【オーディオCWフィルタとパワーアンプ】
【フィルタ付き低周波アンプを作る】
「私だけの受信機設計」の第12回です。今回は低周波アンプ部を製作します。
ここまでのテストでは低周波アンプにLM380Nと言う低周波パワーアンプ用のICを使ったものを使ってきました。 電圧利得で50倍だけ増幅するシンプルなパワーアンプでした。8Ωのスピーカを負荷にしたときの無歪最大出力は250mWくらいです。
まずまず使い物になるのでそのまま低周波アンプとしても良かったのですが、通信型受信機にマッチした「低周波アンプユニット」をあらためて作ることにしました。 3kHzのローパスフィルタと聴感の良いオーディオCWフィルタを組み合わせた低周波アンプ部を作ります。
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受信機の低周波アンプなんて必要なゲインがあれば「適当なもので良い」と思うかも知れません。 しかし意外に重要な部分なのです。 低周波アンプ回路のひずみ特性や周波数特性が良くないと特有の音色を持ちます。ワッチしていて疲れる受信機になってしまうかも知れません。受信了解度にも影響がでるでしょう。 プロの受信機を見ると思った以上に凝った回路になっていて勉強させられます。
メーカー製のアマチュア機ではシンプルに低周波アンプ用のICを使う例がほとんどです。コストの問題もあるのでしょう。しかし、小音量で聞くことが多いシャックではクロスオーバー歪が気になることがあります。 特に大きな音量が出せる固定機ではその傾向があります。パワーの大きなカーオーディオ用のICを使っているのが原因でしょう。
合わせて無線機内蔵のスピーカーもチープなものがほとんどです。それで良い音は無理です。外付けスピーカを使いましょう。無線機のオプション品も良いですがミニコンポ用(リサイクルショップで購入)がオススメです。たった数百円〜で音質良好になります。
ここでもパワーアンプ用のICを使いました。AB級アンプなのでちょっと心配したのですが小出力でワッチしていてもまずまずでした。それで気になって来たらグレードアップも可能です。
高周波部に比べて低周波アンプ部は受信機の本質的な部分ではないと思われがちです。たしかに高周波部に比べて重要度や難易度がやや低いのはその通りです。 ここでは意外に凝った低周波アンプ部になりました。 単純なオーディオアンプで十分と思っているのでしたら複雑過ぎると感じるでしょう。しかしやさしいところで手を抜くと良い結果は得られないかも知れません。w
【アナログで作るオーディオCWフィルタ】
だいぶ前のBlogで扱った「音の良いCWフィルタ」を使います。 過去のBlog(←リンク)では同じ回路で様々な特性のフィルタが作れることに面白さを感じたことが出発点でした。シミュレーションを主体にした内容です。
もちろん良い性能が得られるので作り甲斐があります。 実際に自作受信機やCWフィルタの帯域外減衰が不十分なFR-101受信機に内蔵させてとても良い結果が得られています。
図の回路はOP-Ampを使った2次のアクティブ・フィルタを4段重ねて様々な特徴を持ったフィルタが作れるという設計になっています。
通信型受信機のCW受信用としては図中の表で2段目の「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」と称するフィルタがお奨めです。 -6dBより内側が過渡応答に優れるガウシャン特性で、その外側は遮断特性の良いバターワース型になったフィルタです。 名前の通り-6dBの所で特性が切り替わるという「良いとこ取り」のようなCWフィルタです。
一覧表の赤で囲った部品定数を選びます。 この特性のフィルタはCWのような断続波において、CWトーンの立ち上がり部分でオーバーシュートせず滑らかに立ち上がります。また信号が切れた後に余韻を引かないため粘らないので了解度に影響を及ぼしません。従って200Hzといった狭帯域でも聴感はナチュラルで感触良好です。
図の部品定数表は実際に製作するためのものです。コンデンサや抵抗器は少なくとも1%精度の物を使う必要があります。その上で4つある各セクションをそれぞれ表中の周波数でピークになるよう同調させます。結構シビアな調整が必要なので周波数がHz単位までわかる低周波発振器あるいは周波数カウンタの併用を要します。
E24系列で1%精度の抵抗器は入手容易なので問題はないとして0.039μFで誤差1%のコンデンサが厄介かも知れません。良質なフィルムコンデンサを余分に手に入れてLCRメータで選別する必要があるでしょう。10%や20%の誤差のまま使ったのでは所望の特性が得られないのです。 なお、「0.039μF」という数値に拘るのではなく8個がなるべく同じ容量値になるようにします。例えば8個を0.038μFに揃えても良い訳です。 もちろん容量差の分だけ僅かに中心周波数はズレますがフィルタの特性カーブは保たれます。
【作るCWフィルタの周波数特性】
フィルタと言うとどんな周波数特性なのか気になります。中心周波数が700Hzで-3dBの帯域幅が300Hzの設計です。
ここで選択したフィルタはグラフの緑色のカーブのようになるはずです。 これは誤差のない部品を使ってシミュレーションした結果です。 現実の部品には何がしかの誤差があるので厳密にこのようにはならないかも知れません。
しかし、各段を構成する2次のアクティブ・フィルタはあまりQが高くなく、ゲインも低い設計なので大きく崩れることはないはずです。 配線・組立の後に表中に記された周波数でそれぞれピークが出るように各可変抵抗を調整すればシミュレーションと良く一致した特性が得られます。
もし異なる特性のフィルタを作りたいのなら回路図の表に戻って作ればうまくゆきます。 しかしCWの受信には「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」特性のフィルタをお薦めしたいです。(注:やや特性が甘くなりますがベッセル特性も良い選択です)
【OP-Amp.で作ると】
どんな感じになるのか実際の製作例を示します。 写真は昔作った自作受信機における製作例です。
コンパクトに製作する目的でコンデンサには積層セラコンを使っています。温度補償系のセラコンならマズマズですがフィルム・コンデンサの方が優れます。 できたらマイラ・フィルムのような低周波に向いたコンデンサを使いたいところです。
この写真の製作例では部品を高精度に選ぶことで無調整にしています。そのために部品集めが大変でしたから回路図のように調整式にした方が作りやすいです。
OP-Amp.は4回路入りのTL074CNを使って小型化しています。 他のOP-Amp.でも良いのですがこうしたフィルタ回路にはオーディオ特性(正確に言えばAC特性)の良いOP-Amp.が向いています。 周波数は1kHz以下ですから大抵のものが使えます。
汎用品のLM324NやLM358N系はお手軽なので好きなOP-Amp.ですがこの用途にはやめておいた方が良いです。出力段がC級アンプなのでどうも音が良くありません。 オーディオ用と称するOP-Amp.はFBですがHAMの用途にはちょっと勿体無いかも知れません。お手軽なOP-Amp.としては4558系などが良いのではないでしょうか。あとはお好みです。
以上、周波数は700Hz固定で良い、やっぱり純アナログが一番だ。・・・と言うのでしたらOP-Amp.を使ったCWフィルタが最適です。 部品の選別が必要なので少し作るのは面倒ですが、使用感はなかなか素晴らしいので手間を掛けるだけの価値を感じられます。
参考:フィルタ部のコンデンサ(C1〜C8)のすべてを0.039μF±1%から0.047μF±1%に変更すると約600Hzのフィルタになります。また、0.039μFから減らして0.033μF±1%にすれば約800Hzのフィルタにできます。なお各調整周波数は変更した容量比の逆数分だけ変えます。例えば0.039μF→0.047μなら容量比は47/39≒1.205ですから、各調整周波数は1/1.205を掛けたものになります。(≒0.83倍) この件、あやふやな部分とかもし良くわからなければ聞いてください。わかる範囲でなるべく詳しくご返事します。
上図の回路はCWフィルタ部分だけです。低周波のパワーアンプ部分などは、このあと説明のある回路と同じで大丈夫です。後述の回路図のCWフィルタ部分を上図の回路に置き換えてやれば全く同じように製作できます。 電源電圧も9Vで支障ありません。
