2020年12月30日水曜日
【回路】AD9833 DDS Module , Plus
abstract
I will now attempt to overclock the DDS-IC AD9833. According to the datasheet, the upper clock limit of the AD9833 is 25MHz. My guess is that 25MHz is too low.
In my tests, the AD9833 worked fine even with a clock of over 100MHz. I will get a clean 30MHz signal from the AD9833 DDS module.Now the $2 DDS module has a new value. (2020.12.30 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【クロック上限25MHzは低すぎ?】
前回のBlog(←リンク)のようにAD9833は波形の発生機能やコマンドの与え方のような使い方から見てAD9834の簡略版(サブセット)に違いないようです。
そのAD9834にはクロック上限が50MHzのAD9834BRUZと75MHzの同CRUZの2種類あって、AD9833の25MHzよりもずっと高くなっています。
上限周波数をわざわざ低く作るような設計もあるかも知れませんが、他の機能はそっくりなのにそこだけ大幅に違うと言うのも何だか不思議な感じがしませんか。 私の読みとしては、実際にはもっと高いクロック周波数まで使えるのではないかと思うのです。これはAD9833搭載のDDSモジュールの評価を進めていてずっと気になっていたことです。でも、モジュール(基板)には既に25MHzのクロック・オシレータがハンダ付けされています。これを交換しなくてはテストできませんから疑問解消はペンディングにしていたのです。
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大したことでは無くとも気になったまま年越しするのも何ですから、ここはハッキリさせておきたいと思います。・・・と言うことで、このBlogは自身の疑問を解消してスッキリ年越しするためのものです。(笑) 特にお勧めもしませんが、新しい年にAD9833のDDSモジュールのフル活用を計画するなら参考にでもして下さい。
【搭載クロックを剥がす】
モジュールには25MHzのクロック・オシレータが搭載されています。3.2×2.5mmサイズの表面実装型発振器です。オーバー・クロックを試みるには邪魔ですから除去することにします。たぶんもう一度基板に戻す可能性は低いとは思いますが、再利用できるよう綺麗にはずしたいと思います。
部品や基板そのものにダメージを与えずに実装された部品を外すためのツールが出回っています。手軽に使えるものとしては低温ハンダを使った面実装部品の取り外しキットがあります。
ハンダとは言っても接合を目的としたものではありません。 比較的低い温度で溶融しますので部品と基板が暖かいうちはハンダは「液状」のままです。その溶けているうちにピンセットで摘んでダメージを与えすに引き剥がすことが出来るわけです。あとは残存した「低温ハンダ」を吸い取りリボンや吸引器で清掃すればOKです。
【端子の配置は?】
写真はクロック・オシレータを除去したDDSモジュールの様子です。残っていた低温ハンダも清掃してあります。低温ハンダは本来の意味でのハンダ付けには適していないようですから、除去した方が良いでしょう。その上で必要に応じて正規のハンダ付けを行ないます。
搭載されていたオシレータはごく標準的なものです。規格品のようですから端子配置も規格化されているでしょう。現物の基板パターンと合わせて確認したところ、写真に書き込んだような端子配置になっていました。あとはこのハンダ付け用パッドを利用して外部からクロックを与えてオーバー・クロックを試みれば良いでしょう。その結果次第ですが3.2×2.5mmサイズの発振器でもっと高い周波数の物に載せ換えると言った改造も可能です。
【トランスを介して与える】
外部の発振器からクロックを与えます。機器間の電位差など考慮してRFトランスを介してクロックを与えるようにします。これはAD9834のオーバー・クロックを試みた時と同じ方法です。+2VのDCバイアスが掛かっており、クロック信号はそれに重畳する形でDDS-ICに加えられます。AD9833は9834に類似と考えられますが、同じ方法で試すことで比較することができます。
具体的なテスト方法はAD9834のオーバー・ドライブ実験と同じです。回路図や詳しい写真は後ほどリンクがあるので必要に応じて参照して頂けたらと思います。
当然ですが外部からクロックを与えるための端子は設けられていません。AD9833 DDSモジュールの該当パターン・ランドの所から細いポリウレタン電線で引き出しておきました。
【まずは50MHzから】
配線が済んだら25MHzの外部クロックで基本的な確認を行なっておきます。配線やクロックの与え方に問題がないことがわかったので、さっそくオーバー・クロックを試みました。
最初は50MHzからです。AD9833の25MHzというのはどう考えても低すぎるように感じます。そこでさっそく2倍の50MHzでやってみました。いくら2倍のクロック周波数で動作しても、スペクトラムが汚くては使い物にはなりません。でも、写真のように綺麗ですからあっさり合格です。
#やはり25MHzというのは余裕がありすぎる上限周波数だったのですね。想像に過ぎませんが営業上の戦略から上位のチップ:AD9834と規格上の差を設けているのではないでしょうか?
【70MHzではどうか?】
70MHzで入念にテストしたのは、大きな理由があります。 あわよくば67.108864MHzのクロックで動作できないだろうか?・・と思ったからです。もし可能なら0.25Hz刻みの端数のないステップで信号発生ができるようになるからです。制御ソフトの上からも扱いが容易になって有利でしょう。
70MHzのクロックで写真のように綺麗なスペクトラムが得られましたから問題なく使えそうでした。念のため少し低い67.108864MHzのクロックでも確認していますが、もちろんOKです。
参考:67.108864MHzは1×2^26(Hz)です。AD9833やAD9834のアキュムレータが28ビットなので、端数のない周波数ステップを得るのに有利です。ちょうど半分の33.554432MHzも悪くありませんが、なるべく高い周波数のクロックを与えた方が実用可能な周波数範囲は広くなります。 さらに67.108864MHzの2倍の134.217728MHzで動作すればFBなのですがAD9833や9834では無理なようです。
【限界は115MHzあたり】
ではオーバー・クロックの限界はどの辺りなのでしょうか? どうやら115MHzくらいのようでした。
何個か試さないとバラツキまではわかりませんが、100MHzを少し超えたあたりなのは間違いないように思います。この辺りの特性もどうやらAD9834と同じということのようですね。ICチップ製造のC-MOSプロセスは同じなのでしょうか?
【スペクトラムもきれい】
写真のように115MHzのクロックではきれいな信号が得られています。写真は示しませんが、広帯域に見たスプリアスも問題はありませんでした。
ただし115MHzというのは限界に近いためここまで使えるとは思わない方が良いでしょう。マージンがなさ過ぎます。何かの条件が少し変わっただけで破綻する可能性があるでしょう。入念に観測したところ、もう少し上の117MHzでは周期的に周波数をスイープして行く幽霊のような妙なスプリアスが見えました。115MHzは本当の限界と言えるでしょう。個体差もあるはずです。
実際に使うには十分なマージンを見込みたいと思います。用途次第ですが50MHz、75MHzあたりが無難なように思います。もちろん67.108864MHzも良いでしょう。さらに十分な確認を行なった上で90 or 100MHzが実用的な上限周波数ではないでしょうか。これらの周波数は3rdあるいは5thのオーバートーン水晶発振で得やすい周波数なのも好都合です。
【クロックが120MHzだと】
実は、与えるクロックをどう加減しても出力が出てこなくなる「上限周波数」はもっと高いのです。115MHzを越えたらAD9833の動作がピタッと止まる訳ではありません。
115MHz以上は使えない周波数だと思うので、深く追求はしていませんが恐らく150MHz以上でも何らかの「動作」はする筈です。
しかし写真の120MHzは既に使えない周波数なのです。お空で恥をかかないためにも無線機には使おうと思わない方が良いでしょう。(下記)
(参考)テストに使った外部発振器(SSG)に問題はないのでしょうか? スペクトラムが115MHzより上で急激に劣化しているかもしれません。もしそうならDDS出力も劣化するでしょう。 以前の評価では大丈夫だった筈ですが、改めて調べなおしました。 それによると使ったSSGは120MHz以上でも信号の品質に何ら違いはありませんでした。このSSGはPLL形式ですがまずまず綺麗なスペクトラムです。従ってクロック信号源としてSSGに問題はありません。以前のAD9834も含め、今回調べたAD9833のクロック上限周波数も正しく評価できていると思います。
【スペクトラムが汚い】
写真は120MHzのクロックを与えた時の出力スペクトラムです。 周波数カウンタやオシロスコープだけで観測していると異常な動作はわからないのでしょう。この周波数では与えるクロックの大きさをどう加減してみても綺麗なスペクトラムにはなりませんでした。
しかも実際に周波数カウンタで観るとちゃんと設定値の「33.6MHz」を示すのです。大元のクロックさえフラついていなければ、周波数カウンタの表示も安定したままを示します。これでは使えると勘違いしてしまいそうですが、もはや使えないことはこのスペクトラムを見たらわかるでしょう。少なくとも通信機のようなデリケートな用途に使ったらダメです。限界を極めるのならこの辺は十分に確認した方が良さそうです。
30MHzから120MHz以上まで、適宜クロック周波数を上げながら、正常に動作するクロック信号の大きさを観測しました。その数値データもあるのですが、纏めてみて基本的にAD9834でオーバー・クロックを試みた時と同じようなグラフになりました。実際の使い方としては、正常な動作が可能な周波数範囲内でおおよそ2Vppくらいの振幅で与えれば十分です。波形は矩形波でも正弦波でも大丈夫です。
種々の考察を含め、AD9833のオーバーク・ロック検討はそのままAD9834の例が適用できます。したがってこれらに適した自作のクロック発振器もまったく同じものが使えることになります。水晶発振子とFETを1石使ったオーバートーン発振回路が良いでしょう。 あるいは3225サイズの水晶発振器は入手容易なので75MHzなどへ置き換えるのも良いでしょう。
もし興味があれば諸々のことは過去の関連Blogを参照してください。
(1)DDSをHAM用無線機に使うコンセプトは:AD9834編・・・ここ(←リンク)
(2)さらにAD9834を使った新DDS-VFOの企画・設計編・・・・ここ
(3)AD9834 DDS-ICを少々オーバー・ドライブで使ってみる・・・ここ
(4)ではAD9834のオーバー・クロックはどこまで行けるのか?・・・ここ
(5)さらなるAD9834のオーバー・クロックは可能なのか?・・・ここ
(6)まだでしたらAD9833の基本的な使い方(前回のBlog)・・・ここ
(7)実際にこのAD9833で作ったDDS-VFOの製作例は・・・ここ
◎お正月がヒマ過ぎるのなら過去に遡って読み返すのもFBかもしれませんね。
