【回路:455kHzのセラロックを使ったラダー型フィルタ】
【CSB455E】
村田製作所のセラミック発振子:CSB455Eを使ったラダー型フィルタを検討してみましょう。
もう10年くらい前だと思いますが、村田製作所は製品番号の付与方法を変更しました。CSB455Eと言うのは旧型番で、現在はCSBLA455KE***となっている筈ですが、それもすでに生産中止になっているようです。 いまでもお店で見掛ければ安価に入手できますから有効活用したいものです。
参考:BFOなどに使うセラミック発振子を使った455kHzの発振器についてはこちら(←リンク)を参考にして下さい。以下の記述では同じ455kHzの発振子を使った帯域フィルタの設計について記述しています。
セラミック発振子:®セラロック(村田製作所の登録商標)を使って製作したラダー型フィルタを、愛称:世羅多フィルタ(せらだフィルタ)と名付けて過去何回か紹介してきました。 セラミック発振子の等価回路も水晶発振子のそれと類似です。 ですから、水晶発振子と同じようにラダー型フィルタの製作が可能なことは自明でしょう。しかし、同じ周波数の水晶発振子と比較すると等価回路定数の値には大きな違いがあります。そのためセラミック発振子に適した設計を行なう必要があります。
旧来は、Cohn minimum loss型と言う形式で設計してきました。 Cohn型(コーン型)では3素子までがButterworth特性です。それを超えるものも類似特性ではありますが、何と呼ぶべきかちょっと正体不明なものになります。 出来上がったものを測定してみて支障無ければ使うと言った半ば成り行き任せの状況だったのです。 それでもかなり効果的なフィルタが作れたので愛用して来たのでした。
ここでは、もう一歩進めて新しい設計法で「世羅多フィルタ」を検討してみたいと思います。 理屈の上では設計できて当然なのですが、では具体的にどのくらいの性能のフィルタが作れるのでしょうか? セラミック発振子の「水晶定数」に相当する値を実測から求め、それに基づいた設計を試みたいと思います。設計方法そのものは水晶発振子を使った場合と概ね同じです。
いつもの様に実験研究の自分用メモです。研究の概要を抜粋したものなので貴方の知りたいことのすべてが書かれている訳ではないかも知れません。以下、もし良かったらご覧下さい。
【SSB用フィルタの検討】
これまで、世羅多フィルタでは主にCW用を考えてきました。 これは、Quの小さなセラミック発振子では良い形のSSB用フィルタは難しかったからです。 セラミック発振子の無負荷Q:Quは水晶発振子のそれと比べて数桁も小さいのです。
左表はCSB455Eを50個測定して、なるべくQuの大きなものを8個選別した一覧です。 平均のQuは2,500に届きません。 水晶なら少なくとも10万近くあるのでかなり小さな値です。 そのためフィルタに使った場合、減衰域に向かう傾斜の部分がかなりなだらかになってしまいます。
SSB用フィルタも、もっぱら受信用なら混信を我慢して使えないことはありません。 しかし、SSBジェネレータに使ったら不要な逆サイドが漏れてしまい問題になるでしょう。 このあたりが、新しい設計法でどのくらい改善できるのか検討したいと思います。 旨くすればSSBジェネレータに使えるようなフィルタが作れるかも知れません。
従来の設計法では、セラミック発振子の性能から素子数を増やしても性能に限界がありました。 新しい設計では8素子に増やして検討します。 やはり3〜5素子では可能な性能に限界があるからです。
【フィルタ設計】
発振子(共振子、振動子)の性能がある程度よくないと急峻な特性のフィルタは製作できません。 Quが2,500に満たなくては、Chebyshev型での設計は殆ど見込みがありません。 これは、事前特性補正型の設計であっても同じです。 補正可能な程度にも限界があるのです。
この設計では、Butterworth型で行くことにしました。 Butterworthと言えども、低いQuを考えると事前特性補正型にならざるを得ません。 それでどの程度の特性のフィルタが可能なのか探ってみることにしましょう。 得られたフィルタ定数はLT-Spiceにインプットしてシミュレーションします。
【シミュレーション用回路】
LT-Spice用の回路図です。 CSB455Eの「水晶定数」、Lm、Cm、Ch、Rmの平均値のほか、上記の設計ソフトによって得られたフィルタ定数を回路図にインプットします。
検討した結果、基準MeshはX2にとるのが合理的でした。 取りあえず、平均値に基づいたシミュレーションを行なって様子を見ることにしましょう。 シミュレーションの結果があまり芳しくないようなら、設計方法を変えるなどの対策を考えます。 場合によって製作を諦めることにもなるでしょう。 既にシミュレーションと実製作との一致度は高いことが実証されていますから、結果が良くなければ作るまでもないことになります。
【シミュレーション結果】
セラミック発振子は周波数の低い455kHzでも、直列共振周波数:fsと並列共振周波数:fpの周波数間隔が広いのでSSBフィルタの設計は十分可能です。(ラダー形式の場合、455kHzの水晶発振子では帯域幅の広いSSB用はうまく作れません)
しかし、セラミック発振子の無負荷Q:Quは低いので通過帯域の低端側で傾斜が緩やかになってしまいました。 USB波の発生にはいま一歩と言ったところではないでしょうか。 LSB側ならSSBジェネレータにもなんとか使えそうです。(キャリヤ周波数は上側にとります) ヘテロダインを工夫してSSBジェネレータではLSBのみ発生させると言う方法をとるのも良いと思います。 なお、図は横軸一目盛りが1kHzで、縦軸は10dBです。
通過帯域がやや右下がりで平坦度も悪いのは本質的にQuが小さいためでしょう。 セラミック発振子を使ったフィルタとしてはかなり改善されているとは思いますが、実用にはもうひと工夫が必要かも知れません。 製作に掛ける手間を考えると、この先進むのも躊躇われるため一旦ここまでにしました。
(参考)通過域の中心から見て左右非対称なのが大きな問題なので、低端に減衰極を持って来れば改善が期待できます。 上端側の傾斜がなだらかになりますが許容範囲に収まる筈なので検討に値すると思っています。
【CWフィルタの検討】