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【オーディオCWフィルタ・もう一つの方法】
写真はブレッド・ボードに作ったオーディオCWフィルタと低周波アンプ部です。 SSB用に3kHzのローパス・フィルタも含んでいます。
CWフィルタの部分は始めに紹介したフィルタとまったく同じ特性を持っています。すなわち「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」と称する特性のフィルタです。 従って後ほど特性の測定例が出てきますが実測でもシミュレーションそのままです。
ただしCWフィルタの部分にOP-Amp.は使っておらず「スイッチド・キャパシタ・フィルタ」(以下略してSCF)と言うやや特殊なフィルタ専用のICを使って作りました。 SCF-ICはナショナル・セミコンダクタ社(現TI社)のMF10CCNを使いました。写真の上の方に2つある20ピンの大きめのICです。 MF10CCN一つで2次のフィルタが2回路作れます。従って2個使うことで2次のフィルタを4セクション使う最初の説明のような「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」がそっくり同じように作れる訳です。
基板手前左には2回路入りのOP-Amp:TL072CPを使ったプリアンプとローパスフィルタ(LPF)があります。LPFのカットオフ周波数は3kHzで遮断特性は12dB/octです。あまり急峻とは言えませんがもともとI-Fフィルタで帯域制限されていますから、この程度で十分効果的です。 それと、その可能性はほとんど無いのですがSCFのクロック周波数とビートになる周波数で信号通過が起こるのを防ぐ意味があります。(ビートが起こるのは数10kHz〜100kHzと言う可聴域外の周波数なのでそもそも受信機の低周波アンプでは問題にならないのですが・・・)なお、SCFのクロックの話は後ほど出てきます。
右下に見える低周波パワー・アンプ部にはNJM386BDを使いました。 これはナショセミ社のLM386Nと同等のものです。 テスト受信に使っていたLM380Nよりも低い電源電圧向きなので使うことにしました。 オーソドックスすぎますがまずまずの性能です。8Ωのスピーカで最大300mWくらいしか出ませんがシャックに置く受信機には適当なパワーです。 電源電圧を9Vに統一していますので「386」のパワーアンプは無難な選択です。
【スイッチド・キャパシタ・フィルタで作る】
低周波プリアンプ、3kHz-LPF、CWフィルタ、低周波パワーアンプ部の回路図を示します。このユニットへの入力信号はBFO&プロダクト検波ユニット(←この特集第4回へリンク)の出力です。
回路図の上の方の抵抗器がたくさん使ってある部分がCWフィルタです。所定のフィルタ特性を得るためには計算通りの抵抗値が必要です。 キリの良い抵抗値にならないのでE24系列の抵抗器(←リンク)を2本直列で必要な抵抗値を得ている箇所があります。そのため抵抗器の本数が多くなっています。 面倒だからと言って近い値の標準抵抗値に丸めてしまうと所定の特性が得られません。(参考:抵抗器の誤差を±1%とすれば一部に抵抗器の本数を減らして簡略化できる箇所があります)
たくさん抵抗器を使うので複雑であまりメリットはなさそうに思うかも知れません。その代わり0.039μFと言ったコンデンサは不要なのでたくさん買って選別する手間はありません。これは一つ目のメリットです。E24系列で1%精度の抵抗器は普通に売っていますから選別など必要ありません。
ご存知のようにSCFを使ったフィルタにはそれ以上の非常に大きなメリットがあります。 SCF-ICには必ずクロック・パルスを与える必要があるのですが、そのクロックの周波数を可変してやるとフィルタの周波数を自由に変えることができるのです。 OP-Amp.で作った純粋なアナログ式フィルタではもし700Hzで作ると後からフィルタの周波数を変えることはかなり厄介です。8つもあるコンデンサを切り替えるのは大変でしょう。 しかしSCFを使うとクロック・パルスの周波数を変えてやればフィルタの中心周波数を自由自在にできるのです。回路図の例では200Hz以下から8kHzあたりまで変えられます。(CW用なのでそんなに変えられる必要はないのですが・笑)
ここではフィルタの中心周波数は700Hzで-3dBの通過帯域幅は300Hzで設計しています。 その時のクロック周波数は100倍の70kHzを与える設計です。これが設計の出発点です。 しかし後からクロック周波数を変えてやれば700Hz以外のフィルタにもなります。 即ち40kHzのクロック信号を与えれば400Hzの、あるいは100kHzなら1kHzの所にピークが来るCWフィルタになる訳です。もちろん周辺部品を交換する必要は何もありません。 このように中心周波数可変型のCWフィルタを実現するためにSCF-IC:MF10CCNを使いました。
これで「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」と言う優れた特性のままで中心周波数を自由に可変できるCWフィルタを作ると言う長年の課題に答えが出せました。(前々から可能なことはわかっていたのですが面倒に感じて手をつけなかっただけなのですが・笑)
クロック発振器にはタイマーICのNE555Pを使いました。可変抵抗器:VR一つで発振周波数が幅広く変えられる矩形波発振器です。 このNE555PとMF10CCNは電源電圧:+9Vの他にその半分の電圧(+4.5V)が必要です。
その+4.5Vの生成にシャント・レギュレータ:TL431Cを使いました。 また、既に書いたように低周波パワー・アンプはNJM386BDです。 この低周波ユニットは+9Vの単電源で動作し無信号時に約34mA流れます。音量のピークでは140mAくらいでした。(8Ωのスピーカ負荷で)
【フィルタの中身はどうなっているか?】
フィルタの設計を詳しく扱うとBlog一回では終わらないので、かいつまんだ話をしましょう。 それと計算式を羅列されても大半のお方にとっては退屈で眠くなるだけでしょう。以下深みにハマらぬ程度でやめておきます。従って数式は登場しません。
まず、仕様を決めるのがスタートになります。CWフィルタですから、中心周波数は800Hz付近に選びます。これは経験的に800Hz付近が聴きやすい周波数だと考えられているからです。もちろん各人の好みで変えても構いません。私はやや低めが好みなので700Hzにしました。 また、通過帯域幅ですが無闇に狭いと使いにくいだけなので200〜300Hzの幅を持たせるのが実用的です。それでもダイヤルの減速が十分でない受信機(トランシーバ)では同調がクリチカルになるのでやや広めが望ましいと思っています。既にI-Fアンプの所に数100Hz幅のCWフィルタが装着済みなら300Hzくらいでも十分ですし、SSBフィルタしか持たない受信機でもそれくらいで不満はないでしょう。
フィルタは「共振器(共振回路)」の数がモノを言います。従ってセクションの数が多いほど急峻になりますが回路はそれだけ複雑になります。過去に6セクションのタイプを製作しましたが過剰だと感じました。複雑さと性能を天秤にかけると2次フィルタの4セクションで十分です。 このようにしてフィルタの概要が決まりますが、CWはバースト波なので過渡応答性を考慮してフィルタ形式を決めます。私の場合は「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」を選ぶことにします。これはベッセル特性でも構いません。過渡応答をそれほど重視しなければ他の形式でも良いです。あとは目的次第です。
その上で、フィルタ形式とセクション数:n=4に従ったポールロケーションと言うものを求めます。これはフィルタ関係のデータブックなどから得ることができます。フィルタ設計のソフトウエアを使っても構いません。 それで得られる設計データは一般に「正規化」されているため所用の周波数へスケーリングの計算を行ないます。その計算を経て4つある2次フィルタの各セクションについてそれぞれ(1)中心周波数、(2)フィルタのQ、(3)ゲインが導かれます。
