【中間周波増幅器・その2】
【中間周波増幅部の外観】
『私だけの受信機設計』が始まって早くも半年です。回を重ねて第6回になりました。今回は中間周波増幅器の2回目です。 前回のBlog(←リンク)ではデバイスを切り口にして様々な中間周波増幅器を探訪しました。
真空管と半導体のハイブリッド構成も過渡期には存在しました。特にHAM用トランシーバではハイブリッド構成がしばらく続きましたが、それでも受信部は早いうちに半導体化されます。 トランシーバではなく「通信型受信機」にあってはプロ用の一部高級機を除けばあっと言う間に全半導体化されてしまいました。
我々が自作する場合も使用デバイスを統一するメリットは大きいです。真空管ならできるだけ真空管回路で実現しようするでしょう。半導体ならあえて真空管を割り込ませるような設計はしないのものです。 双方の利点を活かす組み合わせもあり得るのですが今回は半導体で作るのが順当だと思います。(真空管を主役にして補助回路を半導体という方法はなかなか良いと思ってますけれども)
半導体には周波数帯による向き不向きがあります。例えば前回見たようなフォワードAGC用トランジスタは455kHzには適当とは言えません。いま作ろうとしている受信機に使うものではないでしょう。面白いデバイスですが2SC1855はまた別の機会にします。
汎用のBJT(BJTはバイポーラ・ジャンクション・トランジスタの略。要するに普通のトランジスタのこと。PNP型とNPN型がある)や2ゲート型MOS-FET、およびIFアンプ用のICならあまり周波数帯を選びません。 ここではオーソドックスな汎用BJTでIFアンプを作ってみることにしました。 「な〜んだ、ぜんぜんつまらない!」などと仰らずこの先をご覧ください。 たぶん、Something NEW ! があります。
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例によって自家用の実験メモです。この受信機設計では死蔵気味の手持ち部品を試すのも目標の一つにしています。 できるだけ一般性のある話にしているつもりですが、今回使ったPINダイオードは少し特殊かもしれません。 ただし代用品の検討はしてあります。うるさいことを言わなければ特殊部品なしで行くこともできるでしょう。今回もお暇でしたらお付き合いを。 いつものように「質問・感想」歓迎です。コメント欄にどうぞ。 シャイな貴方は「拍手ボタン」でも押してってください。(笑)
【BJTとPIN-Diで構成したIFアンプ】
さっそく回路図から行きます。 455kHz帯の中間周波増幅器です。ごく普通のトランジスタを3つ使った3段増幅になっています。ゲイン約90dB(3万倍)を得ています。もちろん、これはAGC(自動利得調整)が掛かっていない「最大」の状態です。
想定の中心周波数は455kHzですが、LC同調のIFT(中間周波トランス)ですから広い調整範囲があります。あとで説明のあるCW用ラダー型セラミック・フィルタ(自作品)は約440kHzですが問題なく使えます。BFOをLC発振の周波数可変型にしたのもこの辺に理由がありました。IFフィルタの都合に合わせられます。 安価で手に入るIFフィルタを活かすために455kHzを中心にある程度自由に周波数が変えられる中間周波増幅器を作ります。
【増幅部】
増幅器の初段(Q1)はベース接地型で、これはCWフィルタのインピーダンス(約50Ω)に合わせたものです。さらに通信型受信機として十分なゲインを得るのも目的です。ここでフィルタのインピーダンスマッチングと共にIF段のプリアンプとして追加のゲインが得られます。
続く主となる増幅部(Q2とQ3)は2段のエミッタ接地型増幅器です。見ての通り回路はトランジスタラジオのIFアンプにそっくりです。ごく普通のラジオ用部品で製作でき、しかも安定した動作が望める回路です。リバースAGCの為の配慮は不要なのでゲイン優先の動作点にしてあります。AGCの掛け方はトランジスタラジオとはまったく異なっています。
ラジオではコレクタ電流を減少させてゲインを減ずる方法でAGCを掛けていました。図の回路ではコレクタ電流は信号の大きさにかかわらずほぼ一定です。AGCはエミッタ抵抗と並列になる「バイパス・コンデンサ」の効き具合を加減することで行なっています。
エミッタの抵抗器(=2kΩ)をバイパスしないと入力電圧と同相の電圧がエミッタに現れて負帰還の作用が生じます。これは電流負帰還と呼ばれるものです。この負帰還の作用で増幅度が低下する特性をAGCに利用する訳です。
バイパスの効き具合はコンデンサと直列に入っている「PIN-Diode』(ピン・ダイオード)で加減します。PIN-Diは流す順方向電流によって「等価抵抗」が大きく変化します。その特性を利用しバイパスコンデンサの効果を加減してアンプのゲインを可変します。PIN-Diについては後ほどもう少し説明があります。
【AGC回路】
良好なAGC特性を実現するため迷うことなくOP-Amp.を使ったDCアンプを使います。中間周波増幅の出力はダイオード(D6とD7)によって検波・整流されIFアンプ出力に比例するIF電圧(DC電圧)が得られます。得られたIF電圧はそのままでは小さいためOP-Amp:U1cにより約11倍増幅します。最大30倍から幾つかの条件で試してみて、ここはこの程度のゲインが適当でした。
U1bとU1dの部分は一種の整流回路であると共にIF電圧のピーク値を保持する役目を持っています。C17:4.7μFに充電・保持されます。 ここには重要なAGCの時定数を決める回路が含まれています。放電の時定数を変えてAGCのFast/Slowを切り替えます。充電方向の時定数はAGCの制御ループを安定させるため非常に重要です。AGCの制御系が不安定化せずなるべく早い応答になるように決めます。AGCの効かせ方で受信機の操作フィーリングはかなり変わります。仕上げとして実際のCWを受信しながら微調整を行なったのでまずまず良い感触が得られています。
U1dの出力はIFアンプへの入力の大きさを反映したDC電圧になっています。Sメータを振らす目的にも使います。Sメータにはややオフセットを履かせた方がそれらしい表示になります。オフセット量はVR2で加減します。またメータの振れ方はR30(=10kΩ)によって加減します。現状では200μAフルスケールのメータでちょうど良い感じです。ダイオード:D9は振れ初め部分の圧縮と逆振れ防止が目的です。なお、感度が異なるメータもR30を加減すれば同じように使えます。1mAくらいのメータでも大丈夫です。
続いてU1aの部分はIF電圧の変化方向を反転させ、さらにレベルシフトの大きさを加減してDAGC(遅動型AGC)の機能を持たせるための回路です。このようにしてPIN-Diに加えるのに適したAGC電圧に整えられます。このAGC用の電圧はIFアンプが無入力のとき6V(DC)になるようVR3により調整されます。このときPIN-Di(D1〜D4)には数mAが流れ、低い抵抗値になりIFアンプはフルゲインの状態になります。
IFアンプへの入力が大きくなるとAGC電圧(TP-VD-Outのところ)は小さくなります。その結果、PIN-Diの電流は減少し高抵抗になってIFアンプの増幅度は低下します。このようにIFアンプの入力がある程度以上の大きさになると概ね一定した出力電圧になるように制御される訳です。電流負帰還はIFアンプの歪を改善します。AGCが掛かるほどその効果も大きくなります。
【IF部の使用部品】
AGC回路のPIN-Diodeを除けばごく一般的な部品ばかりです。
アンプ部分のQ1〜Q3は小信号用NPNトランジスタなら大抵のものが使えます。例示に困るほどたくさんの候補があります。 ただし、Q1だけはなるべく近代的なものにします。初めはQ1〜Q3に2SC372Yを使いました。ゲインは十分得られるのですが、無信号時のノイズが目立ちました。普通の受信状態では外来ノイズの影響があるため2SC372Yでもほとんど支障はありません。しかし信号がごく小さくなると目立ってくるのです。外来ノイズの少ないHF帯ハイバンドの受信になると違いが見えて(聞こえて)きます。 そのためQ1だけは最近になって作られた新しいトランジスタに交換しました。ここでは2SC1815Yで好結果が得られています。他のRF用ローノイズトランジスタでも良いでしょう。
AGC用のPINダイオードはTOREXセミコンダクタというメーカーのXB15A204A型を使いました。多くの市販PIN-DiはVHF帯以上で使う部品なのに対してXB15A204Aは455kHzのような低い周波数でも使える性能を持っているからです。ただし生産中止になっているようです。同等以上に使える代替品としては旧hp/Agilent社製のPIN-Diode:1N5767があります。1N5767にはセカンドソースもあって通販業社から入手も容易ですがダイオードとしてはずいぶん高価なものです。ローコストに済ませる代用方法についてはこのあと説明があります。
そのほかのダイオードはどれも入手容易な汎用品です。D5〜7はゲルマニウムダイオードです。1N34Aのほか1N60や1K60がそのまま置き換えられます。1SS97のような高周波用ショットキ・バリア・ダイオードでも構いません。D8とD9は小信号用のSiダイオードなら何でも良いでしょう。例として、1S2076Aのほか、1S1588、1N914A、1N4148、1SS53、そして最近安価に売られている1SS178が同じように使えます。
OP-Amp.は手持ちの都合でNECのμPC451C(通信工業用)を使いました。これの代替品には有名なLM324Nがあります。ほぼ完全な同等品ですからそのまま交換可能です。 過去のIF-Amp.ではAGC回路にC-MOS型のOP-Amp.(LMC6484など)を採用してきました。設計の自由度が高いからです。 しかし今回は回路設計を見直したので安価な『324タイプ』で満足できる性能が得られています。『324タイプ』なら汎用品なので入手に困りません。各社から互換品が出ていてどれも一つ数十円で買えます。(OPアンプ4回路分が14ピンのパッケージに入っています)
使用しているIFT(中間周波トランス)は、トランジスタラジオ用の一般的なものです。黄・白・黒の3本組になった市販品のほか「8石ラジオの製作」(←リンク)で作ったようなIFTを自作しても良いです。ここではリンク先の内容とまったく同じようにaitendoの『IFTきっと』で自作したものを使いました。同調容量は330pFです。なお、写真を見ると段間にも黄色コアを使っています、これはテスト中に段間用(白)を破損したためで、初段用(黄)で応急に代用しました。初段用(黄)と段間用(白)はほぼ同等なので代用して大丈夫です。違わぬ性能が得られます。(注:検波段用の「黒」は2次側の巻線がずっと多いので「黄、白」での代用はできません。逆も不可です)
参考:IFフィルタとして市販のセラミックフィルタ(村田製作所製など)を使う場合は回路図の『注・1』のXの所に入れます。 最近になって秋月電子通商で扱い始めた中国製のセラミックフィルタ(例:LTM455IW等)もこの場所に入れて使えます。市販品のIFフィルタは455kHzあるいは450kHzなので各IFTの同調はその周波数に合わせる必要があります。
【本当はPIN-Diが良かったのですが】
左は「トランジスタ活用ハンドブック」(通称:トラ活、CQ出版社:JA1AYO丹羽一夫著:1968年初版)からコピーした1ページです。今回製作したIFアンプとAGC回路を試す切っ掛けを与えてくれた記事・回路です。
前回のBlog(←リンク)で検討したようにエミッタの電流負帰還を使って利得を制御するAGC形式はなかなか珍しいものです。 動作はすでに回路図のところで説明しました。
この記事の執筆のために実験をされたのは1960年代中ころでしょう。 ご覧のようにAGC回路のゲイン制御にNPN-Tr(2SC183)のベース・エミッタ間のダイオード特性を利用して好結果を得たとあります。
ただしNPN-TrのB-E間接合はPN型でありPINダイオード構造ではありませんから、必ずしも理想的ではなかったでしょう。実際に試してみたのですが扱う信号が大きくなると整流作用が起こって歪みが目立ってくるようでした。 また、ダイオードとしてはトランジスタ(2SC183)のB-E間接合だけでなく、例えば1S2076Aの様な高速スイッチング用ダイオードでもNPN-TrのB-E間と同じような性能が得られることを確認しました。もちろんPINダイオードと同等の性能が得られる訳ではありませんが。