SSB用と同じように8素子で検討してみます。 これはCW用フィルタの通過帯域幅が狭いからで、Quが小さいセラミック発振子で6素子では不十分と考えたからです。 従来型のCohn minimum loss型の6素子型でも実用になる性能は得られていました。しかし特性の実測ではいま一つであって、高性能な受信機にはもう少し良いものが望まれていたように思います。
表は50個測定した中から選別して8個選んだものです。 但し、SSB用を最優先にしたのでそれに余った8個と言う訳です。 そのため、無負荷Q:Quはやや劣っているのがわかると思います。 村田製作所のセラミック発振子:セラロックは比較的バラツキは少なくてSSB用を選んだ残りとは言っても極端な差がある訳ではありません。
(参考)中国製の同等品:CRB455と言うセラミック発振子が出回っています。ややバラツキは大きいようですが、選別して使えばほぼ同等のフィルタが製作できるでしょう。ただし、LmやCmと言った等価定数は少し異なるのでそれに合わせた設計が必要です。
【CWフィルタ設計】
どうせ作るなら、位相直線系のフィルタにしましょう。 時間軸上の波形再現性にすぐれ、余韻を引かない特性こそCWフィルタとして相応しいと思うのです。いわゆる「良い音のCWフィルタ」ということです。
3.58MHzの水晶発振子による作例では、Trasitional Gaussian to -6dBと言う形式で設計しました。 セラミック発振子でも同じ形式による設計は可能です。 しかし素子数を多くすれば純粋のGaussian特性と比べて周波数特性の違いは少ないようです。
ここでは、8素子に増やしたこともあり、Gaussian特性で設計することにしました。 なお、Gaussian特性はBessel特性とほぼ等価です。 Gaussian特性はもともとなだらかな傾斜なので、Qの小さな共振回路(共振子、振動子)でも実現可能な範囲は広いのですが、それも程度問題です。 455kHzで数100Hz幅の狭帯域フィルタはそれなりのQがなくては作れません。 Qu < 2,500のセラロックでは事前特性補正型でなくては思った特性は得られないようです。
【シミュレーション用回路図】
SSBと同じようにシミュレーションで様子を見ましょう。いつものようにシミュレータはLT-Spiceです。
シミュレーションを行なう周波数範囲は違いますが、SSB用と同じ回路で行けるので簡単にシミュレーション可能です。 もちろん、GND間にある結合容量やセラミック発振子の直列容量は上記の設計ソフトによって求めた値に書き換えます。
インプットが終わったら、Runボタンを押すと5秒と掛からずに終了するでしょう。さっそく観測プローブを出力側にある終端抵抗:R2のホット側に当ててやればフィルタの周波数特性がグラフィカルに表示されます。
【シミュレーション結果】
わかり易いように横軸の範囲や縦軸の刻みを調整して表示しています。各軸の部分にマウスのポインタを持って行きボタンをクリックすれば範囲や刻みが変更できます。画面の隅の部分を引っ張ってやればこのような表示にできます。 もちろん、見やすくしているだけでインチキをしている訳ではありません。(笑)
このように非常に奇麗なGaussian特性が得られることがわかりました。 455kHzあたりのセラミック発振子の直列共振周波数:fsと並列共振周波数:fpの間隔は約15kHz程度です。 それと比べてずっと帯域幅の狭いCWフィルタでは、通過帯域の中心軸から周波数の上下を見た時の対称性が良くなるのです。 このあたりが先にシミュレーションしたSSB用との違いとなって現れています。
一見して山型のさえない特性に思われそうですが、縦軸全体で110dB、横軸の刻みは500Hzで、全体で4.5kHzの範囲を表示しています。 見かけと違いかなり良く切れるフィルタです。 この程度の切れ味ならCWフィルタとして不満はないでしょう。 もちろん、非常に混んだコンテストのような場面ではもうちょっと帯域幅は狭い方が良いかも知れません。 言うまでもありませんが、Gaussian特性ですから時間軸上の波形再現性は申し分ない筈です。
ちなみにアナログ・オシロスコープの垂直軸アンプはGaussian特性になっていました。バンドパス特性ではありませんが、高域の遮断特性(=LPFになる)がGaussian特性になるように作られていました。測定器ですから、観測波形が実際と異なって表示されたら困るからです。 Gaussian特性の波形再現性の良さがわかります。
【特性比較】
これは、従来型で設計した「世羅多フィルタ」の特性例です。これは5素子のものです。 上の図よりも切れ味が良さそうに感じるかも知れません。 この実測では横軸の一目盛りは2kHzになっています。 全体では20kHzと言うことになります。 上の図は一目盛りが500Hzで全体で4.5kHzですから新設計の方がずっと切れ味が良いことがわかるでしょう。
このフィルタでも十分実用になるのですから、上記のようなフィルタならより理想に近付けるだろうと思います。 比較してみて新しい設計法の採用で、なかなか良いフCWィルタが作れそうなことがわかりました。
共振子としての性能が良くないセラミック発振子:®セラロックでも、用途を誤らなければ使い物になるフィルタが作れそうです。 また、工夫次第ですがSSB用も可能性が見いだせました。 既知の技術で工夫できる範囲にありますから十分検討に値するでしょう。 この先時間を見つけて455kHzのセラミック振動子でSSB用とCW用フィルタを試作したいと思っています。
【エピローグ】
新しいラダー型フィルタの設計と称して、6素子の8MHzSSB用を手始めに、色々なフィルタを作ってみました。 すべて成功例ばかりとは言えませんが、それぞれ課題は残しつつも十分希望が持てる結果が得られたのではないでしょうか。 製作に当たってのポイント・・・例えば水晶発振子はどんな物を選ぶべきか・・・などの知見は得られたと思っています。シミュレータの活用と合わせて再現性の向上もできました。
従来は成り行きに任せるしかなかったラダー型フィルタが幾らか制限はありますが概ね意図した特性で製作できるようになりました。 これにより用途や目的に応じて最適なフィルタを選択・製作ができるようになった訳です。 特別な特性を持った「フィルタ」は市販品では得られませんから、自身で製作できるようになったメリットはずいぶん大きいと感じています。 切れ味でChebyshev型を選んだり、音色で純粋なButterworth型を試してみるなど、SSB用フィルタの選択肢も広がりました。