OP-Amp.を使うアナログ形式で作る場合、適切な形式の2次のバンドパスフィルタ回路を選択し、(1)〜(3)の特性が得られるようにコンデンサ:Cや抵抗器:Rの値を決めて行くことになります。回路例では「多重帰還型」という形式の2次のBPF回路を採用しています。 4つのセクションについて計算が済めば設計完了です。アナログ形式では都合の良いコンデンサの値を事前に決めておく必要があるでしょう。このコンデンサ:Cの値はある程度任意に決められます。最初の例ではそれが0.039μFだった訳です。(0.039μFにしたのは手持ちの都合) 計算は少し面倒くさいですが決して難しいものではありません。
SCFの場合もまったく同じ手順ですが、MF10CCNの設計資料を参照して4つある各セクションについて(1)〜(3)を満たすように設計します。回路例はMF10CCNの「モード3」と称する動作モードで設計しています。 それでMF10CCNに外付けすべき抵抗の値が求められます。 その際、計算の基準とする抵抗値を一つだけ決めておく必要があって私の設計では20kΩに選びました。これは例えば5kΩや10kΩに選んでも良いはずです。もちろん基準の抵抗値を変更しても同じ特性が得られます。クロック周波数は100倍あるいは50倍で選択します。(どちらかを選択してピン接続を決める)これはSCF-IC:MF10CCNの仕様によります。製作例では100倍を選択しています。
設計された4つのセクションの周波数特性は図のようになっていて、図に見るように2次のセクション4段の合計で最終的に目的のフィルタ特性になります。この特性はOP-Amp.を使ったアナログ形式でもSCFを使った形式でもまったく同じです。
現在では入力信号をA/D変換し数値演算によってまったく同じ様な特性を得ると言うDSPによるデジタル・フィルタ形式がトレンドになりつつあります。 しかしアナログ式やSCFによる方法は演算処理に要する信号の遅延がほぼ無いという特徴があってDSPより優れる部分もあると思っています。しかもわずかな消費電力で目的の性能が得られます。
多分、これだけの説明ではチンプンカンプンかもしれません。説明力不足で申し訳ないですがまだまだ勉強中です。 もうちょっと理解するには入門くらいでも良いのでフィルタの理論を知っていると良いです。フィルタの専門書はどれも難しいと感じられますが興味があれば手に取ってみてください。 HAMの自作にとってフィルタは切り離せないものです。ある程度思うような設計ができると自作の世界も広がります。もちろんデジタル・フィルタであってもフィルタ理論の根本は同じです。フィルタについて知ることは決して無駄にはならないと思っています。
【SCF-ICのMF10CCNが主役】
ICの写真を見せても仕方がないのですが、中華通販などで購入されるなら参考に見ておいてください。
MF10には表面実装型もありました。残念ながら写真のDIPタイプだけでなく表面実装型もディスコンになったようです。おそらくだんだんニーズが減ってきたからでしょう。 デジタルなように見えてもアナログなICですし設計の自由度があり過ぎるため、あまり素人向きとは言えないように感じていました。
それに単純なピーク型の単峰特性のフィルタや簡単なLPFくらいならOP-Amp.と数個のCRで作れますからね。 MF10CCNを上手に活用するとたいへん面白いフィルタが作れるのですが、それが実感できるためにはフィルタの理論を知らねばなりません。結局、美味しくても調理が難しい素材はシェフから敬遠されてしまうのでしょう。(笑)
MF10CCNは歴史のあるICですからまだまだ流通在庫が残っています。やや価格上昇気味かもしれませんが何とか手に入るでしょう。 もともとあまり安いICではなかったので一つ1,000円くらいなら買って損はないと思われます。中華通販やオクション品はニセモノに注意を! もし可変周波型の「音の良いCWフィルタ」に興味があるなら有るうちに手に入れておくのも良いかも知れません。 いつか作りたいと思ったとき手遅れにならないように・・・。(もちろん、購入の際はご自身の判断と責任でお願いします)
【代替品情報】(2024年1月現在)
MF10CCNは生産終了品(ディスコン品)ですがいくつか代替品があります。
そのまま置き換え可能なものとしてMF10BN(オリジナルはMaxim社)があって、Rochester Electronicsと言う互換品メーカーの製品が出ています。Digi-Keyのような部品商社経由で入手できます。 さらに型番は異なりますがリニアテクノロジー社(現・ADI社)のLTC1060CNも同じように使えるはずです。こちらも商社経由で購入可能でしょう。
完全互換ではありませんが、機能的に互換可能なチップもあります。 MAXIM社(現・ADI社)のMAX7490がほぼ同等の機能を持っています。ほかにもリニアテクノロジー社(現・ADI社)のLTC1067(-50)も同じようなチップです。 いずれも部分的な設計変更で同じように使えます。 どちらかと言えば電源電圧範囲の広いLTC1067の方が有利かも知れません。どちらも生産中です。部品商社から少量の購入が可能で単価は$15-くらいです。
【脇役デバイスにも重要な役目あり】
低周波アンプのユニットですから低周波パワーアンプのIC「386」が主役なのかも知れません。(笑) LM386やNJM386は秋葉原や日本橋のパーツショップほか通販でも普通に手に入るオーディオ用パワーアンプICです。
NE555P(NE555Vも同じ)はSCF-ICに必要なクロックの発生に使います。 各社から同等品が出ていますのでどれでも良いでしょう。最近はC-MOSタイプもポピュラーになりました。C-MOSタイプの"555"も同じように使えます。
MF10CCNはプラス5Vとマイナス5Vの2電源で使うのが標準ですが、+10Vだけの単電源でも使えます。その代わり+5Vの中点電圧が必要になります。 またここでの製作例のように+9Vの単電源でも支障なく使えますが電源電圧の中点電位である+4.5Vの電源が必要になります。その+4.5Vは可変電圧型シャントレギュレータ:TL431Cで作っています。 +4.5Vの消費電流は12mAくらいですからブースタ・トランジスタは必要ありません。この12mAのうち大半はNE555Pが消費しています。
いずれのICもポピュラーで安価なものです。通販でも容易に入手できるので困ることはないでしょう。
【SCFで作ったCWフィルタ・拡大】
MF10CCNの周りを拡大しています。
1セクションあたり抵抗器が4本・・・実際には複数で抵抗値を合成していますので7本くらいあります。そのためブレッドボードでの試作では配線の取り回しが難しくてどうもスッキリしません。 基板化する場合は抵抗器の下へ配線を通すなど工夫すれば配置しやすいと思います。 MF10CCNのピン配置も配線を考慮してうまく考えられていると感じます。
回路のインピーダンスは低めですし低周波ですから配線は少々長くなっても大丈夫です。 電源端子など要所に0.1μFくらいのバイパスコンデンサを入れておけば安定した動作が期待できます。
原理的にはフィルタ部の全段をDC的に直結可能なのですが、いくらかオフセット電圧が発生します。オフセット電圧が累積するとダイナミックレンジが縮小するので途中をコンデンサでDC的に切ってやります。
あまり小容量のコンデンサで切ると周波数特性に影響が出ますから1μFのフィルムコンデンサで切りました。コンデンサの両端でDC的な電位差はほとんど生じないためかえって電解コンデンサは不適当です。 もし電解コンデンサを使いたいならBP型(バイポーラ型、無極性型:ノンポーラ型とも言う)を使います。 特に難しいところはないので容易に作れると思います。もちろん配線間違えは致命的ですけれど。hi
MF10CCNはC-MOS構造のICです。このCWフィルタの製作では空きピンは発生しませんが、ユニットの片側のみ使うと言った場合には使わない側の空きピン処理が必要です。使い方のすべては書き切れませんので詳しくはメーカーの資料を参照します。 もちろん自身で新たに回路設計しないのでしたら何も悩まず上述の回路図通り作ればOKです。
【入力プリアンプと3kHzのLPF】
この低周波ユニット全体で約32dB(40倍くらい)のゲインになるようプリアンプを置いています。プリアンプのゲインは2倍弱で入力インピーダンスは47kΩです。このBlogで製作したSSB/CW検波ユニットを繋ぐ場合は入力部の可変抵抗:VR3はなくても良いでしょう。(音量調整はVR4:10kΩ・Aカーブの方で行ないます)
OP-Amp.:TL072CPの片側でフラットに約2倍増幅したあと、もう半分で3kHzのローパスフィルタ(LPF)を構成します。そのあとCWの時はMF10CCNのバンドパスフィルタへ行きます。 SSBの時はそのままNJM386Bの低周波パワーアンプへ行くようにします。
