【ブレッドボードに136kHz送信機】
【全体を見る】
ブレッドボードで少々規模の大きな回路を試みるとして始めた製作もいよいよ最終回です。ブレッドボードの範囲はここまでになります。
ブレッドボードの製作は試作が目的です。状況を見ながら進めて来ました。載せられる回路にも限度があって高周波のパワーものはどちらかと言えば不適当でしょう。 この送信機の場合、ここまでをブレッドボードの範囲と考えています。この先は作り方を変えることになります。
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前回(←リンク)はヘテロダイン・ミキサまで載せたところまででした。その後、136kHzのバンドパス・フィルタ(←リンク)とフィルタの後に付けるポストアンプ(←リンク)を個別に扱いました。 それらの部分は過去に実績が無く新たに設計から検討する必要があったのです。 それぞれ旨く進んだので、再びブレッドボードに戻って先に進めます。 毎度書くのも気が引けますが個人のメモあるいは暇つぶし用コンテンツなのでそのおつもりでご覧ください。多分に過不足のある内容ですがご容赦を。技術的には書いてしかるべき内容でも誰が見るかわからないBlogには書けないこともあるのです。そのあたりがネットの限界です。
写真右の中段には既にお馴染みの中華DDSモジュールが載ってます。この部分も起動させる予定でした。マイコンは載りそうでも表示部は無理なのでここまでにしました。写真の中華DDSモジュールは搭載の125MHzクロックに問題があったので、外して外部より12.8MHzを供給します。 ブレッドボード左下の12.8MHz TCXOの所に74HCU04を使ったバッファ回路があります。そこから細い同軸でDDSまでクロックを引くつもりでした。本番でも同じ回路で行くことにします。
【136kHz BPFとポストアンプ】
前回はミキサーの試作まで進めました。写真はその後追加した部分のクローズアップです。
前回の簡易評価ではミキサの出力回路に簡単な同調回路を入れて様子を見ました。 その形式のまま同調回路を重ねる方法もありますが、しっかりしたバンドパス・フィルタができたので変更しました。
ミキサの両コレクタ負荷は約1kΩ程度になるよう最適化します。同時に回路の出力インピーダンスも600Ωにうまく整合するよう考えます。 これはバンドパス・フィルタの特性を生かすために重要です。 同じようにフィルタ後のアンプも入力インピーダンスが600Ωになるよう設計します。前々回の寄り道の通りです。
ミキサの出力回路については、幾つか候補がありました。シングルエンド形式で抵抗負荷で行く方法が一番簡単です。しかしダイナミックレンジを広くする為には抵抗負荷では不利です。 同調コイルに中点タップを設けるか非同調の整合トランスのL負荷が有利です。 ここでは後者の整合トランスを使う形式にしました。この部分での周波数選択性は無くなりますが135kHzのバンドパス・フィルタがしっかりしているので問題ないでしょう。
【ミキサ出力トランス】
ごく標準的なトリファイラ巻きのトランスです。製作に当たっては使用周波数に注意が必要です。135kHzは低周波ではありませんが、RFとしてはかなり低いからです。従ってトランスの各巻線は大きめのインダクタンスが必要です。要するにたくさん巻く必要があります。
後に続くフィルタを考えるとインピーダンス・マッチングは良くしたいと思います。従ってミキサの負荷インピーダンスは1.2kΩになります。 トランスの巻き線インピーダンスはその数倍以上が必要になります。 周波数を考えると大きなインダクタンスが要ります。
数mHでも行けるかと思って試作したらインピーダンス変換比が不正確で使い物になりませんでした。 結局、それぞれの巻線が13mHくらいになるよう再製作して概ね満足できました。 コアはTDKのH5A材のトロイダルです。巻線はφ0.15mmのUEW線を3本撚りにして53回巻きました。巻線長は約60cmです。 巻くのは大変そうに見えますが、巻線を用意してから15分もあれば作れます。むしろ十分注意すべきなのは結線の間違いでしょう。
探せば必要なインダクタンスを持った既成のトランスがあるかもしれません。しかし見つかったとしても納期と費用が掛かりそうなので自作しました。
【TDKのトロイダルコア】
米国アミドン社のコアの方がポピュラーですが国産ではTDKが各種作っています。 写真はTDKのH5A材のトロイダルコアです。 内径が5mm、外径が10mmで厚みが2.5mmです。(型番:H5A T5-10-2.5)
なるべく少ない巻き数で必要なインダクタンスが得られるように、コア材には透磁率:μが大きなものを選びます。たまたま手持ちがあったので使いました。しかし、このコアは特注品のようです。たぶん最少発注数量と納期の問題があるでしょう。 従って類似のトランスを作るにはアミドンのトロイダルコアから適当な物を選んで代替するのが良いでしょう。 H5A材は初透磁率μiac=3,300で500kHzあたりの周波数に適するフェライト材です。 アミドンなら#75材が適当そうです。FT-50-#75コアに60回×3本巻きすれば良いでしょう。
アミドンでは#43材がポピュラーですが、透磁率μiが800程度なので巻き数をかなり増やさないと必要なインダクタンスが得られません。もし#43材で行くならコアサイズをずっと大きくして対処します。
【修正版ミキサー回路】
前回既出のMC-1443を使ったミキサー回路ですが出力部分は上記のトランスに変更しました。 バンドパス・フィルタも含めて書き改めてあります。この部分のインピーダンスは600Ωです。
MC-1443に与えるDCバイアスはブレッドボード上の他所から貰っているので現況に合わせてあります。
レベルを変えながら試したら、局発としては少なくとも1Vpp程度欲しいことがわかりました。 それ以上大きくしても違いは僅かです。 1Vppよりレベルを下げると変換利得が急に下がりました。 また同じ歪みでみた最大出力レベルも下がるのでダイナミックレンジも抑制されます。従って局発は1Vppを基準にします。
【ポストアンプ部分】
前々回のBlogで寄り道したLM359N:ノートン・アンプを使った高周波増幅部です。 135kHzのフィルタを経た約60mVppの信号を3Vppまで増幅します。 ゲインは50倍(34dB)です。
ICを使ったので周辺部品も僅かで済みコンパクトに製作できました。 周波数特性、ノイズ特性ともに良好です。 ブレッドボードの製作は多少心配しましたが問題ありませんでした。 但し帰還抵抗に数pFがパラに入る関係で周波数特性は伸びていないでしょう。 もちろん136kHzの増幅には支障ありません。
【LM359Nのアンプ回路】
既出ですが、上記のアンプ部の回路図です。 実際の回路では多少省略を行ないましたが、本質は同じなので変化は感じませんでした。
フィルタに合わせ、600Ωの入力インピーダンスに設計しました。 性能がわかっている回路は安心感があります。
【出力波形】
入力に1kHzのシングルトーンを入れときの出力波形です。局発は115kHzなので周波数は136kHzです。 基準レベルは3Vppです。 写真では2.7Vpp程度ですが、もう少し大きい3Vppに合わせて各種の評価を行ないました。
