【DDSコントローラ:活用のヒント】
便利そうなものでも使い方が旨く伝わらないと活用されることもないだろう。また説明はあっても具体例が何もなければちょっとイメージしにくい。 自家用作品は自分さえわかっていれば済むのだが少々忘れっぽいので備忘に残しておこう。
【
TRIOの3395kHzフィルタ】
TRIOの3395kHzのフィルタと言えば、TS-510に始まって、TS-511、TS-311、TS-520ほかTS-801や50MHzSSBトランシーバ・キットのQS-500など、幅広く使われた。
写真のYG-3395SはTS-511のものであるが、他にYF-3395Sなどがあった。 6素子もしくは8素子のハーフラティス3または4段の標準的なSSBフィルタである。
たくさん使われていたので今でもオークションに登場する機会も多い。 『TRIOの音』を築いたフィルタとしてなかなか人気があるようだ。
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キャリヤ発振基板】
SSBを発生させるには、まずは搬送波(キャリヤ)を発生させる必要がある。 写真左は、TRIOの3395kHzフィルタとともに使われていたキャリヤ発振基板だ。 昔々ジャンクに登場した新品の基板で、おそらくTS-510用であろう。
USB/LSB/CW用のクリスタルが載っており、さらにCW用ナローのフィルタを追加した時を考えてCW送信用のクリスタルが追加できるようになっている。 合計で4つのクリスタルを搭載し4つの周波を発生する。
クリスタルフィルタとともに、こうしたキャリヤ発振基板が入手できればフィルタの活用も楽なのだが、何故かフィルタに比べて発振基板やクリスタルは入手しにくいことが多い。 基板ではなくても、せめてUSB/LSBのクリスタルだけでもあれば有難いのだが・・・。
右はDDSを使ったキャリヤ発振基板だ。 例のチャネル式DDSコントローラ・マイコンを使っている。 もしキャリヤ発振基板もクリスタルもなければこれを活用することになる。 大きさも似たような物だから大げさにならず組み込みも容易だ。
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YG-3395Sのキャリヤポイント】
YG-3395Sの公称キャリヤポイント(SSB発生の為のキャリヤ周波数)は、USBが3393.5kHz、LSBが3396.5kHzである。
しかし、個々のフィルタによって最適周波数はばらついており、実際には個々に加減しないと最適ポイントに持って来れない。 写真はフィルタの実測特性であるが、一般に平坦域からみて-10〜-20dB低下したあたりにキャリヤを置くのが良い。(遮断域に向かうスロープ特性にもよる)
-20dBの所とすれば、この例ではUSBが3393.6kHzあたりが良く、LSBは公称値の3396.5kHzでも良さそうだ。 実際に、キャリヤポイントの周波数調整はフィルタの公称値にあわせるだけではだめで、個々の機械に搭載されている個々のフィルタ特性に合わせた調整が必要である。
例えばTS-511の取説のキャリヤ周波数の調整に関する記述では『マーカーを受信しS9になるようDRIVEツマミを調整し、さらにゼロビートのポイントでS2に以下になるよう(周波数数調整の)トリマコンデンサを調整し・・・云々』とある。 とりもなおさず、通過域から-20dB以下の十分に落ちたポイントに合わせるよう指示している訳だ。
DDS発振器でキャリヤ周波数を発生させるにしても、公称周波数が発生できるだけではダメである。USBなりLSBなり、必ず上下に周波数微調整ができるようしておく必要がある。(これ,たいへん重要なこと)
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キャリヤ発振に適したDDS式発振器】
図は、SSBジェネレータのキャリヤ発振に特化するためのDDSモジュールとそのコントローラの使い方を示している。(回路図はマウスの左クリックで開いてから右クリックで保存を選び、別途開くと細かく見ることができる。windowsの場合)
周波数調整は初期に行なうだけで良く、常に表示する必要はないのでLCD表示器は要らないだろう。(もちろん、付けられるようにしておいても良い) 従って上の写真のように基板の小型化が可能だ。
写真の例ではコントローラ・マイコン(ATmega328P)はDDSモジュールの下に配置してコンパクトにまとめた。 ダイオードマトリクスと各モードごとの周波数調整VRは別基板に置くようにしている。 またDDSからの信号は小さいので、フィルタを兼ねた狭帯域アンプで増幅する必要がある。