LPFは-3dBの周波数が3kHzで、その上の周波数で-12dB/octの傾斜を持つシンプルなものです。なお、-12dB/octと言う意味は周波数が2倍(オクターブ)になると12dB減衰する特性のことです。 3kHzのLPF回路はなるべく精度の良い部品を使うべきですが神経質になるほどではありません。回路図のコンデンサ:C10はC9のちょうど半分なので、C10と同じ容量のコンデンサを2個使って直列にすれば目的の容量になります。あるいはC9 = 0.01μF、C10 = 0.0047μFでも十分かも知れません。 いくらか遮断特性は変わりますが支障はないはずです。 カップリング・コンデンサ:C6は1μFのフィルム・コンデンサを使いました。BP型の電解コンデンサでも良いです。
【SCFクロックGENと低周波パワーアンプ】
SCFのMF10CCNには矩形波のクロック信号が必要です。
フィルタ中心周波数の100倍の周波数のクロック信号を与えます。 クロックの振幅はGND〜+4.5Vの矩形波です。ピン接続を変えれば波高値が0〜+9Vの矩形波も使えます。詳しいことはMF10CCNのデータシートを参照します。
クロック信号の発生にはタイマーICのNE555Pを使って矩形波発振器を作りました。 周波数の可変範囲が広くて、Duty比がほぼ50%の矩形波が得られる回路になっています。 配線が済んだらNE555PのPin7にて出力波形をオシロスコープで観測し、まずはじめにVR1を調整してHighとLowの割合が半々になるようDuty比を調整します。波高値が0〜+4.5Vであることも確認しておきます。発振周波数調整用のVR2:100kΩは受信機のパネルに取り付けて目盛りを記入しておくと便利です。周波数の可変範囲は広すぎるくらいになっていますのでコンデンサ:C3(470pF)を変えたり、抵抗器R22(1kΩ)を大きくするなど実用的な発振周波数範囲に狭めておくのも良いでしょう。
話が前後しますが、TL431Cを使った+4.5V電源の電圧を確認しておきます。+4.3〜4.7Vくらいなら良いでしょう。それを大きく外れているならまずは配線を確認します。その上で抵抗器:R18とR19の値を確認します。
LM386N(=NJM386BD)を使った低周波パワーアンプはアプリケーション・マニュアル通りのオーソドックスな回路になっています。ゲインは20倍で使います。
LM386Nはゲイン200倍で使うこともできますが発振しやすくなります。ここではその必要もなかったので20倍にしていますが動作はずっと安定していて発振などのトラブルは起こりにくいようです。 LM386Nはできるだけ20倍のゲインで使うのがコツのようです。このAFアンプユニットでもプリアンプにゲインを持たせることで「386」のゲインは20倍で使いました。
【SCFにはクロックが要る】
NE555Pの発振周波数を確認しています。Pin7の所で測定しました。これがMF10CCNに与えるクロックの周波数になります。
これから中心周波数が700Hzの時のフィルタ特性を観測したいと思います。 クロックは100倍の周波数が必要ですから周波数調整用のVR2で70kHzになるようにしておきます。(±1%くらいで十分です)
フィルタの中心周波数が400Hzなら40kHzに、中心周波数が1kHzなら100kHzに調整して測定します。 NE555Pを使った矩形波発振器の周波数安定度はあまり良いとは言えませんが神経質にならなくても大丈夫です。 1kHz変わってもフィルタの中心周波数は10Hz変わるだけです。もしその程度の変動があっても使っていてわかりません。それに安定度が良くないとは言ってもそんなにたくさん変動しません。(C3:470pFの温度係数が大きいと周波数変動が大きくなります。スチコンあるいはマイカコン、またセラコンならCH特性品を使うべきです)
どうしても気になるのでしたら水晶発振器を基準にして分周するとか高精度が得られる方法でクロック発振器を作ります。しかし実用上その必要はまったく感じられない筈です。従ってNE555Pの発振器で十分です。
【クロック70kHzで700Hzのフィルタ】
写真は中心周波数が700Hzの実測フィルタ特性です。 黄色のトレースが振幅特性で緑色が位相特性です。
回路シミュレーションで計算した特性とよく一致した周波数特性が得られています。 なお、14dBほどゲインがありますが、これはVNA(低周波まで観測可能なもの)の出力を50Ωで終端しなかったことと、TL072CPによるプリアンプのゲインが加わっているためです。
山形のさえない周波数特性に感じるかもしれませんが使ってみますとCWフィルタとして良い感触です。 音色はまろやかで心地良いものです。 無信号時のノイズも不自然さがなく耳に付きません。 あえて欠点を挙げるとすればどんなCW局もそれなりに美しく感じてしまうことでしょうか。これこそが「フィルタ」の効果なのかも知れません。 まあ、このあたりは私見ですのであなたご自身で確かめて頂く必要があります。(笑)
【クロック40kHzで400Hzのフィルタ】
クロックを40kHzに調整して400Hzの特性を観測しています。
たぶん400HzでCWを聞くお方は少ないと思いますがあえて低い周波数で試しています。 もちろん500Hzとか600Hzも自在に可能ですから完成したらぜひ試してください。
700Hzと言った固定した周波数に縛られず好みに調整できるのは大きなメリットです。 また近接した周波数で混信が出てきたらフィルタの周波数を加減すると言った方法で逃れることもできるわけです。
【クロック100kHzで1kHzのフィルタ】
周波数特性観測の最後はクロックを100kHzにして中心周波数1kHzの状態で測定します。
中心周波数が700Hzのとき-3dBの通過帯域幅は300Hzになります。 クロック周波数を変えて中心を変えると帯域幅が変化します。ただし中心周波数に対する帯域幅の割合は変化しません。
従って中心周波数が1kHzのとき帯域幅は1000/700の割合だけ広くなります。計算すると-3dBの帯域幅は430Hzくらいになります。 中心周波数が400Hzなら逆に狭くなって-3dBの帯域幅は170Hzくらいです。 中心周波数が変わっても「フィルタの"Q"」は変化しないように動作するからです。
通過帯域幅が変化しては困るように思うかも知れません。しかし測定器で観測のように横軸対数で見たとき特性変化がなければ人間の感覚上でも違和感はないようです。 実際に中心周波数を変えると帯域幅は変化するのですが何らの問題も感じませんでした。扱い易さにも変化はありせん。 それに設計周波数の700Hzから大幅に変化させて使うものではないでしょう。実用上の支障は何もないわけです。
【フィルタ付き低周波アンプを作る】
「私だけの受信機設計」の第12回です。今回は低周波アンプ部を製作します。
ここまでのテストでは低周波アンプにLM380Nと言う低周波パワーアンプ用のICを使ったものを使ってきました。 電圧利得で50倍だけ増幅するシンプルなパワーアンプでした。8Ωのスピーカを負荷にしたときの無歪最大出力は250mWくらいです。
まずまず使い物になるのでそのまま低周波アンプとしても良かったのですが、通信型受信機にマッチした「低周波アンプユニット」をあらためて作ることにしました。 3kHzのローパスフィルタと聴感の良いオーディオCWフィルタを組み合わせた低周波アンプ部を作ります。
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受信機の低周波アンプなんて必要なゲインがあれば「適当なもので良い」と思うかも知れません。 しかし意外に重要な部分なのです。 低周波アンプ回路のひずみ特性や周波数特性が良くないと特有の音色を持ちます。ワッチしていて疲れる受信機になってしまうかも知れません。受信了解度にも影響がでるでしょう。 プロの受信機を見ると思った以上に凝った回路になっていて勉強させられます。
メーカー製のアマチュア機ではシンプルに低周波アンプ用のICを使う例がほとんどです。コストの問題もあるのでしょう。しかし、小音量で聞くことが多いシャックではクロスオーバー歪が気になることがあります。 特に大きな音量が出せる固定機ではその傾向があります。パワーの大きなカーオーディオ用のICを使っているのが原因でしょう。