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仕様の範囲を大幅に超えた使い方は邪道だと言われそうです。それはそうなのですが、25MHzと100MHzではあまりに違いがあり過ぎます。そこまで使えるのならDDSモジュールの価値はずっと高くなるでしょう。アマチュアが自家用の製作に使って楽しむ分には何もはばかられることはありません。せいぜい10MHzがやっとだったのが、30MHz以上まで実用になればHF帯をフルカバーできることになります。非常に意味があると思いました。無理のない範囲で十分活用したいものだと思います。 基本は買ったまま25MHzのクロックで使うのが良いでしょう。しかしそれ以上の可能性が明らかになったのは年末の収穫でした。(笑)
出掛けることがはばかられた1年でした。電子工作も何か「ネタ」がなければ進みません。国内外を含めた通販が発展したお陰で、なんとか楽しむことができたのは幸いでした。家人からはゴミの山と邪魔者扱いされつつも、溜め込んだジャンクも様々に役立ってくれました。この先はワクチンの効果で少しずつでも緩和されることを祈りたいと思います。楽しいお正月を! de JA9TTT/1
(おわり)fm
2020年12月15日火曜日
【回路】AD9833 DDS Module Control
abstract
Try the DDS module using the AD9833. I bought this DDS module from a mail order company in China. It is very inexpensive, but the performance is good. The signal obtained by this DDS module has good frequency accuracy and the spectrum of the signal is clean. I would like to explore the basic use of the DDS module first. (2020.12.15 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【AD9833 DDS モジュール】
AD9833を使ったDDSモジュールはお買い得です。写真のこれは昨年(2019年)の2月頃購入したものです。いまでも同じように手に入るでしょう。 DDS-ICのAD9833と25MHzのクロック・オシレータが搭載された切手大の基板モジュールが一つ100円台で手に入ります。 中華通販で購入しますがコロナ禍の影響も徐々に緩和しつつあるようです。最近ではだいたい以前のような日数で手に入ります。
自作好きでしたら「DDS」はご存知と思いますがDirect Digital Synthesizerの略称です。簡単に言えばデジタル回路の技術を使った発振器です。任意の発振周波数(*1)が得られしかも周波数安定度は極めて良好です。1990年代末に専用のLSIが登場してから一般化しました。HAMの自作では送信機や受信機の周波数とその安定度を決める重要な発振器として使われます。AD9833は米アナログ・デバイセズ社のDDS-ICチップです。
AD9833のモジュールは手軽なのは良いのですが、自作HAMの人気はいま一つのようです。たぶん高い周波数の発生ができないからでしょう。 通販業者の能書きでは12.5MHzまで可能なように書いてありますが、これは現実的ではありません。だいたいクロック周波数(25MHz)の1/3の約8MHz、あるいは工夫して10MHzあたりが実用的な上限周波数だと思います。 それでも良好な周波数安定度を持った発振器・・・例えばVFOの様な用途には重宝する筈です。
*1:厳密に言うと飛び飛びの周波数なので、完全な「任意の周波数」ではありません。ただし刻みは約0.0931Hzです。感覚的には「連続に任意の周波数が設定できる」と言えます。
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中華通販で良さそうな物が目に止まるとついついポチってしまいます。そんな購入品がだいぶ溜まっています。 いつか役立つとは思いますが開封さえしていないのではもったいないですね。
たまたま、周波数可変できる発振器が欲しくなったのですが普通に作ったLC発振器では周波数安定度が足りません。 そこで簡単に使えそうなAD9833 DDSモジュールを思い出しました。 着手してはじめは少し迷ったのですがデータシートを良く眺めたら簡単に行けそうなことに気付きました。こんなことならもっと前に・・・届いた時にでもテストしておけば良かったくらいです。
自作好きには既知のデバイスでしょう。使いこなしている人も多いと思いますが、簡単に纏めておくことにしました。いつものように自家用の纏めです。もし興味でもあればこの先もお読みください。使い方の基本がまとめてあります。
【AD9833はどんなDDSチップか?】
AD9833はシンプルで低消費電流のDDSチップです。簡単に言ってしまうと、このBlogではすでにお馴染みになっているAD9834(←リンク)の簡略版(サブセット)と言えます。
DDSチップとして得られる機能は概ね同等ですが、AD9834の20ピンに対してAD9833は半分の10ピンに削減されているため、ハードウエア的な機能はだいぶ省略されています。また、クロックの上限周波数が半分の25MHzと低いのも大きな違いと言って良いでしょう。そのため発生可能な上限周波数も半分になっています。
それでも、あまり高い周波数は必要とせず、ハードウエア的な制御機能も要しない簡易なファンクション・ジェネレータのような発振器を作るのでしたらシンプルで良いかもしれません。 HAMの用途を考えたとき、出力波形としては正弦波があれば十分です。その場合はAD9834とまったく同じような使い方になるわけです。古すぎるかも知れませんが、例えばFT-101やTS-520と言ったアナログ名機の周波数安定度を向上させる外付けVFOにも最適でしょう。
AD9833は上限周波数が低いという欠点はありますが消費電流も少ないため電池動作のRigに適しています。 簡単な無線機のVFOといえば従来は主にVXOが使われてきましたが、それを置き換えられるでしょう。上限周波数が低いとは言っても旨く使えば10MHzあたりまで行けます。コンパクトで消費電流が少なくデジタル読み取りできるVFOを内蔵したポータブルなRigが実現でます。(参考:実際にはもっと高い周波数の発生も可能です。詳しくは続編(←リンク)の参照を)
【ごく簡単な使い方】
一言で言うと、AD9834と同じ方法で使えます。様々な機能を使おうとすればそれだけ複雑になります。 しかしHAMがDDSをVFO・・・「周波数が可変できて安定度の良い発振器」・・・のように使いたいだけならAD9834との違いはないのです。
コントロールの方法ですが、データシートを眺めるとAD9834とは何となく違うように感じました。 しかし、左の説明を良く読んだらAD9834とそっくり同じで良いようです。これに気付くまでは、フローチャートを眺めたり、複雑そうに見える設定表を見てどうしようか・・・と思案してしまいました。 確かに、すべての機能を使いたいなら精読して使いこなさねばなりません。
ここでは周波数が可変できる簡単な発振器がさしあたっての目標です。従ってその機能に限って使えれば良いので、とても簡単に・・・AD9834と同じに使えば良いわけです。
【お試しプログラム】
手に入れたAD9833 DDSモジュールには25MHzのクロック・オシレータが搭載されています。買ったものが正常に動作するか否かは左図のようなプログラムで確かめられます。AD9833を初期化してから7MHzを発生するように数値データを送っているだけです。 とりあえず、これで7MHzの発振器になるので周波数カウンタや受信機で動作確認ができるわけです。
プログラムはBASCOM AVRで書いてあります。昨今はArduinoの方がポピュラーなようですが、テストに使う手元ツールの都合でBASCOM AVRにしました。 Arduinoだとあらためて作らなくてはなりません。まあ、ブレッドボードなら簡単なんですけれど・・・。なお、 Arduino用には既成の「スケッチ」(プログラムのことをこう呼ぶ)がネット上に出回っているようなので、他に何もない環境でも簡単に試せるようです。興味があれば検索で探してみてはいかが?
左図リストのもう少し詳しい説明はリンク先(→ここ)にありますので、参照してください。 リンク先のプログラムはクロック周波数が67MHzのAD9834用です。 左図のプログラムは25MHzのクロック発振器が搭載されたAD9833 DDSモジュールで7MHzが得られるように変更してあります。 働きそのものはまったく同じです。
【制御はマイコンで】
AD9833 DDSモジュールは単独で通電しても使いものになりません。必ずマイコンやパソコンでで制御します。もっとも、所定のビット列をハードウエア的に与えても動作はしますので、マイコンが絶対に必要というわけでもありません。しかし遥かに苦労が多いでしょう。
ここではAVRマイコンのATmega 8と言う少々旧式のチップを使いました。 プログラムを書き込む際に初期設定をちょっと変えてやれば、同じMEGA X8シリーズのAVRマイコンならどれでも使えます。 出力ポートの設定を変更すればさらに幅広いAVRマイコンが使えるはずです。 例えばATtiny13Aのような8ピンのチップでも可能でしょう。(ただしLCD表示器は付けられませんけど) 文末にAVRマイコンを使ったテスト回路例があります。上記のお試しプログラムに適したものです。
参考:写真のLCD表示は上記のテストプログラムとは異なっています。これは、各種DDSチップのテストに使うための汎用プログラムをAD9833用に改造して流用しているからです。
【簡単に試す】
DDSチップのAD9833はICチップ単独でも売られています。ここでは実装ずみのモジュール状態で入手したので、AD9833は基板に搭載済みです。 さらに基板にはクロック・オシレータほかバイパスコンデンサなど動作に必要な最低限の部品が載っています。従ってすぐに試すことができます。
なお、ブレッドボードに載せるためのピンヘッダ(10ピンのうち7ピン分使用)が付属してきますのでハンダ付けしておきます。ライトアングルなピンヘッダを付けると、基板などへ垂直に搭載できて扱い易いかもしれません。
配線は7本です。必要な引き出し線はデータ関係に4本、電源系に2本、出力系に2本です。データと電源のGNDピンは共通です。アナログGNDは出力の引き出しに使うと良いでしょう。
【7MHzの出力波形】
さっそく出力波形を観測してみました。だいぶ酷い波形ですが、目的信号以外に非高調波のスプリアス(不要信号)が含まれるためです。ローパス・フィルタ(LPF)なしのDDS出力を観測した際に見られる波形です。
このDDSモジュールにはきちんとしたLPFが載っていません。 DDS-ICの内部インピーダンス:200Ωと基板に載っている22pFによる気休め程度のRC型ローパス・フィルタがあるだけです。(計算上のカットオフは約36MHz)
そのため、DDS発振器特有の折り返し信号や他のスプリアス信号もほぼそっくりそのまま出てきます。それで写真のような汚い波形になっています。 実際に何かの機器に使用するには必ずLPFを付けなくてはなりません。 後ほどスペクトラムの観測結果もあるので参照を。
適切な遮断周波数のLPFを付加すれば、出力はきれいな正弦波になるので心配はありません。 モジュール内部には一切手を付けず、搭載されている25MHzのクロック・オシレータをそのまま使うとすれば、π型2段程度の簡易でなだらかなLPFなら8MHzくらいのカットオフ(遮断周波数)で設計します。もっと良く切れるフィルタ・・・例えば有極型の急峻な遮断特性を持ったフィルタならカットオフ周波数は10MHzが良いでしょう。(後述)
【発生周波数の確認】
さっそく出力周波数を確認してみました。プログラムで設定したのは7MHzちょうどです。このように7MHzにたいへん良く合っていますが、実は写真のこれはデータ的に補正してあるからです。
上記のテスト・プログラムのように25MHzのクロックには誤差がないとして算出したデータをセットしてみたら、約4.8Hzほど高い周波数を発生しました。この周波数誤差の4.8Hzには個体差があって、別のモジュールでは異なった値になります。しかし、3つ調べたら周波数誤差はどれも1ppm以下(±7Hz以下 )でしたから意外に良い精度です。もっとも、中国製の常でロットが変われば様子が違う可能性はありますが。