オシロで見た範囲ではもっと大きな信号でもきれいな正弦波に見えます。もっと大きくても良さそうですが、スペクトラムを見ると3Vpp程度を上限にすれば信号の品質が維持できそうです。 飽和レベルはずっと大きくて6Vpp以上へ伸びています。
【BPFの効果確認】
まずは、136kHzバンドパス・フィルタの効果を検証します。 局発の115kHzの減衰と、変換逆側に発生するイメージ信号の減衰を見ましょう。
写真の様に115kHzの漏れは主信号に対して約-60dBでした。 スペアナで見てしまうと、すこし大きいように感じますが一般的には十分な減衰量です。 ミキサのバランス調整をすれば10dBくらい下げられます。ブレッドボードでの製作なのも不利なようです。
-40kHz離れた変換イメージ信号の方はノイズフロアに近いのでまったく問題ありません。 なお、局発に157kHzを与え「差のヘテロダイン」で136kHzを取り出してみました。むしろ良好なくらいで同じように使用できることがわかりました。
目的信号のやや上に見えるスプリアスはブレッドボード故に発生しているようです。ミキサの動作を止めても見える物で、GND系配線の引き回しを変えると状態が変化します。従って、20kHzのキャリヤを作る部分は良くシールドするなど対策が必要そうです。もちろん、写真のレベルなら何ら支障ありません。
【目的信号の近傍を見る】
気になるのはSSBフィルタの通過帯域幅で見えるノイズフロアの上昇でしょう。 もっと多段増幅している市販のRigではさらに目立つこともあるのでそれほど悪くも無いかもしれません。低周波入力端子をGNDにショートしても変化が無いので、初段アンプのノイズが大きめのようです。
主信号の2kHz下に逆サイドが見えるますがこれは先の評価の時と同じで、使用したSSBフィルタの特性によるものです。この程度であれば支障ありません。 ほか帯域外のスプリアスは上記のようにブレッドボードを使った製作に起因する模様でした。
【ノイズフロアを下げるには】
実用上の支障はないとは言ってももう少しノイズを低減したいところです。 入力部にあるアンプをパスしてバラモジに直行するようにしてテストしてみました。
見ての通り効果てきめんです。 ゲイン分だけノイズフロアが下がった感じもします。初段アンプを何とかした方が良さそうですね。 もっとノイズの少ないOPアンプに交代するとか、ローノイズTrやJ-FETを吟味してディスクリートで作れば良さそうです。 大した努力はせずに10dBくらい低減できるでしょう。
【DDS局発部はまだ】
制御用マイコンだけなら搭載可能ですがLCD表示器も一緒に載せるのは無理があります。 テストでは外部信号源に頼ることにしました。
最終的にはAD9850を使った中華DDSモジュールを使います。 信号純度に問題のあった125MHzクロック発振器は外しました。 この送信機に必要な周波数はせいぜい1MHzあたりなので12.8MHzのクロックでも十分すぎます。
12.8MHzのTCXOは周波数安定度も良くきれいな発振なので信号純度にも問題はないし、クロック周波数を低くするとDDS-ICの消費電流もかなり減ります。 この中華DDSモジュールに関しては右の「同じジャンルの話題を楽しむ」から「DDS」をクリックして関連Blogでご覧を。
発生周波数の刻みはクロック周波数を2^32で割った値なので12.8MHzにすれば周波数分解能もアップします。具体的には約0.0029802Hz刻みになります。例えば115kHzに対して近傍の周波数は約115000.000596Hzなので0.005ppmほどの誤差になる計算です。 まあ周波数分解能の心配よりもTCXOの周波数安定度の方が問題なると言うべきでしょうか。 WSJT-Xのように細かい周波数精度と安定度を必要とする超低速デジタルモードにも心配なく使える訳です。それ以上はTCXOではなくOCXOやRb-OSCの世界が待っています。
ところで、DDS発振器では連続的な発振周波数が得られないとして、クレームされたお方が居られました。確かに理屈はその通りですから否定はしません。しかし実用面で見たら0.003Hz以内の周波数の刻みで周波数設定できます。連続と比べて何らも違わないでしょう。(125MHzのクロックを使ったとしても約0.03Hz刻みです) バリコンのVFOなら完全な連続だと仰るかもしれませんが、ではDDSと同じ所まで細かくチューニングはできますか?・・・と言うことです。しかもその状態をずっと維持できますか?・・・と問われれば、無理ですと言う答えでしょう。DDS発振器は「連続でない」などとイチャモンの前に現実を良く見た方が良いです。実用性能で云々すべきでしょう。 理屈も必要ですがエレクトロニクスは実用の科学です。あとは理想と現実のギャップを掌握しておけば良いでしょう。(笑)
☆ ☆ ☆ ☆
大きなブレッドボードに規模の大きな回路を載せる試みで実験を始めました。 周波数が低い長波帯の送信機なのでトラブルにはならないでしょう。 そう思った通りなかなか旨く進みました。 いつまでもこの製作だけにブレッドボードを占有させる訳にも行かないので目標の範囲まで進捗して良かったです。 この先は基板化するなり、ユニバーサル基板に製作する必要がります。
ハンダ付けで製作する「本番」の様子が見えて来るまで比較用にもう少しブレッドボード版も残しておきましょう。 次の製作に使えないのは不便ですが仕方ないです。 もう一枚買えと言うことでしょうね。 実際、小型ブレッドボードをたくさん購入する人もいるそうで、一旦作ると分解するタイミングが難しいのでしょう。
実験的な要素が多く含まれる製作にブレッドボードは最適です。 概略の実験試作が済んだら次は基板CADでパターン化するのが今風かもしれません。 何枚も作らないとしても配線の手間やコンパクト化を狙うと基板化は不可避でしょうね。 ここで使ったあらかたのデバイスは面実装品が手に入ります。まあ、SSBフィルタとかBPFは外付けにでもしたら良さそうです。 恒久品に纏めるには別の努力が要るでしょうが、実験して遊ぶにはブレッドボード製作は手軽で面白いです。de JA9TTT/1
(おわり)
(参考リンク)←「ブレッドボードでSSBを!」の初回へ
参考:Windows XP環境でブラウザがIE8の場合、掲載の写真・図面の色調が乱れることがあります。Firefoxなど他のブラザの使用を推奨します。
2014年3月20日木曜日
2014年3月10日月曜日
【回路】More Norton Amp.
【モア ノートン・アンプ:その活用事例から】
【Quad Norton Amp.】
前のBlogはLM359Nと言う高速ノートン・アンプの話しで寄り道しました。 寄り道ついでにポピュラーな(だった?)普通のノートン・アンプでもうちょっと寄り道して行きましょう。
またまたの寄り道なので、具体的な用途・目的は決まっていませんが、いつかどこかで使い道があるかもしれません。回路の素性を掴んでおけば持ち駒が増えたのと同じで、何かの時にきっと役立ってくれます。 ここではオーディオ・ピーク・フィルタ(CW用?)を題材にします。 電子回路の手作りに興味も持つ人には面白いしょう。お暇なら目を通されてはいかがですか?