数ヶ月に渡り、興味を持ってご覧頂き有り難うございました。 新しいラダー型フィルタの特集はひとまず終えることにします。 一連のBlogが「こんなモノが作れるんだ・・」と言う参考にでもなってくれたらFBです。 この先は製作したフィルタの使用例が登場して行くだろうと思います。使う上でのポイントなど紹介の機会もあるでしょう、 de JA9TTT/1
(おわり)fm
☆
参考・1:ラダー型フィルタ関連のBlog内リンク:(記事は新しい順です)
(1)11MHz帯のラダー型フィルタ設計→11MHz X-tal SSB Filter Design
(2)3.58MHzの水晶で音の良いCWフィルタ→X-tal CW Filter Design
(3)続・12.8MHz.・8素子ラダーフィルタの設計→8-pole X-tal Ladder Filter+1
(4)12.8MHz・8素子ラダーフィルタの設計→8-pole X-tal Filter Board
(5)続々・8MHzのラダー型フィルタ設計→8MHz Ladder Filter Design . Plus+1
(6)続・8MHzのラダー型フィルタ設計→8MHz Ladder Filter Design , Plus
(7)8MHzのラダー型フィルタ設計→8MHz Ladder Filter Design
以下は従来設計のラダー型フィルタです。
(8)ラジオ用IC・LA1600に世良多フィルタを→世羅多フィルタとLA1600
(9)真空管受信機に世羅多フィルタを付けるには→STARのIFT(5)
(10)ラダー型フィルタをシミュレーション→世羅多フィルタシミュレーション
(11)14.318MHzの水晶でラダー型フィルタ→ラダー型フィルタ(再)
(12)世羅多フィルタの基板実装法→世羅多フィルタの実装例
参考・2:水晶発振子と水晶定数に関連のBlog内リンク;(記事は新しい順です)
(1)水晶発振子テスト用12.5Ω治具製作法→Quartz Crystal Test Fixture
(2)続・水晶発振子の等価定数測定→Crystal Motional Parameters, Plus
(3)水晶発振子の等価定数測定→Crystal Motional Parameters
(4)8MHzを例にしたキャリヤ発振器の実際→8MHz Carrier Oscillator
(5)小さくなった水晶発振子→X-tals to small. too small !
(6)旧型水晶発振子の研究:FT-243型→FT-243型水晶振動子
(7)旧型水晶発振子の研究:FT-241型→FT-241型水晶振動子
参考・3:その他フィルタ関係のBlog内リンク:(記事は新しい順です)
(1)7.8MHz・CB用クリスタルフィルタ→Transistor Balanced Modulator , Part2
(2)フィルタ用IC・FLT-U2で超低歪発振器→FLT-U2 Sine wave Oscillator
(3)TRIOのLPF:LF-30の研究・その3→TRIO LPF LF-30 ; Part 3
(4)TRIOのLPF:LF-30の研究・その2→TRIO LPF LF-30 : Part 2
(5)TRIOのLPF:LF-30の研究・その1→TRIO LPS LF-30 : Part 1
(6)Norton Amp. LM3900を使うBPFの研究→More Norton Amp.
(7)136kHzバンドパスフィルタ設計・製作→136kHz Bandpass Filter Design
(8)電話搬送用20kHz SSBフィルタの特性→SSB on Breadboard
(9)各種SSBフィルタとキャリヤ発振器→Some Hints for DDS Controller
(10)AD9850/51・DDS用ローパスフィルタ→SMD LC Filter
(11)DDSモジュール搭載LPFの特性→Freq. Response of Filter on DDS Module
(12)スター製・真空管用IFTの再生→STARのIFT(1)
(13)IFフィルタ交換でAMチューナHi-Fi化→AM Tuner その後
(14)CW用アクティブ・フィルタ・特性研究→700Hz Bandpass Filters
(15)続・シミュレーテッド・インダクタでCWフィルタ→Simulated Inductor (2)
(16)シミュレーテッド・インダクタでCWフィルタ→Simulated Inductor (1)
(17)受信音に優れたCW用AFフィルタの研究→良い音のCWフィルタ
(18)GICを使ったコイルレス高性能フィルタの研究→GIC型LPF
(19)Collinsが作ったCB用メカフィルの特性→ヤスモノだが・・
◎ネット上にも有用な情報があります。リンクの許可をもらうのと後々のメンテナンスが厄介なため、ご紹介しておりません。ご自身で検索してみて下さい。
☆全部読んだら一日じゅうぶん潰せそう。
☆☆全部試したら一ヶ月じっくり遊べます。
☆☆☆全部応用したら一年たっぷり楽しめる・・
<裏>
×全部読んだら一日無駄に空費します。
××全部試したら一ヶ月じっくり悩みます。
×××ぜんぶ応用を試みたら一年以上苦労の連続・・
・・かもしれない。(笑) de JA9TTT/1
2016年2月23日火曜日
2016年2月9日火曜日
【部品】My Parts BOX
【私の部品箱】
【修正記事】
月刊誌:トランジスタ技術2016年3月号の担当記事に誤りがあります。修正をお願いします。(関東地区:2月10日発売)
場所は『私の部品箱』と言うタイトルの1ページ記事で、208ページの図・1です。 左図のようにIC3:NE555Vからのクロック信号が+5Vのラインと接続されてしまっています。これは誤りで、接続のしるし黒丸●が余分です。 クロック信号は+5Vのラインに接続してはいけません。左図を参照して修正して下さい。