たぶん、クロック発振器には温度変動があるので神経質に周波数合わせしても長く維持はできないでしょう。とりあえず初期誤差も少ないので、あまり難しく考えずに使うのが良いのかもしれません。 WSPRの送受信のように高い周波数安定度を要する用途では幾らか心配もありますが、普通のCWやSSBと言ったモードでしたらまったく支障のない安定度です。LC発振のVFOやVXOでは上手に作ってもなかなか得られない性能です。
【モジュールの回路は?】
ネット上を丹念に探すと回路図が見つかるようですが、現品をざっと見ただけでメーカーのテスト回路と大差なさそうでした。従って左図のようなものだと思えば良いようです。
左の回路図にはバスバッファ(U2:74HCT244)が載っていますが、このモジュールには載っていません。これはなくても支障はないでしょう。あとはほぼ同じでしょう。従って、非常にシンプルな回路のように思います。
左図のC4が簡易なLPFの働きをするコンデンサ(22pF)です。このように、LPFは無いに等しいのですからきちんとしたフィルタの外付けが必要なわけです。外付けのLPFを構成する際には、モジュール上のC4を除去するか、その分だけ補正すると良さそうです。出力インピーダンスは概略200Ωになっています。
なお、内部にある電流型DAコンバータの負荷抵抗器:200Ωは切り離すことができません。従って出力インピーダンスは200Ωです。AD9834のように外付けで任意に設定できませんが支障はないでしょう。ピン数が少ない関係か平衡出力ではないのが残念なところです。
追記:購入したDDSモジュールの回路図があったので追加しておきます。 基本的にメーカーの推奨回路と同じになっています。回路図の「CON7」というのが引き出されている端子です。
AVRマイコン基板とのインターフェースでは、ATmega X8のPortC.0をDDS基板のFSYNC(CON7の5番)、PortC.1はSDATA(3番)、PortC.2がSCLK(4番)へ配線されます。GND(2番)とVcc(1番)の配線も忘れないでください。
DDSモジュールからの出力取り出しは、OUT端子(7番)とAGND(6番)から行ないます。出力インピーダンスは200Ωです。
モジュールの消費電流は実測で7〜9mAでした。(電源電圧=5V、fo=7MHz、5個測定) データシートによるとAD9833単独の消費電流は約5.5mAです。従ってモジュールに搭載されている25MHzクロック発振器の消費電流は概ね2〜3mAとなります。消費電流の少ない発振器なのは良いことです。
# ピン接続についての詳細は後ほど登場するマイコンとLCD表示器を含んだ回路図を参照してください。
【100MHzまでのスプリアス】
出力のスペクトラムを観測してみましょう。まず初めは、100MHzまでに含まれている全スペクトラムを示しました。
上でも書きましたが、このモジュールにはちゃんとしたLPFは載っていません。そのため出力にはたくさんのスプリアスが含まれています。このように比較的大きなスプリアスが含まれていますから、LPFの付加が必須なことがわかります。それぞれのスプリアスには発生している理由があります。周波数を記入しておいたので興味があれば検討してみてください。周波数の設定を変えるとそれぞれ上や下へ動いて行きます。意外に少なかったのは25MHz(クロック周波数)の漏れで、ほとんど見えません。
ここで問題になるのは目的周波数の直上にある大きなスプリアスで、これは折り返しによるものです。(左図では18MHzのもの) これは目的信号の周波数を上げると逆に下がってきます。目的信号にどんどん接近してきて12.5MHzにセットするとついに一致してしまいまったく分離できなくなるのです。
例えば、出力を10MHzに設定するとスプリアスの方は15MHzに下がってきます。これを分離しなくてはならず、従ってかなり急峻なローパス・フィルタが必要になる訳です。
【7MHz周辺のスプリアスは?】
特に重要なのは目的信号の近傍に発生するスプリアスです。これは簡単なフィルタを付けたくらいでは取り除けないからです。目的信号である7MHz近傍のスプリアスを観測してみました。まずは7MHzを中心に±50kHz、全体で100kHz幅を観測しています。
このようにスプリアスはまったく観測されません。これなら心配はいらないでしょう。モジュール搭載のクロック・オシレータ(25MHz)が良くないとスプリアスが現れることがあります。このモジュールに載っているオシレータはなかなか良さそうです。
ノイズ・フロアも低いようですからローノイズなVFOが作れるでしょう。もう少し大きなレベルまで増幅したいなら、なるべく少ない段数のアンプで済むように設計するのが上手いやり方です。何段もアンプを通せばそれだけノイズ・フロアも上昇しますので。
【ごく近傍のスプリアスは?】
目的信号の上下5kHzの範囲といった、ごく近傍のスプリアスを観測しています。少しだけスプリアスと思われる信号が見られますが、目的信号の-80dB以下ですから殆ど問題ない筈です。
受信機の局発(VFO)に使った場合、ごく近傍にノイズやスプリアスがあると、それによって目的信号が変調されてIF帯域に現れることがあります。高性能な受信機の実現にとって厄介な問題になるわけです。
このAD9833 DDSモジュールはチープなものですから、高級なRigに使う可能性は低いかも知れません。しかしきれいなスペクトラムが得られていますので上手に使えばかなりの高性能リグでも満足できるでしょう。ここまで観測してコスパの良いモジュールだと思いました。
参考:実用的な発振周波数の上限が低めなのは与えているクロック・オシレータの周波数が低いからです。過去に実験したAD9834やAD9850の例にならい「オーバー・クロック」を試みるのも面白いと思います。 おそらく30MHzを超えるようなクロックでも動作するでしょう。もし33.554432MHzまでアップできたらVY-FBですね。
しかし、このAD9833 DDSモジュールはそのまま使うのがベストではないでしょうか? より高い周波数は別のDDSチップに任せ、これはそのままシンプルに使うのが良さそうです。 すでに搭載されている25MHzのクロック・オシレータはスペクトラムが綺麗で周波数精度もまずまず、更に消費電流も少ないですから。
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【10kHzを発生してみる】
これはオマケです。 このDDSモジュールの出力端子はDDSチップ:AD9833の出力ピンに直結です。従って、設定すれば非常に低い周波数まで取り出すことができます。
25MHzのクロックですから、1ステップが約0.0931Hzです。周波数の設定データを「1」に設定すれば、そこまで出力可能なはずです。無線の用途ではまず必要はありませんが、オーディオや機械制御のような用途には有用かもしれませんね。
プログラムを変更して試しに10kHzを発生させてみました。データは10進で言えば「107374」で28bitのバイナリ(2進数)で表すと「&B0000 0000 0001 1010 0011 0110 1110」です。これをMSBとLSBに分けて周波数レジスタへ設定すればOKです。(上記プログラム参照)
他の周波数が必要なら、目的周波数をf(Hz)として設定値をXとすれば、Xは以下の計算から求められます。 X=(f/(25×10^6))×2^28・・・・です。なお、25×10^6というのはクロック周波数:25MHzの意味です。クロックを変更したらそれに合わせます。また2^28と言うのはAD9833のアキュムレータが28ビット長だからです。これはAD9833を使う限り不変です。計算値に小数点以下の端数が付く場合、それが設定の誤差になります。その小数点以下の部分を四捨五入して設定すると周波数精度が上がります。こうして得られたXを周波数レジスタに対して純2進数に変換し設定します。(注:周波数レジスタは2つあって切り替えて使用が可能)
【10kHzの波形】
写真は10kHzが出力されるようデータをセットした時の出力波形です。このように10kHzのような低周波では10ビット分解能のDAコンバータの性能がフルに活きるため綺麗な正弦波が出力されます。簡単なローパス・フィルタを付ける程度でも十分実用になるでしょう。
もし正弦波以外の波形を発生したいならコントロール(制御)レジスタへの設定を変更することで簡単に可能です。
例えば、三角波を発生するには:「&B0010 0000 0000 0010」をAD9833に送ります。
矩形波の発生も同じようにできます。 2つの種類があって、設定周波数と同じ周波数の矩形波が得られるのは:「&B0010 0000 0010 1000」です。また、設定の1/2の周波数(周期は2倍)の矩形波は:「&B0010 0000 0010 0000」で得られます。
いずれも再び正弦波に戻すには「&B0010 0000 0000 0000」を送ればOKです。
これらの切り替えを試すにはプログラムリストの行ナンバ:340のところをそれぞれ書き換えて実行すれば良いです。 なお、正弦波と三角波の振幅は写真のように約0.6Vppですが、矩形波は0から約+5Vまで振れる大きな振幅なので注意が必要です。
【Aliexpressで買える】
左図は、Aliexpressで販売している例を画面キャプチャしたものです。もっと安価なショップもあったかもしれません。購入前に良く比較検討することをお勧めします。
まったく同じモジュールをAmazonで転売している人もいるので、海外通販が苦手ならそちらが良いかもしれません。しかし中華通販で直接購入すればずっと経済的です。送料も数10円からあります。
急がないのでしたらお勧めの購入方法でしょう。遅延気味だった納期も最近は以前に近くなってきました。 国際通販にはリスクもあるので、各自の判断と責任で購入されてください。
【参考:AD9833 DDS-VFO回路図】
AD9833 DDSモジュールを使ったVFOの参考回路です。上記のテスト・プログラムを書き込んで購入したモジュールをテストするために使います。 購入したAD9833モジュールのテストには、図のオプション部分を省き必要なところだけをブレッドボード上に製作すれば十分でしょう。(もちろんVFOにはなりませんけれど)
この回路図にはカットオフ周波数が10MHzのよく切れるローパス・フィルタの回路とその部品定数が記入してあります。 こうしたLPFはAD9833 DDSモジュールを活用する際には必須です。
少々複雑ですが、なるべく周波数範囲を広くとるためのローパス・フィルタとして適当でしょう。リンク先(←リンク)にはこの設計で作ったLPFの周波数特性グラフがあります。必要に応じて参照してください。
左記の回路図では出力インピーダンスが50Ωになるようにインピーダンス変換しています。もし200Ωのままで良い場合は、トランス:T2を省いてください。
なお、目的は上記のテスト・プログラムを走らせるだけなので「OPTION」の囲み部分は不必要です。(OPTION部分を配線しても意味がありません) また、外部から5Vを供給してテストするならU1の3端子レギュレータ:μA7805ACも不要です。
LCD表示器は以前から秋月電子通商で売られている「SC1602BSLB」を使うようになっています。現在はより消費電流が少なくて、しかも見易いタイプも売っているのでそれを使う方が良いでしょう。 大半のLCD表示器は接続ピンに互換性がありますが、Vcc(1番ピン)とGND(2番ピン)が逆になった物が多いので説明書をよく読んで使います。(実は秋月で売っているこのシリーズのLCD表示器だけが変なのです・笑)
☆ ☆ ☆
またまたの脱線でした。 ゲルトラの送信機は「コロナ禍がすっかり片付く頃でも良いかな?」なんて思ってしまったら、まったく別の方向へ行ってしまいました。 受信機も何とかしたい・・などと思ったら、今度はVFOも何とか・・・と思い始めて「そう言えばAD9833のモジュールがあったな」などと芋づる式に思い出してしまったような訳です。 挙句は去年のお題を今年の年末に片付けるような情けない話に。趣味に納期はないとは言ってもねえ。(笑)