写真はナショナル・セミコンダクタ社のLM3900Nとモトローラ社のMC3401Pです。引き出しの長期在庫品です。(笑)ここではどちらもまったく同じように使えます。LM2900NやMC3301Pでも良いでしょう。これらICの中身の話しは前のBlogに書いたので、そちらも参照して下さい。
LM3900Nは一時期かなりポピュラーなICでした。部品箱に眠っている確率は高そうです。持っている(いた?)人も多いでしょう。あまり着目もされない地味なデバイスですから、お店に残っていれば安価で手に入るでしょう。持ってなければ一つくらい仕入れておいたら調理法を考える楽しみが増えます。(調べてみたら若松やマルツにて@100円少々で買えます。他所でもまだ売っています)
【バンドパス・ノッチ・フィルタ】
唐突にフィルタを作ってみることにします。アクティブ・フィルタと言えばアナログ系ICの代表的なアプリケーションです。 LM3900系ノートン・アンプの周波数特性はあまり良くないのでオーディオ周波数帯が精一杯です。 従ってフィルタと言っても可聴域・低周波用です。
図の例では4回路入りのノートン・アンプを旨く使ってバンドパス・フィルタとノッチ・フィルタを構成しています。Biquad形式のアクティブ・フィルタです。(図はモトローラ社:MC2900/3900/3301/3401のデータシートより引用)
バンドパス・フィルタの仕様は、中心周波数:f0、選択度(バンド幅):Bw、そして中心周波数に於けるゲイン:G0です。 この簡単な単同調式のフィルタひとつでは高級な特性は無理ですが、設計はごく単純です。関数電卓がなくても、指数表示ができた方が便利ですが、四則演算ができる普通の電卓で設計できます。まあ、どのパソコンにも標準装備の仮想電卓があるのでまったく困りませんね。
まずは中心周波数:f0を決めましょう。続いてフィルタのQすなわち-3dBの帯域幅:Bwを決めます。Qの値は:Q=f0/Bwです。さらに中心周波数におけるゲイン:G0を決めたら計算スタートです。なお、フィルタにゲインを持たせるのは本質的ではないと思います。せいぜい数倍くらいにしておいた方が設計し易いです。このあたりはフィルタ作りのノウハウ部分でしょうか? また、コンデンサ:Cは事前に決めておいても良いのですが、周波数計算の式:f0=1/(2πCR)から仮に求めて、組み合わせる抵抗器:Rとの兼ね合いで決めるのが最善です。抵抗値が数kΩ〜1MΩ程度になるよう決めれば合理的です。E系列で得易い抵抗値に丸めると作り易いでしょう。
この例では組み合わせる抵抗器は62kΩで、4020pF±2%のスチコン(スチロール・コンデンサ)があったのでそれを使うことにします。*1 従って計算上の中心周波数は約639Hzになります。 抵抗器には金属皮膜型±1%を使いました。(*1:ここでは、なるべくオリジナルに近い数値でテストします)
CW用ピーク・フィルタとして検討したいなら3,600pFのコンデンサを使うと良いでしょう。中心周波数は約700Hzになります。また3,300pFで800Hz弱です。ピーク・フィルタとは言ってもQ=3くらいの設計が良いでしょう。
参考:図の回路はDCバイアスの掛け方がノートン・アンプ用になっているので、一般的なOPアンプでは正常に動作しません。注意して下さい。もちろんその部分を変更すれば一般化は可能です。具体的には各アンプの+In端子に電源電圧の中点電位(半分の電圧)を与えてバイアスします。
【ブレッドボードに製作】
簡単な回路なので、パーツボックスから部品をピックアップして1時間くらいで製作できるでしょう。 もちろん、配線接続に使うジャンパー線は各種用意しておきます。 このあたりの準備があればごく手軽な実験です。
スチコンはリード線が細くて何となく頼りないです。そのうえ図体も大きいので、ICのピンの所に直接持って行くと収まりが良くありません。 リード線を短めに詰めて近傍に実装してからジャンパー線でICまで持って行きます。 こうすると構造上安定するでしょう。 アナログ回路は外付けCR部品が多くなります。 ブレッドボードの面積を占有するのでゆとりを持ったサイズを使うと作り易いです。 余白には入出力端子を引き出します。
【波形観測・1】
まずは最適なバイアスポイントになっているか動作点を確かめる意味から波形観測しました。 もちろん信号を入れずにテスタで各部をあたりDCバイアスされていることは事前に確認しています。 なお、電源電圧12Vのとき回路電流は約7mAでした。(無信号・無負荷状態にて)
低周波発振器から中心周波数に相当する約638Hzを与えます。(638Hzで信号がピークになったので)画面の下段が入力で上段がバンドパス・フィルタの出力波形です。軽負荷なら最大で8Vppくらい取り出せました。 LM3900Nの出力段はドライブ能力が大きくないので、重い負荷(低い負荷抵抗)では振幅を抑える必要があります。
ゲインは0dB即ち,1倍の設計なので入力とほぼ同じ振幅です。但し位相は反転します。 取り出す箇所が反転アンプの後だからです。 きれいなサインウエーブを入力すると当然のように出力にもサインウエーブが現れます。
【波形観測・2】
上記と同じ周波数の信号を与えていいます。 但し、今度はサインウエーブではなく矩形波です。波形の上段がバンドパス・フィルタの出力です。
このようにバンドパス・フィルタの出力ではきれいなサインウエーブになります。 矩形波には基本波の他に奇数次の高調波が含まれます。 フィルタによってそれらが除去されたため、基本波成分だけが大きく残ります。 それほどQの高くないフィルタでも高調波を除去する効果があります。
【波形観測・3】
今度はノッチ・フィルタの出力を観測してみましょう。 ノッチ・フィルタとはある特定の周波数成分だけを除去するフィルタです。 この例ではバンドパス・フィルタと同じ638Hzの付近が除去されます。
上段の波形がノッチ・フィルタの出力です。 漏れが大きいように感じるかもしれませんが、上段と下段ではオシロスコープのレンジが異なっています。 実際には入力の2%以下の振幅です。 無調整なのでこの程度なのはやむを得ません。 回路図のAmp4、Pin11に接続された330kΩのうち入力側の2つのどちらを微調整することでノッチの深さ、即ち除去量が改善できます。
【波形観測・4】
矩形波を与えてノッチ・フィルタの出力を観測してみました。 上段の波形がフィルタの出力です。 基本波成分が除去された図のような波形が観測されます。
こうした機能を使って、ノッチ・フィルタは歪み率測定に使われます。その為には基本波の除去率が問題になるので入念に調整します。
【バンドパス・フィルタの周波数特性】
周波数特性を測定してみました。 フィルタ・アナリシスモードで観測しています。 それによれば、実測による中心周波数は636.7Hzです。(設計の計算値は638.6Hzなので誤差は-0.30%) またフィルタQは5.31です。(同じく計算値では5.32なので誤差は-0.19%) 部品精度を考えれば、おおむね設計通りでしょう。設計の再現性はなかなか良好です。
こうした単峰特性のフィルタはCWフィルタ用には少々使いにくいかも知れません。 もちろんお好みにもよりますが・・・。 ピークが鋭過ぎてすぐに相手局の信号が逃げてしまいます。 ある程度の通過帯域域を持ちながら、帯域外の減衰傾斜が急峻なフィルタが欲しくなるでしょう。 なおQが5程度なら過渡応答の影響はそれほどありません。比較的素直な応答を示します。
【ノッチ・フィルタの周波数特性】
ノッチ(谷)の部分の減衰が不十分なのは抵抗器に誤差があるからです。 先に書いたように、調整で改善することができます。 本格的なノッチフィルタとして使うならチューニングします。
このフィルタはAC結合なので、ごく低周波の部分ではダラ下がりの周波数特性です。 またアンプの周波数特性が効いて来るのでオーデイオ帯以上でも右肩下がりの周波数特性です。 単同調回路なので位相はフィルタの中心周波数で大きく回りますが、あとはだらだらと変化して行きます。
参考:測定しませんでしたたがAmp3の出力(Pin9)はローパス・フィルタ特性になっています。設計次第ですが、ユニバーサルなフィルタ・ブロックとして活用できます。
【まとめ】
ノートンアンプを使い、Biquad形式でバンドパス・フィルタとノッチ・フィルタを作ってみました。