合わせて無線機内蔵のスピーカーもチープなものがほとんどです。それで良い音は無理です。外付けスピーカを使いましょう。無線機のオプション品も良いですがミニコンポ用(リサイクルショップで購入)がオススメです。たった数百円〜で音質良好になります。
ここでもパワーアンプ用のICを使いました。AB級アンプなのでちょっと心配したのですが小出力でワッチしていてもまずまずでした。それで気になって来たらグレードアップも可能です。
高周波部に比べて低周波アンプ部は受信機の本質的な部分ではないと思われがちです。たしかに高周波部に比べて重要度や難易度がやや低いのはその通りです。 ここでは意外に凝った低周波アンプ部になりました。 単純なオーディオアンプで十分と思っているのでしたら複雑過ぎると感じるでしょう。しかしやさしいところで手を抜くと良い結果は得られないかも知れません。w
【アナログで作るオーディオCWフィルタ】
だいぶ前のBlogで扱った「音の良いCWフィルタ」を使います。 過去のBlog(←リンク)では同じ回路で様々な特性のフィルタが作れることに面白さを感じたことが出発点でした。シミュレーションを主体にした内容です。
もちろん良い性能が得られるので作り甲斐があります。 実際に自作受信機やCWフィルタの帯域外減衰が不十分なFR-101受信機に内蔵させてとても良い結果が得られています。
図の回路はOP-Ampを使った2次のアクティブ・フィルタを4段重ねて様々な特徴を持ったフィルタが作れるという設計になっています。
通信型受信機のCW受信用としては図中の表で2段目の「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」と称するフィルタがお奨めです。 -6dBより内側が過渡応答に優れるガウシャン特性で、その外側は遮断特性の良いバターワース型になったフィルタです。 名前の通り-6dBの所で特性が切り替わるという「良いとこ取り」のようなCWフィルタです。
一覧表の赤で囲った部品定数を選びます。 この特性のフィルタはCWのような断続波において、CWトーンの立ち上がり部分でオーバーシュートせず滑らかに立ち上がります。また信号が切れた後に余韻を引かないため粘らないので了解度に影響を及ぼしません。従って200Hzといった狭帯域でも聴感はナチュラルで感触良好です。
図の部品定数表は実際に製作するためのものです。コンデンサや抵抗器は少なくとも1%精度の物を使う必要があります。その上で4つある各セクションをそれぞれ表中の周波数でピークになるよう同調させます。結構シビアな調整が必要なので周波数がHz単位までわかる低周波発振器あるいは周波数カウンタの併用を要します。
E24系列で1%精度の抵抗器は入手容易なので問題はないとして0.039μFで誤差1%のコンデンサが厄介かも知れません。良質なフィルムコンデンサを余分に手に入れてLCRメータで選別する必要があるでしょう。10%や20%の誤差のまま使ったのでは所望の特性が得られないのです。 なお、「0.039μF」という数値に拘るのではなく8個がなるべく同じ容量値になるようにします。例えば8個を0.038μFに揃えても良い訳です。 もちろん容量差の分だけ僅かに中心周波数はズレますがフィルタの特性カーブは保たれます。
【作るCWフィルタの周波数特性】
フィルタと言うとどんな周波数特性なのか気になります。中心周波数が700Hzで-3dBの帯域幅が300Hzの設計です。
ここで選択したフィルタはグラフの緑色のカーブのようになるはずです。 これは誤差のない部品を使ってシミュレーションした結果です。 現実の部品には何がしかの誤差があるので厳密にこのようにはならないかも知れません。
しかし、各段を構成する2次のアクティブ・フィルタはあまりQが高くなく、ゲインも低い設計なので大きく崩れることはないはずです。 配線・組立の後に表中に記された周波数でそれぞれピークが出るように各可変抵抗を調整すればシミュレーションと良く一致した特性が得られます。
もし異なる特性のフィルタを作りたいのなら回路図の表に戻って作ればうまくゆきます。 しかしCWの受信には「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」特性のフィルタをお薦めしたいです。(注:やや特性が甘くなりますがベッセル特性も良い選択です)
【OP-Amp.で作ると】
どんな感じになるのか実際の製作例を示します。 写真は昔作った自作受信機における製作例です。
コンパクトに製作する目的でコンデンサには積層セラコンを使っています。温度補償系のセラコンならマズマズですがフィルム・コンデンサの方が優れます。 できたらマイラ・フィルムのような低周波に向いたコンデンサを使いたいところです。
この写真の製作例では部品を高精度に選ぶことで無調整にしています。そのために部品集めが大変でしたから回路図のように調整式にした方が作りやすいです。
OP-Amp.は4回路入りのTL074CNを使って小型化しています。 他のOP-Amp.でも良いのですがこうしたフィルタ回路にはオーディオ特性(正確に言えばAC特性)の良いOP-Amp.が向いています。 周波数は1kHz以下ですから大抵のものが使えます。
汎用品のLM324NやLM358N系はお手軽なので好きなOP-Amp.ですがこの用途にはやめておいた方が良いです。出力段がC級アンプなのでどうも音が良くありません。 オーディオ用と称するOP-Amp.はFBですがHAMの用途にはちょっと勿体無いかも知れません。お手軽なOP-Amp.としては4558系などが良いのではないでしょうか。あとはお好みです。
以上、周波数は700Hz固定で良い、やっぱり純アナログが一番だ。・・・と言うのでしたらOP-Amp.を使ったCWフィルタが最適です。 部品の選別が必要なので少し作るのは面倒ですが、使用感はなかなか素晴らしいので手間を掛けるだけの価値を感じられます。
参考:フィルタ部のコンデンサ(C1〜C8)のすべてを0.039μF±1%から0.047μF±1%に変更すると約600Hzのフィルタになります。また、0.039μFから減らして0.033μF±1%にすれば約800Hzのフィルタにできます。なお各調整周波数は変更した容量比の逆数分だけ変えます。例えば0.039μF→0.047μなら容量比は47/39≒1.205ですから、各調整周波数は1/1.205を掛けたものになります。(≒0.83倍) この件、あやふやな部分とかもし良くわからなければ聞いてください。わかる範囲でなるべく詳しくご返事します。
上図の回路はCWフィルタ部分だけです。低周波のパワーアンプ部分などは、このあと説明のある回路と同じで大丈夫です。後述の回路図のCWフィルタ部分を上図の回路に置き換えてやれば全く同じように製作できます。 電源電圧も9Vで支障ありません。
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【オーディオCWフィルタ・もう一つの方法】
写真はブレッド・ボードに作ったオーディオCWフィルタと低周波アンプ部です。 SSB用に3kHzのローパス・フィルタも含んでいます。
CWフィルタの部分は始めに紹介したフィルタとまったく同じ特性を持っています。すなわち「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」と称する特性のフィルタです。 従って後ほど特性の測定例が出てきますが実測でもシミュレーションそのままです。
ただしCWフィルタの部分にOP-Amp.は使っておらず「スイッチド・キャパシタ・フィルタ」(以下略してSCF)と言うやや特殊なフィルタ専用のICを使って作りました。 SCF-ICはナショナル・セミコンダクタ社(現TI社)のMF10CCNを使いました。写真の上の方に2つある20ピンの大きめのICです。 MF10CCN一つで2次のフィルタが2回路作れます。従って2個使うことで2次のフィルタを4セクション使う最初の説明のような「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」がそっくり同じように作れる訳です。
基板手前左には2回路入りのOP-Amp:TL072CPを使ったプリアンプとローパスフィルタ(LPF)があります。LPFのカットオフ周波数は3kHzで遮断特性は12dB/octです。あまり急峻とは言えませんがもともとI-Fフィルタで帯域制限されていますから、この程度で十分効果的です。 それと、その可能性はほとんど無いのですがSCFのクロック周波数とビートになる周波数で信号通過が起こるのを防ぐ意味があります。(ビートが起こるのは数10kHz〜100kHzと言う可聴域外の周波数なのでそもそも受信機の低周波アンプでは問題にならないのですが・・・)なお、SCFのクロックの話は後ほど出てきます。