図の様にダイオードマトリクスで、USB/LSBあるいはCW用の周波数に切り替えるとともに、それぞれ周波数微調整用の可変抵抗器VRを切り替えている。このように個々に周波数微調整できるようにしておく。 ちょうど、正規の「キャリヤ発振基板」に搭載さえれているトリマコンデンサの役割を持つている。 もちろん取説の説明と同じようなキャリヤ周波数調整ができるわけだ。
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TRIOの8830kHzフィルタの例】
中心周波数:8830kHzのクリスタルフィルタはTRIOのTS-820/180/120と言った、PLLを使ったシングルコンバーション形式になった時代のフィルタだ。
HF帯をシングルコンバージョンでフルにカバーするには3MHz帯では低過ぎる。 そのために8.8MHzを選んだのであろう。 この周波数の近く9MHzには、八重洲無線のFT-200ほかフロンティア・エレクトリックのトランシーバや海外製Rigも多数存在し、シングルコンバージョン形式には適している周波数なのだ。
写真手前YG-88SWはR-820から、奥のYK-88SはTS-180の物である。 中心周波数は同じであるが、YG-88SWの方が帯域幅はやや広いようだ。
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YK-88Sのキャリヤポイント】
緑色のラベルのYK-88Sはやや小型のフィルタである。 特性的にはYG-88SWの方が良好ではないかと思っていた。 しかし、このようになかなか良好な特性であった。
YK-88Sの公称キャリヤポイント(SSB発生の為のキャリヤ周波数)は、USBが8828.5kHz、LSBが8831.5kHzである。
しかし、実際の最適キャリヤポイントは写真のようになるだろう。 もちろん、この周波数に対応するチャネルは用意されているので、DDS式キャリヤ発振器で最適対応できる。
【YG-88SWのキャリヤポイント】
YG-88SWは8830kHzの標準的なフィルタ、YG-88Sよりも少し広めのフィルタのようだ。 特性的には上の写真YK-88Sよりもやや良好ではないかと思っていたが大差はない模様だ。
やや広めの帯域幅特性のようである。公称キャリヤポイントは不明であるが、おそらくUSBが8828.5kHz、LSBは8831.5kHzのままではないかと思われる。
もちろん、個々のフィルタに対する最適値はあるはずで、写真の例ではUSBガ8828.4kHz、LSBが8831.45kHzあたりのようである。 同じようにDDS式キャリヤ発振器なら最適対応できる。
【キャリヤ発振に適したDDS発振器】
図は、8830kHzのフィルタを使ったSSBジェネレータに適したキャリヤ発振器に適したDDS発振器だ。 専用コントローラ・マイコンを使いそのまま作れば良いよう設計しておいた。
周波数調整は初期に行なうだけで良く、常に表示する必要はないのでLCD表示器は要らないだろう。 従って上の写真のように小型化が可能だ。
8830kHzだからと言って、特別なことはないがフィルタとアンプ部分はそれに合わせた設計になっている。 FCZコイルと書いてあるが、トロイダルコアに巻いた「自作FCZコイル」も最適だ。
ダイオードマトリクスで、USB/LSBあるいはCW用の周波数に切り替えるとともに、それぞれ周波数微調整用の可変抵抗器VRを切り替えて、個々に周波数微調整できるようにしてある。 もちろん、最適なキャリヤポイントに追い込むことが可能である。 8830kHzのクリスタルフィルタもオークションほかで良く見かけるからこのDDSオシレータで最適化して十分な活用が可能だろう。
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【YAESUの3180kHzフィルタ】
中心周波数:3180kHzのクリスタルフィルタは八重洲無線のFT-101/B/Eのほか、FR-101/FL-101と言った、ダブルコンバーション形式だった時代のフィルタだ。
FT-101シリーズ(Zは除く)は非常にたくさん生産されたため、本体は既にお釈迦になっていてもIF基板やフィルタだけがジャンクに出回っている。
写真はFT-101(無印)のIF基板に実装されたXF-30Aの様子である。 このフィルタを使ったSSBジェネレータはやや固い音色のように感じる。 帯域幅は上のYK-88Sと同じような物なので、音色の違いは単なる帯域幅の違いではないようだ。 好みもあるのだろう、こちらの方がお好きな人もいる。