紹介したAD9833のモジュールはだいぶ前から出回っていました。 AD9834やAD9850でさえまだ十分には使い切れていないのに更に手を出すのも・・・と思ってペンディングにしていたのです。 しかし、思い立って手を付けて良かったと思います。 これで一通りの使い方がわかり、特徴も掴めたので何かの機会に役立ってくれるのは間違いないでしょう。 ではまた。 de JA9TTT/1
(オーバークロックを試みる続編につづく)←リンクnm
2020年11月30日月曜日
【回路】Try the germanium transistor! Part 2
abstract
Making an RF Power Amplifier with Germanium Transistors. Germanium transistors are vulnerable to high temperatures, so they are mounted on a large heat sink. The Π605 is made in the Soviet Union, so I had to make a little effort to mount it on a heat sink. Now that it went well, let's try a collector grounded type RF Power Amplifier. (2020.11.30 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【Π605でパワー・アンプ】
前回のPart 1(←リンク)では水晶発振回路を試作してみました。大きめの石(トランジスタ)を使えば100mWくらいの発振出力なら十分可能そうでした。
7MHzの送信機として目標パワーは3〜5Wです。発振から一段の増幅で一気に3W以上得られたら良いのですが、それには終段パワー・アンプのゲインがどれくらい取れるのかが課題になります。
パワー・アンプも旧ソ連製のトランジスタ「Π605(P605)」で作ります。Π609Aよりコレクタ耐圧が高く電流もたくさん流せるからです。これらはパワーを出すための条件とも言えるものです。但しfTが低いのでのでパワー・ゲインは小さめでしょう。
2000年ころ作ったゲルトラの送信機でも終段の石が問題でした。何とか100mWが得られる2SA127という石を見つけて目標のパワーが出せたのですが、それが限界でした。
Π605は遥かに大きな規格のトランジスタです。コレクタ耐圧:VCBO=-45V、コレクタ電流:Ic=-1.5Aです。コレクタ損失:Pcも3Wありますから上手に使えば数Wは可能なはずです。 fTはΠ609Aの120MHzより低いのですが、それでも30MHz以上あるので7MHz送信機のファイナル(終段増幅器)なら何とかなるでしょう。あとはどれくらいのパワー・ゲイン(PG)が得られるのか、具体的に言えばどれくらいのドライブ電力が要るのかがこの実験のテーマとなります。
☆
20年前ならもっと「ヤル気」に満ちていたかも知れませんね。最近はボチボチじっくり楽しもうという方向で進めるようになってしまいました。たった2〜3ステージのシンプルなCW送信機に何ヶ月も掛けていてはしょうもないのですが、遅々としているのが現実です。私なんか待っていないで「ヤル気」に満ちたお方はどんどん先に行ってください。じっくり楽しみながら追い付きますから。(笑)
ゲルトラの送信機など自作のテーマとしてもは特殊ですし、さしたる意味がある製作とは思えません。実用的な送信機なりトランシーバはシリコンの高性能なトランジスタやFETで作るべきです。 物好きな製作がお好みならこの先も宜しいかも知れませんが、あまり興味がなければ早々にお帰りください。大したことは書いてありませんし。 暮れは何かと慌しいもの、いたずらに時間を浪費されませんように。
【黒いΠ605】
入手できたΠ605には黒いものもありました。この黒いΠ605はさらにリード線がハンダ付けされていました。ソ連時代の機器の何か決められた目的・用途に使う物だったのかも知れません。
地金色の無塗装でリード線付きのΠ605も売られているのを見たので、色の違いにさしたる意味はないのかも知れません。 しかし何となく気になりました。本体部分の形状はまったく同じですが、黒く塗装されていてリード線が付いているなど選別品を加工した可能性もありそうです。 ひょっとしたら電気的な特性に違いがあるかも知れません。可能な範囲で調べてみることにしました。
今回のようなRFのパワー・アンプで気になるのはコレクタ耐圧とトランジション周波数:fTの違いです。 耐圧が高ければより高いコレクタ電圧を印加できるため増幅効率が良くなり、大きなパワーが得られる可能性があります。 逆に耐圧が低ければ目的のアンプには不適当になるでしょう。 またfTが高ければRFのパワー・アンプには有利ですが、逆に低ければ十分なゲインが得られません。使いにくい石になってしまいます。
調べた結果から言うと大した違いはありませんでした。ロットの違いによるバラツキ以上の差異はなさそうです。 黒い方がややfTが低めでしたが10%くらいの違いです。 コレクタ耐圧はほとんど同じでした。 耐圧の実測ではいずれの石も規格値よりも高かったので好都合です。電源電圧:Vcc=-12VのCW送信機なら十分安全に使えそうです。
# こうしたデバイスの特性を比較する時にはカーブトレーサがあると重宝します。
【Π605の外形寸法図】
Π605に限らず、前回のBlogで発振回路に使ったΠ609Aも同じ形状です。 この形状はソ連時代のパワー・トランジスタではポピュラーなようです。
今回はパワー・アンプなので十分な放熱が必要ですから寸法図に従って、本格的なヒートシンクに穴あけ加工を行なって取り付けることにします。
ソ連は米国と違ってメートル法を採用していたようです。 そのためこうした電子部品の寸法もmm単位になっています。 その点は米国のインチ法よりも扱い易いのですが、手加工するとなるとなかなか細かいところは思うように行かないものです。
【ハンコは廃止の方向ですが】
上記の図面に従って精密な穴加工ができると良いのですが、手工具だけではなかなか精度が出せません。せめて重要な寸法の部分だけでも正確な位置にセンターポンチを打って精度を出したいものです。
精密にけがいて位置決めできたら良いのですが、なかなか精度が出ません。手っ取り早い方法として「現物合わせ」で行くことにしました。
足ピンに太さが有りしっかりしていますから、スタンプの要領で朱肉を付けてピンの位置を正確に写し取ることができました。 あとは写し取った紙片を切り抜いてヒートシンクの所定の場所に貼り付け、正確にセンターポンチを打ってやればOKでしょう。 この方法は精度もよく大成功でした。
足ピン3本の穴加工が成功したら、止め金具の穴位置を決めます。 トランジスタの足ピンが開けた穴のセンターに来るように粘着テープで仮に固定します。 止め金具を載せて固定する位置を確定します。こちらの穴はφ3mmのビスに対して、最初から遊びがあるため多少ラフでも支障ないでしょう。
【穴加工終了】
穴加工がうまくできました。 押さえ金具の位置合わせは多少やり難かったのですが大丈夫でした。 金具の方に遊びがあるのでそれなりの加工精度でもうまく行くようです。
日本で一般的なパワー・トランジスタなら取り付け穴加工が済んでいるヒートシンクが容易に手に入ります。自ら穴加工する必要はあまりありません。 また、最近は樹脂モールドタイプのパワトラが殆どですから穴加工も一つだけで済むため簡単です。 まさかソ連製のトランジスタ用にヒートシンクの穴加工をするとは思いませんでした。
【取り付けてみる】
さっそく仮に取り付けてみました。思ったよりも上手く行きました。
ピン足の穴あけ位置は十分良い精度が得られています。 ピン足の穴は初めφ2mmで開けました。位置的にも精度的にも問題はないようでした。 しかしリード線をハンダ付けするなどの都合を考えると余裕がないのでφ2.5mmに追加工して終了にしました。
押さえ金具の固定にはヒートシンクにタップを立ててネジ穴加工を行ないました。これでM3のネジで直接止めることができます。
Π605はケースがコレクタに接続されています。 従ってこのような止め方ではコレクタとヒートシンクの絶縁が保てないことになります。 しかし、これは支障ありません。 はじめからコレクタをアース・GNDする回路形式で設計しているからです。(後ほど回路図あり)
トランジスタのケースを直接ヒートシンクに密着することで最良の放熱効果が得られます。また、コレクタとヒートシンク間のキャパシティも発生しなくなります。 コレクタがケースに接続されているRF用パワー・トランジスタの使い方として確立された回路形式です。
【組立構造を考える】
どのように組み立てるのか考えた結果、ナマ基板の上に作ることにしました。周波数は7MHzですから神経質になる必要もないのですが、RF的(高周波的)に安定な構造が間違いないでしょう。
ヒートシンクに固定用のタップを立ててあります。 基台となる生基板にねじ止めで固定します。 ヒートシンクもGNDに直結されますから高周波的にも安定すると思います。
回路部分は生基板の上にランドとなる基板片を瞬間接着剤で貼り付けて組み立てます。 何しろ実験的な一品料理ですから何でもアリです。
さて、今回のPart 2はここまでの作業でおしまいです。 RFアンプとして組み立ててゲインの測定や可能なパワーなど見極めるのは次回以降になります。 今のところ、トランジスタ単体での事前評価では十分なゲインが得られ、パワーも出てくれるように思います。 ただし、RF用のゲルトラで数Wと言った「ハイパワー(?)」を扱った経験はありません。 ゲルトラは思いのほか脆い(もろい)という印象もあるので、パワーが出るのはほんの一瞬ですぐに壊れてしまう・・・と言った結末もないとは言えません。 大きな・・・過剰そうにも見える・・・ヒートシンクを奢っているのも少しでも安全かつ確実なパワーを期待してのことです。 それでも、このソ連製ゲルトラのS/B領域はどの程度なのかと言った情報はないので気が抜けません。
【実験回路(案)】
最終設計ではないことをあらかじめ書いておきます。 まずはRFパワー・アンプ部単独でテストします。回路はこのような物を考えていますが、まだ最終的なものではありません。
ゼロ・バイアスのC級増幅ではなく、B級あるいはAB級バイアスも可能なように考えてあります。 ただし、ゲルトラの場合ゼロバイアスであっても僅かなコレクタ電流:Icoが流れています。これはベース漏れ電流:ICBOの影響によりるものです。普通、シリコンのトランジスタでは殆ど無視できる電流です。ところが、ゲルマニウム・トランジスタではそれが無視できません。 従って常に完全なゼロバイアスではない訳で、特にリニヤ・アンプ的な動作を望まないのであれば、外部に特別なバイアス回路は必要ないのかも知れません。VBEも0.2V位と小さいですし。このあたりも含めて、実際に製作して最適化したいと思っています。 ゲルトラのRFパワー・アンプはまだまだ未知の部分が多いのです。 だからこそじっくりとスリルも味わいつつ製作を楽しみたいものです。
☆
少し間が空いてしまったらすっかり気が抜けてしまいました。やるべきことは沢山あるのですが、なかなか捗りませんでした。取り敢えずはどんな回路で作るのかを決め、それに合ったようにヒートシンクの加工から始めました。ここまでは何とか進んだのですがその先がストップしています。パワー・アンプとしての回路定数も未定の部分があります。そこが肝心だったりしますが・・。(笑)
何事も心がけ次第ですね。気が抜けてしまうと遅々としてしまいます。この先はパワー・アンプのゲインを測定したらドライバ・ステージへ戻って必要なパワーが得られるよう設計を進めましょう。ではまた。 de JA9TTT/1
(おわり)nm
2020年11月15日日曜日
【測定】Simple Transistor Curve Tracer.