それでもフツーのスイッチング用ダイオードである:1S2076Aまたは1N914Aに替えたIFアンプで7MHz/CW/SSBを受信して比較したところPIN-Di(XB15A204A)を使ったものと大差のない感触が得られています。 おそらくIFアンプが歪むほど強い信号は稀だからでしょう。あまり大きな入力信号を扱わなければそこそこ実用になるのです。従って割り切って安価なスイッチング用ダイオード(1S2076A,etc)で済ませるのも悪くないと思います。それでちゃんとしたPIN-Diが手に入るまでの繋ぎ以上の実用性があるはずです。そして手に入ったPIN-Diに交換したとしても「劇的な変化」などは感じられないでしょう。
もちろん測定器で比較すればXB15A204Aや1N5767が優れるのは確かです。そもそもこれらのPIN-Diはこうした用途に向けて開発された半導体デバイスですから。
JA1AYO丹羽OMが執筆された当時でもPIN-Diは存在していたと思われますが、まだまだ特殊な半導体だったでしょう。 入手は困難だったはずです。しかも低い周波数まで使用できる1N5767のようなPIN-Diが製造されていたのかも微妙な時代です。 従って今だからこそPIN-Diが最適だとわかるのであり、1960年代中頃の記事としてはなかなか意欲的な内容だったのは間違いないでしょう。(参考:1970年代始めの高級受信機:Collins 651S-1/Aには1N5767がふんだんに使われています)
記事の詳細は省きますので「トラ活』をお持ちのお方は改めて参照されてはいかがでしょうか? 図書館でご覧になるのも良いと思います。 なお、実験データなどいくつかの点でAM受信機時代の内容であり少々物足りなさを感じました。これもご執筆の年代からやむを得ないでしょう。
【2つダイオードを使う形式で】
回路図でご覧のように各アンプに対してPIN-Diを2つずつ使う形式にしました。 『トラ活』の回路や、次項の回路例のようにPIN-Diを一つで済ませることもできます。
この形式のAGC回路ではダイオードに数mAの電流を流した状態のときに低抵抗を示す必要があります。 これはトラ活の記事にもありますが、アンプをフルゲインで動作させるために必要なことです。そうでないと十分なゲインが得られなくなってしまうのです。
ダイオードを2本使い回路図のように使うとダイオードの等価抵抗は1本の時の半分にできます。従ってあまりたくさんの電流を流さずにすみます。 逆に低電流の時の抵抗値も半分になってしまいますが、そもそもエミッタ抵抗は2kΩです。 PIN-Diの等価抵抗が10kΩくらいにできれば支障はありません。RF用のPIN-Diは接合容量:Cjも1〜2pFですから十分高い等価抵抗(等価インピーダンス)が得られます。従って2本使うメリットの方が大きいのです。
2ダイオード形式にしたのはもうひとつ理由があります。RF阻止用の高周波チョークコイル(RFC)を使いたくないからです。 455kHzあたりで十分なインピーダンスを得るためには数mHのRFCが必要でしょう。それだけのインダクタンスだと、どうしても大型になります。またRFCの自己共振周波数が変な所に現れる可能性もあります。RF電圧のピックアップコイルになって動作不安定の原因になっても困ります。できたらRFCは使わずに済ませたいと考えたのです。
1N5767は高価なので4本も使いたくないかもしれません。XB15A204Aもあまり安くはなかったように思いますがパーツボックスで眠らせても価値は生まれません。電子部品は死蔵せず積極的に使うに限ります。それにPIN-Diってかなり用途が限られています。 RFの整流特性(検波特性)が悪すぎて安価なダイオードの代用にさえなりませんからね。(笑)
【教科書では良く見かけるが】
現在ではPIN-DiodeもRF回路ではポピュラーな存在になっています。 主要な用途はVHF/UHF帯の高周波スイッチ用でしょう。 HAMにお馴染みのPIN-Diといえば、MI301(三菱)がありました。 VHF帯トランシーバのアンテナ切替に使われます。 ほかにも家電品のTVやビデオレコーダなどのRFスイッチに使われているので既にポピュラーな存在です。
PINダイオードにはRFスイッチ用とRFの可変抵抗用があります。 RFスイッチ用はON抵抗が小さくできています。 一方、可変抵抗用は電流と等価抵抗の関係が直線的になるようにできています。 これらは同じPINダイオードでも別の種類と考えた方が良いでしょう。 このIFアンプで使ったものは可変抵抗用です。 なお、実験によればスイッチ用のPINダイオードもそこそこ使えますが、VHF帯用の品種が殆どなので455kHzと言った低い周波数で使うのはそもそも難しそうでした。低い周波数で使うと普通のPN接合のダイオードと同じようになって整流作用が現れてしまいます。
左図はPINダイオードの応用例です。RF関係の解説では良く見かける回路です。 可変利得のアンプには等価抵抗の変化を利用しますからスイッチ用は適当でないでしょう。 こうした利得の可変はPIN構造ではない一般的な(P-N接合の)ダイオードでも可能です。 エミッタに現れるRF電圧が十分小さくてダイオードの順方向電圧:Vfを超えなければまずまず使えます。しかしPIN-Diは意図的に高周波の整流特性が悪くなるように作ってあり、等価的には抵抗性を示すためこの用途に最適な電子部品です。
【PINダイオードは可変抵抗器】
左図はXB15A204Aの特性図です。 順方向に流す電流と端子間の等価的な高周波抵抗を示します。 PIN-Diは小型でリードインダクタンスも小さく、並列に入る接合容量:Cjも小さいため、ほぼ純粋な抵抗器のように動作します。
従って、上手に使うと単なる可変抵抗器だけでなく、定インピーダンスに近い特性を持った電圧(電流)可変型のアッテネータ:ATT回路を構成することもできます。 ただし抵抗ゼロにはならないので、アッテネータOFFの状態でも通過損失ゼロにはできず、必ず何がしかの通過喪失分が残るのが欠点でしょうか。 コンパクトに作ると良好な周波数特性が得られるためステップ式よりも使いやすい連続可変型のATTが作れそうです。
XB15A204Aは10μAで2kΩくらい、100μAで320Ω、1mAで42Ω、10mAで5.5Ωと順方向電流により等価抵抗は大きく変化します。 100mAも流すと1Ω少々まで低下しますが、流石にここまで流して使うのは適当でないように感じます。10mAあたりまでと考えるのが適当でしょう。 製作したIFアンプに於いては増幅2段目が8mAくらい、3段目は約3mAで動作します。(いずれも無信号でAGCのかかっていない初期状態で) 従って6.5Ωと15Ωあたりで動作していることになります。 ダイオードは各2本ずつなので、抵抗値は半分になります。 従って各アンプのエミッタ抵抗はバイパスコンデンサが十分に効いた状態で動作しています。
2段目と3段目で差をつけたのは、3段目の利得の方が先に(大きめに)減少するような特性を狙ったものです。 ただし差をつけた意味はあまりなかったようなので、初期電流を変えるのではなく効き始めを変えると言った方法がよかったのかもしれません。とりあえず現状で支障を感じないためそのままにしています。
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【アンプの入力部はベース接地型】
以下簡単に回路のポイントを見て行きます。 まずはIFアンプ初段部です。
2SC1815Yを使ったベース接地型のアンプです。 使用するIFフィルタ(セラミック・ラダー型フィルタを想定)のインピーダンスが50Ωと低いため、それとインターフェースが容易になるようベース接地のアンプを選びました。 ゲインは30dBくらい得られますが、そのままでは過剰です。 負荷側のIFTに47kΩを並列に入れて加減しています。
フロントエンド(RFアンプ部分)であまりゲインを稼がない設計方針なので、必然的にIFアンプの初段はNF(ノイズフィギャ)が良いことが求められます。 使用した2SC1815Yは汎用トランジスタです。特別に低NFではありませんがRF特性の良いTrと交換しても違いは感じられませんでした。 周波数は低周波に近い455kHzですから、こうした用途に対して2SC1815Yは十分な性能を持っていると考えられます。
先にも書きましたが、古い2SC372Yは「フリッカ・ノイズとポップコーン・ノイズ」があるらしく不適当でした。測定値に現れるのは勿論ですが、実際に耳で聞いてもわかります。 2SC372Yと2SC1815Yでは、どちらも似たような汎用トランジスタですが、新しいものは使っているシリコン・ウエファーの純度・結晶性が良くなっているのでしょう。昔と今では製造環境のクリーン度も違うはずです。間違いなく最近のトランジスタの方がローノイズです。 90dBも増幅すると古さが見えてしまうのです。 2SC372Yの手持ちはまだ大量にあるのですがもはやハイゲインな増幅器に使う気持ちは失せてしまいました。 半導体の古いものは良くないですね。(笑)
【AGC用のIF整流回路とAM検波器】
AGCを掛けるためにはIFアンプの出力を取り出す必要があります。 3段目のIFアンプのコレクタ側から十分に増幅された455kHzの信号を引き出します。 順方向電圧の小さなゲルマニウム・ダイオードで倍電圧検波します。
検波直後の段階では455kHzの成分をある程度落とす程度の平滑にとどめます。 その様にしないとAGCの立ち上がり時間を短縮できません。 なお、ダイオードはSBDでも大丈夫ですが、順方向電圧の違いでゲルダイよりもIFアンプの出力は大き目になります。 SSB/CW検波ユニット(←リンク)へはVR1で加減すれば良いのでそれでも特に支障はありせん。
AM検波器はオマケ程度のものです。 そもそもIFフィルタに狭帯域なCW用を使いますのでAM波は通りません。ですから無くても良いものです。 しかし安価なセラミックフィルタを使い9R59/D並みの選択度で作ればAM検波が活きてきます。実際にIFフィルタに中華セラフィルのLTM455IWを使ってみたところ短波放送が快適に受信できました。
IFアンプの出力を小さ目に抑えている関係でAM検波出力も小さ目です。SSB/CWの復調出力と揃えるためにゲイン20〜30倍程度の低周波アンプを付加する必要があります。この程度のゲインは2SC1815のような汎用トランジスタ1石で十分得られます。なお、AM受信にはAGCをSlowにしておけば良いでしょう。 念のため書きますがAM受信機に推奨するものではありません。そもそもこのIFアンプはSSB/CWを目的に設計しているからです。
【3段構成の455kHz IFアンプ部全景】
IFアンプ部分の全景です。 出発点はトランジスタラジオのコンバータ回路+IFアンプですからそっくりのラインナップです。 コンバータ回路の部分をベース接地の初段アンプに転用しただけのものです。(動作電流を増やして大きな入力信号に強くしていますけれど)
単一の周波数で3段増幅しています。全体にトランジスタラジオのIFアンプよりもコレクタ電流を大きめにしている関係でゲインがアップしました。 そのままでは発振し易くなったので、IFTに抵抗を抱かせてゲインをセーブしています。それでも約90dB(=約3万倍)のゲインを得ていますのでかなりハイゲインです。
しかしシングルスーパ形式でしかもフロントエンドであまりゲインを稼がぬ設計にはこれくらいのゲインが欲しいです。またAGCを良く効かせるためにも十分なゲインが必要です。 各増幅段ごとにデカップリングを行ないきちんとバイパスコンデンサを挿入して作れば安定に増幅します。3段増幅と言っても心配はありません。 RF回路の基本に法って作ればモトがトランジスタラジオの回路ですから安定した動作が期待できます。
【IFアンプの入・出力特性図】
製作したIFアンプの入出力特性です。
4種類の測定結果を一つのグラフに纏めたので少々わかり難いかも知れません。 左側のスケールを確認しながら読み取ってください。
