵抗器には機体番号が書かれていて、刻印された目盛板と対で使われるようになっています。なおDQダイヤルのVR(2kΩ)と2軸構造になっています。特注のVRなので、本機の心臓部の一つでしょう。
測定の都度回されるのでこの可変抵抗器は抵抗値の再現性が重要です。このブリッジを購入する前、自作のキャパシタンス・ブリッジを使っていました。 初期性能はまずまずだったのですが、暫く使うと可変抵抗器が不安定になりました。 いわゆる『ガリオーム』の発生です。 測定器として永く使うには摩耗しにくく安定した部品を使う必要があることがわかります。
ブリッジ回路の対辺に使う測定レンジを決める抵抗器も安定したものが必要です。 0.1Ωと言った高精度な低抵抗はマンガニン線を巻いた巻線抵抗器(写真)が使われていました。
マンガニン線は、銅・マンガン・ニッケルの合金で抵抗の温度係数はほぼゼロです。
こうした市販品で得難い部品を内製することによって、DELICAは古くから実用的で手頃な測定器を送り出していたのでしょう。 今は40年前より部品事情も良くなったので市販品でもそこそこの物が作れるかも知れません。 測定器の自作も奨励されますが、良く部品を吟味し要所を押さえておく必要があります。
約1kHzの発振器を内蔵しています。その出力をブリッジに加えて測定します。 また、ブリッジの平衡検出はメーターで行なうため、ハイゲインのアンプが必要です。
ホームページにあったDELICAの製品開発史を見ていたらトランジスタの実用性を見て小型インピーダンス・ブリッジ/ミニ・ブリッジM1の開発を始めたとありました。 それ以前からインピーダンス・ブリッジはあって原理はまったく同じです。 但し発振器もメーターアンプもすべて真空管式なので、とても『ミニ』なサイズにはできなかったのでした。 測定器にこそ半導体が相応しいと言う好例でしょう。 乾電池で動作し手軽に持ち運べるミニブリッジは実際に便利な測定器です。
回路はベークの穴開きボード(裏面に銅泊パターンはない)の上に作られています。 昭和30年代の少量生産品のスタイルです。 おそらくその当初の設計を踏襲して継続生産していたのでしょう。 配線は基板の裏面でメッキ線を使って行なわれています。
【
内部の観察(5):トランジスタは2SB56が主役】
取扱説明書の回路図では2SB113(ゲルマニウム・トランジスタ)もしくは同等品となっています。 ゲルマニウムトランジスタで設計した回路を単純にシリコンPNPに置き換える訳には行きません。
購入した1975年ころと言えば、もうゲルマニウム・トランジスタも終焉するころでしたから、まだ入手できた東芝製を使ったのでしょう。 日本電気は早々にゲルマに見切りを付けたようです。2SB113は既に消えていたのでした。
ゲルマニウム・トランジスタはあらゆる性能でシリコン・トランジスタには敵いません。しかし、その回路が必要とする性能が得られるなら何も支障はないのです。 無闇に設計変更せず継続して生産したのでしょうね。 たぶん補修用のパーツもそれなりに用意している筈なので三田無線が存続する限り修理に困らないでしょう。 保管さえしっかりしていればゲルマニウム・トランジスタが永く生き残る確率は高いと思います。(保存が悪いと劣化します・笑)
追記:最近修理に出したお方の事例によれば、シリコン・トランジスタを使って補修をするそうです。測定器としての機能を維持するのが優先ですからそうするのが合理的だと思います。実用品の修理であって、古美術品の修復ではないからです。(6月21日)
この測定器は回路がすべてではありません。 良い部品の選定と十分な校正があってこそ実現できるものです。 だから回路図があって、単に真似ても似て非なる物にしかならないでしょう。(笑)
しかし、どんな回路になっているかは興味の対象でしょう。 このBlogでは以前
ヘテロダイン周波計を扱ったことがありました。 回路は同じように簡単でしたが、使ってある部品や校正こそ命であることを再認識した覚えがあります。このミニ・ブリッジM1Aにも通ずるものがあると思います。
今ならICを使い低い電源電圧で、電池寿命も延ばせる低消費電流の設計も可能です。40年前の回路設計を感じさせますが測定原理は少しも揺らいでいません。
測定値は刻印されたダイヤル目盛を読取ることで得ます。目盛はややマイナスの領域からゼロになり、最大は「11」までふられています。 いまレンジ・スイッチ(下記で説明)が100pFとあれば、そのレンジでは11倍の最大1,100pFまで読取ることができます。
ミニブリッジは部品に加えるAC電圧が低いので、極性のある電解コンデンサも問題なく測定できます。 但しJISでは電解コンデンサの値は120Hzで規定しているので、1,000Hzのミニ・ブリッジでは異なる測定条件になります。 しかし実際上は殆ど問題はなくて別の測定器と比較しても顕著な誤差は感じません。 周波数の違いはあまり気にしなくても良いでしょう。 大容量の電解コンデンサと言えば容量はアバウトです。高精度を求めるケースなどまずありません。 普通は容量抜けがわかれば良いくらいです。 そうは言ってもこのミニブリッジの測定精度は大容量でも十分高いから安心できます。11,000μFまでが測定範囲です。
上記のダイヤルは筐体下部に目盛板が覗いていて、そこを指で操作します。 ブリッジがバランスしてメーターの振れが最小になるポイントを見つけます。 だからBALANCEと書いてあります。