右下に見える低周波パワー・アンプ部にはNJM386BDを使いました。 これはナショセミ社のLM386Nと同等のものです。 テスト受信に使っていたLM380Nよりも低い電源電圧向きなので使うことにしました。 オーソドックスすぎますがまずまずの性能です。8Ωのスピーカで最大300mWくらいしか出ませんがシャックに置く受信機には適当なパワーです。 電源電圧を9Vに統一していますので「386」のパワーアンプは無難な選択です。
【スイッチド・キャパシタ・フィルタで作る】
低周波プリアンプ、3kHz-LPF、CWフィルタ、低周波パワーアンプ部の回路図を示します。このユニットへの入力信号はBFO&プロダクト検波ユニット(←この特集第4回へリンク)の出力です。
回路図の上の方の抵抗器がたくさん使ってある部分がCWフィルタです。所定のフィルタ特性を得るためには計算通りの抵抗値が必要です。 キリの良い抵抗値にならないのでE24系列の抵抗器(←リンク)を2本直列で必要な抵抗値を得ている箇所があります。そのため抵抗器の本数が多くなっています。 面倒だからと言って近い値の標準抵抗値に丸めてしまうと所定の特性が得られません。(参考:抵抗器の誤差を±1%とすれば一部に抵抗器の本数を減らして簡略化できる箇所があります)
たくさん抵抗器を使うので複雑であまりメリットはなさそうに思うかも知れません。その代わり0.039μFと言ったコンデンサは不要なのでたくさん買って選別する手間はありません。これは一つ目のメリットです。E24系列で1%精度の抵抗器は普通に売っていますから選別など必要ありません。
ご存知のようにSCFを使ったフィルタにはそれ以上の非常に大きなメリットがあります。 SCF-ICには必ずクロック・パルスを与える必要があるのですが、そのクロックの周波数を可変してやるとフィルタの周波数を自由に変えることができるのです。 OP-Amp.で作った純粋なアナログ式フィルタではもし700Hzで作ると後からフィルタの周波数を変えることはかなり厄介です。8つもあるコンデンサを切り替えるのは大変でしょう。 しかしSCFを使うとクロック・パルスの周波数を変えてやればフィルタの中心周波数を自由自在にできるのです。回路図の例では200Hz以下から8kHzあたりまで変えられます。(CW用なのでそんなに変えられる必要はないのですが・笑)
ここではフィルタの中心周波数は700Hzで-3dBの通過帯域幅は300Hzで設計しています。 その時のクロック周波数は100倍の70kHzを与える設計です。これが設計の出発点です。 しかし後からクロック周波数を変えてやれば700Hz以外のフィルタにもなります。 即ち40kHzのクロック信号を与えれば400Hzの、あるいは100kHzなら1kHzの所にピークが来るCWフィルタになる訳です。もちろん周辺部品を交換する必要は何もありません。 このように中心周波数可変型のCWフィルタを実現するためにSCF-IC:MF10CCNを使いました。
これで「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」と言う優れた特性のままで中心周波数を自由に可変できるCWフィルタを作ると言う長年の課題に答えが出せました。(前々から可能なことはわかっていたのですが面倒に感じて手をつけなかっただけなのですが・笑)
クロック発振器にはタイマーICのNE555Pを使いました。可変抵抗器:VR一つで発振周波数が幅広く変えられる矩形波発振器です。 このNE555PとMF10CCNは電源電圧:+9Vの他にその半分の電圧(+4.5V)が必要です。
その+4.5Vの生成にシャント・レギュレータ:TL431Cを使いました。 また、既に書いたように低周波パワー・アンプはNJM386BDです。 この低周波ユニットは+9Vの単電源で動作し無信号時に約34mA流れます。音量のピークでは140mAくらいでした。(8Ωのスピーカ負荷で)
【フィルタの中身はどうなっているか?】
フィルタの設計を詳しく扱うとBlog一回では終わらないので、かいつまんだ話をしましょう。 それと計算式を羅列されても大半のお方にとっては退屈で眠くなるだけでしょう。以下深みにハマらぬ程度でやめておきます。従って数式は登場しません。
まず、仕様を決めるのがスタートになります。CWフィルタですから、中心周波数は800Hz付近に選びます。これは経験的に800Hz付近が聴きやすい周波数だと考えられているからです。もちろん各人の好みで変えても構いません。私はやや低めが好みなので700Hzにしました。 また、通過帯域幅ですが無闇に狭いと使いにくいだけなので200〜300Hzの幅を持たせるのが実用的です。それでもダイヤルの減速が十分でない受信機(トランシーバ)では同調がクリチカルになるのでやや広めが望ましいと思っています。既にI-Fアンプの所に数100Hz幅のCWフィルタが装着済みなら300Hzくらいでも十分ですし、SSBフィルタしか持たない受信機でもそれくらいで不満はないでしょう。
フィルタは「共振器(共振回路)」の数がモノを言います。従ってセクションの数が多いほど急峻になりますが回路はそれだけ複雑になります。過去に6セクションのタイプを製作しましたが過剰だと感じました。複雑さと性能を天秤にかけると2次フィルタの4セクションで十分です。 このようにしてフィルタの概要が決まりますが、CWはバースト波なので過渡応答性を考慮してフィルタ形式を決めます。私の場合は「トランジショナル・ガウシャン トゥ 6dB」を選ぶことにします。これはベッセル特性でも構いません。過渡応答をそれほど重視しなければ他の形式でも良いです。あとは目的次第です。
その上で、フィルタ形式とセクション数:n=4に従ったポールロケーションと言うものを求めます。これはフィルタ関係のデータブックなどから得ることができます。フィルタ設計のソフトウエアを使っても構いません。 それで得られる設計データは一般に「正規化」されているため所用の周波数へスケーリングの計算を行ないます。その計算を経て4つある2次フィルタの各セクションについてそれぞれ(1)中心周波数、(2)フィルタのQ、(3)ゲインが導かれます。
OP-Amp.を使うアナログ形式で作る場合、適切な形式の2次のバンドパスフィルタ回路を選択し、(1)〜(3)の特性が得られるようにコンデンサ:Cや抵抗器:Rの値を決めて行くことになります。回路例では「多重帰還型」という形式の2次のBPF回路を採用しています。 4つのセクションについて計算が済めば設計完了です。アナログ形式では都合の良いコンデンサの値を事前に決めておく必要があるでしょう。このコンデンサ:Cの値はある程度任意に決められます。最初の例ではそれが0.039μFだった訳です。(0.039μFにしたのは手持ちの都合) 計算は少し面倒くさいですが決して難しいものではありません。
SCFの場合もまったく同じ手順ですが、MF10CCNの設計資料を参照して4つある各セクションについて(1)〜(3)を満たすように設計します。回路例はMF10CCNの「モード3」と称する動作モードで設計しています。 それでMF10CCNに外付けすべき抵抗の値が求められます。 その際、計算の基準とする抵抗値を一つだけ決めておく必要があって私の設計では20kΩに選びました。これは例えば5kΩや10kΩに選んでも良いはずです。もちろん基準の抵抗値を変更しても同じ特性が得られます。クロック周波数は100倍あるいは50倍で選択します。(どちらかを選択してピン接続を決める)これはSCF-IC:MF10CCNの仕様によります。製作例では100倍を選択しています。
設計された4つのセクションの周波数特性は図のようになっていて、図に見るように2次のセクション4段の合計で最終的に目的のフィルタ特性になります。この特性はOP-Amp.を使ったアナログ形式でもSCFを使った形式でもまったく同じです。
現在では入力信号をA/D変換し数値演算によってまったく同じ様な特性を得ると言うDSPによるデジタル・フィルタ形式がトレンドになりつつあります。 しかしアナログ式やSCFによる方法は演算処理に要する信号の遅延がほぼ無いという特徴があってDSPより優れる部分もあると思っています。しかもわずかな消費電力で目的の性能が得られます。