この程度のフィルタならMFB形式のフィルタ回路ならOPアンプ一つで実現可能です。 ですからバンドパス・フィルタだけで3回路も使うのは何となく勿体なく感じます。 但し、中心周波数やフィルタのQは比較的単純な計算で設計できますし、再現性のよいフィルタ形式です。一段とHigh-Qなフィルタの実現ではたいへん有利です。 OPアンプの数を厭わないならとても良い回路です。 Biquad Filterはノートン・アンプ専用の回路ではありませんから小変更で普通のOPアンプでも同じように実現できます。
ブレッドボードで試作しましたが「フィルタ・ブロック」として有用性が感じられるので例の「ブレッドボード・パターン」のユニバーサル基板に移植して恒久化しておこうと思います。f0を決めるコンデンサとQを決める抵抗器はソケット式にしておいたら良いでしょう。
−・・・−
ノートン・アンプを使うと単電源で動作する回路が作り易いです。これはなかなかメリットです。 またLM3900(MC3401)の出力段はA級増幅なのでクロスオーバー歪みは発生しません。 マイクアンプのような小レベルの所から使える汎用増幅ICとして重宝でしょう。トランジスタ代わりに「ちょっとアンプを」と言うときに具合が良いです。 簡単な論理回路やタイミング回路にも向いているので、トランシーバの送受信コントロールとかVOX回路などにも向いています。守備範囲が広いICですね。
☆ ☆ ☆
実験していてノートン・アンプが登場したころを思い出しました。雑誌には新種のOPアンプとして(大々的に?)紹介されていました。 ただ、いま思うとそれは間違いだったようです。 事実、ナショセミ社のデータシートにはOPアンプと大書きされてはいません。 大々的にノートン「OPアンプ」と書いていたのはモトローラの方でした。これにはだいぶ惑わされた感じです。
ちょっと見るとOPアンプちっくに動作しますが+入力端子はどちらかと言えばバイアス設定用の端子です。(・・と考えるとわかり易い) バイアスさえ設定すれば、アンプは単なる反転型負帰還アンプです。 ノートン・アンプは非反転アンプではあまり使わないのです。(使いにくいから) ノートン・アンプをOPアンプ的に使う回路例はそれほど多くありません。
昔々、何となく使い難いと感じたのはそうした見極めができなかったからでしょう。ノートン・アンプをOPアンプの仲間だと思っているならいつまでも惑わされたに違いありません。これまで少々曖昧な理解だったノートン・アンプもだいぶスッキリしました。 扱うのはこれが最後と思いますが、わかって使えば意外に便利なアンプICです。ちょっと古臭いですが持ち駒の一つになってくれたようです。de JA9TTT/1
(おわり)
(参考リンク)←136kHz送信機エキサイタ部の纏めにリンク
【Quad Norton Amp.】
前のBlogはLM359Nと言う高速ノートン・アンプの話しで寄り道しました。 寄り道ついでにポピュラーな(だった?)普通のノートン・アンプでもうちょっと寄り道して行きましょう。
またまたの寄り道なので、具体的な用途・目的は決まっていませんが、いつかどこかで使い道があるかもしれません。回路の素性を掴んでおけば持ち駒が増えたのと同じで、何かの時にきっと役立ってくれます。 ここではオーディオ・ピーク・フィルタ(CW用?)を題材にします。 電子回路の手作りに興味も持つ人には面白いしょう。お暇なら目を通されてはいかがですか?
写真はナショナル・セミコンダクタ社のLM3900Nとモトローラ社のMC3401Pです。引き出しの長期在庫品です。(笑)ここではどちらもまったく同じように使えます。LM2900NやMC3301Pでも良いでしょう。これらICの中身の話しは前のBlogに書いたので、そちらも参照して下さい。
LM3900Nは一時期かなりポピュラーなICでした。部品箱に眠っている確率は高そうです。持っている(いた?)人も多いでしょう。あまり着目もされない地味なデバイスですから、お店に残っていれば安価で手に入るでしょう。持ってなければ一つくらい仕入れておいたら調理法を考える楽しみが増えます。(調べてみたら若松やマルツにて@100円少々で買えます。他所でもまだ売っています)
【バンドパス・ノッチ・フィルタ】
唐突にフィルタを作ってみることにします。アクティブ・フィルタと言えばアナログ系ICの代表的なアプリケーションです。 LM3900系ノートン・アンプの周波数特性はあまり良くないのでオーディオ周波数帯が精一杯です。 従ってフィルタと言っても可聴域・低周波用です。
図の例では4回路入りのノートン・アンプを旨く使ってバンドパス・フィルタとノッチ・フィルタを構成しています。Biquad形式のアクティブ・フィルタです。(図はモトローラ社:MC2900/3900/3301/3401のデータシートより引用)
バンドパス・フィルタの仕様は、中心周波数:f0、選択度(バンド幅):Bw、そして中心周波数に於けるゲイン:G0です。 この簡単な単同調式のフィルタひとつでは高級な特性は無理ですが、設計はごく単純です。関数電卓がなくても、指数表示ができた方が便利ですが、四則演算ができる普通の電卓で設計できます。まあ、どのパソコンにも標準装備の仮想電卓があるのでまったく困りませんね。
まずは中心周波数:f0を決めましょう。続いてフィルタのQすなわち-3dBの帯域幅:Bwを決めます。Qの値は:Q=f0/Bwです。さらに中心周波数におけるゲイン:G0を決めたら計算スタートです。なお、フィルタにゲインを持たせるのは本質的ではないと思います。せいぜい数倍くらいにしておいた方が設計し易いです。このあたりはフィルタ作りのノウハウ部分でしょうか? また、コンデンサ:Cは事前に決めておいても良いのですが、周波数計算の式:f0=1/(2πCR)から仮に求めて、組み合わせる抵抗器:Rとの兼ね合いで決めるのが最善です。抵抗値が数kΩ〜1MΩ程度になるよう決めれば合理的です。E系列で得易い抵抗値に丸めると作り易いでしょう。
この例では組み合わせる抵抗器は62kΩで、4020pF±2%のスチコン(スチロール・コンデンサ)があったのでそれを使うことにします。*1 従って計算上の中心周波数は約639Hzになります。 抵抗器には金属皮膜型±1%を使いました。(*1:ここでは、なるべくオリジナルに近い数値でテストします)
CW用ピーク・フィルタとして検討したいなら3,600pFのコンデンサを使うと良いでしょう。中心周波数は約700Hzになります。また3,300pFで800Hz弱です。ピーク・フィルタとは言ってもQ=3くらいの設計が良いでしょう。
参考:図の回路はDCバイアスの掛け方がノートン・アンプ用になっているので、一般的なOPアンプでは正常に動作しません。注意して下さい。もちろんその部分を変更すれば一般化は可能です。具体的には各アンプの+In端子に電源電圧の中点電位(半分の電圧)を与えてバイアスします。
【ブレッドボードに製作】
簡単な回路なので、パーツボックスから部品をピックアップして1時間くらいで製作できるでしょう。 もちろん、配線接続に使うジャンパー線は各種用意しておきます。 このあたりの準備があればごく手軽な実験です。
スチコンはリード線が細くて何となく頼りないです。そのうえ図体も大きいので、ICのピンの所に直接持って行くと収まりが良くありません。 リード線を短めに詰めて近傍に実装してからジャンパー線でICまで持って行きます。 こうすると構造上安定するでしょう。 アナログ回路は外付けCR部品が多くなります。 ブレッドボードの面積を占有するのでゆとりを持ったサイズを使うと作り易いです。 余白には入出力端子を引き出します。
【波形観測・1】
まずは最適なバイアスポイントになっているか動作点を確かめる意味から波形観測しました。 もちろん信号を入れずにテスタで各部をあたりDCバイアスされていることは事前に確認しています。 なお、電源電圧12Vのとき回路電流は約7mAでした。(無信号・無負荷状態にて)
低周波発振器から中心周波数に相当する約638Hzを与えます。(638Hzで信号がピークになったので)画面の下段が入力で上段がバンドパス・フィルタの出力波形です。軽負荷なら最大で8Vppくらい取り出せました。 LM3900Nの出力段はドライブ能力が大きくないので、重い負荷(低い負荷抵抗)では振幅を抑える必要があります。
ゲインは0dB即ち,1倍の設計なので入力とほぼ同じ振幅です。但し位相は反転します。 取り出す箇所が反転アンプの後だからです。 きれいなサインウエーブを入力すると当然のように出力にもサインウエーブが現れます。