このBlogに掲載の回路図を含めて、私が書く回路図では配線が十字状に交わる部分では接続はしません。意識的にそのように書いています。 これは印刷の汚れ・ゴミなどによって誤って接続状態になってしまう危険があるほか、逆にドットの付け忘れが起こった場合は接続漏れになるからです。 このように接続するのかしないのか判断に困るケースが発生してしまいます。 ですから十字交差部分では接続はしないと言うルールで配線を書いておけば、確実に図面のミスは減るのです。 接続は必ず配線のT字状の部分で行ないます。そうすればもしも接続のしるしの黒丸●が抜けても接続するのだとわかります。(Blog内にあっても引用した図面では十字交差で接続があります。ご注意ください)
では、なぜ雑誌記事で間違いが生じるのかと言えば、入稿された図面を編集の段階で再度トレースに出しているからです。手書きの図面で入稿されるお方もあるので、トレースは欠かせないのでしょう。 しかし、トレース作業をされるお方は基本的にエンジニアではありませんから回路の間違いには気付きません。 従って、この例のように図の配線部分が接続されたらどうなるかは関知しません。 トレース後の図面は筆者も見直しは行なっていますが、限られた時間で行なうことが多く、時折ミスが発見できず漏れてしまうことがあってご迷惑をおかけしています。 この点、責任の一端がある訳で申し訳ございません。
今回のミスは、そのまま配線するとNE555Vを壊す可能性があるので至急お知らせしています。 『私の部品箱』の回路図を製作されるケースは稀とは思いますが、皆無ではありません。 特に初心者のお方が誤りに気付くこと無く製作された場合、動作しないばかりか部品の破損が起これば後から配線を修正しても動きません。 筆者のみならず、雑誌への信頼を欠くことにもなるので本来あってはいけないことなのですが、起こってしまい申し訳なく思っております。 修正のほど、お願い致します。 出版社には連絡済みですので、トラ技サポートのWebサイト及び、次月号に修正記事が掲載される筈です。ご参考まで。
(以上)
【修正記事】
月刊誌:トランジスタ技術2016年3月号の担当記事に誤りがあります。修正をお願いします。(関東地区:2月10日発売)
場所は『私の部品箱』と言うタイトルの1ページ記事で、208ページの図・1です。 左図のようにIC3:NE555Vからのクロック信号が+5Vのラインと接続されてしまっています。これは誤りで、接続のしるし黒丸●が余分です。 クロック信号は+5Vのラインに接続してはいけません。左図を参照して修正して下さい。
このBlogに掲載の回路図を含めて、私が書く回路図では配線が十字状に交わる部分では接続はしません。意識的にそのように書いています。 これは印刷の汚れ・ゴミなどによって誤って接続状態になってしまう危険があるほか、逆にドットの付け忘れが起こった場合は接続漏れになるからです。 このように接続するのかしないのか判断に困るケースが発生してしまいます。 ですから十字交差部分では接続はしないと言うルールで配線を書いておけば、確実に図面のミスは減るのです。 接続は必ず配線のT字状の部分で行ないます。そうすればもしも接続のしるしの黒丸●が抜けても接続するのだとわかります。(Blog内にあっても引用した図面では十字交差で接続があります。ご注意ください)
では、なぜ雑誌記事で間違いが生じるのかと言えば、入稿された図面を編集の段階で再度トレースに出しているからです。手書きの図面で入稿されるお方もあるので、トレースは欠かせないのでしょう。 しかし、トレース作業をされるお方は基本的にエンジニアではありませんから回路の間違いには気付きません。 従って、この例のように図の配線部分が接続されたらどうなるかは関知しません。 トレース後の図面は筆者も見直しは行なっていますが、限られた時間で行なうことが多く、時折ミスが発見できず漏れてしまうことがあってご迷惑をおかけしています。 この点、責任の一端がある訳で申し訳ございません。
今回のミスは、そのまま配線するとNE555Vを壊す可能性があるので至急お知らせしています。 『私の部品箱』の回路図を製作されるケースは稀とは思いますが、皆無ではありません。 特に初心者のお方が誤りに気付くこと無く製作された場合、動作しないばかりか部品の破損が起これば後から配線を修正しても動きません。 筆者のみならず、雑誌への信頼を欠くことにもなるので本来あってはいけないことなのですが、起こってしまい申し訳なく思っております。 修正のほど、お願い致します。 出版社には連絡済みですので、トラ技サポートのWebサイト及び、次月号に修正記事が掲載される筈です。ご参考まで。
(以上)
2016年2月8日月曜日
【回路】11MHz X-tal SSB Filter Design
【回路:11MHz帯のSSB用クリスタル・フィルタ】
【SSB用フィルタの自作】
同じ周波数の水晶振動子(水晶発振子、水晶共振子)をたくさん並べることで、SSB(単側帯波)の発生に適した帯域幅を持ち急峻な帯域フィルタ(BPF)を作ることが出来ます。それがSSB用クリスタル・フィルタです。
安価な既成品の水晶振動子を使って製作できる経済性があることから、水晶を梯子状の回路に並べる「ラダー(梯子)型」フィルタを作るのが一般的です。 HAM局の自作ではSSB用に適した通過帯域幅2〜3kHzのものが良く製作されています。
ここでは、SSBジェネレータあるいはSSB用送受信機に適したクリスタル・フィルタを試作してみました。 周波数は11MHz帯を選びました。 これは、HF帯の送受信機製作に適した周波数と言うこともありますが、表示周波数が11.0592MHzの水晶振動子(HC-49/US型)がたくさんあったからです。
残念ながら、その水晶は平均的な無負荷Q:Quは低かったのです。そのため、普通に製作したのでは、あまり良いフィルタにはならないことが予想されます。しかし、取りあえずやって見ることにしました。
平均のQuは10万少々なので、狭いフィルタは難しそうでも通過帯域幅の広いSSB用なら何とか設計可能な範囲にありそうです。 ここでは、Quが小さい水晶振動子を使いながら、実用性能のクリスタル・フィルタが作れるのかが重要なポイントになります。
☆
基本的に自家用資料と製作記録です。どのようなフィルタが出来るのか興味を持って頂けるのは嬉しいのですが、すぐに役立つ情報ではないかも知れません。 毎度のことで申し訳ありませんが、冗長になるので細かな作業工程は省かせてもらいました。