まず、AGCが掛かっていない状態におけるゲイン・・最大ゲインになります・・ですが、0dBμ入力のとき57mVppの出力があります。この57mVppはTP-IF-Out端子の電圧でオシロスコープで読み取っています。 57mVppは20.2mV(rms)です。0dBμ(=1μVrms)はEMFですからIFアンプの入力端では半分になります。 ゲインは20.2x10^-3/0.5x10^-6 = 40310倍ですから、92.1dBとなります。 TP-IF-Out(Vpp)の読み取り精度があまり良くないので最大ゲインは約90dBと考えています。
図でグラフ下部に示す*1の範囲はAGCが掛かり始めるところです。約30dBμ(=入力端15.8μV)までの範囲ですが、検波出力は入力信号の大きさに比例します。従って弱い信号は小さな音で、強くなれば大きな音で受信されます。 ただし7MHz帯の受信機に使った例では外来ノイズレベルが高いので10dBμ以下で受信できるような信号はありません。(要するに*1の左半分くらいは外来ノイズレベル以下の領域です。IFアンプ自体は十分ローノイズなので聞こえるか聞こえないかは外来ノイズに支配されるわけです)
*2の部分は十分にAGCが掛かってIFアンプの出力がほぼ一定になる範囲です。30dBμ〜90dBμの60dB(1000倍)の入力範囲です。 この間でIFアンプの出力電圧:IF-Outは約600mVpp〜約950mVppの変化があります。 これは入力が1000倍変化したとき、950/600 = 1.583倍の変化になります。 60dBの変化が約4dBの変化に圧縮されるわけです。 これがAGCの効果であり、AGCの効き具合としてはなかなか良好だと言えます。PIN-Diを使った電流負帰還型のAGCでまずまずの性能が得られました。
最後に*3の部分です。 これは入力が大きくなりアンプ初段が飽和してきて歪みが発生してくる範囲です。90dBμはアンプの入力端では15.8mV(rms)です。普通の受信状態ではあまり考えられない状態と言えます。
検討してみましょう。 このIFアンプの前には6〜10dBの損失を持ったIFフィルタ(セラロック・ラダー型フィルタ)が前置されます。 また、MixerにはDi-DBMを想定しているのでここでも6dBほどの損失があります。 従って、Mixerの入力に於いて12〜16dB大きな信号になるでしょう。 もし損失の合計が12dBとすればMixer入力では102dBμとなります。 これは負荷端で約63mV(rms)であり、RFアンプのゲインを考えても普通の状態では殆ど起こらない入力状態です。 実際の受信においてもこの大きさまで届く信号はまず存在しないようでした。従って実用上ほとんど支障はなさそうです。
この*3の範囲は採用したAGC回路の方式では大きくなった入力信号を絞りきれない状態にあります。 IFアンプの入力側で直ちに絞ると言った対策が必要です。 アンプにAGCを掛ける方法では無理があり、いきなりATTで絞る必要があります。PIN-Diを使ったATTをIFアンプの頭に置くのが適当そうです。しかし上の考察のように実用上の支障はあまりないとも言えるのでATTの採用は思案中です。
TP-VSM-Outの電圧変化(緑のトレース)を見ると、Sメータの振れ方がわかります。入力5dBμあたりから振れ始め、45dBμくらいで飽和します。 従って、この40dBの範囲しかメーターの振れは変化せず、だいぶ狭いことがわかります。 グラフの縦軸はLog目盛なので要注意です。振れ始めるといきなりフルスケールと言った「ON/OFF的」な振れ方と言っても良いでしょう。 Sメータはオマケ的な装備なのでこの程度で我慢しましょう。それでも振れ始めのポイントとフルスケールをうまく加減するとオマケ以上の意味があります。やはり受信機にSメータは必需です。
AF-Out(Vrms)のカーブ(ピンクのトレース)はSSB/CW復調ユニットのAF出力電圧です。 これはIF入力が40dBμのとき、AF-Outが500mV(rms)になるようIFアンプ側のVR:1(IF-Out ADJ)を合わせてから測定したものです。BFOの発振周波数を調整して800Hzのビートが聞こえる(出力される)ようにしておきます。(参考:このときSSB/CW復調ユニットの入力電圧は約34.5mV(rms)です)
【AGC回路は安価なOP-Ampで構成】
長い間アマチュアが自作する受信機のAGC回路は簡単な回路構成でした。 AMとCWが主体の真空管時代にあっては平均値型AGCで済むこともあり、検波・平滑しただけの電圧が利用されてきました。 真空管式受信機では凝ったAGC回路にすると球数が多くなって実現は大変でした。工夫された例もありますが多くは複雑化を嫌って簡単なAGC回路のままでした。
半導体の時代になってもAGC回路は相変わらず簡素なままでした。 トランジスタ1〜3石のDCアンプを使うのがせいぜいです。 上手く作ればそれでも必要な機能・性能は得られます。しかしカットアンドトライで追い込むと言った「チューニング」が必要です。 数石のAGCアンプでは性能が十分でないからです。 そのためAGC電圧の大きさ、立ち上がり時間、電圧保持特性と言った諸条件が独立に設定できず、結局カットアンドトライで妥協点を見い出すことになったのです。
さりとて高度なAGC回路をトランジスタやFETだけで構成すれば部品数ばかり増えてしまいます。しかし現在ではOP-Amp.の性能・特性をうまく活用すると理想に近い設計が可能です。
OP-Amp.が高価なら実現も難しいでしょうが、この中間周波増幅器ユニットに使ったようなOP-Amp.は僅か数10円のチープなものです。 AGCに必要な機能や性能を独立して設計し盛り込むことができますから積極的にOP-Amp.を使うべきです。 ここでも入力インピーダンスが高く、バイアス電流がとても少ない、出力インピーダンスが小さいと言ったOP-Amp.の特徴を活かしています。
近頃はHAM関連の機器にも積極的にOP-Amp.を使っています。 Blogのいくつかの製作例では使い易さからC-MOS構造のOP-Amp.を使いました。(例:LMC6484AINなど) それを使うと設計の自由度が増して好ましいのですが電子部品としては幾分割高で入手性も良くありませんでした。(通販なら買えますが地方では売っていない。汎用品の10倍くらいのお値段) 今回は4回路入りOP-Amp.としてポピュラーな『324タイプ』を使いました。 幾らか設計しにくさも感じましたが希望の性能が得られています。 写真のμPC451Cの同等品:LM324Nは汎用品なのでOP-Amp.4回路入り一つが50円以下で買えます。 アマチュアの無線機器にもこうした安価なOP-Amp.を存分に活用したいものです。
【簡易フロントエンドを搭載】
これは次回の予告です。
本格的なフロントエンドは未だに設計検討中ですが、とりあえず半ば実用的にも使えそうなフロントエンドをIFユニットの余白に組み込んでみました。 局発は外部から供給する必要がありますが、簡易フロントエンドの追加で一つの受信機としてテストが可能になります。
ごく簡易なものなので本格的な受信機としては物足りないのですけれど、意外にも思った以上にFBでした。 せっかくですから簡単に評価してみたので回路とその評価結果などをレポートする予定です。 本格フロントエンド設計の見通しを付けるにも役立ちます。 見ての通り、ごくシンプルなフロントエンドですが・・・。(笑)
【選択度は世羅多フィルタで】
写真はセラミック発振子で自作したラダー型CWフィルタです。
これも次回の予告になりますが、ざっとおさらいしたいと思っています。 当Blog前身のホームページ時代に登場した話題ですが範囲を絞って改めて扱おうと思います。
上記のOP-Amp.もそうですが安価な素材で実用的な性能を持った受信機の実現を目論んでいます。 写真のCWフィルタは単価数円の中華セラミック発振子を並べて作りました。7MHzのように混んだHAM Bandでも実用になるCWフィルタが作れます。 中華セラロックは今でも安価に手に入りますから自作ファンならぜひ活用したいデバイスです。
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【新時代の受信機設計のお話し】
これは「日経エレクトロニクス誌」に掲載された記事です。(1975年7月28日号:pp135〜143)
陳腐な回路と安物のデバイスばかり使った「私だけの受信機設計』にはまったく目の毒のような内容かもしれません。 昔々、会社の図書室で見付けたときにコピーを取っておいたものです。(ご希望のお方にはPDF版を差し上げたいと思っています)
新しい時代の受信機設計として、まさしく時代を反映した斬新な内容だったからです。米国Electronics誌に掲載されたこの記事は大変なインパクトがあったのでしょう。続編とも言えるHAM向きの話がARRLの機関紙「QST誌1994年5〜7月号」に掲載されます。そしてQST誌の全文訳がJAの「HAM Journal誌No.94」にも載りました。ご記憶のお方もあるでしょう。 高級すぎるかも知れませんが受信機が目指すべき方向を示していると思います。部品に対する知見、回路の選び方なども示唆に富む内容です。
デジタル処理が全盛の時代になり、主としてアナログ処理をメインにした内容はだいぶ色あせてしまったかもしれません。 しかしアナログ処理で最高の性能を目指すならもう一度参照する価値があります。 更に、まったく完全にデジタル処理だけで実現できる受信機はないでしょう。 フロントエンドの設計とか、まだまだデジタル時代の受信機設計にも通ずる内容も多いはずです。 あらためて読み返しているところです。
☆
次回は「中間周波増幅器・その3」として、今回あまり詳しく扱えなかったPINダイオードの活用法などを交えたいと思います。 また応急対応ではありますが手っ取り早く実用に使うための『暫定版フロントエンド』の回路と特性など探りたいと思います。この結果は本番のフロントエンド設計に十分反映できるはずです。 セラミック振動子を使ったIFフィルタについてもざっとおさらいします。 合わせて『秋月の中華セラフィル』も扱いたいですね。 少々盛りだくさんかも知れませんが発散しない程度に進めてみるつもりです。ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンクmn
【私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)
第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→いまここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ
2022年5月30日月曜日
2022年5月16日月曜日
2022年5月1日日曜日
Intermediate Frequency Amplifiers (1)
【中間周波増幅器・その1】
【中間周波増幅なんて簡単?】
受信機の構成要素を味わいながら進めている「私だけの受信機設計」も回を重ね第5回になりました。今回は中間周波増幅器(IF-Amp.)を特集しその関連で少しだけAGC回路(自動利得制御回路)にも触れます。(参考:前回は(リンク→)プロダクト検波を扱いました)
かつての真空管時代にあって中間周波増幅器は意外に画一的だったように思うのです。もちろん増幅段数の違いや増幅系統を分けると言った工夫も高級受信機では試みられていました。
しかし電子デバイスを見ると「可変増幅率真空管」一本やりのように感じるのです。あまりバラエティがありません。それだけ優れた特性の球だったのですね。写真に「可変増幅率真空管:バリミュー管」を集めてみました。バリミュー管自体は古くからありましたがスーパ・ヘテロダイン形式のラジオが標準になると中間周波増幅器に使うのが常識化したようです。これは家庭用ラジオを扱い易すくするためにはAGC/AVCが必要だったからです。
6D6と6BD6はラジオ受信機の定番球でした。6AB7/1853と6EH7は受像機の映像中間周波増幅のために作られた一段と高性能なバリミュー管です。
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通信型受信機にあって中間周波増幅器はゲインの多くを受け持ちます。おおよそ半分くらいはここで稼いでいるでしょう。これは真空管式に限らず半導体式でも同じ傾向にあります。 しかしながら真空管と半導体では動作電圧が違いますし回路インピーダンスも異なっています。従って徐々に独特の回路へと進化して行きます。ここではそうした変遷について回路の特徴を見つめながら追いかけたいと思います。