なお、このフィルタは未だFT-101に組込まれたままなので、特性の実測は行なっていない。特性図は省略させてもらった。
【キャリヤ発振に適したDDS発振器】
図は、八重洲の3180kHzのフィルタに対応するためのキャリヤ発振器である。 SSBジェネレータに適した各キャリヤ発振器に適したDDSモジュール+コントローラ回路になっている。
周波数調整は初期に行なうだけで良く、常に表示する必要はないのでLCD表示器は要らないだろう。
3180kHzだからと言って、特別なことはないがフィルタとアンプ部分はそれに合わせた設計になっている。 TRIOの3395kHzフィルタと近いので類似のアンプやフィルタで良いと思う。 すこし周波数が低いので、もし調整しきれなければ同調コンデンサを追加するなど行なえば良い。
ダイオードマトリクスで、USB/LSBあるいはCW用の周波数に切り替えるとともに、それぞれ周波数微調整用の可変抵抗器VRを切り替えて、個々に調整できるようにしてある。 公称キャリヤポイントは、USBが3178.5kHz、LSBが3181.5kHzであるが、もちろん個々のフィルタに適した最適なキャリヤポイントに追い込むことができる。
☆☆ 回路の初期調整方法を書いておく。(どの周波数の回路も方法は同じ) まずは、LSB、CWあるいはUSBのどれでも良いので所定のチャネルにスイッチをセットする。 そのチャネルの周波数加減用の可変抵抗器(LSB ADJ、CW ADJまたはUSB ADJと言う名称のVR)を中央の位置に合わせる。 正確な中央位置に合わせるには、電源電圧(+5V)を正確に測って、その1/2の電圧がVRから出力されるようにすればベストだ。 電圧測定はなるべく内部抵抗の高い電圧計を使うべきだ。指針式テスタではなくDVMが良い。
その状態でDDS出力に周波数カウンタを接続し、スイッチで設定した所定の発振周波数になるようにClock ADJの可変抵抗器(VR2)を調整する。 このようにすれば、良い周波数精度でキャリヤ発生ができる。 なお通電後10分以上経過しクロック発振器の周波数が安定して来てから調整する。 その後はClock ADJ(VR2)には触れないこと。 以後、各モードの周波数微調整はUSB ADJ、CW ADJあるいはLSB ADJのVRで行なうこと。
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【455kHzのメカニカルフィルタにも】
中心周波数が455kHzのメカニカルフィルタはフィルタタイプSSB送信機の黎明期にはたいへんポピュラーな存在であった。 CollinsのSラインやKWM-2/Aトランシーバなどに使われたほか、国産機では八重洲無線のFR/FL-100Bライン、FR/FLDX-400ラインでも使われていた。 その後のシンセサイザ時代になってもCollins insideと称してCollinsのメカフィルを内蔵するリグも現存する。
自作やメーカー製の所謂『高一中二受信機』の選択度改善にも使われたため、いまでも中古品が手に入る。新世代のCollinsメカフィルも入手容易だ。
写真奥の円筒型と水色のものはCollins製である。 また右の黄色いラベルと、手前のグレーの物は国際電気製である。 他にも455kHz帯のメカフィルは色々あって入手したことのある自作HAMも多いのではないだろうか。 他に多少特性は劣るが、SSB用のセラフィルも村田製作所から出ている。
【
Collins 526-9939-010の特性】
写真では水色のメカニカルフィルタの特性である。 これはキャリヤ周波数を455kHz丁度としたLSB用に作られたフィルタだ。
シチズンバンド(CB)のSSBトランシーバ用に作られたらしいが、図の様に遮断特性の対称性は悪くないのでしかるべきキャリヤポイントのクリスタルを用意してやればLSBだけでなく、USBの発生にも支障無く使える。
その場合USB発生用には451.95kHzが良いようだ。 もちろん、個々のバラツキもあると思うので、フィルタ特性を良く見た上で適した水晶発振子を特注・・・となるのが従来であった。
【国際電気 MF-455-10GZの特性】
写真では黄色いラベルのメカニカルフィルタである。 これは中心周波数が455kHzの標準的なSSB用メカニカルフィルタである。
本来の用途はわからないが、一般的な通信機用に作られたものではないだろうか。 通過帯域はやや狭い感じもするが、HF帯のように混んだバンドには適当であろう。
USB発生用には453.6kHzが良く、LSBには456.35kHzで良いようだ。 もちろん個々のバラツキもあるだろう。
【Collins 526-9939-010を使ったSSBジェネレータ】