別のBlog(←リンク)でご紹介した資料・情報だけでは多少物足りないかも知れませんが、設計・製作に必要なことはすべて書いてありますのでご自身で研究して頂けたら嬉しいです。 いずれご自身で試作された暁にはこのBlogの試作例がお役に立つかも知れません。以下、そのような内容なのでお暇のないお方はここらでお帰りになっても無理に止めません。w
☆
【使用した水晶発振子】
マイコン応用機器用と思われる11.0592MHzの水晶発振子の手持ちがたくさんありました。もともとボーレート・クロック発生用ではないでしょうか。
11MHzはSSB用クリスタル・フィルタの製作には適した周波数です。 LmやCmと言った水晶定数のバラツキは少なくて悪くない水晶振動子なのですが、平均した無負荷Q:Quが10万くらいしかないのが欠点でした。バラツキが少ないのは良いのですが・・・Quが低いのはクリスタル・フィルタには致命的なのです。
普通のコイル:Lとコンデンサ:Cを使ったLC共振回路のQuはQu=100〜200くらいのものでしょう。そうとう頑張ってもHF帯で500を超えるものを作るのは容易でありません。ポピュラーなFCZコイルではQu=100くらいのものです。ですからQu=10万は驚異的な数字に見えるでしょう。残念ながら水晶振動子(水晶共振子)の世界では低い部類なのです。
なお、こうしたHigh-Qの測定にはQメータなどまったくお呼びでありません。すでにご紹介したような水晶振動子の評価方法で測定します。もちろん、Qu=10万でも発振用としてはまったく支障ありません。フィルタの製作にはあまり適さないだけです。
☆
資料によれば、フィルタの製作に必要な水晶振動子のQuは目安があるとのことです。これは厳密なものではないものの水晶を選ぶ目安になります。
まず最初にフィルタQを計算しておきます。 フィルタQ:Qf=中心周波数/3dB帯域幅
これは概略で良いですから、式の「中心周波数」は水晶振動子(水晶発振子)の周波数とすれば良いです。
フィルタの形式: 必要な水晶のQu(6素子の例)
(1) Butterworth 32×Qf
(2) 0.1dB Chebyshev 90×Qf
(3) 0.5dB Chebyshev 130×Qf
ここでは、3dB帯域幅2,700Hzのフィルタを0.1dB Chebyshev形式で製作しようとしています。 水晶の周波数は11,059,200Hzですから、Qf=11,059,200/2,700=4,096です。
従って6素子で作るとして必要な水晶振動子のQuは:Qu > 4,096×90=368,640となります。 約37万近く必要な訳です。 しかも8素子のように素子数が増えれば必要なQuは大きくなる方向です。 Qu=10万そこそこの水晶振動子では良いフィルタは望めないことがわかるでしょう。 もしも無視して作れば意図したのとは違うものになってしまう筈です。
参考・1:CW用フィルタをChebyshevで作るのはお奨めしません。可能ならBesselなど位相直線系のフィルタが良く、どうしても「切れ」が優先ならButterworthにしておきます。
参考・2:Quの小さなクリスタルで急峻なフィルタを目指すから苦しいのです。最初からButterworthで行けばQu=13万くらいで行けます。よって既成の設計ソフトでも大丈夫なはずです。少々なだらかな特性になるのは勿論ですが・・。
【半自動設計】
水晶振動子のQuは無限大であると想定して設計する『Dishalの論文に基づく簡易フィルタ設計ソフト』(DJ6EV & G3JIR)で計算したのでは、通過帯域が丸みを帯びたフィルタになってしまうでしょう。 しかも、前の12.8MHzの例よりも一段とQuが小さいので丸みは顕著になる筈です。通過帯域のエッジもダレるに違いありません。 従って既成の設計ソフトで作ったら不満が残るでしょう。 かなり手間は増えますが、自作の設計ツールを改造して使うことにしました。
少しでも有利になるようQuが大きな水晶振動子を8個選んで使います。ただ、選別しても平均のQuは11万5千ですからプラス1万くらいでは気休め程度かもしれませんね。 たくさん測定してQuが高いものを選んでも元のQuが低い水晶では所詮限界があるのです。 むしろQuが特に小さいものを除外する程度の選別で良いのではないでしょうか。 もちろんなるべくバラツキの少ないものを選ぶ意味はあります。 設計計算の数値は選別品の平均値を用いました。
【11MHz帯のSSBフィルタ】
図の(A)が基本設計です。 (B)は実装するプリント基板のストレー容量を考慮して補正したものです。 プリント基板の実測から約4pFを見込むと意味がありそうでした。
この設計では結合容量:Cjkが小さい所で40〜50pF程度になるので、パターンの浮遊容量:約4pFは無視し得ないのです。 検討した結果、リファレンス・メッシュをX6の位置に決めました。従ってX6の直列容量:CS6は不要です。伴ってパターン上のCS6の場所はショートしておきます。また、基板パターンにないCS2とCS7を追加する必要があります。パターン配線のカットを行なってから基板の裏面に実装することにしました。図の(C)はMesh Tuneを行なった値です。
もしもこの種の設計をメインにするのでしたら、プリント基板を修正した方が良さそうです。新しく基板を製作する機会があれば、X1〜X8の全てにCSが入れられるようにしたいと思っています。 基板頒布を受けたお方で、もし同様の製作を行なうようなら、お手数ですがパターン・カットで対処して下さい。 こうした設計になるとは専用基板の設計時点では想定できなかったことなので・・・。
【シミュレーション】
いきなりはんだコテを握らず、かならずシミュレーションを行なってから製作すべきです。水晶の選定ほか、コンデンサの値もなるべく設計値に近づくように多大な手間をかけて製作することになります。
それだけの手間を掛けるからには可能な検証は事前に十分に行なっておきます。 ただしこれは水晶振動子のバラツキはあまり考慮していないシミュレーションですら理想と現実のギャップはあるでしょう。 それでもシミュレーションの結果が芳しくないなら、初期の設計に立ち返って見直すべきでしょう。そうでなくては、これから掛ける手間が報われないことになります。
◎コテを握る前にまずはシミュレーションを!