例によって自家製受信機の製作にいたる単なる雑談ですから「アナログな受信機」にぜんぜん興味のないお方はスルーでよろしく。(笑)
◎ 受信機にまつわる感想とか思い出はコメントでどうぞ。
【中間周波増幅器は感度の源泉】
図はシングルスーパのブロック図です。登場は3度目ですね。
今回は中間周波増幅器:IF-Amp.を扱います。 図ではIFT三つと2球あるいはIFT二つと単球の構成でサラリと書いてあります。 言うまでもなくこのような球式受信機の感度(増幅度)と選択度を決める重要部分です。
AM/CW時代の球式受信機は平均値AGCであっさりと済まされています。AM受信はAGC/AVCで受信し、CWでは手動でスムースにゲイン調整できるならAGCなしでも済むからです。バリミュー管の特性はAVCにも手動ゲイン調整にも最適でした。 やがてSSBが登場します。SSBでは勿論ですがCWに於いてもバッチリAGCを効かせるのが常識的になって大きく変わったのはAGC回路でしょう。そこは左のブロック図にはありませんけれど・・・。
【高1中2・通信型受信機】
左図はトリオが1970年代まで販売していた通信型受信機製作用のコイルパック:KR-42Cの取扱説明書から引用しました。
回路としては同社の通信型受信機:9R42Jに類似でしょう。 ご覧の回路のように真空管の全盛期においてIF-Amp.部分はかなり定型化していました。
IF-Amp.用に作られたバリミュー管の性能が素晴らしかったのでそれに全面的に依存してしまったからかも知れません。特に6D6、6SK7、6BD6のリモートカットオフ特性は素晴らしいものです。 SSB以前のAM時代の受信機としては単純なAGC回路(AVC回路)でもスムースな利得制御特性が得られたからです。そしてCWの受信ではAVC=OFFとして手動ゲインコントロールで受信するのが一般的でした。回路を見ればわかりますが、BFOをONしたらBFOによってAGCが掛かって感度が抑圧されてしまいますからね。 必然的に手動ゲインコントロールになる訳です。 この時代の受信機では最初の写真のような真空管が主役となって活躍しました。
#残念かも知れませんが真空管式受信機はさしあたってのテーマではありません。将来はわかりませんがとりあえず程々でやめておきましょう。もしも未練があるなら自身で研究されてください。趣味の世界ですからどんなデバイスを使おうと不合理と言うものはありません。自由・気ままに楽しむに限ります。
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【中間周波増幅器のトランジスタ】
写真は中間周波増幅に(にも)使うトランジスタです。
ゲルマニウム・トランジスタの時代にはIF-Amp.用のトランジスタがたくさん存在しました。高周波全般に使えるような周波数特性の良いトランジスタを作るのは難しかったからです。
低周波用より幾らかトランジション周波数:fTが高いだけのIF-Amp.用にも存在意義がありました。このころのIF周波数と言えば455kHzが常識でした。 今ではゲルトラは趣味人のデバイスと化しています。使えない訳じゃありませんが具体的な回路の検討は省略しました。しかしシリコンのTrと大差なく使えるはずです。(ゲルトラは機会があればまたいつか)
シリコンの時代になってからもIF-Amp.用のトランジスタは僅かに存在します。 ただ、実際に使ってみても汎用トランジスタとの違いは感じられませんね。従って汎用のシリコントランジスタ(汎用・はんよう=特に用途は定めず様々な回路に使えるトランジスタ)で十分なわけです。写真の2SC183や2SC372はそうした初期の汎用トランジスタです。今でも手軽に使っている2SC1815は代表的な汎用のトランジスタです。
そのシリコン・トランジスタ(Si-Tr)にあって特徴的なのはフォワードAGC用のトランジスタでしょう。写真の2SC1855はその一つです。主にTV受像機の高周波及び映像中間周波増幅に使われたトランジスタです。 強力な信号の受信時に強いAGCを掛けてゲインを絞ると増幅器の性能が低下することがあります。 人間の目は耳以上にシビアに違いがわかってしまうためTV受像機では送信アンテナに近い強電界地域における画質劣化が問題になったのです。詳しくは後ほど触れますが対策用の増幅素子として登場した特殊な特性のトランジスタです。(参考:そのかわり普通の増幅回路には向きません)
デュアルゲートMOS-FET(DG-MOS-FET)は5極管と良く似た特性を持っています。 以前のBlog「2ゲートMOS-FET RFアンプ」(←リンク)で高周波増幅での基本的な使い方を紹介しました。写真の3SK51はそのFETの一つです。 入力インピーダンスが高いと言った特性から真空管時代の回路技術を生かしやすい特徴がありました。 ただしシャープカットオフ特性ですからAGCの効きかたはバリミュー管のようには行きません。HAM用の無線機でも真空管から半導体への過渡期によく使われた半導体デバイスです。そして真空管のことなどよくは知らなくても、高周波用デバイスとして使いやすいため現在でも使われ続けています。
【6石スーパのIF-Amp】
トランジスタ式受信機の原点といえば6石スーパです。トランジスタを6つ使った実用的なトランジスタラジオでした。
真空管式のラジオでいえば5球スーパに相当します。5球スーパではIF-Amp.は1段だけの増幅でした。トランジスタの場合、1段増幅では必要十分なゲインが得難いことと入出力インピーダンスの関係から必要とされる選択度も得られません。そのため図のような2段増幅回路がトランジスタラジオの標準回路になりました。
図の回路は「シリコントランジスタ活用辞典」(CQ出版社1969年:時田元明 著)から引用しました。 減電圧対策のためにバリスタダイオードを使って工夫された回路になっています。乾電池の消耗に備えた工夫です。それ以外はごく標準的なラジオの中間周波増幅器です。2段増幅で50〜60dBのゲインを得ています。 ごく一般的な平均値型のリバースAGC回路になっており、残念ながらあまり良くは効きません。 しかしAMラジオは近隣の放送局を受信して楽しむものです。信号強度が大幅に異なる放送局を聞くことは殆ど無いはずですから程々のAGCでも実用になるのです。 夜間になって聞こえてくる遠距離局の受信が難しいのは止むを得ないでしょう。
60dBくらいのゲインがあれば通信型受信機にもまずまず使えます。但しAGC特性は物足りません。ダイオード検波したあとDCアンプなど補えばマシにはなりますがHAM用の受信機には不満が残るでしょう。 こうしたラジオの定番回路は平凡すぎるかもしれませんが動作は確実で安定しているため自作受信機でも十分参考になります。半導体を使った基本的な回路として真っ先に採り上げました。
【BJTだって意外に使えます】
自作HAMにはおなじみのJA1AYO丹羽さんは初心者向けから高級な記事まで幅広く執筆されています。図は「模型とラジオ誌('84年廃刊)」に連載された製作記事からの引用です。(1979年12月号)
どのようなコンセプトの連載記事だったのかは調べていませんが、雑誌の性格からオーソドックスな回路と入手容易な部品を使った初心者向けの通信型受信機製作記事なのでしょう。2SC372と言った当時入手容易で安価な普通のトランジスタ(BJT)だけで構成されています。今でしたら2SC1815や2SC2458が相当品です。
左図の回路での注意点ですが、段間に使っている東光製の簡易型メカフィル:MFH-50Kはずいぶん前に廃番になっています。古いメカフィルは劣化が心配なので中古品も敬遠した方が良さそうです。
MFH-50Kの代替品として秋月電子通商が売り始めた中華セラフィルとIFTの組み合わせが良いです。もっとも選択度の良いLTM-455IWを使うと9R-59D並みの選択度になります。SSB/CW用としては選択度不足ですが、まずまず使い物になります。なお、中間周波フィルタについては改めて扱うつもりです。
トランジスタを使ったAM検波器とそれに兼ねた増幅型AGC回路になっています。珍しい回路ですが上記の6石ラジオよりも効きの良いAGCが実現されていると想像できます。AGCの時定数切り換えも付いてます。SメータはAGCで制御されるIF初段トランジスタのエミッタ電圧の変化を読みます。無信号時にゼロ点のバランスをとっておき、信号が強くなるとAGCが掛かってエミッタ電圧が下がり指針が振れます。メーターは100〜200μAフルスケールの感度の良いものが適当でしょう。たぶんON/OFF的なメータの振れ方だと思います。
あまりAGCの効き方に拘らず安価に実用品をまとめるには良い回路のように感じました。 受信機なんて必要十分に聞こえさえすれば良いのであって安くて手軽なデバイスで実現可能ならそれで十分という考えもアリですね。
【珍しいAGCのIFアンプ】
図はFETとシリコントランジスタを使って本格的な通信型受信機を製作すると言う記事から引用しました。「トランジスタ活用ハンドブック」からで、こちらもJA1AYO丹羽さんの執筆です。
既にお気づきかもしれませんが、IF-Amp.とAGC(自動利得制御)は不可分です。決まっただけ増幅するだけの回路(固定ゲインのアンプ)なら簡単ですが、増幅度が変化する(変化できる)可変利得の機能を持たせると課題が増えるのです。
図の回路は増幅器のエミッタ抵抗のバイパスコンデンサの効きかたを変えて可変利得を実現しようとするものです。 各トランジスタのエミッタに入った抵抗器(2kΩ)のバイパスコンデンサを取ってしまうと電流負帰還が掛かります。その結果アンプのゲインは大幅に低下します。このバイパスコンデンサの効き方を加減してやれば可変利得が実現できます。その加減にはダイオードの等価抵抗が順方向電流によって変化する特性を利用しています。
原理は教科書にも載っていますから奇妙な回路というわけではありません。しかし、原理図ならともかく実際に採用したIF-Amp.回路はこれ以外に見たことがなく、初めて見たときは半信半疑で眺めたことを思い出します。これで十分なAGCの機能・性能が得られるのか疑問に感じたわけです。 執筆時期が古いらしく、結果を示すグラフはAM波が対象なので効果(性能)が判りにくいです。それが懐疑的に見えた理由かもしれません。ただ、こうした方法で必要なだけのゲインが得られコントロールも可能なら再評価してみたいと思いました。
ー・・・ー
以上見てきたように、ごく普通のトランジスタを使ったIF-Amp.はAGCを考慮すると性能的に苦しいと思います。ゲインコントロールの範囲を広くするために増幅段数を増やすといったAGCに対応した設計が必要です。 しかし使うトランジスタはあまり増やしたくはないし・・・。ならば別のデバイスを使えば良いわけですが、入手容易な部品だけで実現できる回路には何となく魅力を感じてしまうのです。hi
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【フォワードAGCのIF-Amp・1】
図はCQ出版社:HAM Journal誌No.46からの引用(JF1DMQ、JH1XTG、JH1GNUの3名のOM共著記事でpp93〜pp103)です。 高性能受信機の開発というより、それ以前の実験が目的かもしれませんがたいへん力のこもった記事でした。 なお、以下の説明は私自身の記述であり記事の要約ではないことに注意してください。
普通のトランジスタの場合、コレクタ電流を下げて(小さくして)行くと利得(ゲイン)は下がります。6石ラジオのIF-Amp.でAGC回路に使われる方法です。結果として入力信号が大きくなるとコレクタ電流は減少する方向になるのでリーバース(逆方向)AGCと呼ばれます。 真空管のIF-Amp.でも同様です。グリッド電圧を下げ、プレート電流を絞りgmを下げてゲインを低下させるわけです。同じくリバースAGCです。
トランジスタ回路の場合、リバースAGC形式でゲインを絞るとそのアンプはとても飽和しやすくなります。FETを使ったとしても同じです。 これは当たり前で、ロクに電流も与えない(流さない)状態の回路が大きな信号を歪みなく扱えるはずはありません。真空管と違い電源電圧が低いのもたいへん不利です。そのためIF-Amp.は入力信号が大きくなってAGCが掛かるほど歪み易くなってしまいます。(こうした方法でゲイン制御してはいけないことは近代設計の受信機では常識ですがここでは踏み込みません)