【波形観測・2】
上記と同じ周波数の信号を与えていいます。 但し、今度はサインウエーブではなく矩形波です。波形の上段がバンドパス・フィルタの出力です。
このようにバンドパス・フィルタの出力ではきれいなサインウエーブになります。 矩形波には基本波の他に奇数次の高調波が含まれます。 フィルタによってそれらが除去されたため、基本波成分だけが大きく残ります。 それほどQの高くないフィルタでも高調波を除去する効果があります。
【波形観測・3】
今度はノッチ・フィルタの出力を観測してみましょう。 ノッチ・フィルタとはある特定の周波数成分だけを除去するフィルタです。 この例ではバンドパス・フィルタと同じ638Hzの付近が除去されます。
上段の波形がノッチ・フィルタの出力です。 漏れが大きいように感じるかもしれませんが、上段と下段ではオシロスコープのレンジが異なっています。 実際には入力の2%以下の振幅です。 無調整なのでこの程度なのはやむを得ません。 回路図のAmp4、Pin11に接続された330kΩのうち入力側の2つのどちらを微調整することでノッチの深さ、即ち除去量が改善できます。
【波形観測・4】
矩形波を与えてノッチ・フィルタの出力を観測してみました。 上段の波形がフィルタの出力です。 基本波成分が除去された図のような波形が観測されます。
こうした機能を使って、ノッチ・フィルタは歪み率測定に使われます。その為には基本波の除去率が問題になるので入念に調整します。
【バンドパス・フィルタの周波数特性】
周波数特性を測定してみました。 フィルタ・アナリシスモードで観測しています。 それによれば、実測による中心周波数は636.7Hzです。(設計の計算値は638.6Hzなので誤差は-0.30%) またフィルタQは5.31です。(同じく計算値では5.32なので誤差は-0.19%) 部品精度を考えれば、おおむね設計通りでしょう。設計の再現性はなかなか良好です。
こうした単峰特性のフィルタはCWフィルタ用には少々使いにくいかも知れません。 もちろんお好みにもよりますが・・・。 ピークが鋭過ぎてすぐに相手局の信号が逃げてしまいます。 ある程度の通過帯域域を持ちながら、帯域外の減衰傾斜が急峻なフィルタが欲しくなるでしょう。 なおQが5程度なら過渡応答の影響はそれほどありません。比較的素直な応答を示します。
【ノッチ・フィルタの周波数特性】
ノッチ(谷)の部分の減衰が不十分なのは抵抗器に誤差があるからです。 先に書いたように、調整で改善することができます。 本格的なノッチフィルタとして使うならチューニングします。
このフィルタはAC結合なので、ごく低周波の部分ではダラ下がりの周波数特性です。 またアンプの周波数特性が効いて来るのでオーデイオ帯以上でも右肩下がりの周波数特性です。 単同調回路なので位相はフィルタの中心周波数で大きく回りますが、あとはだらだらと変化して行きます。
参考:測定しませんでしたたがAmp3の出力(Pin9)はローパス・フィルタ特性になっています。設計次第ですが、ユニバーサルなフィルタ・ブロックとして活用できます。
【まとめ】
ノートンアンプを使い、Biquad形式でバンドパス・フィルタとノッチ・フィルタを作ってみました。
この程度のフィルタならMFB形式のフィルタ回路ならOPアンプ一つで実現可能です。 ですからバンドパス・フィルタだけで3回路も使うのは何となく勿体なく感じます。 但し、中心周波数やフィルタのQは比較的単純な計算で設計できますし、再現性のよいフィルタ形式です。一段とHigh-Qなフィルタの実現ではたいへん有利です。 OPアンプの数を厭わないならとても良い回路です。 Biquad Filterはノートン・アンプ専用の回路ではありませんから小変更で普通のOPアンプでも同じように実現できます。
ブレッドボードで試作しましたが「フィルタ・ブロック」として有用性が感じられるので例の「ブレッドボード・パターン」のユニバーサル基板に移植して恒久化しておこうと思います。f0を決めるコンデンサとQを決める抵抗器はソケット式にしておいたら良いでしょう。
−・・・−
ノートン・アンプを使うと単電源で動作する回路が作り易いです。これはなかなかメリットです。 またLM3900(MC3401)の出力段はA級増幅なのでクロスオーバー歪みは発生しません。 マイクアンプのような小レベルの所から使える汎用増幅ICとして重宝でしょう。トランジスタ代わりに「ちょっとアンプを」と言うときに具合が良いです。 簡単な論理回路やタイミング回路にも向いているので、トランシーバの送受信コントロールとかVOX回路などにも向いています。守備範囲が広いICですね。
☆ ☆ ☆
実験していてノートン・アンプが登場したころを思い出しました。雑誌には新種のOPアンプとして(大々的に?)紹介されていました。 ただ、いま思うとそれは間違いだったようです。 事実、ナショセミ社のデータシートにはOPアンプと大書きされてはいません。 大々的にノートン「OPアンプ」と書いていたのはモトローラの方でした。これにはだいぶ惑わされた感じです。
ちょっと見るとOPアンプちっくに動作しますが+入力端子はどちらかと言えばバイアス設定用の端子です。(・・と考えるとわかり易い) バイアスさえ設定すれば、アンプは単なる反転型負帰還アンプです。 ノートン・アンプは非反転アンプではあまり使わないのです。(使いにくいから) ノートン・アンプをOPアンプ的に使う回路例はそれほど多くありません。
昔々、何となく使い難いと感じたのはそうした見極めができなかったからでしょう。ノートン・アンプをOPアンプの仲間だと思っているならいつまでも惑わされたに違いありません。これまで少々曖昧な理解だったノートン・アンプもだいぶスッキリしました。 扱うのはこれが最後と思いますが、わかって使えば意外に便利なアンプICです。ちょっと古臭いですが持ち駒の一つになってくれたようです。de JA9TTT/1
(おわり)
(参考リンク)←136kHz送信機エキサイタ部の纏めにリンク
2014年3月1日土曜日
【部品】LM359N Norton Amp.
【LM359N型ノートン・アンプ】
136kHz帯送信機製作の途中でまた寄り道します。 もちろん無関係ではありません。 ヘテロダイン・ミキサ後のフィルタ通過で下がった信号レベルを取り戻す必要があります。 136kHzと言う周波数は低いようでも汎用OPアンプにはだいぶ高めです。 汎用OP-Ampより周波特性の良いアンプが欲しいので高速ノートン・アンプを検討しています。 これは多分に自身の部品事情を反映していますからノートン・アンプを推奨する意図はありません。またまた「レアな部品を使ってる!」等といったご批判はご勘弁を。(笑)
なお、近ごろアマ無線界では広帯域トランスを使ったノイズ・レス・フィードバック形式のRFアンプもノートン・アンプと呼びます。むしろそちらの方がポピュラーかも知れません。電流で負帰還する部分に類似性もありますが、ここで扱うICとは別ものです。
【ノートン・アンプの基本:まずはLM3900から】
ノートン・アンプとは何でしょうか? Wikipediaでも参照していただくと良いかもしれませんが、「単電源動作で±入力を持った電流差動型アンプ」のことです。
何のことか、ピンとこないとは思いますが、要するに左図のようなエミッタ接地型アンプ(Q2)の出力をエミッタ・フォロワ(Q1)で取り出す形式のアンプです。
ディスクリートでも良くある形式なので特に目新しくはありません。 Q1のエミッタからQ2のベース(反転入力端子:In-)へ負帰還を掛ければ帰還型の増幅器になりますが、もう一工夫して+入力端子(In+)を設け電流差動形式になるようにしたのがノートン・アンプです。 初めて市販されたのはLM3900シリーズでした。なお、このシリーズのノートン・アンプにはLM2900N/LM3900Nのほか、モトローラ製の互換品、MC3301P/MC3401Pがあります。いずれもピン接続を含め機能・性能は同等ですが保証温度範囲や最大電源電圧など幾つかの規格に差があるので使用時には確認しておきましょう。一時期は両社の互換品が他社からも登場しましたが今では殆ど姿を消しています。
【LM3900の等価回路】
長くなるので途中の設計経緯は省きます。 ICとして実用形式に纏めたものが左図のような等価回路で、ナショナル・セミコンダクタ社(現在はTI 社に吸収合併)から登場しました。(1972年頃か?)