損失が僅かなコンデンサや抵抗の小さいコイルなら対辺の基準コンデンサだけでブリッジはバランスします。 しかし実際の部品には本来あるべき部品の成分・・・例えばコンデンサならキャパシタンス、コイルならインダクタンス・・・以外の損失成分が含まれています。
そうした成分も含めたブリッジのバランスをとるために、対辺に小抵抗(可変抵抗)が入れてあり、そのツマミがこれです。 損失のある部品はこのツマミも併用してブリッジの完全なバランスを得て、ダイヤル目盛板から測定値、そしてこのツマミから損失分を読取ります。
多くの場合、1μF程度までのコンデンサの損失抵抗はごく僅かなので、D Qダイヤルはゼロかその近傍でバランスするのが普通です。 もしそうでないなら、そのコンデンサは特殊なものか不良品でしょう。そうした判定にも役立ちます。 なお、電解コンデンサなどの大容量コンデンサではそれなりの損失抵抗があるのが普通です。 このツマミを積極的に使ってバランスをとる必要があります。 また、コイルは原理上このツマミがゼロでは旨くバランスしない筈です。 必ず少し回した位置から測定を始めなくてはなりません。 鉄芯入りインダクタの測定はなかなか難しくて高精度を得るのは難しいと思います。 逆にQが高い(=損失が少ない)フェライトの壷型コイルなどの測定は容易です。
ブリッジのバランス検出用のメーターです。 零点がやや右にオフセットした特殊な物が使ってあります。 特注したメータでしよう。
測定中には頻繁に振り切ると思いますが大丈夫です。 なるべくメーターアンプの感度を高くし、ブリッジのバランス点がわかり易いように使うのが高精度測定の秘訣です。 微妙なバランスがわかるよう、シビアにバランス点を探る必要があります。
コンデンサ:C、抵抗:R、コイル:Lの測定ができます。 測定範囲はレンジ・スイッチで表示されたようにかなり広範囲です。 コンデンサの例で言えば、数pFから11,000μFまでカバーします。 もちろん工夫すれば更に大きな容量も測定できますがそれは応用の範囲でしょう。(笑)
測定レンジ内にあっても計るのが難しいのが小さなインダクタンスのコイルです。 マイクロ・ヘンリー(μH)オーダーのコイルは、別の原理の測定器を使うべきだと思います。
そうしたコイルは一般に高周波用なので、1,000Hzで測定するより実際の使用周波数に近いところで測定すべきです。 そうした意味でミニ・ブリッジも万能ではなく、QメータやGDM+標準コンデンサの助けを借りたコイルの測定も考える必要があります。
100pF以下のコンデンサも以前Web記事で紹介したような小容量計の方が扱い易いし高精度です。 ラダー型フィルタの設計に必要な数pFの容量を0.1pF以下の分解能で測るのにはミニ・ブリッジでは不十分でしょう。 なんでもそうですが適材適所です。
立派な電池ボックスです。(笑) 電池は006P/9Vを使います。消費電流は10mA以下なので、そこそこ長時間動作しますが、それでも多量の部品を検査するには不向きです。
電池電圧の低下は直接測定精度に影響しませんが、メータアンプのゲインが下がってバランス点がわかり難くなります。 そう感じたら電池交換すべきです。 極端に電圧低下すれば1kHzの発振も止まってまったく測定できなくなります。
ところで、接触不良の原因は調査の結果この部分にある事がわかりました。 006P乾電池用・電池スナップが緩くなって接触が怪しくなっていたのです。 開ける必要など無かったのだったのでした。やれやれ。(笑)
M1AはDCブリッジ・・・ホイートストン・ブリッジの機能も持っています。 ブリッジに直流を加え、直流的なバランスを求めて抵抗値を測定する機能です。
但し、乾電池に対する負荷は大きくなりがちなので、もしこの機能を使うなら、ACアダプタで外部から電源を供給した方が安心です。
滅多に使う機会はないから、この機能はなくても良かったと思っています。 ホイートストン・ブリッジはYEWなどの古典的な中古品が廉価にあるからそちらを買うべきでしょう。ガルバノメータが付いた黒いベークライトのアレです。
こんな手提げが付いています。 持ち運びを意識した設計で、この状態で置けるよう底部にゴム足も付いています。 デジタル万能な時代なので、インピーダンス・ブリッジは今どきの新入社員には操作できないかも知れません。オジサンの測定器なのである。
だから私は好きだ。(笑)
(陰の声:そんなに難しい測定器ではありません)
このBlog、リペアの参考にはならないし操作インストラクションでもありません。 特定の会社の一製品を扱うことは滅多にしませんが、既にこのM1Aは生産されていません。 良い測定器だと思うので残念ですが、アナログな計器は今どき流行らないのでしょう。 書いてみて結局のところ読み物風と言う事で暇つぶしにでもなれば目出たしと言うところです。 de JA9TTT/1
(おわり)
追記:(DELICAの廃業について)
DELICA 三田無線研究所が創業したのは1924年だそうです。 1924年と言えば大正13年です。社団法人:東京放送局(後の日本放送協会・NHK)が設立された年にあたります。 Radioと共に歩んだ同社の歴史が伺い知れますね。そのDELICAは今年2009年になって販売を中止し廃業するとアナウンスしました。80年以上の歴史がある会社が幕を閉じるのは寂しい限りです。これからもアマチュアの心を捉えた製品を送り続けてくれると信じていただけにとても残念です。当面は保守サービスに応じるそうですから、長く愛用する気持ちがあるならお手持ちを整備に出しておいたら如何でしょうか。(2009年12月20日)
(Blogger新仕様対応済み。2017.03.30)