トランジスタのコレクタ電流とゲインの関係を調べると、コレクタ電流を大きくする方向でも利得の低下が起こります。これはコレクタ電流が大きくなるとhFEが下がる特性があるためです。同時にトランジション周波数:fTも減少傾向になります。しかし普通のトランジスタの場合、壊れるくらいたくさんの電流を流さないと利得は目立った低下をしてくれません。近代的なトランジスタはそのような(優れた)特性になるよう作っているのですから当たり前の話です。
フォワードAGC用トランジスタは、壊れるほどコレクタ電流を流さなくても十分に利得が低下するように作られた特殊なトランジスタです。普通のトランジスタでは欠点となるような特性を持たせてあります。コレクタ電流を増やすとすぐにhFEが低下するような特性です。同時にトランジション周波数:fTも激減するのは特徴的です。そのためコレクタ電流がある大きさを超えると劇的なゲイン低下が起こります。実際にフォワードAGC用トランジスタ:2SC1855のfTを実測して評価したことがあるのでリンク(→トランジスタのfTを実測する)を辿ってください。 グラフをみるとIc=5mAではfT>450MHzだったのにIc=20mAでは1MHzを割るほどの激減です。それでIcがちょっと増えただけで物凄く高周波の増幅性能が悪くなるのです。 普通のトランジスタではこんなことはあり得ないことです。 そしてAGCとしては大きな信号の時にコレクタ電流を増やす方向なのでむしろ歪みにくくなって有利な訳です。
フォワードAGC用トランジスタの「ゲイン対コレクタ電流の特性」に着目して設計したのが図のIF-Amp.です。コレクタ電流を直接制御することに拘った設計のように感じます。各トランジスタ(2SC1855)のエミッタ側に可変型の電流源回路を構成しています。その電流源を電圧制御して広範囲なAGC特性を得ようと目論んでいます。 回路図の引用程度では説明し切れませんから詳細は原著をご覧になるのをお薦めします。HJ誌は雑誌ですから一定期間で処分されてしまうためローカルな図書館にはないかも知れません。出版社のコピーサービスが利用できるでしょう。大塚駅前のJARL資料室にもアーカイブがあったと思います。
図の回路ですが、凄く考えられた入念な設計になってます。ですが複雑すぎて私には手に余まりそうです。試すほどの気力が湧かないのも残念です。できたらもっとシンプルな設計で済ませたいなあ・・・と思うのです。(笑)
【フォワードAGCのIF-Amp・2】
これもHJ誌からの引用(1989年 No.59:pp25〜pp45:佐藤洋 著)です。同じ2SC1855を使っていますが、ずっとシンプルな回路になっています。
通信型受信機の製作記事ではありません。スペアナの製作記事なのですが、IF-Amp.としての機能は類似しています。記事ではスペアナにLog表示させるためにフォワードAGC用トランジスタの特性を利用しています。 しかし目的は違っても受信機のIF-Amp.の要件にマッチしていますので十分参考になります。 もちろんAGCの効かせ方は受信機とスペアナではかなり違うため設計を変えなくてはなりません。主に時定数の持たせ方を変えれば良いのであって、IF-Amp.の利得制御の機能はそのままで良いと思います。
同じ2SC1855を使った回路でもずいぶん簡潔です。これくらいなら製作意欲も湧きそうです。私向きかもしれません。(笑) 得られた性能を見ても十分すぎるくらいです。何しろ測定器に使おうというくらいなのですから。 どうやら複雑な回路でなくても実用的なIF-Amp.は実現できると思って良いでしょう。 フォワードAGC形式のIF-Amp.に挑戦するのには向いていると感じました。
フォワードAGCでやれば強入力でも歪みにくい高性能なIF-Amp.が完成しそうですが弱点を忘れてはいけません。コレクタ電流の増加でhFEやトランジション周波数:fTが急減するという特性を利用してゲインを制御しています。従ってIF-Amp.の周波数はある程度高くないと旨く行きません。
具体的には数MHz(5MHzくらい?)以上の「ハイフレIF」で使うべきです。455kHzでは低すぎてトランジスタの特徴を活かすには適当でないでしょう。フォワードAGC用トランジスタと言えども危ないくらい電流を流さないと十分に利得は下がってきません。トランジスタひとつあたり最大で30mAくらい流す必要があって、これはIF-Amp.としては明らかにやりすぎです。コレクタ電圧を下げなければ許容Pcをオーバーしそうです。やってみるのは自由でしょうが、合理性を欠いた無茶な使い方はちょっと恥ずかしいかも知れませんね。 せっかくチャレンジするなら数MHzのIF-Amp.に採用してみたいと思います。
◎ 参考までに、米軍野戦用トランシーバ:PRC-74BにはAGC機能はついていませんがフォワードAGC用トランジスタを使ってスムースで広範囲な(手動による)ゲインの可変を実現しています。IF周波数=1.75MHzです。このくらいの周波数でもなかなかうまく動作しています。簡単な内容ですが興味があればリンク先(→ハイレベルDi-DBM・Part 1)に紹介があります。
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【DG-MOS FETのIF-Amp】
デュアル・ゲートMOS-FET(DG-MOS-FET)を使ったIF-Amp.を見ておきます。これはCQ誌1980年11月号pp287:JA1AYO丹羽さんの記事から引用した回路です。
熊本Cityスタンダード(←参考リンク)からの影響でしょうか?アマチュアの自作品では2ゲートMOSを使ったIF-Ampもポピュラーでした。もっとも、TRIO/KENWOODのトランシーバでは主役として使われていましたので、その当時のスタンダードデバイスだった感があります。
この回路は、後ほど触れるICを使ったIF-Amp.の代用として提案されたものです。ICを使ったIF-Amp.は「そのIC」がディスコン(Discontinue:継続しないの意で製造中止を意味する)になったらもう作れません。
本来ならIF-Amp.専用のICを使った方が高性能ですが無い袖は振れないので代替で対策されたようです。機能は類似にできますが残念ながらICを使ったIF-Amp.のようなAGCの性能は望めません
これはこれで部品の入手が容易なのが取り柄であり普遍性があって悪くない回路だと思っています。今は以前にも増して部品事情は悪くなっていますからね。
この回路で作ってみるなら上の参考リンク先で紹介している「BF998」と言うヨーロッパ系のDG-MOS-FETを使うのが良いです。3SK59と同等以上の性能が得られるうえ通販で安価に入手できます。
【MIZUHO SG-9】
上の回路ではミズホ通信機のSB-21を参考にされたとあります。SB-21の回路図は見つからなかったのですがSG-9の回路図を見つけました。
少々複雑ですがSG-9はSSBの送受信ユニットですから送信の回路も含まれています。IF-Amp.について見るとDG-MOS-FETを使った回路になっています。JA1AYOの回路と比べるとAGCの掛け方に違いがあります。前項の回路では第2ゲートのバイアス電圧を制御してAGCを掛けています。しかもトランジスタを使った増幅型AGCになっています。 SG-9の回路はIF-Amp.が3段構成であり第1ゲートの方にAGCを掛けています。第1ゲートに掛けた方がAGCの効きが良いため単純な回路になっているのでしょう。アンプは3段ですからゲインも十分です。
SSBの復調と送信時の変調兼用でDBM-ICのSN76514Nを使っています。SSB復調器にもゲインがあって全体的にかなりハイゲインな設計のようです。シングルスーパ構成でトランシーバを構成しようとするとゲイン不足に陥ることがあります。そうした懸念がないようタップリ増幅する設計のようですね。JA1AMH高田さん(故人)のポリシーがあるのだと思います。
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【IF-Ampに使われたIC】
IC(集積回路)を使う目的な何でしょうか? 民生品用として開発された初期の説明では「小型化」が最重要視されていたように記憶します。例えば補聴器や超小型マイクロラジオのようなアプリケーションでした。
しかしICがごく普通に使われ始めると主な目的はそこではなかったことが明らかになります。本質は「回路の再現性確保」にあったと思うのです。 ICの採用は誰が作っても同じ性能が得られる回路の実現に効果的だったからです。
あまりIF-Amp.と関係のない話になってしまいました。話を戻しましょう。
見てきたようにIF-Amp.はディスクリート(個別の)半導体でも構成は可能です。しかしICを使うと均質な性能が実現しやすいのも事実です。そのため徐々にICを使ったIF-Amp.も増えて行きました。 自作を扱う雑誌記事では均質な性能の実現は常に存在するテーマです。いくら魅力的な能書きが並んでいても筆者と同じ性能や機能が得られなければ記事の意義が問われてしまいますからね。ですからIC化で一定水準の性能が得られ易いならとても有り難いお話しです。
これはメーカー機の量産でも同じ事情でしょう。ICを採用したRigも少しずつ登場しました。 写真はIF-Amp.に使われるICのほんの一例です。 ここでは触れませんがAD603ARは特にIF-Amp.に向いた高性能なICです。その素性についてはBlogで投稿済みです。少々使うのは難しいのですが、興味があればリンク(→ここ)で辿ってください。
【八重洲FR-101のIF-Amp.】
日本のアマチュア無線機器で逸早くICが使われたのはFT-101だったと思います。 いや、Frontier ElectricのSuper 600GTBだよって仰るお方もあるかも知れません。まあどちらも大差ない時期に登場したRigでした。使われていたのは中間周波増幅器(IF-Amp.)と低周波部です。
FT-101の場合、ICを使う意義はそれほど大きくはなかったように感じます。幾らか小型化には寄与したかも知れませんが他の部分がそのままでは大きな効果はなかったでしょう。コマーシャル的な意味だったのかも知れません。 しかし同じ回路はアマチュアに真似られてけっこう流行ったように思います。
CA3053/CA3028A/TA7045Mはトランジスタ3つ抵抗器3本のシンプルな中身のICです。これら3種のICは同等品です。上の写真にあるLM3028Hもナショセミ製のセカンドソースです。 差動増幅回路が基本ですが、カスコード接続のアンプとしても使えます。FT-101では後者のような回路で使われておりAGCが掛けやすかったのが特徴でしょう。HF帯のIF-Amp.の場合、出力側からの帰還があるとAGCの制御範囲が狭くなってしまいます。カスコードアンプなら帰還は少ないため好都合です。もちろん「中和」など必要ありません。しかもICですから再現性が良く回路そのものをコンパクトに作れるのも有利です。
FT-101ではCA3053を一つだけ使っていて不足分のゲインはトランジスタのアンプで補っていました。高級通信型受信機のFR-101はIF回路のプリント基板にゆとりがあったので2つ使ったのではないでしょうか。もちろん掛けられる部品コストにも余裕があったのでしょう。 お陰でゲインに余裕ができAGCの効きも良くなっています。 ICのCA3053,etcが入手容易なら今でも有望なIF-Amp.かも知れませんが全てディスコンです。代替法は他にあるのですから拘って入手しても意味はないかも知れませんね。
【AGC付きIF-AmpのICは?】
再びJA1AYO丹羽さんのIF-Amp.が登場です。 図は「ハムのトランジスタ活用」(1980年CQ出版社:JA1AYO丹羽一夫 著:pp123)通称「ハム活」から引用しました。たぶん、入手性の関係だと思いますが丹羽さんは東芝のデバイスがお好きだったように感じます。TA7124Pは東芝のICです。
TA7124Pはシングルインライン(足が一列に並んだタイプ)のICで、TV受像機の映像増幅用に作られたICです。初めから歪みの少ない利得制御が可能な回路になっています。リバースでもフォワードでもないAGC回路になっていて、あえて言うなら「分流型AGC」でしょうか。AGCが掛かると増幅している信号成分の一部をバイパスして逃すように動作するのです。そのため、単純にコレクタ電流を絞るといった動作ではないため大きな信号でも歪みにくいのです。消費電流もむやみに大きくなったりしません。