【まずまずだろうか?】
上記の回路定数による周波数特性のシミュレーション結果です。 例によってLT-Spiceを使いました。 シミュレーションではまずまずの特性が得られそうなことがわかりました。
もちろん、これはQu=11万くらいの理想の1/3もないようなQの低い水晶振動子を使った計算結果です。Quが無限大の水晶振動子でのシミュレーションではありません。
水晶振動子のバラツキを完全に反映しているわけではないので、実際の製作ではこれよりも悪くなるでしょう。 詳細に見ると既に通過帯域内にリプルが現れているのが見えます。 現実にはこうしたリプルがもっと大きくなったり、通過帯域のエッジもこれほど鋭角ではなくて丸みを帯びるかもしれません。 シミュレーション結果はこの設計の「理想解」と言うべきものでしょう。
☆ ☆
【実測特性】
入念に製作してみました。 実際のフィルタはこのようになりました。 画面の横軸は一目盛り1kHz、全体で10kHzです。縦軸は一目盛り10dBで、全体で100dBの範囲です。入力側が350Ω、出力側は250Ωで終端しています。
測定信号源のレベルは0dBmですが、-10dBmに絞っても変化はありません。小さな水晶振動子を使ったフィルタでは飽和させぬよう過大入力に注意が必要です。発振器のレベルを変えて特性変化を確認しておきます。
-3dB通過帯域はやや狭くなるのを見越して2900Hzで設計しています。 結果として約200Hzくらい狭くなったのでうまい具合にSSB用として適当な2700Hzに仕上がりました。
シミュレーションで気になった通過帯域のリプルは現実ではやや大きめになりました。中心部分が少し凹んでいますがそれほど酷いものではありません。 また通過帯域のエッジは奇麗に出ていて、補正設計の効果が良く見られます。シミュレーションの結果がかなり旨く再現できているようです。
帯域外の減衰量は水晶の個数に依存するので、8素子になれば有利です。写真のように90dB以上得られているので十分なものです。広帯域でも観測してみましたがスプリアスは認められませんでした。 通過帯域の中心から見た対称性もまあまあと言ったところです。 この程度であればUSBとLSBの音色の違いは殆ど感じられないでしょう。良いSSBフィルタと言えます。
【-3dB帯域幅】
横軸全体を5kHz幅に狭め拡大表示してみました。 精密に読んで、-3dB通過帯域幅は2,725Hzでした。 なお、今回は水晶振動子に並列に入れるコンデンサの値はゼロで良いような設計を行なっています。
良くシールドする意味から水晶のケースは必ずGNDへ接続するので、水晶定数の測定もそのようにして行なっています。 中心周波数が高く通過帯域幅が広いSSB用フィルタでは結合容量:Cjkが小さくなります。従って水晶振動子の電極とケース間のキャパシタンスも設計に含める必要があります。 ここでは、パターンのストレー容量のみ4pFと見込んで設計していますが、もう少し大きく見込んでも良かったのかも知れません。
【-60dB帯域幅】
-60dB帯域幅は4,538Hzでした。 通過帯域のエッジが急峻なので、通過帯域幅は-3dBも-6dBもそれほど違いません。 少々変則的ですが、-3dBと-60dBで計算したシェープファクタは:k=4,538/2,725=1.665・・となります。 もちろん、-6dBの帯域幅で計算すればもう少し良く(小さく)なるでしょう。
8MHzで作った6素子のSSBフィルタのシェープファクタはk=2.43くらいだったので、k=1.665と言うのはかなりの改善です。 12.8MHzの製作例でもそうでしたが、水晶2つの追加はかなり効果的なのです。 SSB用のフィルタは6素子でも十分実用になりますが、8素子で作った方が望ましいと思います。
☆
もう少し「理想解」に一致した特性が得られるかも知れないと期待していたので、すこし残念な気持ちになりました。 しかしそれは高望みだったのかも知れません。 程々に手間は掛けましたが後で気付いたら少々詰めの甘い所があってその影響もあるようです。
そもそも理想に遠い水晶振動子で作ったものです。 このくらいの性能が得られたなら自作フィルタとして上出来と思うべきでしょう。 旧来の設計によるラダー型フィルタで発生していたエッジ部分に起こるディップや通過帯域の丸みと凸凹は解消されています。製作に手間をかけた甲斐は十分あった訳です。
あと、水晶振動子のQばかり問題にしてきましたが、使っている各コンデンサも無関係ではありません。安易に高誘電率系のセラコンなど使えば特性の乱れもあり得るでしょう。理想を言えばDipped-micaやGlass CapacitorのようなHigh-Qなコンデンサを使いたいのですが、現実的なところで我慢しています。あまり理想ばかり追っていたら実用的な製作ではなくなってしまうでしょう。自作するより特注した方が手っ取り早くなってしまいます。
何回かに分けて『新しいラダー型クリスタル・フィルタの設計』として検討を進めてきました。前回の『音の良いCWフィルタ』と合わせてこのSSBフィルタで概ね設計・製作技術は確立できたと思います。帯域幅の広いAM用フィルタなどもクリスタルの周波数を選べば自在に設計できるでしょう。フィルタが必要になったらニーズに応じたものが何時でも作れるようになったわけです。
幾つか壁に突き当たった局面では諦めそうになりましたが、それで昔に戻らなくて良かったと思っています。 もちろん課題がすべて解消した訳ではありません。その課題解決の方向はある程度見えていますが、さらなる手間が待っています。 設計と製作の精度を一段と向上することにある訳なので、それほど難しくもないのですが面倒臭くてメゲそうです。もうそろそろおしまいにしたい気持ちになっています。概ね十分な所まで来ていますからね。(笑)
次にラダー型フィルタを扱う際にはセラミック発振子:セラロックを使ったいわゆる「世羅多フィルタ」が新設計でどこまで行けるか検証してみたいと思います。それで一連の新しいラダー型フィルタシリーズを締め括りましょう。de JA9TTT/1
(つづく)←セラミック発振子(セラロック)を使った続編へリンク。nm
【SSB用フィルタの自作】
同じ周波数の水晶振動子(水晶発振子、水晶共振子)をたくさん並べることで、SSB(単側帯波)の発生に適した帯域幅を持ち急峻な帯域フィルタ(BPF)を作ることが出来ます。それがSSB用クリスタル・フィルタです。
安価な既成品の水晶振動子を使って製作できる経済性があることから、水晶を梯子状の回路に並べる「ラダー(梯子)型」フィルタを作るのが一般的です。 HAM局の自作ではSSB用に適した通過帯域幅2〜3kHzのものが良く製作されています。
ここでは、SSBジェネレータあるいはSSB用送受信機に適したクリスタル・フィルタを試作してみました。 周波数は11MHz帯を選びました。 これは、HF帯の送受信機製作に適した周波数と言うこともありますが、表示周波数が11.0592MHzの水晶振動子(HC-49/US型)がたくさんあったからです。
残念ながら、その水晶は平均的な無負荷Q:Quは低かったのです。そのため、普通に製作したのでは、あまり良いフィルタにはならないことが予想されます。しかし、取りあえずやって見ることにしました。