abstract
This Blog explains how to make a simple curve tracer adapter. This curve tracer adapter was designed in the 1970s. So, there is no IC in it. Instead, this is a very good use of UJT. The circuit is simple, but I think it still works well today. I also dealt with how to modify the cheap oscilloscope, which is an essential part of the curve tracer. Even a simple oscilloscope may work well. How do you like it for your shack? (2020.11.15 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【これだけの回路でできる】
カーブトレーサはトランジスタやFETと言った半導体の特性をビジュアルに表示するための装置です。 そんなカーブトレーサ(アダプタ)の製作と言うと何だか難しそうですが、写真のたったこれだけでも機能します。 もちろん、シンプルなだけに機能や性能は限定されたものですが「有るのと無いのとでは別世界」なのは間違いないです。(私見です・笑)
これで殆どの小信号用トランジスタの観測ができます。 ただし特性カーブを描き出すための表示装置としてオシロスコープを使います。オシロまで自分で作るのは大変なのでこれだけは用意しましょう。 難しいことを言わなければ、後ほど説明するような安価なオシロスコープでも十分役立ってくれます。 オシロスコープなんて持っていないと言わずにローカルなジャンク市とかメルカリやジモティーで目的に最適な出物が見つけられるでしょう。
☆
うまく説明できなかったようでカーブトレーサにご興味を示すお方は限られたようです。・・と言うか、使用経験のないものには反応もないですよね。 予想通りPart 0で終了しても良さそうでしたが、それでは収まりが悪そうです。 そこで予備調査の段階で検討したとても簡単なカーブトレーサ・アダプタを雑誌記事から紹介しておきたいと思います。 今は興味がなくてもいつか欲しくなるかもしれません。そんな時には思い出して下さい。 もちろんその可能性はなければここでお帰りがお勧めです。
【試作の元はこれ】
ネットで探すとカーブトレーサ(アダプタ)の製作は結構引っかかります。 しかしごく簡単なものが大半で、画面にトランジスタの特性は描き出せるもののオモチャ程度の物が多いようでした。
そうかと言って「測定器」として通用しそうな物は高級すぎて製作も大変です。 その中で参照したこの記事はオモチャ以上に役立ちそうに見えました。しかも、見ての通り回路もかなり簡単です。
古い記事なのでシンプルとも言えますが、旨く纏められていると思います。これくらいなら誰でも作れそうな回路規模でしょう。 実際に試作は手持ちの部品でほとんど間に合ってしまいました。(手持ち部品に合わせ多少は工夫した)
前回のBlog(←リンク)の写真に写っている大きな電源トランスは手持ちの都合です。過剰なサイズですからもっと小さな物で十分でしょう。たくさんあるスイッチ関係が一番厄介かもしれません。 スイッチのような機構部品は正規に購入すると意外に高価です。しかし秋葉原や日本橋で探せば適当なものが見つけられるはずです。(参考:例えば2回路11接点のスイッチは、東測のRS400N2-2-11APなど。@¥2,500ーくらい) 手持ちのジャンクを有効活用すれば経済的でしょう。回路の詳細はこのあと説明します。
なお、ここで参照した雑誌記事の全文がここ(←リンク)に置いてありますので、製作されるのでしたら是非ダウンロードして下さい。製作方法だけでなく特徴や詳しい使い方も解説されています。英文ですが一般読者向けの内容ですし、たった3ページですから読むのも困難ではありません。わからなければ質問でもどうぞ。(もしリンク先のファイルが開けない・ダウンロードできないなどトラブルがあれば言って下さい。メール添付で送ります)
【回路の説明】
カーブトレーサ(アダプタ)として非常に基本的な回路です。 それでもベース電流のステップ数が任意に変えられるほか、NPNトランジスタだけでなくPNPトランジスタの観測もできるようになっています。なかなか本格的ですね。
また2SK192Aのような小信号FETの特性もわかります。 古い設計なので最近のMOS-FETのようなエンハンスメント型には対応していませんが、ちょっと改造すれば原理的にそれも観測できるはずです。
回路は主に2つの部分でできています。 一つ目はメインとなる回路で、ベース電流を段階的に増加させて流すための「階段波発生器」です。この部分はUJT(ユニ・ジャンクション・トランジスタ:単接合型トランジスタ)を非常にうまく使った回路になっています。詳しい動きは過去に実験したことがあるのでそちら(←リンク)も参照して下さい。
1V刻みの階段状の波形を作っています。オリジナルの回路のままだと6段程度が限度でした。6段でも十分実用にはなりますが、もう少しだけ段数を増やしたかったので単純に電源電圧をアップして対応しました。これで8〜9段が得られるはずです。使用しているトランジスタやUJTの定格から見て電源電圧20Vなら支障のない範囲です。(左図はBT-33Fのピン配置図)
なお、わざわざ電圧の高いトランスを購入までして対応する意味は少ないです。手持ちにトランスがあるなら回路図通りに作っても良いでしょう。 試作では+20Vの安定した電圧を与えてやりました。整流したあと3端子レギュレータなど使って安定した電圧を与えるようにすれば確実な動作が期待できます。
半導体の代替方法は回路図に注釈しておきました。肝心のUJT:BT-33Fはイーエレ(←リンク)で購入しましたが、Aliexpress(中華通販)でもたいへん安価に売られています。BT-33Fは中国のUJTですが2N1671の代替品として支障なく使えます。手に入るなら国産のUJT:2SH12とか2SH21などでも良いでしょう。 他のトランジスタは2SC1815GRと2SA1015GRで十分です。わたしは中華モノの2N3904と2N3906(どちらも互換品)を使ってみました。たいへんうまく動作します。
もう一つはコレクタ電源です。これは測定対象のトランジスタに(スイープされた)コレクタ電圧を与えるための電源部です。ゼロVから最大電圧まで任意に加減できる必要があって、この回路図ではワット数の大きなボリウム(可変抵抗器)を使って電圧を加減するようになっています。(R27の部分)ここはだいぶ電流が流れますから普通の500Ωのボリウムではまったくダメです。数W(ワット)以上が定格の巻線型ボリウムを使うと安全です。 わたしは手持ち部品の都合で別の回路(手前にある謎の回路)で試しましたが、シンプルなこの回路図のような方法で十分だと思いました。
もともとパワートランジスタ向きの設計ではありませんので、電源トランスなどいずれも小型のもので十分使い物になります。これでなくてはいけないという部品はUJTくらいのものですから、手持ちを有効活用する方向で検討すると良いです。 電源部で難しい部品はないと思いますが、ダイオードは逆耐電圧が100V以上あって1Aくらい流せるものなら何でもOKです。 電源トランスですが、12V巻線が3つ付いた規格品は見掛けませんが、トヨデンのHTR-2405のようなトランス(24V途中タップつきが2巻線:各0.5A)で代替できるでしょう。安定した20Vを作るのにも好都合なトランスです。東栄変成器にも同様なトランスがあります。 もちろん都合の良い巻線が2つ付いたトランスが見つからなければ小型のトランスを2つ使う方法でもかまいません。各自が工夫できる部分です。
【階段波発生回路の製作例】
階段波発生回路の様子です。 同じような機能を得るために、今でしたらデジタルな回路を作るとかOP-Amp.で行くとか別の方法があると思います。いくつか簡単そうな方法も考えました。 しかし必要な性能があってしかもシンプルな回路となると、このUJTを使った回路は捨て難いものでした。
測定対象のトランジスタのベースにこの階段状の電圧から直列の高抵抗を経由して加えます。トランジスタのVBEはほぼ一定ですので、概ね階段状に変化する「定電流」でドライブされることになります。
回路のかなめであるUJTこそ少々特殊な部品ですが、中国製のUJT:BT-33Fが安価で手に入るので支障はないでしょう。以前購入した物を使いましたが、今でも問題なく手に入ります。 価格も安いですから心配ありません。 UJTと言うと凡人は電子メトロノームや雨垂れ睡眠器のようなアプリしか思い浮かびませんが、こうした測定回路にも使えるのですね。考えたお方は素晴らしいです。
写真には可変抵抗器(半固定抵抗)が3つ写っています。 そのうち一つ、1V Stepの調整用VR(R4)は製作後の初期調整用です。操作パネルに出す必要はありません。 他の二つはパネル面に出してツマミをつけて下さい。 使用中は時々加減する必要があります。
配線は少々長くなっても支障はありません。何しろ低周波の50Hzとか60Hzを扱うだけですので。 ただし、被測定トランジスタのベースへの配線に電源からのAC電圧が誘導すると波形が揺れてしまいます。またコレクタに印加する電圧は100または120Hzの脈流なのでこれの誘導にも注意します。いずれもベースへの配線と密着させて長く引き回さなければ大丈夫です。あとは特に難しいことはないでしょう。部品配置もラフで大丈夫です。案外雑に作っても動作します。
重要:トランジスタを壊さないように
カーブトレーサは測定対象のトランジスタを(簡単に)壊す能力があります。トランジスタに加えられる最大電圧や、流せる最大電流を超えた測定ができるからです。従って扱いを間違えると貴重なトランジスタやFETを瞬時に壊します。測定を始める時には、必ずコレクタ電圧を絞った状態で装着します。さらに、ベース電流も小さな設定から様子を見ながら順次増やして行くようにします。 NPNとPNPの区別はもちろんですが、コレクタ、ベース、エミッタの電極を間違えて装着すると「イチコロ」の可能性があるので十分気をつけます。これはどんなカーブトレーサでも同じです。 どうか虎の子の貴重な石を壊しませんように!