多分、これだけの説明ではチンプンカンプンかもしれません。説明力不足で申し訳ないですがまだまだ勉強中です。 もうちょっと理解するには入門くらいでも良いのでフィルタの理論を知っていると良いです。フィルタの専門書はどれも難しいと感じられますが興味があれば手に取ってみてください。 HAMの自作にとってフィルタは切り離せないものです。ある程度思うような設計ができると自作の世界も広がります。もちろんデジタル・フィルタであってもフィルタ理論の根本は同じです。フィルタについて知ることは決して無駄にはならないと思っています。
【SCF-ICのMF10CCNが主役】
ICの写真を見せても仕方がないのですが、中華通販などで購入されるなら参考に見ておいてください。
MF10には表面実装型もありました。残念ながら写真のDIPタイプだけでなく表面実装型もディスコンになったようです。おそらくだんだんニーズが減ってきたからでしょう。 デジタルなように見えてもアナログなICですし設計の自由度があり過ぎるため、あまり素人向きとは言えないように感じていました。
それに単純なピーク型の単峰特性のフィルタや簡単なLPFくらいならOP-Amp.と数個のCRで作れますからね。 MF10CCNを上手に活用するとたいへん面白いフィルタが作れるのですが、それが実感できるためにはフィルタの理論を知らねばなりません。結局、美味しくても調理が難しい素材はシェフから敬遠されてしまうのでしょう。(笑)
MF10CCNは歴史のあるICですからまだまだ流通在庫が残っています。やや価格上昇気味かもしれませんが何とか手に入るでしょう。 もともとあまり安いICではなかったので一つ1,000円くらいなら買って損はないと思われます。中華通販やオクション品はニセモノに注意を! もし可変周波型の「音の良いCWフィルタ」に興味があるなら有るうちに手に入れておくのも良いかも知れません。 いつか作りたいと思ったとき手遅れにならないように・・・。(もちろん、購入の際はご自身の判断と責任でお願いします)
【代替品情報】(2024年1月現在)
MF10CCNは生産終了品(ディスコン品)ですがいくつか代替品があります。
そのまま置き換え可能なものとしてMF10BN(オリジナルはMaxim社)があって、Rochester Electronicsと言う互換品メーカーの製品が出ています。Digi-Keyのような部品商社経由で入手できます。 さらに型番は異なりますがリニアテクノロジー社(現・ADI社)のLTC1060CNも同じように使えるはずです。こちらも商社経由で購入可能でしょう。
完全互換ではありませんが、機能的に互換可能なチップもあります。 MAXIM社(現・ADI社)のMAX7490がほぼ同等の機能を持っています。ほかにもリニアテクノロジー社(現・ADI社)のLTC1067(-50)も同じようなチップです。 いずれも部分的な設計変更で同じように使えます。 どちらかと言えば電源電圧範囲の広いLTC1067の方が有利かも知れません。どちらも生産中です。部品商社から少量の購入が可能で単価は$15-くらいです。
【脇役デバイスにも重要な役目あり】
低周波アンプのユニットですから低周波パワーアンプのIC「386」が主役なのかも知れません。(笑) LM386やNJM386は秋葉原や日本橋のパーツショップほか通販でも普通に手に入るオーディオ用パワーアンプICです。
NE555P(NE555Vも同じ)はSCF-ICに必要なクロックの発生に使います。 各社から同等品が出ていますのでどれでも良いでしょう。最近はC-MOSタイプもポピュラーになりました。C-MOSタイプの"555"も同じように使えます。
MF10CCNはプラス5Vとマイナス5Vの2電源で使うのが標準ですが、+10Vだけの単電源でも使えます。その代わり+5Vの中点電圧が必要になります。 またここでの製作例のように+9Vの単電源でも支障なく使えますが電源電圧の中点電位である+4.5Vの電源が必要になります。その+4.5Vは可変電圧型シャントレギュレータ:TL431Cで作っています。 +4.5Vの消費電流は12mAくらいですからブースタ・トランジスタは必要ありません。この12mAのうち大半はNE555Pが消費しています。
いずれのICもポピュラーで安価なものです。通販でも容易に入手できるので困ることはないでしょう。
【SCFで作ったCWフィルタ・拡大】
MF10CCNの周りを拡大しています。
1セクションあたり抵抗器が4本・・・実際には複数で抵抗値を合成していますので7本くらいあります。そのためブレッドボードでの試作では配線の取り回しが難しくてどうもスッキリしません。 基板化する場合は抵抗器の下へ配線を通すなど工夫すれば配置しやすいと思います。 MF10CCNのピン配置も配線を考慮してうまく考えられていると感じます。
回路のインピーダンスは低めですし低周波ですから配線は少々長くなっても大丈夫です。 電源端子など要所に0.1μFくらいのバイパスコンデンサを入れておけば安定した動作が期待できます。
原理的にはフィルタ部の全段をDC的に直結可能なのですが、いくらかオフセット電圧が発生します。オフセット電圧が累積するとダイナミックレンジが縮小するので途中をコンデンサでDC的に切ってやります。
あまり小容量のコンデンサで切ると周波数特性に影響が出ますから1μFのフィルムコンデンサで切りました。コンデンサの両端でDC的な電位差はほとんど生じないためかえって電解コンデンサは不適当です。 もし電解コンデンサを使いたいならBP型(バイポーラ型、無極性型:ノンポーラ型とも言う)を使います。 特に難しいところはないので容易に作れると思います。もちろん配線間違えは致命的ですけれど。hi
MF10CCNはC-MOS構造のICです。このCWフィルタの製作では空きピンは発生しませんが、ユニットの片側のみ使うと言った場合には使わない側の空きピン処理が必要です。使い方のすべては書き切れませんので詳しくはメーカーの資料を参照します。 もちろん自身で新たに回路設計しないのでしたら何も悩まず上述の回路図通り作ればOKです。
【入力プリアンプと3kHzのLPF】
この低周波ユニット全体で約32dB(40倍くらい)のゲインになるようプリアンプを置いています。プリアンプのゲインは2倍弱で入力インピーダンスは47kΩです。このBlogで製作したSSB/CW検波ユニットを繋ぐ場合は入力部の可変抵抗:VR3はなくても良いでしょう。(音量調整はVR4:10kΩ・Aカーブの方で行ないます)
OP-Amp.:TL072CPの片側でフラットに約2倍増幅したあと、もう半分で3kHzのローパスフィルタ(LPF)を構成します。そのあとCWの時はMF10CCNのバンドパスフィルタへ行きます。 SSBの時はそのままNJM386Bの低周波パワーアンプへ行くようにします。
LPFは-3dBの周波数が3kHzで、その上の周波数で-12dB/octの傾斜を持つシンプルなものです。なお、-12dB/octと言う意味は周波数が2倍(オクターブ)になると12dB減衰する特性のことです。 3kHzのLPF回路はなるべく精度の良い部品を使うべきですが神経質になるほどではありません。回路図のコンデンサ:C10はC9のちょうど半分なので、C10と同じ容量のコンデンサを2個使って直列にすれば目的の容量になります。あるいはC9 = 0.01μF、C10 = 0.0047μFでも十分かも知れません。 いくらか遮断特性は変わりますが支障はないはずです。 カップリング・コンデンサ:C6は1μFのフィルム・コンデンサを使いました。BP型の電解コンデンサでも良いです。
【SCFクロックGENと低周波パワーアンプ】
SCFのMF10CCNには矩形波のクロック信号が必要です。
フィルタ中心周波数の100倍の周波数のクロック信号を与えます。 クロックの振幅はGND〜+4.5Vの矩形波です。ピン接続を変えれば波高値が0〜+9Vの矩形波も使えます。詳しいことはMF10CCNのデータシートを参照します。
クロック信号の発生にはタイマーICのNE555Pを使って矩形波発振器を作りました。 周波数の可変範囲が広くて、Duty比がほぼ50%の矩形波が得られる回路になっています。 配線が済んだらNE555PのPin7にて出力波形をオシロスコープで観測し、まずはじめにVR1を調整してHighとLowの割合が半々になるようDuty比を調整します。波高値が0〜+4.5Vであることも確認しておきます。発振周波数調整用のVR2:100kΩは受信機のパネルに取り付けて目盛りを記入しておくと便利です。周波数の可変範囲は広すぎるくらいになっていますのでコンデンサ:C3(470pF)を変えたり、抵抗器R22(1kΩ)を大きくするなど実用的な発振周波数範囲に狭めておくのも良いでしょう。
