中国製のDDSモジュールにはローパス・フィルタが載っている。これは写真のローコスト版だけでなく、もう少しお値段な方でも同じだ。もちろんAD9850版だけでなくAD9851版でも同じ回路のものが載っている。
しかし、このローパス・フィルタには問題が多い。一つに、AD9850/125MHzクロックにはカットオフ周波数(遮断周波数)が高過ぎるのである。 フィルタ形式は有極型の7次エリプティック(楕円関数型:連立チェビシェフ)なので優れたものだ。 しかしカットオフ周波数があまりに高過ぎるのでは意味がなくなってしまう。 回路定数によるフィルタ・シミュレーションによればカットオフ周波数は約70MHzになっていることがわかる。
これはAD9851/180MHzクロックに合わせた設計なのである。 回路定数はアナログ・デバイセス社のAD9851アプリケーション・ノートに掲載されたそのままを流用したものだ。従って180MHzクロックのAD9851の評価には最適ではあっても125MHzクロックのAD9850には甚だ高過ぎるのである。 クロックを64MHzにするなら更に低いカットオフ周波数にしなくてはいけない。こうした切れの良いフィルタであってもカットオフ周波数はクロック周波数の約40%くらいに設計するのが安全だ。 単純なπ型2段くらいのフィルタ(当然無極の)で済ますなら、せいぜいクロック周波数の1/3以下が良い所である。
結局、実験的に動作確認するにはそのままでも良いが実用にするならもっとカットオフ周波数の低いLPFにする必要がある。 写真に示した基板上のフィルタを換装するか外付けすることになる。とりあえずモジュール基板上のフィルタを換装することで考えてみたい。 それには面実装部品が必要だ。
面実装型のコイルも探せばあるもので、秋葉原のジャンク屋にてある程度の種類が揃った。 あまり期待していなかったのだが意外に多くの種類を集めることができた。
いずれも20個くらい付いた1連で100円くらいだ。 買う人が限られているのだろう。 お店の目立たない場所に置かれていることが多いようであった。従って探すのは少し厄介だった。 もちろん1μHとか100μHというようなキリの良い値なら随所で見かけた。 しかし任意のカットオフ周波数でローパス・フィルタを構成するにはそれだけでは無理がある。 後で説明する回路で使うにはまだ種類が足りないのであるが、あらかた集めることができた。 どうしても足りない値はRSコンポーネンツやDigi-Keyのような部品通販から買えば良いだろう。
もちろん、フィルタに使うコイルはインダクタンスだけでなく設計カットオフ周波数に於けるQの値(=損失)も問題になる。しかし、まずは手に入る物で試してみよう。 どうしてもダメそうなら外付けフィルタでやると言う手もあるので。(笑)
面実装用のチップ・コンデンサも必要だ。こちらの方を探すのは比較的容易である。 小容量のものは殆どがNP0タイプ(=CH特性)らしい。 但し1,000pF以上と言った,やや大きな容量は高誘電率系が多くなるのでフィルタのような目的には要注意だろう。
写真はバラ売りのものとテープカット品である。 バラ売りは安価なので良いが単体には何も捺印されていない。従ってもしも他と混じると厄介なことになる。混合させないよう十分な注意が必要だ。
この際、ピンセット型の容量測定器(または測定アダプタとか)が欲しくなった。 あとで絶縁物でできたピンセットを買ってきて測定アダプタを自作したい。自作の小容量計と組み合わせて使えば便利だろう。 すでに面実装での自作に移行しているお方は測定治具をお持ちのことだろう。
図は安価なDDSモジュールの回路図だ。 「安価な」と言う意味は@約600円で10pinコネクタが2つ付いたタイプと言うことだ。 今さらながらこのDDSモジュールの回路図掲載はBlogでは初めてである。 共同購入されたお方には参考にお知らせしたので既に公開済みのような気になっていた。
部品番号と端子名はその基板上のシルク印刷と合わせてある。 但し、同じ「安価な」モジュールでも端子名のシルク印刷が無いものもある。その分だけさらにコストダウンしているのだろうか??
図の右側にはローパス・フィルタの部品定数が書いてある。 囲みの70MHzはオリジナルのもので購入した時に搭載されているであろう部品の定数である。 ほかのカットオフ周波数についてはすべて私が計算したものだ。 なるべくE系列の部品で構成できるように計算値を丸めてある。次項に示すような特性シミュレーションにより丸めた数値でも支障の無いことは確認済みだ。
なおこのモジュールの信号ラインは200Ωである。従ってLPFの設計インピーダンスもすべて200Ωで行なってある。 当然そのままの部品定数では50Ω系のフィルタにはならないのでご注意を。 これを50Ω用に変更するにはインピーダンス・スケーリングを行なう。 その計算値をもとに近似のE系列に丸めてから特性シミュレーションしておけば確実だ。
幾つかのコイルはE系列を外れる値になっているが適当な近似値がないので自作で巻くことも想定してのことだ。 もし近似のE系列・既成値コイルで試みるなら再シミュレーションして確認すると良い。 意外に旨く行くことが多いので難しく考えないでやってみよう。
あまり設計値を外れると厳密に言えば通過帯域のフラットネスが劣化しカットオフ周波数の肩特性に乱れが生じる。 当然特性インピーダンスも設計値から外れてくる。 しかしこのLPFは測定器に使うのではなくDDSモジュールの使用目的は通信機の局発などだろう。 十分実用になるので心配はいらない。 何でも理屈通りでないと気が済まないようでは実用品の完成は遠退くばかりだ。 実際のコイルやコンデンサには誤差や損失もあってそれも効いて来るので厳密に理想通りにはならないものだ。
グラフは回路シミュレーションの結果だ。 上に書いたように、理想部品は存在しない。 従って厳密にシミュレーションのようにはならないだろうが設計の妥当性を検証するには有効な手段である。
各カットオフ周波数で設計したフィルタの周波数特性は図の様になった。 チップコイルでは難しいが周波数特性の良いトロイダルコアに巻いてQを高く作り、損失の少ない良質なコンデンサを使えばかなりかなり一致するだろう。おもにHF帯のフィルタなので良い特性の物が自作できる。
今ではTG付きスペアナやネットアナをお持ちのお方も多くなった。 せっかくの機会なので作ったフィルタを実測してみたくなるだろう。 しかしグラフのようにはならないかも知れない。 In/out間のストレー容量や配線のインダクタンスによるコモンモード結合などがあって-60dB以下の領域を測定するのは難しくなってくる。 測定技術や測定器の性能からも減衰域の測定は意外に易しくない。 したがって通過帯域外のノッチ特性(谷の部分)は旨く見えないかもしれないわけだ。 もちろんシミュレーション通りでなくても悲観する必要はない。 スプリアス成分が旨く除去できれば十分だ。
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このテーマ、独立したBlogではなく他の内容と合わせて公開しようと思っていた。 しかし既に3月も半ばを過ぎている。 お彼岸の行事や、頼まれごとなどがあってこの先休日は埋まりつつある。3月のBlogが無いのも寂しいから独立したテーマに纏めておくことにした。 何か参考になれば幸いである。 de JA9TTT/1
(おわり)