GNDへ向いたダイオードとその右のQ6と言うトランジスタが+入力端子を設ける為に追加された部品です。 これによってIn(+)とIn(-)の電流差が増幅されます。 詳しい仕組みや動作解析についてはメーカー(TI社)のサイトに詳細な資料があります。活用を試みるならナショセミ時代のアプリケーション・ノート:AN-72とAN-278は必読でしょう。 ほかにはもう目ぼしい資料も無くなっています。 要するに20世紀に置いて来たテクノロジーなのでしょう。
もちろん、今でも有用性が失われた訳ではありません。しかし代わって扱い易い「電圧帰還型」のOPアンプが全盛になったので意味も薄れました。 低電圧でレール・トゥ・レール型のIn/OutをもったC-MOS OPアンプの登場で単電源動作に特化したICの必然性もだいぶ薄れたのです。 やや遅れて登場した片電源用OPアンプ:LM324Nも強力なライバルでした。
【ピン接続図】
私が思うに、この妙なピン配置も馴染めなかった理由の1つです。 4回路入りOPアンプの常識とは外れたピン配置です。
TTLなど多くの論理回路用ICでは半ば約束のようになっていたコーナーの14番ピンが+Vccで、7番ピンがGNDになるように配置したのでしょう。しかし合理的には見えませんでした。 Amp1の+入力端子がAmp2の側に出ているなど、4回路入りOPアンプの常識では考えられないのです。
但し、アプリケーションを良く吟味すると+入力端子を片端に寄せたのは深い意味があったことがわかります。応用面から考えれば近くに並んでいた方が合理的なのです。
結局、このLM3900(MC3401P)と言うQuadアンプはOPアンプではなく、片電源で使う汎用のアンプ・ブロックです。 OPアンプと類似だろうという先入観で扱うと不自然さばかり感じます。 そのように使うモノでは無いのです。
【LM3900NとMC3401P】
今や開発メーカーのナショセミ社もTI社になりましたし、モトローラ社もONセミ社になっています。 LM3900は表面実装タイプのみ供給が続いています。 MC3401Pは既にディスコンです。 何個か手持ちがあったので撮影しておきました。
なお、機能・性能はこの両者ともに同等ですが、MC3401Pは最大電源電圧がやや低いので要注意です。 LM3900Nが+32V、MC3401Pは+18Vが最大定格です。12Vで使うなら互換できます。
これから使うのはLM3900やMC3401ではありませんが、元祖ノートン・アンプと言うことで扱いました。 写真のこれも勿体ないので将来何かに使ってみたいです。 ただ、特に何か良いことがあるわけでもないので使う機会もなさそうです。
ノートン・アンプには特徴を活かした面白い各種の応用がありました。少し古い回路集にはノートン・アンプの応用例もかなり見うけられます。それらは他のOPアンプでは代替が効かないケースが殆どなので要注意です。再設計は面倒なことが多いのでそのまま作るに限ります。今でもLM3900Nの入手は難しくありません。なお、LM3900NでLM2900N、MC3301P、MC3401Pの代替ができます。
参考:続きとしてLM3900Nのような普通のノートン・アンプをアクティブ・フィルタに活用する話を追加しました。→こちら(リンク)
☆ ☆ ☆
【ノートンアンプの高速化】
LM3900は車載機器などの単電源回路の汎用アンプとして作られたICです。従ってあまり高速ではない用途が主目的だったはずです。周波数特性はせいぜいオーディオ帯域止まりです。
それに対し、大幅に高周波特性を改善したノートン・アンプがナショセミ社によって作られました。LM359Nがそれです。 出力電圧範囲を多少犠牲にして周波数特性が甚だ悪いラテラルPNPトランジスタを使わない設計に変更しています。 さらに、ミラー効果を低減し周波数特性を良くする為にエミッタ接地型のゲインステージがカスコードアンプになっています。
LM359Nが本来どんな目的で作られたのかわかりません。もはやカーエレクトロニクス用ではないでしょう。 単電源動作のビデオアンプには便利なのでそれが主目的だったのかもしれません。 入・出力段の動作電流をユーザーが自由に設定できるなど、汎用性を持たせて幅広い用途を目指したようです。
【LM359Nの等価回路】
左図は内部等価回路です。 比較的簡単です。LM359Nはアンプ2回路入りでバイアス回路は2つのアンプで共通です。
片方のアンプだけを使うときは8〜14番ピンに割り当てられたAmp-Bの方を使うと節電できます。 たぶん4番ピンのGND-AをオープンにしておけばAmp-Aの電流が節約でます。 特に高周波まで周波数特性を伸ばす目的で回路電流を多く流した際にはムダな電流を減らすテクニックになるでしょう。
【LM359Nのピン・アサイン】
自身の参照用が目的なので、利用する為の情報としてピン配置を載せておきます。 14ピンなので少々場所を食いますが今風に小型化したいときは面実装型があります。LM359は今でも供給されています。
メーカーは180度ひねって挿入しても壊れないピン配置になっていると言っています。 確かにNCピン(無接続ピン)が+電源になるだけなのでデバイスを壊す恐れはないでしょう。 ピンが余ったのでそうした配慮をしておいたのだと思います。
【LM359Nの外観】
特に変わったところもない普通の14ピンICです。
わざわざ購入したのではなく長期在庫品としてパーツボックスに眠っていました。 部品は死蔵ではなく活用することが目標なので引張り出してきました。
以前のテストではなかなか良い性能が得られていた印象があります。136kHz帯送信機のような中途半端に周波数が高い用途にはうってつけでしょう。
【LM359Nを使ったビデオアンプ】
デジタルTVの時代になってアナログ形式のビデオ信号を扱う機器は珍しくなりました いずれ「ビデオアンプ」という言葉も死語になるでしょう。
音楽などの音声信号に比べて、映像信号(ビデオ信号)は格段に周波数帯域が広かったのでそうした信号が扱えるアンプをビデオアンプと呼んでいました。
左図はそうしたアンプの回路例です。ビデオ信号系なので特性インピーダンスが75Ωの同軸ケーブルをドライブする前提になっています。 ゲインは10倍(20dB)で-3dB帯域幅は下2.5Hz/上25MHzです。 ディスクリート部品でも製作可能なアンプですが、IC化することで性能の均質化がはかれます。 ビデオアンプとしてではなく汎用の広帯域アンプとして使うのも良いでしょう。
【nVbeバイアス】
ビデオアンプは差動アンプの必要は無いので、片入力だけで十分です。 そのため+入力端子を構成していたダイオードとトランジスタからなるミラー回路を使用しない動作ができます。
出力端子の直流的な動作点を決めるのが図のRbと言う抵抗器です。 トランジスタのVbeをn倍した所にバイアスするのでnVbeバイアスと呼ぶのでしょう。 Vbeは温度変化するため直流的な動作点は温度変化してします。 しかし出力をフルスイングしなければ少々の変動は支障ありません。 そのような想定に基づいたのが左図です。式の解釈についてはLM359Nのデータシート:SNOSBT4(Rev.C)を参照して下さい。(www.ti.com)
【nVbeバイアスのメリット】
必要のない電流源をOFFして使うので、電流性ノイズが少なくなります。 約6nV/√Hzと言う値は広帯域アンプとしては悪くない数字です。 ローノイズを謳うアンプでも似たような数字ですからnVbeバイアスにはメリットがあります。
すこし設計は面倒ですがローノイズはメリットなので積極的に使いたい回路です。 フルスイングさせなければ動作点変動は気になりません。
【動作電流の設定】
入力回路と出力段の動作点を用途に応じて変えられるのがLM359Nの特徴の1つですが、実際にはあえて設計しなくてはならない煩わしさがあります。