TA7124P一つで得られるゲインは最大50dBくらいです。高性能な通信型受信機用のIF-Amp.としては不足なので2つ使う必要があります。AGC範囲は一つで60dB得られます。2つ使ったからと言って120dBにはなりませんが80dBくらいなら容易です。 内部回路は差動アンプ形式になっています。実験によれば出力回路にバランスした負荷の形式を使うと性能の向上が図れるようでした。バイファイラ巻きになっているFCZコイルなら好都合です。
残念ですがTA7124Pの入手は余り望みがありません。下記のMC1350Pの方が有望ですが、これもディスコンから時間が経過しており入手は難しくなっています。
【MC1350Pがルーツなんですが】
ある時期TA7124Pの入手は容易だったのでしょう。しかしそれはわりあい短かい期間だったのかも知れません。もともとTVの映像増幅用のICでした。TV用のICは高集積化がどんどん進んだので、IF-Amp.は他の回路とともに規模の大きなICに取り込まれてしまいました。もう個別の映像増幅用ICなど存在意義がなくなったのです。
受信機のIF-Amp.用として有用な存在だったのですが、アマチュアの都合で再生産してくれることはないでしょう。この記事の筆者のJA1AYO丹羽さんも過去の記事の製作が継承できるようご尽力されたようです。各社の類似機能のICを試されたようですが、どれも同じ事情にあってデスコンばかりです。結局、意外にも残っていたモトローラ社のMC1350Pにたどり着かれたのでしょう。 東芝のTA7124Pは外観形状こそ違いますが、中身はMC1350Pのセカンドソース(互換品)と言えるものでした。 MC1350Pがオリジナルなのですから同じように使えて当然ですし性能の違いも殆ど無かったでしょう。 しかしMC1350Pも既に書いたように生産終了の状況にあり残念な限りです。(参考:だいぶ価格が上昇していますが何とか手に入るようです)
ICは便利な存在ですが、それがなくなると一発アウトの憂き目です。(笑)
全くの与太話ですが個人でも昔のICを再生産してもらえそうです。たぶんウン十万円で可能でしょう。 お話を伺ったことがあるのですが意外に安そうな印象でした。 米国の会社なので東芝のTA7124Pは難しそうですがモトローラのMC1350Pなら間違いなく可能そうです。MC1490PかMC1590Gでも良いでしょう。どれも内部のシリコンチップは同じの同等品ですから。 お金が余って困ってるOMサンが発注していただけると自作HAMに感謝されるかも知れません。(爆) →→ Lansdale Semiconductor社へどうぞ。
☆ ☆ ☆
◎おしまいにIF-Amp.に求められる要件をまとめておきましょう。
まずはAGCが掛かる以前にどれくらいのゲインがあるかです。フルゲインで何dBかということです。他の部分との関連もありますが、通信型受信機として最低でも60dBは必要です。AGCとも関係しますが、歪みなく深いAGCが掛けられるのであれば80dBくらいあっても良いでしょう。
次に、IF-Amp.の帯域幅ですが昔の真空管式受信機ではIF-Amp.の全段で必要な選択度を得る設計でした。半導体の受信機の場合、球と類似の設計では苦しいので選択度は専門の「フィルタ」で得るべきです。IF-Amp.で選択度の追求はしませんが、広帯域なノイズを低減するためにIF-Amp.の帯域は絞った方が有利です。
重要なAGCですが、どの辺りの入力から効き始めてどれくらいの入力範囲で一定した出力電圧が維持できるかがテーマになります。さらに、過渡応答のような時間的な要素があるのでかなり厄介です。その受信機の実使用時の操作フィーリングが決まる部分なだけに十分検討をしたいところです。AGCについては機会があったら改めて考察したいと思っています。
IF-Amp.の要件の最後は出力の大きさです。大きさがわかれば検波・復調器とのインターフェース設計が可能になるでしょう。出力インピーダンスと合わせて知っておきたい項目です。
高級な話としては、AGCの掛かり具合に応じたIF-Amp.自身のIMD特性の傾向把握があります。IF-Amp.はハイ・ゲインなので測定しにくい面もありますができたら知りたい特性でしょう。特にSSBの復調音にはかなり影響があるはずだからです。
☆
少々経験不足のお方を惑わせたり、物知り顔の受け売り者を増長させるのは本意ではありません。ですから難しい話もそこそこが宜しいのかも知れません。それでもIFフィルタを含むIF-Amp.とAGCまわりは通信型受信機の心臓部にあたります。ですから少々踏み込まずには済まされないのです。 次回はIF-Amp.の実践編を予定します。 Simple is the Best.を信奉している(大笑)ので凝った回路はご期待されませんように。 ではまた。de JA9TTT/1
(つづく)←リンクnm
【私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)
第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→いまここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ
【中間周波増幅なんて簡単?】
受信機の構成要素を味わいながら進めている「私だけの受信機設計」も回を重ね第5回になりました。今回は中間周波増幅器(IF-Amp.)を特集しその関連で少しだけAGC回路(自動利得制御回路)にも触れます。(参考:前回は(リンク→)プロダクト検波を扱いました)
かつての真空管時代にあって中間周波増幅器は意外に画一的だったように思うのです。もちろん増幅段数の違いや増幅系統を分けると言った工夫も高級受信機では試みられていました。
しかし電子デバイスを見ると「可変増幅率真空管」一本やりのように感じるのです。あまりバラエティがありません。それだけ優れた特性の球だったのですね。写真に「可変増幅率真空管:バリミュー管」を集めてみました。バリミュー管自体は古くからありましたがスーパ・ヘテロダイン形式のラジオが標準になると中間周波増幅器に使うのが常識化したようです。これは家庭用ラジオを扱い易すくするためにはAGC/AVCが必要だったからです。
6D6と6BD6はラジオ受信機の定番球でした。6AB7/1853と6EH7は受像機の映像中間周波増幅のために作られた一段と高性能なバリミュー管です。
☆
通信型受信機にあって中間周波増幅器はゲインの多くを受け持ちます。おおよそ半分くらいはここで稼いでいるでしょう。これは真空管式に限らず半導体式でも同じ傾向にあります。 しかしながら真空管と半導体では動作電圧が違いますし回路インピーダンスも異なっています。従って徐々に独特の回路へと進化して行きます。ここではそうした変遷について回路の特徴を見つめながら追いかけたいと思います。
例によって自家製受信機の製作にいたる単なる雑談ですから「アナログな受信機」にぜんぜん興味のないお方はスルーでよろしく。(笑)
◎ 受信機にまつわる感想とか思い出はコメントでどうぞ。
【中間周波増幅器は感度の源泉】
図はシングルスーパのブロック図です。登場は3度目ですね。
今回は中間周波増幅器:IF-Amp.を扱います。 図ではIFT三つと2球あるいはIFT二つと単球の構成でサラリと書いてあります。 言うまでもなくこのような球式受信機の感度(増幅度)と選択度を決める重要部分です。
AM/CW時代の球式受信機は平均値AGCであっさりと済まされています。AM受信はAGC/AVCで受信し、CWでは手動でスムースにゲイン調整できるならAGCなしでも済むからです。バリミュー管の特性はAVCにも手動ゲイン調整にも最適でした。 やがてSSBが登場します。SSBでは勿論ですがCWに於いてもバッチリAGCを効かせるのが常識的になって大きく変わったのはAGC回路でしょう。そこは左のブロック図にはありませんけれど・・・。
【高1中2・通信型受信機】
左図はトリオが1970年代まで販売していた通信型受信機製作用のコイルパック:KR-42Cの取扱説明書から引用しました。
回路としては同社の通信型受信機:9R42Jに類似でしょう。 ご覧の回路のように真空管の全盛期においてIF-Amp.部分はかなり定型化していました。
IF-Amp.用に作られたバリミュー管の性能が素晴らしかったのでそれに全面的に依存してしまったからかも知れません。特に6D6、6SK7、6BD6のリモートカットオフ特性は素晴らしいものです。 SSB以前のAM時代の受信機としては単純なAGC回路(AVC回路)でもスムースな利得制御特性が得られたからです。そしてCWの受信ではAVC=OFFとして手動ゲインコントロールで受信するのが一般的でした。回路を見ればわかりますが、BFOをONしたらBFOによってAGCが掛かって感度が抑圧されてしまいますからね。 必然的に手動ゲインコントロールになる訳です。 この時代の受信機では最初の写真のような真空管が主役となって活躍しました。
#残念かも知れませんが真空管式受信機はさしあたってのテーマではありません。将来はわかりませんがとりあえず程々でやめておきましょう。もしも未練があるなら自身で研究されてください。趣味の世界ですからどんなデバイスを使おうと不合理と言うものはありません。自由・気ままに楽しむに限ります。
☆
【中間周波増幅器のトランジスタ】
写真は中間周波増幅に(にも)使うトランジスタです。
ゲルマニウム・トランジスタの時代にはIF-Amp.用のトランジスタがたくさん存在しました。高周波全般に使えるような周波数特性の良いトランジスタを作るのは難しかったからです。
低周波用より幾らかトランジション周波数:fTが高いだけのIF-Amp.用にも存在意義がありました。このころのIF周波数と言えば455kHzが常識でした。 今ではゲルトラは趣味人のデバイスと化しています。使えない訳じゃありませんが具体的な回路の検討は省略しました。しかしシリコンのTrと大差なく使えるはずです。(ゲルトラは機会があればまたいつか)
シリコンの時代になってからもIF-Amp.用のトランジスタは僅かに存在します。 ただ、実際に使ってみても汎用トランジスタとの違いは感じられませんね。従って汎用のシリコントランジスタ(汎用・はんよう=特に用途は定めず様々な回路に使えるトランジスタ)で十分なわけです。写真の2SC183や2SC372はそうした初期の汎用トランジスタです。今でも手軽に使っている2SC1815は代表的な汎用のトランジスタです。
そのシリコン・トランジスタ(Si-Tr)にあって特徴的なのはフォワードAGC用のトランジスタでしょう。写真の2SC1855はその一つです。主にTV受像機の高周波及び映像中間周波増幅に使われたトランジスタです。 強力な信号の受信時に強いAGCを掛けてゲインを絞ると増幅器の性能が低下することがあります。 人間の目は耳以上にシビアに違いがわかってしまうためTV受像機では送信アンテナに近い強電界地域における画質劣化が問題になったのです。詳しくは後ほど触れますが対策用の増幅素子として登場した特殊な特性のトランジスタです。(参考:そのかわり普通の増幅回路には向きません)
デュアルゲートMOS-FET(DG-MOS-FET)は5極管と良く似た特性を持っています。 以前のBlog「2ゲートMOS-FET RFアンプ」(←リンク)で高周波増幅での基本的な使い方を紹介しました。写真の3SK51はそのFETの一つです。 入力インピーダンスが高いと言った特性から真空管時代の回路技術を生かしやすい特徴がありました。 ただしシャープカットオフ特性ですからAGCの効きかたはバリミュー管のようには行きません。HAM用の無線機でも真空管から半導体への過渡期によく使われた半導体デバイスです。そして真空管のことなどよくは知らなくても、高周波用デバイスとして使いやすいため現在でも使われ続けています。
【6石スーパのIF-Amp】
トランジスタ式受信機の原点といえば6石スーパです。トランジスタを6つ使った実用的なトランジスタラジオでした。