水色のメカニカルフィルタを使ったSSBジェネレータである。 バラモジは1SS86を4本使ったDBMだ。 DBMのIN/OUTに使ったトロイダルコアはTDK製である。μの高いH-5A材なので少ない巻き数で十分であった。 Amidonの#43材ではもう少し多く巻く方が良い。
キャリヤは別基板から与える。もちろんDDS式キャリヤ発振器が最適であろう。 CB用と称する安価なメカニカルフィルタを試したくて作ったのであるが、作った当時はキャリヤ発振のクリスタルに困った。 LSB用の455kHzは既製品があったので良いとして、USB用452kHzは既製品が無いのでSSGから与えてテストをしていた。 もちろん今ならDDS式キャリヤ発振器があるからまったく困らない。
【455kHzキャリヤ発振に適したDDS発振器】
図は、各種の455kHzフィルタに対応するDDS式キャリヤ発振器である。 SSBジェネレータに適した各キャリヤが発生できるからSSBフィルタの実験が促進されるであろう。もちろんSSBジェネレータ用のみならず、通信型受信機に必須のBFOにも周波数の安定なDDS式のBFOは最も適している。
周波数調整は初期に行なうだけで良く、常に監視する必要はないのでLCD表示器は要らないと思う。
従来、455kHzのSSBフィルタを使うにあたっては特性にマッチしたキャリヤ用水晶発振子の特注が必須であった。 しかも、最適キャリヤポイントにドンピシャの周波数を発注しないと厄介なことになる。 HF帯の水晶発振回路とは違って、調整用トリマコンデンサを付けても僅かな周波数調整しかできない。 455kHzと周波数の絶対値が低いため、トリマコンデンサで加減できる可変範囲はたいへん狭いのだ。100Hz動かすのでも大変なくらいである。
DDS式キャリヤ発振器は、どの周波数でも±1.2kHz以上調整できるようになっている。また、VXOやセラロックのような不安定さとは無縁で水晶発振器の安定度そのままだから安心だ。 455kHzのメカフィルだけでなく、暫く前に流行った搬送電話用128kHzメカフィルや、驚異的特性のURG-1の100kHzフィルタなど様々に活用できる。
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周波数一覧のように様々なSSBフィルタにも対応済みだ。 もちろん7.8MHz、9MHz、11.2735MHz、或は10.695MHzと言うようなポピュラーなSSBフィルタに適したキャリヤ周波数を盛り込んだ。いずれも上記使用例と同じようにすれば良いだろう。
なお、どうしても特殊なキャリヤ周波数をと言うご要望にも対応するので相談を。 ←(特注は管理困難なため休止中) 以下にPDFファイル化した一覧表をリンクしておく。興味のある向きはダウンロードして参照を。
参考1:DDSコントローラ・マイコンで可能な周波数一覧表
(Ver.1.0.3)は:ここ(←リンク)
参考2:DDSコントローラ・マイコンで可能な周波数一覧表(
Ver.6.4.1)は;
ここ(←リンク)
注・このバージョンはDDSクロックを64MHzとし、ATmega168とATmega328を共通化したもの。発生周波数は379chとなり、HAM専用化してある。HAMバンドは18 MHz帯まで対応。なお、21MHz及び28MHzは7MHz帯を3又は4遞倍すれば良い。(上記のリンクは更新済み。なお、ATmega168は在庫切れのためすべてATmega328版となります。:2017.12.13)
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写真と図面で実例を多用したら、長ったらしいBlogになってしまった。 具体的で後々まで参照できそうな内容を心がけた。 手持ちの各種SSBフィルタに活用できたらFBだ。 水晶発振子メーカーの廃業続きでキャリヤ発振用水晶発振子の特注は難しくなってしまった。 中華DDSモジュールとAVRマイコンのお陰で有用な開発ができるのは有難い。
まもなく、有明のビックサイトで『2012・HAMフェア』が開催される。 例年ジャンクを見ていると、様々なSSBフィルタやフィルタ付き基板ユニットが販売されている。 フィルタがあってもキャリヤ用水晶に困るから変な周波数のフィルタには手を出さぬようにしていた。 しかし、もうその心配はない。 安価な中華DDSの応用で自由自在にキャリヤ発振器が作れる。どんなフィルタでもドンと来いと言った感じだ。(笑) de JA9TTT/1
(おわり)
参考;ここで使ったDDSコントローラ・マイコンは、
前のBlog(←リンク)で頒布中。