平均のQuは10万少々なので、狭いフィルタは難しそうでも通過帯域幅の広いSSB用なら何とか設計可能な範囲にありそうです。 ここでは、Quが小さい水晶振動子を使いながら、実用性能のクリスタル・フィルタが作れるのかが重要なポイントになります。
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基本的に自家用資料と製作記録です。どのようなフィルタが出来るのか興味を持って頂けるのは嬉しいのですが、すぐに役立つ情報ではないかも知れません。 毎度のことで申し訳ありませんが、冗長になるので細かな作業工程は省かせてもらいました。
別のBlog(←リンク)でご紹介した資料・情報だけでは多少物足りないかも知れませんが、設計・製作に必要なことはすべて書いてありますのでご自身で研究して頂けたら嬉しいです。 いずれご自身で試作された暁にはこのBlogの試作例がお役に立つかも知れません。以下、そのような内容なのでお暇のないお方はここらでお帰りになっても無理に止めません。w
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【使用した水晶発振子】
マイコン応用機器用と思われる11.0592MHzの水晶発振子の手持ちがたくさんありました。もともとボーレート・クロック発生用ではないでしょうか。
11MHzはSSB用クリスタル・フィルタの製作には適した周波数です。 LmやCmと言った水晶定数のバラツキは少なくて悪くない水晶振動子なのですが、平均した無負荷Q:Quが10万くらいしかないのが欠点でした。バラツキが少ないのは良いのですが・・・Quが低いのはクリスタル・フィルタには致命的なのです。
普通のコイル:Lとコンデンサ:Cを使ったLC共振回路のQuはQu=100〜200くらいのものでしょう。そうとう頑張ってもHF帯で500を超えるものを作るのは容易でありません。ポピュラーなFCZコイルではQu=100くらいのものです。ですからQu=10万は驚異的な数字に見えるでしょう。残念ながら水晶振動子(水晶共振子)の世界では低い部類なのです。
なお、こうしたHigh-Qの測定にはQメータなどまったくお呼びでありません。すでにご紹介したような水晶振動子の評価方法で測定します。もちろん、Qu=10万でも発振用としてはまったく支障ありません。フィルタの製作にはあまり適さないだけです。
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資料によれば、フィルタの製作に必要な水晶振動子のQuは目安があるとのことです。これは厳密なものではないものの水晶を選ぶ目安になります。
まず最初にフィルタQを計算しておきます。 フィルタQ:Qf=中心周波数/3dB帯域幅
これは概略で良いですから、式の「中心周波数」は水晶振動子(水晶発振子)の周波数とすれば良いです。
フィルタの形式: 必要な水晶のQu(6素子の例)
(1) Butterworth 32×Qf
(2) 0.1dB Chebyshev 90×Qf
(3) 0.5dB Chebyshev 130×Qf
ここでは、3dB帯域幅2,700Hzのフィルタを0.1dB Chebyshev形式で製作しようとしています。 水晶の周波数は11,059,200Hzですから、Qf=11,059,200/2,700=4,096です。
従って6素子で作るとして必要な水晶振動子のQuは:Qu > 4,096×90=368,640となります。 約37万近く必要な訳です。 しかも8素子のように素子数が増えれば必要なQuは大きくなる方向です。 Qu=10万そこそこの水晶振動子では良いフィルタは望めないことがわかるでしょう。 もしも無視して作れば意図したのとは違うものになってしまう筈です。
参考・1:CW用フィルタをChebyshevで作るのはお奨めしません。可能ならBesselなど位相直線系のフィルタが良く、どうしても「切れ」が優先ならButterworthにしておきます。
参考・2:Quの小さなクリスタルで急峻なフィルタを目指すから苦しいのです。最初からButterworthで行けばQu=13万くらいで行けます。よって既成の設計ソフトでも大丈夫なはずです。少々なだらかな特性になるのは勿論ですが・・。
【半自動設計】
水晶振動子のQuは無限大であると想定して設計する『Dishalの論文に基づく簡易フィルタ設計ソフト』(DJ6EV & G3JIR)で計算したのでは、通過帯域が丸みを帯びたフィルタになってしまうでしょう。 しかも、前の12.8MHzの例よりも一段とQuが小さいので丸みは顕著になる筈です。通過帯域のエッジもダレるに違いありません。 従って既成の設計ソフトで作ったら不満が残るでしょう。 かなり手間は増えますが、自作の設計ツールを改造して使うことにしました。
少しでも有利になるようQuが大きな水晶振動子を8個選んで使います。ただ、選別しても平均のQuは11万5千ですからプラス1万くらいでは気休め程度かもしれませんね。 たくさん測定してQuが高いものを選んでも元のQuが低い水晶では所詮限界があるのです。 むしろQuが特に小さいものを除外する程度の選別で良いのではないでしょうか。 もちろんなるべくバラツキの少ないものを選ぶ意味はあります。 設計計算の数値は選別品の平均値を用いました。
【11MHz帯のSSBフィルタ】
図の(A)が基本設計です。 (B)は実装するプリント基板のストレー容量を考慮して補正したものです。 プリント基板の実測から約4pFを見込むと意味がありそうでした。
この設計では結合容量:Cjkが小さい所で40〜50pF程度になるので、パターンの浮遊容量:約4pFは無視し得ないのです。 検討した結果、リファレンス・メッシュをX6の位置に決めました。従ってX6の直列容量:CS6は不要です。伴ってパターン上のCS6の場所はショートしておきます。また、基板パターンにないCS2とCS7を追加する必要があります。パターン配線のカットを行なってから基板の裏面に実装することにしました。図の(C)はMesh Tuneを行なった値です。
もしもこの種の設計をメインにするのでしたら、プリント基板を修正した方が良さそうです。新しく基板を製作する機会があれば、X1〜X8の全てにCSが入れられるようにしたいと思っています。 基板頒布を受けたお方で、もし同様の製作を行なうようなら、お手数ですがパターン・カットで対処して下さい。 こうした設計になるとは専用基板の設計時点では想定できなかったことなので・・・。
【シミュレーション】
いきなりはんだコテを握らず、かならずシミュレーションを行なってから製作すべきです。水晶の選定ほか、コンデンサの値もなるべく設計値に近づくように多大な手間をかけて製作することになります。
それだけの手間を掛けるからには可能な検証は事前に十分に行なっておきます。 ただしこれは水晶振動子のバラツキはあまり考慮していないシミュレーションですら理想と現実のギャップはあるでしょう。 それでもシミュレーションの結果が芳しくないなら、初期の設計に立ち返って見直すべきでしょう。そうでなくては、これから掛ける手間が報われないことになります。
◎コテを握る前にまずはシミュレーションを!