データーシートを見ると代表特性の殆どをIb=0.5mAで規定していることがわかります。それが標準的な動作なのでしょう。 電源電圧が12Vなら20kΩの抵抗器1つでこの標準的な動作になります。(左図)
特別な性能・用途に特化したい時は個々に検討すべきですが、ここは取りあえず標準動作でも支障無いのでIb=0.5mAで使うことにしました。 ピン1番と8番の間に抵抗器を入れれば良いのですが、レイアウト上はあまり芳しくないピン位置です。 入出力段の電流を独立別個に設定するのに便利なピン配置なのです。
【実際のアンプ回路】
2つあるフィルタの通過ロスを補い、次段を十分にドライブできる信号レベルまで増幅する必要があります。実測からゲインは50倍くらい必要です。 またアンプの入力インピーダンスは前段のフィルタ特性に影響があるので600Ωに整合させます。
左図はそのような意図で設計しました。 実際に製作して良い特性でした。136kHzの送信機には十分な性能が得られています。
2つ入ったうち未使用側のアンプは遊ばせます。上記に書いたようにAmp-Bの方を増幅に使い、Amp-Aは電流を消費しないよう休ませる設計の方が良かったかもしれません。 現状では無駄な回路電流が流れています。 取りあえずブレッドボード上のテストなので、恒久化する際には変更しましょう。
☆ ☆ ☆
ノートン型電流差動アンプは20世紀のテクノロジーかもしれません。 136kHzの増幅なら汎用トランジスタ数個のアンプで必要な性能が得られます。あえて使う意味は無いかもしれません。しかしICを使えば性能がわかった回路が僅かな部品で実現できる便利さがあります。試してみたら性能も良好なので無理して使ったと言うよりも、むしろ適材だったようです。
いまでも十分通用する性能があるので特徴を活かした使い方ができたら面白いです。 高周波性能が良くてノイズも少ないので貴重なICでしょう。 あえて買ってまで使う理由はありませんが、もう少し見直しても良いデバイスだと思いました。
読返して自身の参照用なら設計手順や手法など気付いた所をもっと書いておけば良かったと思います。 おいおい改訂して追記しましょう。 ナショセミの応用資料は良くできています。 わざわざ抜き書きする必要は無さそうですが毎回英文を読むのも面倒です。 自身が使いそうなポイントを纏めておけば便利でしょう。 だ手持ちがあるので使う機会もありそうですし。de JA9TTT/1
(つづく・1)←136kHz送信機エキサイター部の纏め(最終回)へリンク
(つづく・2)←「もっとノートン・アンプの検討を」へリンク
136kHz帯送信機製作の途中でまた寄り道します。 もちろん無関係ではありません。 ヘテロダイン・ミキサ後のフィルタ通過で下がった信号レベルを取り戻す必要があります。 136kHzと言う周波数は低いようでも汎用OPアンプにはだいぶ高めです。 汎用OP-Ampより周波特性の良いアンプが欲しいので高速ノートン・アンプを検討しています。 これは多分に自身の部品事情を反映していますからノートン・アンプを推奨する意図はありません。またまた「レアな部品を使ってる!」等といったご批判はご勘弁を。(笑)
なお、近ごろアマ無線界では広帯域トランスを使ったノイズ・レス・フィードバック形式のRFアンプもノートン・アンプと呼びます。むしろそちらの方がポピュラーかも知れません。電流で負帰還する部分に類似性もありますが、ここで扱うICとは別ものです。
【ノートン・アンプの基本:まずはLM3900から】
ノートン・アンプとは何でしょうか? Wikipediaでも参照していただくと良いかもしれませんが、「単電源動作で±入力を持った電流差動型アンプ」のことです。
何のことか、ピンとこないとは思いますが、要するに左図のようなエミッタ接地型アンプ(Q2)の出力をエミッタ・フォロワ(Q1)で取り出す形式のアンプです。
ディスクリートでも良くある形式なので特に目新しくはありません。 Q1のエミッタからQ2のベース(反転入力端子:In-)へ負帰還を掛ければ帰還型の増幅器になりますが、もう一工夫して+入力端子(In+)を設け電流差動形式になるようにしたのがノートン・アンプです。 初めて市販されたのはLM3900シリーズでした。なお、このシリーズのノートン・アンプにはLM2900N/LM3900Nのほか、モトローラ製の互換品、MC3301P/MC3401Pがあります。いずれもピン接続を含め機能・性能は同等ですが保証温度範囲や最大電源電圧など幾つかの規格に差があるので使用時には確認しておきましょう。一時期は両社の互換品が他社からも登場しましたが今では殆ど姿を消しています。
【LM3900の等価回路】
長くなるので途中の設計経緯は省きます。 ICとして実用形式に纏めたものが左図のような等価回路で、ナショナル・セミコンダクタ社(現在はTI 社に吸収合併)から登場しました。(1972年頃か?)
GNDへ向いたダイオードとその右のQ6と言うトランジスタが+入力端子を設ける為に追加された部品です。 これによってIn(+)とIn(-)の電流差が増幅されます。 詳しい仕組みや動作解析についてはメーカー(TI社)のサイトに詳細な資料があります。活用を試みるならナショセミ時代のアプリケーション・ノート:AN-72とAN-278は必読でしょう。 ほかにはもう目ぼしい資料も無くなっています。 要するに20世紀に置いて来たテクノロジーなのでしょう。
もちろん、今でも有用性が失われた訳ではありません。しかし代わって扱い易い「電圧帰還型」のOPアンプが全盛になったので意味も薄れました。 低電圧でレール・トゥ・レール型のIn/OutをもったC-MOS OPアンプの登場で単電源動作に特化したICの必然性もだいぶ薄れたのです。 やや遅れて登場した片電源用OPアンプ:LM324Nも強力なライバルでした。
【ピン接続図】
私が思うに、この妙なピン配置も馴染めなかった理由の1つです。 4回路入りOPアンプの常識とは外れたピン配置です。
TTLなど多くの論理回路用ICでは半ば約束のようになっていたコーナーの14番ピンが+Vccで、7番ピンがGNDになるように配置したのでしょう。しかし合理的には見えませんでした。 Amp1の+入力端子がAmp2の側に出ているなど、4回路入りOPアンプの常識では考えられないのです。
但し、アプリケーションを良く吟味すると+入力端子を片端に寄せたのは深い意味があったことがわかります。応用面から考えれば近くに並んでいた方が合理的なのです。
結局、このLM3900(MC3401P)と言うQuadアンプはOPアンプではなく、片電源で使う汎用のアンプ・ブロックです。 OPアンプと類似だろうという先入観で扱うと不自然さばかり感じます。 そのように使うモノでは無いのです。
【LM3900NとMC3401P】
今や開発メーカーのナショセミ社もTI社になりましたし、モトローラ社もONセミ社になっています。 LM3900は表面実装タイプのみ供給が続いています。 MC3401Pは既にディスコンです。 何個か手持ちがあったので撮影しておきました。
なお、機能・性能はこの両者ともに同等ですが、MC3401Pは最大電源電圧がやや低いので要注意です。 LM3900Nが+32V、MC3401Pは+18Vが最大定格です。12Vで使うなら互換できます。
これから使うのはLM3900やMC3401ではありませんが、元祖ノートン・アンプと言うことで扱いました。 写真のこれも勿体ないので将来何かに使ってみたいです。 ただ、特に何か良いことがあるわけでもないので使う機会もなさそうです。