真空管式のラジオでいえば5球スーパに相当します。5球スーパではIF-Amp.は1段だけの増幅でした。トランジスタの場合、1段増幅では必要十分なゲインが得難いことと入出力インピーダンスの関係から必要とされる選択度も得られません。そのため図のような2段増幅回路がトランジスタラジオの標準回路になりました。
図の回路は「シリコントランジスタ活用辞典」(CQ出版社1969年:時田元明 著)から引用しました。 減電圧対策のためにバリスタダイオードを使って工夫された回路になっています。乾電池の消耗に備えた工夫です。それ以外はごく標準的なラジオの中間周波増幅器です。2段増幅で50〜60dBのゲインを得ています。 ごく一般的な平均値型のリバースAGC回路になっており、残念ながらあまり良くは効きません。 しかしAMラジオは近隣の放送局を受信して楽しむものです。信号強度が大幅に異なる放送局を聞くことは殆ど無いはずですから程々のAGCでも実用になるのです。 夜間になって聞こえてくる遠距離局の受信が難しいのは止むを得ないでしょう。
60dBくらいのゲインがあれば通信型受信機にもまずまず使えます。但しAGC特性は物足りません。ダイオード検波したあとDCアンプなど補えばマシにはなりますがHAM用の受信機には不満が残るでしょう。 こうしたラジオの定番回路は平凡すぎるかもしれませんが動作は確実で安定しているため自作受信機でも十分参考になります。半導体を使った基本的な回路として真っ先に採り上げました。
【BJTだって意外に使えます】
自作HAMにはおなじみのJA1AYO丹羽さんは初心者向けから高級な記事まで幅広く執筆されています。図は「模型とラジオ誌('84年廃刊)」に連載された製作記事からの引用です。(1979年12月号)
どのようなコンセプトの連載記事だったのかは調べていませんが、雑誌の性格からオーソドックスな回路と入手容易な部品を使った初心者向けの通信型受信機製作記事なのでしょう。2SC372と言った当時入手容易で安価な普通のトランジスタ(BJT)だけで構成されています。今でしたら2SC1815や2SC2458が相当品です。
左図の回路での注意点ですが、段間に使っている東光製の簡易型メカフィル:MFH-50Kはずいぶん前に廃番になっています。古いメカフィルは劣化が心配なので中古品も敬遠した方が良さそうです。
MFH-50Kの代替品として秋月電子通商が売り始めた中華セラフィルとIFTの組み合わせが良いです。もっとも選択度の良いLTM-455IWを使うと9R-59D並みの選択度になります。SSB/CW用としては選択度不足ですが、まずまず使い物になります。なお、中間周波フィルタについては改めて扱うつもりです。
トランジスタを使ったAM検波器とそれに兼ねた増幅型AGC回路になっています。珍しい回路ですが上記の6石ラジオよりも効きの良いAGCが実現されていると想像できます。AGCの時定数切り換えも付いてます。SメータはAGCで制御されるIF初段トランジスタのエミッタ電圧の変化を読みます。無信号時にゼロ点のバランスをとっておき、信号が強くなるとAGCが掛かってエミッタ電圧が下がり指針が振れます。メーターは100〜200μAフルスケールの感度の良いものが適当でしょう。たぶんON/OFF的なメータの振れ方だと思います。
あまりAGCの効き方に拘らず安価に実用品をまとめるには良い回路のように感じました。 受信機なんて必要十分に聞こえさえすれば良いのであって安くて手軽なデバイスで実現可能ならそれで十分という考えもアリですね。
【珍しいAGCのIFアンプ】
図はFETとシリコントランジスタを使って本格的な通信型受信機を製作すると言う記事から引用しました。「トランジスタ活用ハンドブック」からで、こちらもJA1AYO丹羽さんの執筆です。
既にお気づきかもしれませんが、IF-Amp.とAGC(自動利得制御)は不可分です。決まっただけ増幅するだけの回路(固定ゲインのアンプ)なら簡単ですが、増幅度が変化する(変化できる)可変利得の機能を持たせると課題が増えるのです。
図の回路は増幅器のエミッタ抵抗のバイパスコンデンサの効きかたを変えて可変利得を実現しようとするものです。 各トランジスタのエミッタに入った抵抗器(2kΩ)のバイパスコンデンサを取ってしまうと電流負帰還が掛かります。その結果アンプのゲインは大幅に低下します。このバイパスコンデンサの効き方を加減してやれば可変利得が実現できます。その加減にはダイオードの等価抵抗が順方向電流によって変化する特性を利用しています。
原理は教科書にも載っていますから奇妙な回路というわけではありません。しかし、原理図ならともかく実際に採用したIF-Amp.回路はこれ以外に見たことがなく、初めて見たときは半信半疑で眺めたことを思い出します。これで十分なAGCの機能・性能が得られるのか疑問に感じたわけです。 執筆時期が古いらしく、結果を示すグラフはAM波が対象なので効果(性能)が判りにくいです。それが懐疑的に見えた理由かもしれません。ただ、こうした方法で必要なだけのゲインが得られコントロールも可能なら再評価してみたいと思いました。
ー・・・ー
以上見てきたように、ごく普通のトランジスタを使ったIF-Amp.はAGCを考慮すると性能的に苦しいと思います。ゲインコントロールの範囲を広くするために増幅段数を増やすといったAGCに対応した設計が必要です。 しかし使うトランジスタはあまり増やしたくはないし・・・。ならば別のデバイスを使えば良いわけですが、入手容易な部品だけで実現できる回路には何となく魅力を感じてしまうのです。hi
☆
【フォワードAGCのIF-Amp・1】
図はCQ出版社:HAM Journal誌No.46からの引用(JF1DMQ、JH1XTG、JH1GNUの3名のOM共著記事でpp93〜pp103)です。 高性能受信機の開発というより、それ以前の実験が目的かもしれませんがたいへん力のこもった記事でした。 なお、以下の説明は私自身の記述であり記事の要約ではないことに注意してください。
普通のトランジスタの場合、コレクタ電流を下げて(小さくして)行くと利得(ゲイン)は下がります。6石ラジオのIF-Amp.でAGC回路に使われる方法です。結果として入力信号が大きくなるとコレクタ電流は減少する方向になるのでリーバース(逆方向)AGCと呼ばれます。 真空管のIF-Amp.でも同様です。グリッド電圧を下げ、プレート電流を絞りgmを下げてゲインを低下させるわけです。同じくリバースAGCです。
トランジスタ回路の場合、リバースAGC形式でゲインを絞るとそのアンプはとても飽和しやすくなります。FETを使ったとしても同じです。 これは当たり前で、ロクに電流も与えない(流さない)状態の回路が大きな信号を歪みなく扱えるはずはありません。真空管と違い電源電圧が低いのもたいへん不利です。そのためIF-Amp.は入力信号が大きくなってAGCが掛かるほど歪み易くなってしまいます。(こうした方法でゲイン制御してはいけないことは近代設計の受信機では常識ですがここでは踏み込みません)
トランジスタのコレクタ電流とゲインの関係を調べると、コレクタ電流を大きくする方向でも利得の低下が起こります。これはコレクタ電流が大きくなるとhFEが下がる特性があるためです。同時にトランジション周波数:fTも減少傾向になります。しかし普通のトランジスタの場合、壊れるくらいたくさんの電流を流さないと利得は目立った低下をしてくれません。近代的なトランジスタはそのような(優れた)特性になるよう作っているのですから当たり前の話です。
フォワードAGC用トランジスタは、壊れるほどコレクタ電流を流さなくても十分に利得が低下するように作られた特殊なトランジスタです。普通のトランジスタでは欠点となるような特性を持たせてあります。コレクタ電流を増やすとすぐにhFEが低下するような特性です。同時にトランジション周波数:fTも激減するのは特徴的です。そのためコレクタ電流がある大きさを超えると劇的なゲイン低下が起こります。実際にフォワードAGC用トランジスタ:2SC1855のfTを実測して評価したことがあるのでリンク(→トランジスタのfTを実測する)を辿ってください。 グラフをみるとIc=5mAではfT>450MHzだったのにIc=20mAでは1MHzを割るほどの激減です。それでIcがちょっと増えただけで物凄く高周波の増幅性能が悪くなるのです。 普通のトランジスタではこんなことはあり得ないことです。 そしてAGCとしては大きな信号の時にコレクタ電流を増やす方向なのでむしろ歪みにくくなって有利な訳です。
フォワードAGC用トランジスタの「ゲイン対コレクタ電流の特性」に着目して設計したのが図のIF-Amp.です。コレクタ電流を直接制御することに拘った設計のように感じます。各トランジスタ(2SC1855)のエミッタ側に可変型の電流源回路を構成しています。その電流源を電圧制御して広範囲なAGC特性を得ようと目論んでいます。 回路図の引用程度では説明し切れませんから詳細は原著をご覧になるのをお薦めします。HJ誌は雑誌ですから一定期間で処分されてしまうためローカルな図書館にはないかも知れません。出版社のコピーサービスが利用できるでしょう。大塚駅前のJARL資料室にもアーカイブがあったと思います。
図の回路ですが、凄く考えられた入念な設計になってます。ですが複雑すぎて私には手に余まりそうです。試すほどの気力が湧かないのも残念です。できたらもっとシンプルな設計で済ませたいなあ・・・と思うのです。(笑)
【フォワードAGCのIF-Amp・2】
これもHJ誌からの引用(1989年 No.59:pp25〜pp45:佐藤洋 著)です。同じ2SC1855を使っていますが、ずっとシンプルな回路になっています。
通信型受信機の製作記事ではありません。スペアナの製作記事なのですが、IF-Amp.としての機能は類似しています。記事ではスペアナにLog表示させるためにフォワードAGC用トランジスタの特性を利用しています。 しかし目的は違っても受信機のIF-Amp.の要件にマッチしていますので十分参考になります。 もちろんAGCの効かせ方は受信機とスペアナではかなり違うため設計を変えなくてはなりません。主に時定数の持たせ方を変えれば良いのであって、IF-Amp.の利得制御の機能はそのままで良いと思います。
同じ2SC1855を使った回路でもずいぶん簡潔です。これくらいなら製作意欲も湧きそうです。私向きかもしれません。(笑) 得られた性能を見ても十分すぎるくらいです。何しろ測定器に使おうというくらいなのですから。 どうやら複雑な回路でなくても実用的なIF-Amp.は実現できると思って良いでしょう。 フォワードAGC形式のIF-Amp.に挑戦するのには向いていると感じました。
フォワードAGCでやれば強入力でも歪みにくい高性能なIF-Amp.が完成しそうですが弱点を忘れてはいけません。コレクタ電流の増加でhFEやトランジション周波数:fTが急減するという特性を利用してゲインを制御しています。従ってIF-Amp.の周波数はある程度高くないと旨く行きません。
具体的には数MHz(5MHzくらい?)以上の「ハイフレIF」で使うべきです。455kHzでは低すぎてトランジスタの特徴を活かすには適当でないでしょう。フォワードAGC用トランジスタと言えども危ないくらい電流を流さないと十分に利得は下がってきません。トランジスタひとつあたり最大で30mAくらい流す必要があって、これはIF-Amp.としては明らかにやりすぎです。コレクタ電圧を下げなければ許容Pcをオーバーしそうです。やってみるのは自由でしょうが、合理性を欠いた無茶な使い方はちょっと恥ずかしいかも知れませんね。 せっかくチャレンジするなら数MHzのIF-Amp.に採用してみたいと思います。
◎ 参考までに、米軍野戦用トランシーバ:PRC-74BにはAGC機能はついていませんがフォワードAGC用トランジスタを使ってスムースで広範囲な(手動による)ゲインの可変を実現しています。IF周波数=1.75MHzです。このくらいの周波数でもなかなかうまく動作しています。簡単な内容ですが興味があればリンク先(→ハイレベルDi-DBM・Part 1)に紹介があります。
☆
【DG-MOS FETのIF-Amp】
デュアル・ゲートMOS-FET(DG-MOS-FET)を使ったIF-Amp.を見ておきます。これはCQ誌1980年11月号pp287:JA1AYO丹羽さんの記事から引用した回路です。
熊本Cityスタンダード(←参考リンク)からの影響でしょうか?アマチュアの自作品では2ゲートMOSを使ったIF-Ampもポピュラーでした。もっとも、TRIO/KENWOODのトランシーバでは主役として使われていましたので、その当時のスタンダードデバイスだった感があります。