【まずまずだろうか?】
上記の回路定数による周波数特性のシミュレーション結果です。 例によってLT-Spiceを使いました。 シミュレーションではまずまずの特性が得られそうなことがわかりました。
もちろん、これはQu=11万くらいの理想の1/3もないようなQの低い水晶振動子を使った計算結果です。Quが無限大の水晶振動子でのシミュレーションではありません。
水晶振動子のバラツキを完全に反映しているわけではないので、実際の製作ではこれよりも悪くなるでしょう。 詳細に見ると既に通過帯域内にリプルが現れているのが見えます。 現実にはこうしたリプルがもっと大きくなったり、通過帯域のエッジもこれほど鋭角ではなくて丸みを帯びるかもしれません。 シミュレーション結果はこの設計の「理想解」と言うべきものでしょう。
☆ ☆
【実測特性】
入念に製作してみました。 実際のフィルタはこのようになりました。 画面の横軸は一目盛り1kHz、全体で10kHzです。縦軸は一目盛り10dBで、全体で100dBの範囲です。入力側が350Ω、出力側は250Ωで終端しています。
測定信号源のレベルは0dBmですが、-10dBmに絞っても変化はありません。小さな水晶振動子を使ったフィルタでは飽和させぬよう過大入力に注意が必要です。発振器のレベルを変えて特性変化を確認しておきます。
-3dB通過帯域はやや狭くなるのを見越して2900Hzで設計しています。 結果として約200Hzくらい狭くなったのでうまい具合にSSB用として適当な2700Hzに仕上がりました。
シミュレーションで気になった通過帯域のリプルは現実ではやや大きめになりました。中心部分が少し凹んでいますがそれほど酷いものではありません。 また通過帯域のエッジは奇麗に出ていて、補正設計の効果が良く見られます。シミュレーションの結果がかなり旨く再現できているようです。
帯域外の減衰量は水晶の個数に依存するので、8素子になれば有利です。写真のように90dB以上得られているので十分なものです。広帯域でも観測してみましたがスプリアスは認められませんでした。 通過帯域の中心から見た対称性もまあまあと言ったところです。 この程度であればUSBとLSBの音色の違いは殆ど感じられないでしょう。良いSSBフィルタと言えます。
【-3dB帯域幅】
横軸全体を5kHz幅に狭め拡大表示してみました。 精密に読んで、-3dB通過帯域幅は2,725Hzでした。 なお、今回は水晶振動子に並列に入れるコンデンサの値はゼロで良いような設計を行なっています。
良くシールドする意味から水晶のケースは必ずGNDへ接続するので、水晶定数の測定もそのようにして行なっています。 中心周波数が高く通過帯域幅が広いSSB用フィルタでは結合容量:Cjkが小さくなります。従って水晶振動子の電極とケース間のキャパシタンスも設計に含める必要があります。 ここでは、パターンのストレー容量のみ4pFと見込んで設計していますが、もう少し大きく見込んでも良かったのかも知れません。
【-60dB帯域幅】
-60dB帯域幅は4,538Hzでした。 通過帯域のエッジが急峻なので、通過帯域幅は-3dBも-6dBもそれほど違いません。 少々変則的ですが、-3dBと-60dBで計算したシェープファクタは:k=4,538/2,725=1.665・・となります。 もちろん、-6dBの帯域幅で計算すればもう少し良く(小さく)なるでしょう。
8MHzで作った6素子のSSBフィルタのシェープファクタはk=2.43くらいだったので、k=1.665と言うのはかなりの改善です。 12.8MHzの製作例でもそうでしたが、水晶2つの追加はかなり効果的なのです。 SSB用のフィルタは6素子でも十分実用になりますが、8素子で作った方が望ましいと思います。
☆
もう少し「理想解」に一致した特性が得られるかも知れないと期待していたので、すこし残念な気持ちになりました。 しかしそれは高望みだったのかも知れません。 程々に手間は掛けましたが後で気付いたら少々詰めの甘い所があってその影響もあるようです。
そもそも理想に遠い水晶振動子で作ったものです。 このくらいの性能が得られたなら自作フィルタとして上出来と思うべきでしょう。 旧来の設計によるラダー型フィルタで発生していたエッジ部分に起こるディップや通過帯域の丸みと凸凹は解消されています。製作に手間をかけた甲斐は十分あった訳です。
あと、水晶振動子のQばかり問題にしてきましたが、使っている各コンデンサも無関係ではありません。安易に高誘電率系のセラコンなど使えば特性の乱れもあり得るでしょう。理想を言えばDipped-micaやGlass CapacitorのようなHigh-Qなコンデンサを使いたいのですが、現実的なところで我慢しています。あまり理想ばかり追っていたら実用的な製作ではなくなってしまうでしょう。自作するより特注した方が手っ取り早くなってしまいます。
何回かに分けて『新しいラダー型クリスタル・フィルタの設計』として検討を進めてきました。前回の『音の良いCWフィルタ』と合わせてこのSSBフィルタで概ね設計・製作技術は確立できたと思います。帯域幅の広いAM用フィルタなどもクリスタルの周波数を選べば自在に設計できるでしょう。フィルタが必要になったらニーズに応じたものが何時でも作れるようになったわけです。
幾つか壁に突き当たった局面では諦めそうになりましたが、それで昔に戻らなくて良かったと思っています。 もちろん課題がすべて解消した訳ではありません。その課題解決の方向はある程度見えていますが、さらなる手間が待っています。 設計と製作の精度を一段と向上することにある訳なので、それほど難しくもないのですが面倒臭くてメゲそうです。もうそろそろおしまいにしたい気持ちになっています。概ね十分な所まで来ていますからね。(笑)
次にラダー型フィルタを扱う際にはセラミック発振子:セラロックを使ったいわゆる「世羅多フィルタ」が新設計でどこまで行けるか検証してみたいと思います。それで一連の新しいラダー型フィルタシリーズを締め括りましょう。de JA9TTT/1
(つづく)←セラミック発振子(セラロック)を使った続編へリンク。nm
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