話が前後しますが、TL431Cを使った+4.5V電源の電圧を確認しておきます。+4.3〜4.7Vくらいなら良いでしょう。それを大きく外れているならまずは配線を確認します。その上で抵抗器:R18とR19の値を確認します。
LM386N(=NJM386BD)を使った低周波パワーアンプはアプリケーション・マニュアル通りのオーソドックスな回路になっています。ゲインは20倍で使います。
LM386Nはゲイン200倍で使うこともできますが発振しやすくなります。ここではその必要もなかったので20倍にしていますが動作はずっと安定していて発振などのトラブルは起こりにくいようです。 LM386Nはできるだけ20倍のゲインで使うのがコツのようです。このAFアンプユニットでもプリアンプにゲインを持たせることで「386」のゲインは20倍で使いました。
【SCFにはクロックが要る】
NE555Pの発振周波数を確認しています。Pin7の所で測定しました。これがMF10CCNに与えるクロックの周波数になります。
これから中心周波数が700Hzの時のフィルタ特性を観測したいと思います。 クロックは100倍の周波数が必要ですから周波数調整用のVR2で70kHzになるようにしておきます。(±1%くらいで十分です)
フィルタの中心周波数が400Hzなら40kHzに、中心周波数が1kHzなら100kHzに調整して測定します。 NE555Pを使った矩形波発振器の周波数安定度はあまり良いとは言えませんが神経質にならなくても大丈夫です。 1kHz変わってもフィルタの中心周波数は10Hz変わるだけです。もしその程度の変動があっても使っていてわかりません。それに安定度が良くないとは言ってもそんなにたくさん変動しません。(C3:470pFの温度係数が大きいと周波数変動が大きくなります。スチコンあるいはマイカコン、またセラコンならCH特性品を使うべきです)
どうしても気になるのでしたら水晶発振器を基準にして分周するとか高精度が得られる方法でクロック発振器を作ります。しかし実用上その必要はまったく感じられない筈です。従ってNE555Pの発振器で十分です。
【クロック70kHzで700Hzのフィルタ】
写真は中心周波数が700Hzの実測フィルタ特性です。 黄色のトレースが振幅特性で緑色が位相特性です。
回路シミュレーションで計算した特性とよく一致した周波数特性が得られています。 なお、14dBほどゲインがありますが、これはVNA(低周波まで観測可能なもの)の出力を50Ωで終端しなかったことと、TL072CPによるプリアンプのゲインが加わっているためです。
山形のさえない周波数特性に感じるかもしれませんが使ってみますとCWフィルタとして良い感触です。 音色はまろやかで心地良いものです。 無信号時のノイズも不自然さがなく耳に付きません。 あえて欠点を挙げるとすればどんなCW局もそれなりに美しく感じてしまうことでしょうか。これこそが「フィルタ」の効果なのかも知れません。 まあ、このあたりは私見ですのであなたご自身で確かめて頂く必要があります。(笑)
【クロック40kHzで400Hzのフィルタ】
クロックを40kHzに調整して400Hzの特性を観測しています。
たぶん400HzでCWを聞くお方は少ないと思いますがあえて低い周波数で試しています。 もちろん500Hzとか600Hzも自在に可能ですから完成したらぜひ試してください。
700Hzと言った固定した周波数に縛られず好みに調整できるのは大きなメリットです。 また近接した周波数で混信が出てきたらフィルタの周波数を加減すると言った方法で逃れることもできるわけです。
【クロック100kHzで1kHzのフィルタ】
周波数特性観測の最後はクロックを100kHzにして中心周波数1kHzの状態で測定します。
中心周波数が700Hzのとき-3dBの通過帯域幅は300Hzになります。 クロック周波数を変えて中心を変えると帯域幅が変化します。ただし中心周波数に対する帯域幅の割合は変化しません。
従って中心周波数が1kHzのとき帯域幅は1000/700の割合だけ広くなります。計算すると-3dBの帯域幅は430Hzくらいになります。 中心周波数が400Hzなら逆に狭くなって-3dBの帯域幅は170Hzくらいです。 中心周波数が変わっても「フィルタの"Q"」は変化しないように動作するからです。
通過帯域幅が変化しては困るように思うかも知れません。しかし測定器で観測のように横軸対数で見たとき特性変化がなければ人間の感覚上でも違和感はないようです。 実際に中心周波数を変えると帯域幅は変化するのですが何らの問題も感じませんでした。扱い易さにも変化はありせん。 それに設計周波数の700Hzから大幅に変化させて使うものではないでしょう。実用上の支障は何もないわけです。
☆ ☆ ☆
【7MHzのCWをワッチしてみました】
(再生すると音が出ます)
(再生すると音が出ます)
7MHzのCWバンドを下の周波数から上に向かって受信して行きます。初めの写真にあるような構成でDDS-VFOを使いました。オーディオCWフィルタは約700Hzの設定です。 ワッチしたとき7MHzのコンディションはあまり良くなかったようです。全般にSメータの振れも良くありません。 それでも各局の信号が次々に浮かび上がってくるのが感じられたでしょうか? あいも変わらず7041kHzにFT-8でオンエアの局が群がってますね。hi Sメータの動きなどを観察しながら擬似ワッチをお試しください。 ダイヤルが7050kHzあたりまでアップしたら下の方へ戻って来ます。
☆
これで低周波アンプユニットの特集はおしまいです。 オーディオCWフィルタの製作がメインになってしまいました。 もしオーディオ帯のCWフィルタに興味がなければ作る必要はありません。スイッチの部分を直結してしまえばOKです。 LM386Nの部分に20倍よりも大きめのゲインを持たせればTL072CPのプリアンプとLPFも省略可能でしょう。各自のニーズと好みに応じて変更すれば良いわけです。
約1年続けた「私だけの受信機設計」はこれで最終回になります。長いあいだお付き合いいただきありがとうございました。
HAMが通信に使う受信機と言ってもたいへん幅広いものが使われています。わずか数石・数球のシンプルなものから非常に高級なものまで、さらに最近はSDR式も一般化しました。 アナログな通信型受信機について1年に渡って続けましたが興味のあったごく限られた範囲をかいつまんだだけのようにも思います。各編から何か少しでも自作受信機のヒントを発見して頂けたなら幸いです。 もっとも、はなから作るつもりなんてサラサラなくって単に暇つぶし程度の読み物だったのかも知れません。あなたもその一人の筈です。そのお役に立ちましたでしょうか?(笑)
検討・製作してきた各ユニットは信号のレベルとインピーダンスが考慮してあるので、そのまま接続して行けば支障なく動作するようになっています。 電源もすべて+9Vだけで済むようにしてあります。(除VFO部分) 電源部の製作は省きましたが+9V/1Aの3端子レギュレータを使った簡単なものを作れば十分でしょう。 +12Vの電源から+9Vに落としても良いでしょう。
同調回路はどれも電子同調式になっていますので受信機のパネルレイアウトには自由度があります。 VFO部もDDS式で作ればこの部分もレイアウトは自在にできます。 AM/FMチューナ活用のプリミクスVFOもお薦めです。 単独の受信機として製作するだけでなく送信部と組み合わせてトランシーバに発展させるのも面白いでしょう。10MHz以下のHAMバンド用ならこのままのシングルスーパで大丈夫です。
あえて追加すべきようなテーマがなければこれで「私だけの受信機設計」は完了にしたいと思います。 de JA9TTT/1
(おわり)nm
【私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)
第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・I-Fフィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→いまここ