【CO-1303Gの使い方】
だんだん使い道がなくなって来たようなオシロスコープ:CO-1303DやGも十分使えます。ただし少し改造した方が使い易くなるでしょう。
写真は、無改造のCO-1303Gに表示させて見たものです。 測定しているのはNPNトランジスタの2SC1815Yです。写真のように第3象限に波形が描かれるようになります。(画面を180度回転したようになる訳です) これはカーブトレーサ・アダプタの回路構成上、コレクタ電流は負方向の電圧として現れるためです。(←NPNトランジスタの場合) また、コレクタ電圧は正方向に出るのですが、このCO-1303Gの外部入力(X軸入力)は偏向方向が逆なのです。プラスの電圧を与えると輝点が右ではなく左に動くのです。(逆に動くなんて、こんなのもあるんですねえ!・笑)これら2つの理由のため写真のように反転したような表示になってしまう訳です。
慣れの問題なのでこのまま使っても支障ないかも知れませんが、できたらNPNトランジスタの特性は第1象限に現れて欲しいものですね。
【近代的オシロなら改造不要】
カーブトレーサ・アダプタ側で回路的に解決することも可能です。しかし幾らか複雑化しますし、このシンプルなアダプタはこのままが良いと思います。 それと、もう少し高級な(近代的な)オシロスコープならこうした問題は回避できるのが普通です。 今では2現象以上のオシロスコープが一般的だと思います。 そうしたオシロでは、ほぼすべての物にチャネル2(Y軸になる)の極性反転スイッチがあるはずです。このスイッチをONすればコレクタ電流の表示極性を反転できます。これで上方向が正(+方向)の表示になります。 また、チャネル1がコレクタ電圧を示す横軸(X軸)になるのですが、正方向の電圧で右に(+方向に)振れるのが常識でしょう。 従って、CO-1303G/Dでは表示が反転する問題がありますが、もう少しマシなオシロならカーブトレーサ・アダプタの側はそのままで何も問題ないのです。
そのようなことから、回路的に対策するのはやめておきました。シンプルなままが良いです。
CO-1303G/Dの場合、ではどうすれば良いか? 答えは案外簡単に見つかりました。 要するにCRT(ブラウン管)の偏向方向を変えてやれば良いわけです。 偏向極板の極性を入れ替えれば、輝点の動きは逆になりますから簡単に反転できるのです。バカみたいに単純な方法ですが、何でもSimple is the Bestですから。
もっと高級なオシロでは、そう簡単ではないかも知れませんがシンプルなCO-1303Gのようなオシロならごく簡単に対策できます。 現象から見て、X軸、Y軸ともに反転する必要があります。 回路図と現物を確認したら容易に可能でした。 まず、Y軸ですが背面に直接軸入力用の切り替えスイッチが付いていました。 そのスイッチを流用して偏向極板の極性を入れ替えます。極板からの配線もそのスイッチまで来ています。 X軸の方はおあつらえ向きのスイッチは付いていませんから、2回路のスナップ・スイッチを追加して写真のように配線の途中に切り替えを設けました。
恒久的にカーブトレーサにするなら配線を変更して(入れ替えて)しまえば良いとは思いますが、PNPトランジスタを測定することなども考えるとスイッチで反転・非反転が切り替えられた方が使い勝手は良いでしょう。
【良い感じに】
偏向方向の反転スイッチを設けてやるとこのようにわかり易い表示になります。これは2SC373の特性を測定しています。 安価なオシロですから、表示の有効面積が小さくCRTも内面目盛ではありません。それでも十分使い物になります。縦x横で6x8目盛分の有効範囲があります。 簡易型のカーブトレーサ・アダプタとは言え小信号トランジスタを測定する範囲においては本格的なものとさして違いのない能力があると感じました。手持ちオシロの活用範囲を拡大できるアダプタとして面白い製作ではないでしょうか?
オシロスコープのY軸とX軸の感度を校正しておきます。 CO-1303GのY軸には感度の調整ツマミが付いていますから、例えば0.1V、0.2V、0.5Vで1目盛になるポジションにそれぞれ印を付けておくと便利です。そうすれば0.1Vのところで管面の1目盛が1mAのように直接読み取ることができます。 感度ツマミ右のアッテネータ(V.ATT)と併用すれば高級なオシロと遜色ない程度に使えます。 X軸も感度調整のツマミに1Vで1目盛、あるいは2Vとか5Vで1目盛といったポジションに印を付けておくと便利です。校正は電圧可変型のDC電源とデジタルマルチメータなどを使えば簡単にできます。
#もちろんもっと良いオシロを使えばさらにFBです。 CO-1303Gで説明を進めましたが、もしオシロスコープの購入を考えているならもっと良いものを手に入れてください。 きちんとしたオシロならX軸・Y軸ともに校正さていますからコレクタ電圧やコレクタ電流の読み取りも確かです。50MHzや100MHzと言った広帯域なオシロの必要はまったくないので、10MHzや20MHzと言った人気のない機種が十分役立ちます。従って、この用途に適した中古品でしたらかなり安価に手に入るでしょう。
☆ ☆
初めは約束通りPart 0でお仕舞いにしても良いかと思ったのです。何だか傍観者ばかりの現状ではこれ以上話しを進める意義は感じられませんでした。 しかし、簡単な紹介くらいしておくことにしました。 尻切れのようでは後味が悪いですからね。hi
私が試作したものは記事のままではなくVer.1.0.1と称して仕様を変更したり、いくつか手持ちパーツの都合で工夫した箇所もあります。しかし既に解体済みで説明が面倒なので本来の記事にある範囲にとどめておきました。それで実用上の支障はないからです。Ver.2の話もまたいつか何かのご縁でもあればにします。多分、それもありません。
たいへんシンプルなカーブトレーサ・アダプタですが、原理的にはTEKTRONIXの本格的なカーブトレーサとさしたる違いはありません。 雑誌記事のままだと幾つかの欠点がありますし扱いにくさも感じますが、まずまず実用になるはずです。百聞は一見にしかず、管面に描き出されたリアルなトランジスタの特性を見ればそれはわかりますね。
もし、これで満足できなくなったらもっと高級なものに手を出しても遅くはないでしょう。 最初から高級すぎる物を目指して挫折するよりもずっとマシです。まずはシンプルなものを存分に使いこなすのが賢明かも知れません。 これでカーブトレーサのお話はおしまいです。次回はいつもの路線(?)に戻ります。 ではまた。 deJA9TTT/1
(おわり)nm
2020年10月31日土曜日
【測定】Transistor Curve Tracer. Part 0
abstract
I'm going to make a simple curved tracer. A curve tracer is a measurement device to easily investigate the characteristics of semiconductors such as transistors or FETs.
It is difficult to make a full-scale curve tracer. However, if the functions are limited and the performance is limited to the required range, it is not too difficult to make it.
I will briefly explain the significance of a curve tracer and investigate your interest. If there is a lot of demand for it, I will explain in detail how to make it. (2020.10.31 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【カーブトレーサって?】
ご存知でしょうか? 測定器の一種なのですが、滅多に使う機会のない測定器でしょう。 一言で言うと、カーブトレーサはトランジスタやFETと言った半導体の特性をビジュアルに表示するための装置です。 シンプルなカーブトレーサ(のオシロスコープ用アダプタ)を試作したので紹介してみたいのですが、そもそも詳しい話にご興味はあるのでしょうか? そこで今回は「調査編」としてどんな測定器なのかザクっとおさらいしてみたいと思います。
☆
半導体に限りませんが、電子デバイスの電気的な特性を知ることは回路設計を行なう上でとても大切です。例えばトランジスタの場合、ベース電流をパラメータとしたコレクタ電圧とコレクタ電流の関係は基本的なものでしょう。 そうした特性図はメーカーから発表されていますからユーザーはカタログのデータを参照すれば済んでしまいそうです。
ところが、カタログに掲載されているデータ(グラフ)できちんと設計できるか少し疑問もあるのです。例えば、ポピュラーなトランジスタ:2SC1815なら次項のようなグラフがカタログに載っています。 これで小信号増幅回路が適切に設計できるでしょうか?
まあ、たいていの場合、既に設計済みの回路を作りますし、設計者の頭の中には常識的な特性なら入っていますから支障はないのかも知れません。 しかし、自分が知りたいと思った詳細なところがデータシートにはないことも多いのです。
カーブトレーサは馴染みのなさそうな測定器です。どなたにでもお薦めするつもりはありませんが、トランジスタやFETと言った半導体デバイスの特性に興味があるなら簡単なものが一台あっても良いかも知れません。詳細な特性の測定はもちろんですが他にも様々な用途があります。例えば、怪しそうなデバイスの良否判定、特性がよく揃ったマッチド・ペアの選定、コレクタ耐圧やhFEでの選別のほか、購入したデバイスの真贋を見極めると言ったような使い道もあります。本質的に半導体は特性がばらつくため、少々高級な電子回路の製作には必需品とも言えるくらいです。 ま、OP-Amp.やマイコン専門でディスクリート部品(BJTやFET,etc)にご縁がなければ必要はないのかもしれませんが。
毎度難解なBlogをご覧頂くのも大変かもしれません。熱心にご覧いただき感謝です。 しかし私ももうそれほど続けられない齢になりました。大してニーズもなさそうなテーマを深追いするほど老い先永くもありません。 ここは様子を見たいと思っています。 取り敢えず準備は始めていますが、ご要望次第でこの先Part 1以降へと進みます。 RFの測定器ではありません。デバイスの特性にまで興味を持つようなHAMは限られるとは思いますが、何か感ずるものでもあれば熱い(笑)コメントをどうぞ。質問もOKです。コメントなど限られる様でしたらPart 0で終了にしましょう。
【2SC1815Yの静特性】
図は非常にポピュラーなトランジスタ:2SC1815のコレクタ電圧とコレクタ電流の関係を示す特性図です。メーカーのカタログから転載しました。 この特性図を作るのは難しいことではなく、簡単な道具を用意し、あとは根気よく測定しグラフにすれば良いわけです。(実際はそれほど容易ではないです・笑)
2SC1815は汎用品(はんようひん:特定の用途を決めず幅広く使えるもの)なので、使い方も様々です。例えば、比較的大きな電流を流してスイッチのような動作をさせたいなら、この図は重要な情報になります。 しかし、マイクアンプのような小信号増幅回路の設計にはあまり役立ちません。 そのような増幅回路ではコレクタ電流:Ic=1mAとかせいぜい5mAくらいで使います。 このグラフではそうした小電流の範囲がよくわからないのです。
もし、小電流領域の特性を知りたいなら次項のような測定回路で求めることができます。でも、グラフにするのは大変かも知れませんね。私はあまりやりたくありません。
【静特性の測定回路】
トランジスタの静特性は、一定のベース電流を流した状態でコレクタ電圧を変えながら加えて行き、その加えた電圧ごとに流れるコレクタ電流の大きさを読み取ってグラフにプロットすれば良いわけです。