この回路は、後ほど触れるICを使ったIF-Amp.の代用として提案されたものです。ICを使ったIF-Amp.は「そのIC」がディスコン(Discontinue:継続しないの意で製造中止を意味する)になったらもう作れません。
本来ならIF-Amp.専用のICを使った方が高性能ですが無い袖は振れないので代替で対策されたようです。機能は類似にできますが残念ながらICを使ったIF-Amp.のようなAGCの性能は望めません
これはこれで部品の入手が容易なのが取り柄であり普遍性があって悪くない回路だと思っています。今は以前にも増して部品事情は悪くなっていますからね。
この回路で作ってみるなら上の参考リンク先で紹介している「BF998」と言うヨーロッパ系のDG-MOS-FETを使うのが良いです。3SK59と同等以上の性能が得られるうえ通販で安価に入手できます。
【MIZUHO SG-9】
上の回路ではミズホ通信機のSB-21を参考にされたとあります。SB-21の回路図は見つからなかったのですがSG-9の回路図を見つけました。
少々複雑ですがSG-9はSSBの送受信ユニットですから送信の回路も含まれています。IF-Amp.について見るとDG-MOS-FETを使った回路になっています。JA1AYOの回路と比べるとAGCの掛け方に違いがあります。前項の回路では第2ゲートのバイアス電圧を制御してAGCを掛けています。しかもトランジスタを使った増幅型AGCになっています。 SG-9の回路はIF-Amp.が3段構成であり第1ゲートの方にAGCを掛けています。第1ゲートに掛けた方がAGCの効きが良いため単純な回路になっているのでしょう。アンプは3段ですからゲインも十分です。
SSBの復調と送信時の変調兼用でDBM-ICのSN76514Nを使っています。SSB復調器にもゲインがあって全体的にかなりハイゲインな設計のようです。シングルスーパ構成でトランシーバを構成しようとするとゲイン不足に陥ることがあります。そうした懸念がないようタップリ増幅する設計のようですね。JA1AMH高田さん(故人)のポリシーがあるのだと思います。
☆
【IF-Ampに使われたIC】
IC(集積回路)を使う目的な何でしょうか? 民生品用として開発された初期の説明では「小型化」が最重要視されていたように記憶します。例えば補聴器や超小型マイクロラジオのようなアプリケーションでした。
しかしICがごく普通に使われ始めると主な目的はそこではなかったことが明らかになります。本質は「回路の再現性確保」にあったと思うのです。 ICの採用は誰が作っても同じ性能が得られる回路の実現に効果的だったからです。
あまりIF-Amp.と関係のない話になってしまいました。話を戻しましょう。
見てきたようにIF-Amp.はディスクリート(個別の)半導体でも構成は可能です。しかしICを使うと均質な性能が実現しやすいのも事実です。そのため徐々にICを使ったIF-Amp.も増えて行きました。 自作を扱う雑誌記事では均質な性能の実現は常に存在するテーマです。いくら魅力的な能書きが並んでいても筆者と同じ性能や機能が得られなければ記事の意義が問われてしまいますからね。ですからIC化で一定水準の性能が得られ易いならとても有り難いお話しです。
これはメーカー機の量産でも同じ事情でしょう。ICを採用したRigも少しずつ登場しました。 写真はIF-Amp.に使われるICのほんの一例です。 ここでは触れませんがAD603ARは特にIF-Amp.に向いた高性能なICです。その素性についてはBlogで投稿済みです。少々使うのは難しいのですが、興味があればリンク(→ここ)で辿ってください。
【八重洲FR-101のIF-Amp.】
日本のアマチュア無線機器で逸早くICが使われたのはFT-101だったと思います。 いや、Frontier ElectricのSuper 600GTBだよって仰るお方もあるかも知れません。まあどちらも大差ない時期に登場したRigでした。使われていたのは中間周波増幅器(IF-Amp.)と低周波部です。
FT-101の場合、ICを使う意義はそれほど大きくはなかったように感じます。幾らか小型化には寄与したかも知れませんが他の部分がそのままでは大きな効果はなかったでしょう。コマーシャル的な意味だったのかも知れません。 しかし同じ回路はアマチュアに真似られてけっこう流行ったように思います。
CA3053/CA3028A/TA7045Mはトランジスタ3つ抵抗器3本のシンプルな中身のICです。これら3種のICは同等品です。上の写真にあるLM3028Hもナショセミ製のセカンドソースです。 差動増幅回路が基本ですが、カスコード接続のアンプとしても使えます。FT-101では後者のような回路で使われておりAGCが掛けやすかったのが特徴でしょう。HF帯のIF-Amp.の場合、出力側からの帰還があるとAGCの制御範囲が狭くなってしまいます。カスコードアンプなら帰還は少ないため好都合です。もちろん「中和」など必要ありません。しかもICですから再現性が良く回路そのものをコンパクトに作れるのも有利です。
FT-101ではCA3053を一つだけ使っていて不足分のゲインはトランジスタのアンプで補っていました。高級通信型受信機のFR-101はIF回路のプリント基板にゆとりがあったので2つ使ったのではないでしょうか。もちろん掛けられる部品コストにも余裕があったのでしょう。 お陰でゲインに余裕ができAGCの効きも良くなっています。 ICのCA3053,etcが入手容易なら今でも有望なIF-Amp.かも知れませんが全てディスコンです。代替法は他にあるのですから拘って入手しても意味はないかも知れませんね。
【AGC付きIF-AmpのICは?】
再びJA1AYO丹羽さんのIF-Amp.が登場です。 図は「ハムのトランジスタ活用」(1980年CQ出版社:JA1AYO丹羽一夫 著:pp123)通称「ハム活」から引用しました。たぶん、入手性の関係だと思いますが丹羽さんは東芝のデバイスがお好きだったように感じます。TA7124Pは東芝のICです。
TA7124Pはシングルインライン(足が一列に並んだタイプ)のICで、TV受像機の映像増幅用に作られたICです。初めから歪みの少ない利得制御が可能な回路になっています。リバースでもフォワードでもないAGC回路になっていて、あえて言うなら「分流型AGC」でしょうか。AGCが掛かると増幅している信号成分の一部をバイパスして逃すように動作するのです。そのため、単純にコレクタ電流を絞るといった動作ではないため大きな信号でも歪みにくいのです。消費電流もむやみに大きくなったりしません。
TA7124P一つで得られるゲインは最大50dBくらいです。高性能な通信型受信機用のIF-Amp.としては不足なので2つ使う必要があります。AGC範囲は一つで60dB得られます。2つ使ったからと言って120dBにはなりませんが80dBくらいなら容易です。 内部回路は差動アンプ形式になっています。実験によれば出力回路にバランスした負荷の形式を使うと性能の向上が図れるようでした。バイファイラ巻きになっているFCZコイルなら好都合です。
残念ですがTA7124Pの入手は余り望みがありません。下記のMC1350Pの方が有望ですが、これもディスコンから時間が経過しており入手は難しくなっています。
【MC1350Pがルーツなんですが】
ある時期TA7124Pの入手は容易だったのでしょう。しかしそれはわりあい短かい期間だったのかも知れません。もともとTVの映像増幅用のICでした。TV用のICは高集積化がどんどん進んだので、IF-Amp.は他の回路とともに規模の大きなICに取り込まれてしまいました。もう個別の映像増幅用ICなど存在意義がなくなったのです。
受信機のIF-Amp.用として有用な存在だったのですが、アマチュアの都合で再生産してくれることはないでしょう。この記事の筆者のJA1AYO丹羽さんも過去の記事の製作が継承できるようご尽力されたようです。各社の類似機能のICを試されたようですが、どれも同じ事情にあってデスコンばかりです。結局、意外にも残っていたモトローラ社のMC1350Pにたどり着かれたのでしょう。 東芝のTA7124Pは外観形状こそ違いますが、中身はMC1350Pのセカンドソース(互換品)と言えるものでした。 MC1350Pがオリジナルなのですから同じように使えて当然ですし性能の違いも殆ど無かったでしょう。 しかしMC1350Pも既に書いたように生産終了の状況にあり残念な限りです。(参考:だいぶ価格が上昇していますが何とか手に入るようです)
ICは便利な存在ですが、それがなくなると一発アウトの憂き目です。(笑)
全くの与太話ですが個人でも昔のICを再生産してもらえそうです。たぶんウン十万円で可能でしょう。 お話を伺ったことがあるのですが意外に安そうな印象でした。 米国の会社なので東芝のTA7124Pは難しそうですがモトローラのMC1350Pなら間違いなく可能そうです。MC1490PかMC1590Gでも良いでしょう。どれも内部のシリコンチップは同じの同等品ですから。 お金が余って困ってるOMサンが発注していただけると自作HAMに感謝されるかも知れません。(爆) →→ Lansdale Semiconductor社へどうぞ。
☆ ☆ ☆
◎おしまいにIF-Amp.に求められる要件をまとめておきましょう。
まずはAGCが掛かる以前にどれくらいのゲインがあるかです。フルゲインで何dBかということです。他の部分との関連もありますが、通信型受信機として最低でも60dBは必要です。AGCとも関係しますが、歪みなく深いAGCが掛けられるのであれば80dBくらいあっても良いでしょう。
次に、IF-Amp.の帯域幅ですが昔の真空管式受信機ではIF-Amp.の全段で必要な選択度を得る設計でした。半導体の受信機の場合、球と類似の設計では苦しいので選択度は専門の「フィルタ」で得るべきです。IF-Amp.で選択度の追求はしませんが、広帯域なノイズを低減するためにIF-Amp.の帯域は絞った方が有利です。
重要なAGCですが、どの辺りの入力から効き始めてどれくらいの入力範囲で一定した出力電圧が維持できるかがテーマになります。さらに、過渡応答のような時間的な要素があるのでかなり厄介です。その受信機の実使用時の操作フィーリングが決まる部分なだけに十分検討をしたいところです。AGCについては機会があったら改めて考察したいと思っています。
IF-Amp.の要件の最後は出力の大きさです。大きさがわかれば検波・復調器とのインターフェース設計が可能になるでしょう。出力インピーダンスと合わせて知っておきたい項目です。
高級な話としては、AGCの掛かり具合に応じたIF-Amp.自身のIMD特性の傾向把握があります。IF-Amp.はハイ・ゲインなので測定しにくい面もありますができたら知りたい特性でしょう。特にSSBの復調音にはかなり影響があるはずだからです。
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少々経験不足のお方を惑わせたり、物知り顔の受け売り者を増長させるのは本意ではありません。ですから難しい話もそこそこが宜しいのかも知れません。それでもIFフィルタを含むIF-Amp.とAGCまわりは通信型受信機の心臓部にあたります。ですから少々踏み込まずには済まされないのです。 次回はIF-Amp.の実践編を予定します。 Simple is the Best.を信奉している(大笑)ので凝った回路はご期待されませんように。 ではまた。de JA9TTT/1
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第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→いまここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
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第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ
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