ノートン・アンプには特徴を活かした面白い各種の応用がありました。少し古い回路集にはノートン・アンプの応用例もかなり見うけられます。それらは他のOPアンプでは代替が効かないケースが殆どなので要注意です。再設計は面倒なことが多いのでそのまま作るに限ります。今でもLM3900Nの入手は難しくありません。なお、LM3900NでLM2900N、MC3301P、MC3401Pの代替ができます。
参考:続きとしてLM3900Nのような普通のノートン・アンプをアクティブ・フィルタに活用する話を追加しました。→こちら(リンク)
☆ ☆ ☆
【ノートンアンプの高速化】
LM3900は車載機器などの単電源回路の汎用アンプとして作られたICです。従ってあまり高速ではない用途が主目的だったはずです。周波数特性はせいぜいオーディオ帯域止まりです。
それに対し、大幅に高周波特性を改善したノートン・アンプがナショセミ社によって作られました。LM359Nがそれです。 出力電圧範囲を多少犠牲にして周波数特性が甚だ悪いラテラルPNPトランジスタを使わない設計に変更しています。 さらに、ミラー効果を低減し周波数特性を良くする為にエミッタ接地型のゲインステージがカスコードアンプになっています。
LM359Nが本来どんな目的で作られたのかわかりません。もはやカーエレクトロニクス用ではないでしょう。 単電源動作のビデオアンプには便利なのでそれが主目的だったのかもしれません。 入・出力段の動作電流をユーザーが自由に設定できるなど、汎用性を持たせて幅広い用途を目指したようです。
【LM359Nの等価回路】
左図は内部等価回路です。 比較的簡単です。LM359Nはアンプ2回路入りでバイアス回路は2つのアンプで共通です。
片方のアンプだけを使うときは8〜14番ピンに割り当てられたAmp-Bの方を使うと節電できます。 たぶん4番ピンのGND-AをオープンにしておけばAmp-Aの電流が節約でます。 特に高周波まで周波数特性を伸ばす目的で回路電流を多く流した際にはムダな電流を減らすテクニックになるでしょう。
【LM359Nのピン・アサイン】
自身の参照用が目的なので、利用する為の情報としてピン配置を載せておきます。 14ピンなので少々場所を食いますが今風に小型化したいときは面実装型があります。LM359は今でも供給されています。
メーカーは180度ひねって挿入しても壊れないピン配置になっていると言っています。 確かにNCピン(無接続ピン)が+電源になるだけなのでデバイスを壊す恐れはないでしょう。 ピンが余ったのでそうした配慮をしておいたのだと思います。
【LM359Nの外観】
特に変わったところもない普通の14ピンICです。
わざわざ購入したのではなく長期在庫品としてパーツボックスに眠っていました。 部品は死蔵ではなく活用することが目標なので引張り出してきました。
以前のテストではなかなか良い性能が得られていた印象があります。136kHz帯送信機のような中途半端に周波数が高い用途にはうってつけでしょう。
【LM359Nを使ったビデオアンプ】
デジタルTVの時代になってアナログ形式のビデオ信号を扱う機器は珍しくなりました いずれ「ビデオアンプ」という言葉も死語になるでしょう。
音楽などの音声信号に比べて、映像信号(ビデオ信号)は格段に周波数帯域が広かったのでそうした信号が扱えるアンプをビデオアンプと呼んでいました。
左図はそうしたアンプの回路例です。ビデオ信号系なので特性インピーダンスが75Ωの同軸ケーブルをドライブする前提になっています。 ゲインは10倍(20dB)で-3dB帯域幅は下2.5Hz/上25MHzです。 ディスクリート部品でも製作可能なアンプですが、IC化することで性能の均質化がはかれます。 ビデオアンプとしてではなく汎用の広帯域アンプとして使うのも良いでしょう。
【nVbeバイアス】
ビデオアンプは差動アンプの必要は無いので、片入力だけで十分です。 そのため+入力端子を構成していたダイオードとトランジスタからなるミラー回路を使用しない動作ができます。
出力端子の直流的な動作点を決めるのが図のRbと言う抵抗器です。 トランジスタのVbeをn倍した所にバイアスするのでnVbeバイアスと呼ぶのでしょう。 Vbeは温度変化するため直流的な動作点は温度変化してします。 しかし出力をフルスイングしなければ少々の変動は支障ありません。 そのような想定に基づいたのが左図です。式の解釈についてはLM359Nのデータシート:SNOSBT4(Rev.C)を参照して下さい。(www.ti.com)
【nVbeバイアスのメリット】
必要のない電流源をOFFして使うので、電流性ノイズが少なくなります。 約6nV/√Hzと言う値は広帯域アンプとしては悪くない数字です。 ローノイズを謳うアンプでも似たような数字ですからnVbeバイアスにはメリットがあります。
すこし設計は面倒ですがローノイズはメリットなので積極的に使いたい回路です。 フルスイングさせなければ動作点変動は気になりません。
【動作電流の設定】
入力回路と出力段の動作点を用途に応じて変えられるのがLM359Nの特徴の1つですが、実際にはあえて設計しなくてはならない煩わしさがあります。
データーシートを見ると代表特性の殆どをIb=0.5mAで規定していることがわかります。それが標準的な動作なのでしょう。 電源電圧が12Vなら20kΩの抵抗器1つでこの標準的な動作になります。(左図)
特別な性能・用途に特化したい時は個々に検討すべきですが、ここは取りあえず標準動作でも支障無いのでIb=0.5mAで使うことにしました。 ピン1番と8番の間に抵抗器を入れれば良いのですが、レイアウト上はあまり芳しくないピン位置です。 入出力段の電流を独立別個に設定するのに便利なピン配置なのです。
【実際のアンプ回路】
2つあるフィルタの通過ロスを補い、次段を十分にドライブできる信号レベルまで増幅する必要があります。実測からゲインは50倍くらい必要です。 またアンプの入力インピーダンスは前段のフィルタ特性に影響があるので600Ωに整合させます。
左図はそのような意図で設計しました。 実際に製作して良い特性でした。136kHzの送信機には十分な性能が得られています。
2つ入ったうち未使用側のアンプは遊ばせます。上記に書いたようにAmp-Bの方を増幅に使い、Amp-Aは電流を消費しないよう休ませる設計の方が良かったかもしれません。 現状では無駄な回路電流が流れています。 取りあえずブレッドボード上のテストなので、恒久化する際には変更しましょう。
☆ ☆ ☆
ノートン型電流差動アンプは20世紀のテクノロジーかもしれません。 136kHzの増幅なら汎用トランジスタ数個のアンプで必要な性能が得られます。あえて使う意味は無いかもしれません。しかしICを使えば性能がわかった回路が僅かな部品で実現できる便利さがあります。試してみたら性能も良好なので無理して使ったと言うよりも、むしろ適材だったようです。
いまでも十分通用する性能があるので特徴を活かした使い方ができたら面白いです。 高周波性能が良くてノイズも少ないので貴重なICでしょう。 あえて買ってまで使う理由はありませんが、もう少し見直しても良いデバイスだと思いました。
読返して自身の参照用なら設計手順や手法など気付いた所をもっと書いておけば良かったと思います。 おいおい改訂して追記しましょう。 ナショセミの応用資料は良くできています。 わざわざ抜き書きする必要は無さそうですが毎回英文を読むのも面倒です。 自身が使いそうなポイントを纏めておけば便利でしょう。 だ手持ちがあるので使う機会もありそうですし。de JA9TTT/1
(つづく・1)←136kHz送信機エキサイター部の纏め(最終回)へリンク
(つづく・2)←「もっとノートン・アンプの検討を」へリンク
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