具体的には、まずはベース電流を設定します。続いて、徐々にコレクタ電圧を上げながらコレクタ電流を読み取って行きましょう。 ベース電流は、例えば10μA、20μA、30μA・・・のように10μAずつ増やして行けば良いでしょう。 ただし何μAずつ増やして行くべきかは、被測定トランジスタの性能(直流増幅率:hFE)に依存します。従って綺麗なブラフにするためには様子を見ながら加減して測定する必要があるでしょう。
私が工学部の学生だったころ、トランジスタ特性を求める学生実験でこうした測定を行なったことがあります。実測してグラフ化すれば確かに勉強にはなりますが非常〜〜に厄介でした。 何しろトランジスタは温度に敏感で特性の変動が大きいため、まごまごしていると温まってしまいどんどん状態が変化してしまうのです。
怪しげな実測データを無理やりグラフ化して実験レポートは提出しましたが、教科書通りにはならず「考察」を書くのに四苦八苦したことを思い出します。(笑)
【シンプル・カーブトレーサで観測】
左は最初の写真のブレッド・ボードに作ったカーブ・トレーサ・アダプタで観測した2SC1815Yの特性です。小電流の範囲で観測してみました。hFEは約145であることも読み取れるでしょう。輝線はほぼ等間隔ですからリニヤリティの良さも直感できます。
最初の写真には写っていませんが、ブレッドボード上の回路の他にオシロスコープを使います。オシロスコープはXYモードにします。XYモードに切り替えて画面に現れる輝線から、横軸(X軸)の目盛りでコレクタ電圧を、縦軸(Y軸)の目盛でコレクタ電流を、それぞれ読み取ります。
カーブトレーサを使えば、こうしたトランジスタやFETの電圧と電流の関係が一発で観測できるのです。便利なことこの上ありませんね。
写真ではベース電流を20μAステップで与えていますが、これはある程度任意の刻みで変えることができます。被測定トランジスタのhFE(直流増幅率)によって見易いように加減が必要だからです。一般的なカーブ・トレーサでは1-2-5の刻みで設定できることが多いようです。例えば、1μA-2μA-5μA-10μA-20μA-50μA-100μA・・・と言った感じです。 また、輝線の表示本数は写真ではゼロを含めて6トレース分ですが、この簡易版でも8トレース分まで増やすことができます。
例えば刻みを20μAにセットしましょう。いま、6トレース分だけ表示させるとします。そうすると、IB=0、20、40、60、80、100μAの6種類のベース電流を流した状態が観測できます。その設定でコレクタ電圧を徐々に上げて行くとコレクタ電圧と電流の関係曲線(トレース)が6本分だけ画面に表示されます。こうして左の写真のようになります。
ブレッド・ボードの試作品ではコレクタ電圧は0から40Vの範囲で加減できますが、必要な最高電圧が得られる電源トランスを用意すればずっと高い電圧まで拡張できるでしょう。 しかし、それに伴い高電圧用の部品が必要になり、保護回路も大掛かりなものが必要になってきます。せいぜい50V程度までが作り易いと思われます。
現状ではコレクタ電流の範囲は100mAまでです。これも拡大は可能ですが、拡大に伴い大電流の配慮が必要なので作るのは大変になって行きます。(できないわけではありません)
従って、手軽な範囲として2SC1815のような小信号トランジスタの観測用に限定すれば非常に作りやすくなります。 ここでは、そのような範囲で作ることを前提にしたいと思っています。具体的にはコレクタ電圧で最大60V、最大コレクタ電流は200mA程度の範囲を考えています。また、hFEがあまりにも小さいトランジスタは対象外にしたいと思います。
なお、写真ではNPNトランジスタを測定していますが、PNPトランジスタも可能です。 さらにFET(電界効果トランジスタ)もN-ch、P-chが測定できます。 その他、ダイオードの順方向特性を調べたり、ツェナー・ダイオードのブレークダウン特性を調べるのもいたって容易です。
もちろん機能を欲張ると接続切り替えのスイッチが増え、同時に配線もたくさん必要になります。 それだけ便利にはなりますが製作は大変でしょう。ですから、実用性を損なわぬ範囲であまり使わないような仕様は省略するなど作りやすさを優先し、あまり欲張らないのが現実的だと思っています。
【プロフェッショナルなカーブトレーサ】
写真はメーカー製の代表的なカーブトレーサです。かつてTEKTRONIX 576は名器として市場に君臨していました。半導体の評価や解析に不可欠の装置でしたから、昔の職場ではよく使ったものでした。
小信号用トランジスタからパワートランジスタまで幅広くカバーするため、非常に大掛かりな回路になっています。最高峰を目指すとこのようになるのはわかりますが、アマチュアが手出しできる範囲ではないでしょう。
TEKTRONIX 576はあればデバイスの評価・解析に重宝すると思いますが、巨大で非常に重たい測定器です。またかなり古いため既に故障が頻発している筈です。 安価な中古品は間違いなく何らかのトラブルを抱えているでしょう。メンテが行き届き程度の良いものは非常に高額です。既にメーカーは面倒を見てくれませんから、性能の維持は大変でしょうね。 もちろん、持っていませんし巨大なコレに手を出すつもりもありません。
#それに、このBlogの趣旨は「自分で作ろうよ!」なんですからね。hi
【真空管だって】
写真はほんのお遊び程度のものですが真空管(12AU7)の静特性を観測している様子です。 管面に典型的な三極管のEp-Ip特性が描かれているのが見えるでしょう。
現状ではトランジスタ用に設計してある関係で印加可能な最大プレート電圧が低くて真空管にはあまり適当ではありません。それも含む設計にすれば十分な可能性がありそうです。
このように自身が必要とする程度のカーブトレーサ・アダプタなら大して費用も掛からず作れてしまいます。 割り切れば技術的な困難もあらかた回避できます。 もしそれで何か不足に感じたら拡張・改造も自在です。 この例を拡張して真空管の測定に特化した実用品も作れるでしょう。むしろ真空管にPNPやP-chの物はないので専用の設計にすればシンプルになります。ちょっと感電が怖いですけれど。w
この写真のテストでは管面表示器に遊休品になりつつあったトリオのオシロ:CO−1303Gを使ってみました。以前のBlog(←リンク)でオイルコンを交換して修理したたいへん古いものです。 管面が丸型3インチ(75mm)なので見易いとは言えませんが、こうしたチープなオシロスコープでもXY表示のモードがあれば使うことができます。 古くてあまり使い道のなかったオシロもこうして活きる道もありそうです。 なお、写真のCO-1303Gはごく簡単な改造を行なっています。
☆ ☆
急に思い立って以前から構想の有ったカーブトレーサ・アダプタを実験的に製作してみました。幾つかある構成案から、まずは最もシンプルなタイプを試みました。仮にバージョン1.0 (Ver.1.0)と称しています。 その結果、機能と測定範囲を絞ればあまり難しくなく製作可能なことがわかりました。 基本的なものならブレッドボード上に製作できるのです。 ただし簡略型なので扱いにやや難しさがあると言った欠点もあります。 そのため使い方に多少のコツを要します。
この先、Ver.2.0ではあまり複雑化させずに可能な改良は試みたいとは思っていますが、自身では現状でも結構満足してしまいました。 実験テーマとしては完結したと言っても良いくらいでしょう。
現状は使用経験のないお方には扱いにくそうですから、できたら改良したいところです。しかしまあ、これもご興味次第のこと、自家用ならVer.1.0のこれでもマズマズなんですけれど。 私のニーズにはかなり役立ちそうです。そのまま箱に入れても良いくらいだと思っています。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンク fm
2020年10月17日土曜日
【回路】Try the germanium transistor! Part 1
(abstract)
An experiment in making a transmitter using Soviet-era germanium transistors. There are no germanium transistors in the Western world that can outout a lot of power in RF. The Western world, including Japan and the U.S., gave up on germanium transistors too early. The Soviet Union had them. I'm going to make a practical CW transmitter with germanium transistors of Soviet era, which I got from Ukraine. First of all, let's test the crystal oscillator circuit. (2020.10.17 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【ゲルトラだって使って欲しい】
ゲルマニウム・トランジスタを使って送信機を作りたいと思います。 「ああ、あの蒸し返しね」って思ったお方は20年来のお客様です。hi 20世紀に忘れてきたゲルトラで7MHzの送信機を作ってオンエアする企画でした。 これから作るのはたぶん違うものになる筈です。
ゲルマニウム・トランジスタを受信機に使う話は何度か登場しています。 シンプルなストレート受信機(←リンク)だけでなく、スーパー・ヘテロダインのほか、ごく最近も再生式受信機の検討の中で扱いました。 短波付きの2バンド・トランジスタ・ラジオがゲルトラで大量生産できたのですからHAMが交信に使うような「通信型受信機」ができても不思議ではありません。JA1AYO丹羽OM執筆の「トラ活」には製作実例がありました。しかし送信機ともなるとハードルが高いのです。 扱うのが数10mWといったローパワーなら、工夫次第で受信機用のトランジスタが使えます。 しかし高周波で数100mW、数Wという「ハイパワー」がハンドリングできるゲルマニウム・トランジスタはほとんど望めなかったのです。例えトランジスタ規格表には存在しても手には入りません。
☆
今となってはデバイスそのものが特殊です。同じものを再現するだけでも容易ではないでしょう。 製作は取り敢えずやめておき、ご覧になるだけがお勧めです。これはあらかじめ書いておきたいと思います。いつか機会が訪れたら試してください。
数年前からロシア製・・正しくいえばソ連製ですが・・の半導体が手に入るようになりました。西側では1960年代でゲルマニウム・トランジスタの時代は終わりましたが、東側の世界ではもうしばらく続いたようなのです。そのため、ある程度大き目のパワーが扱えるRF(高周波)用のゲルトラが生産されたようでした。 それらが今になって余剰品放出されているのでしょう。 おかげで、あのころ実現できなかったような「ハイパワー」なゲルトラ送信機の可能性が見えてきたのです。
写真・右の2つは国産のゲルマニウム・トランジスタです。左の大きなものがロシア(ソ連)製です。 これらを使ってまずは送信機の製作に適するような水晶発振回路の実験から始めたいと思います。
【水晶発振回路】
ゲルマニウム・トランジスタで作る水晶発振器です。
周波数は7MHzで、回路としては何の変哲もないありふれた「ピアース・CB型」の水晶発振回路です。
同じ水晶発振回路でも送信機用は少し違います。 受信機用なら普通数mWもあれば十分ですが、送信機にはなるべく大きめの出力が欲しいのです。 もし発振器のパワーが十分あればその後の増幅段数を減らすことができます。増幅段が少なく済めば回路が簡潔になるのは当然で寄生発振(パラスティック)など不測のトラブルも少ないのです。
発振回路から大きな出力を取り出すには、それが可能なデバイスが必要です。一般的なラジオに使うような高周波用ゲルマニウム・トランジスタでは〜10mWくらいがせいぜいでしょう。 テストに使ったトランジスタは一般的なRF用小信号トランジスタよりもパワフルなものです。 ここでは50mW以上の発振出力を目標にしました。きわどいトランジスタの使い方ではなく、安全に取り出せなくてはなりません。
後ほど詳細は写真付きで説明しますが、テスト条件や得られた結果など左図にまとめておきました。
【簡単な電信(CW)用送信機】
もっともシンプルな7MHz CW送信機は左図の(A)でしょう。 水晶発振器のあと電力増幅を行なっておしまいです。 電力増幅にゲインのあるトランジスタを使えば(A)のような2ステージの構成でも数Wのパワーが可能です。例えば以前試作したシンプルなトランジスタ送信機(←リンク)がそれです。リンク先の例では2ステージで3Wを得ており、QRP送信機としてはまずまず遊べるだけのパワーでした。(シリコンTrを使用)
ゲルトラで作る場合も、終段電力増幅のトランジスタが十分なゲインを持っていれば2ステージで同様のパワーが得られるかも知れません。 しかし、過去の例を参考にしたいと思っても情報は何もないのです。定格(規格)が大きなゲルマニウム・トランジスタの扱い方も良くわかっていません。ゲルトラでそれだけのパワーが出せるものは手に入らなかったからです。 ちょっと参考になる話として、Yさんの実験によれば入力容量が大きい・・・従って入力インピーダンスがだいぶ低くてドライブ困難だったと言う例があるのみです。もう少し詳しく伺っておけば良かったと思っています。 これから自身でやってみるのですが、ドライブが難しいとなると2ステージで数Wは困難かも知れません。従って(B)の3ステージ構成になりそうです。(A)の構成で100mW程度を得ても目標には不足ですから、必然的に(B)の形式になります。
20年前の実験ではたったの100mWと言うアウトプットを補う意味で水晶発振をVXO形式にしました。 QRPクラブのオンエア・ミーティングに参加するのが目的なら水晶制御の7003kHzだけの送信機でも十分かも知れません。 しかし少しでもオンエアの幅を広げたいのなら、やはりVFOやVXOは必須でしょう。機構部品の入手難からVFOは製作困難ですからVXOあるいはセラミック発振子を使ったVXO形式が有望でしょう。その場合、発振回路から大きなパワーを取り出す設計は得策ではありません。周波数安定度を良くするには消費電力を抑えた弱めの発振が好ましいからです。従って(C)のような構成が最低限のものになります。このさき実験してみた様子でどんな構成にするか決めたいと思います。
参考:QRPクラブのオンエアミーティングについて
毎日曜日の朝、JST 08:30より7003kHz±のCWでシグナルレポートの交換が行なわれています。ただし近年参加していないので以前のような形式で行なわれているのか不明です。ちょっと前にワッチした際にはその時刻あたりになると何局かのQRPerが聞こえていました。たぶん、今でも日曜朝にオンエアされるQRPerは多いのでしょう。だとすれば、みなさん聞き耳を立てていますから自作QRP送信機を試す良いチャンスになるはずです。クラブ員でなくとも5W以下のQRPerなら誰でも参加できます。
【2SA245で水晶発振】
2SA245は一般的なラジオ用ゲルマニウム・トランジスタよりパワフルなトランジスタです。但しパワフルとは言ってもコレクタ電流は-30mAが最大ですし、コレクタ耐圧も25Vしかありません。それでもラジオ用では-10mAさえも流せない石が多いのですからだいぶパワフルなのです。2SA245は実際にHF帯のトランシーバでプリドライバとして使われた例も見るので送信機への適性があるのでしょう。
バイアス抵抗:R2とエミッタ抵抗:R3を加減し無理のない範囲でパワーが出るようにしました。もう少し行けそうでしたが、安全を見て発振時に-10mAくらい流すにとどめます。コレクタ電圧も安全を見て-9Vにしました。これで約15mWが得られます。トランジスタの規格からみてまずまずのパワーでしょう。 なお、2SA245はfTが非常に高いため、発振出力に含まれる高調波は多めでした。周波数特性を加減し、高調波を減らす目的でコレクタの配線にフェライトビーズを挿入しています。FB-!0!-#43を2個いれてまずまずになりました。
2SA245クラスのトランジスタでは、シングルで50mWは困難そうです。コレクタ耐圧が低いのも不利です。2つパラに使って-30mA(2本分で)くらい流してやれば何とかなるでしょう。周波数特性は非常に良いため、もっと高い周波数・・・例えば21MHzや50MHz・・・の発振も可能でしょう。ただし周波数が高くなれば徐々に効率は落ちるはずで、得られるパワーも減ってくるものです。
【Π609Aで発振させる】
2SA245の実験で何となく感触が掴めてきました。一段とパワーアップするためにΠ609A(P609A)で実験を進めましょう。
Π609Aは幾分高い耐圧が見込めたので、Vcc=-12Vでテストしました。コレクタ電流もだいぶ余裕ができたので、発振している状態でIc=-30mAで動作させます。Ic=-30mAでは最大コレクタ電流に対して小さいため、fTがまだ十分に伸びていない可能性が考えられました。そこで、Ic=-30mAで実測して見ると150MHz以上あるので7MHz用としては十分すぎるほどでした。そのためコレクタのフェライト・ビーズは2SA245と同様に必要です。
上記の条件でパワーは約80mWが得られました。コレクタ電流をアップし、出力側のマッチング回路を最適化すれば発振段で100mW以上も十分可能そうです。その場合、放熱フィンを付けて幾らかでも放熱してやれば安全でしょう。ゲルトラはシリコントランジスタの感覚で扱ったら壊してしまう危険性があるのです。
それくらいの発振パワーがあれば2ステージでも数Wが期待できるかも知れません。もっとも、これは終段増幅器のパワーゲイン次第ですが。 従ってゲインの取れるファイナル用の石が欲しいところですが、なかなか甘くはないようです。このあたりの事情は続編で検討したいと思っています。hi
【Π609Aはどんなデバイスか】
Π609Aの用例は見掛けないので、正確な目的や用途は不明です。どうやら高速スイッチング用のようで、民生用ではなく軍用品でしょう。
コレクタ・ベース間耐圧:VCBO=-30V、コレクタ電流:Ic=-300mA(Peakで-600mA)です。コレクタ損失:Pc=1.5Wですが、これは放熱なしの状態でしょう。1.5Wは案外大きいように感じますが、ゲルマニウム・トランジスタですから接合部温度:Tj(max)=70℃であり、放熱しなければ許容コレクタ損失はだいぶ小さくなります。
トランジション周波数:fTは標準値で120MHzとなっています。コレクタの接合容量は50pFです。これはかなり大きいですが、パワーが大きな石ですから当然でしょう。開封すればはっきりしますが、チップサイズはかなり大きいように思います。なお、ネットの検索では2SA374が相当品とありますが、実際はかなり違う特性のようで規格表で2SA374の項を見ても参考になりませんでした。Π609AはMesa型構造のように思います。
形状は見ての通りです。パッケージの直径は約25mmです。太さ1mmの足ピンが出ており、コレクタはケースに接続されています。このままではブレッドボードに装着できないため、テストでは細いメッキ線をハンダ付けしました。 発振回路用ではなく、C級電力増幅器として使いフルに性能を発揮させたいなら十分な放熱が必要です。残念ながら耐圧(VCE)が-25Vと低く、Icも-300mAですから最大入力で3Wくらいまでが安全な範囲でしょう。 従って出力として1.5Wくらいが見込めそうです。(コレクタ飽和電圧:VCE(SAT)が大きいので効率は良くても50%くらいでしょう) Π609Aはより大きな終段増幅器をドライブする「励振増幅段」に適するかも知れません。fTが高いことから7MHzのアンプなら高いパワーゲインも期待できます。
参考:印刷されたロゴから、Π609AはLatvia(旧ソ連邦)のRigaにあるALFA社で製造されたトランジスタのようです。
【2SA417で慎ましく】
最後に2SA417を試します。 2SA417もラジオ用のゲルトラではありません。スイッチング・スピードが早いコンピュータ用です。ゲルトラの場合、高速スイッチングさせるにはfTを高くなるように作るのが効果的だそうです。 2SA417は高速スイッチング用ですから必然的にfTが高くなったようです。ただし耐圧が低いのが難点です。VCBOは-15Vくらいしかありません。現物の実測もしてみましたが、耐圧の余裕はありませんでした。なお、コレクタ電流はIc(max)=-200mAと十分な大きさです。
コレクタ電圧:Vcc=-7V、コレクタ電流:Icc=約-2mAで使ってみました。これはVFOやセラミック発振子のVXOを想定するもので、どちらかと言えば慎ましい動作です。 最大コレクタ電流が大きめですから、Ic=-2mAではfTが立ち上がらない懸念がありました。Mesa構造のゲルトラは小さめのチップでも意外に電流が流せるらしく、しかもfTの立ち上がりは早いようです。(実測:380MHz at Ic=-2mA)従って良好に発振しますが、発振波形を見てコレクタのフェライト・ビーズは必須でした。1kΩ負荷に2.75Vppが得られました。VXOのような送信機用ではなく、クリコンなどの局発用としても適当でしょう。
なお、そのような受信機用でしたら、コレクタの同調回路はタップを使わず、全巻線を使う方が発振波形の点で好ましいようでした。少ないコレクタ電流なので、負荷インピーダンスは高めの方が良いわけです。受信機用の回路にはそのように最適化した方が好ましいでしょう。
☆
電子工学は実用の科学だと思っています。ですから今さらゲルマニウム・トランジスタなど持ち出したらナンセンスでしょう。 ここは趣味のサイトと割り切って頂くしかありませんね。(笑)
趣味の世界ですからHAMの電子工作にも様々な考えがあると思います。 メーカー製のようなトランシーバや受信機を目指すのもFBでしょう。立派な目標だと思います。 ただ、高性能・高機能な市販品がまずまずのお値段で登場している現在、それと似たようなものを作ってもあまり面白味はないように感じています。(作ったこと自体はすごいと思いますが) むしろメーカーはやらないような(商売ベースで見たら少々ナンセンスな・笑)製作の方が楽しいように思うのです。ですからゲルトラや真空管で作るのもその一つかも知れませんね。 さらに単なる懐古趣味で古いモノを再現するのではなく、何か新しい要素も加えつつ楽しめたら良いなあ・・・と思っています。何か新たな工夫を加えたいですね。 ゲルトラは既に忘れられたテクノロジーでしょう。あえてそれで作っても大した価値はないに違いありません。しかし数Wのパワーが得られれば国内に留まらずDXと交信することも可能かも知れません。ゲルトラで数Wはかなり画期的です。(100mWではKH6とKL7とできましたが、西海岸はダメでした・笑) 今度は大きなゲルマ色の波で、あの時の西海岸のリベンジを果たしたいですねえ。(爆)
最近はお空のコンディションがまずまずなこともあって、QSOに時間を取られがちです。電子工作の方は大分おろそかになっています。予定は遅々としている状況です。 しかもそろそろ初冬のコンデイションですからローバンドの飛びも期待できそうです。どうやら、そちらへ靡いてしまいそう。ですから次回のBlog「更新」は省略になりそうな雰囲気も。w 秋も深まり、夜も長くなってきました。そろそろお炬燵で蜜柑でも食べながら過去のBlogでも遡ってお楽しみください。読み返すと気付かなかった発見があるかも知れません。 ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンク nm