2019年9月29日日曜日

【回路】7MHz VXO Design

7MHzのVXOをテストする
トランジスタを使ったVXO
 シンプルなWSPR機を作ろうと思っています。 WSPR(←リンク)は数Wのパワーでしかも固定した周波数で送受を繰り返すだけです。 意外にシンプルな仕組みで済みそうですから、あとはいかに簡潔に実現するのかが工夫のしどころでしょう。

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 Rigが空いている時を見計らってWSPRにオンエアしています。 自身がバンドの伝搬状況を掴む目的もありますが、他地域からの把握にも幾らか役立って欲しいと思っています。オンエアはWSPR専用送信機による送りっぱなしの一方通行ではなく、待機時は受信してレポートをアップする「送受信が揃った形態」が望ましいようです。 簡単に行なうにはメーカー製トランシーバが適当ですがメーカー機は送受ともに消費電力が大きすぎるように感じます。 そこで省エネなWSPR機はできないものか考え始めたわけです。 もちろん、既にそのようなKitとか製品も登場していますがなるべくなら自身の手で・・・それもシンプルさ優先で試してみたいものです。

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 ダイレクト・コンバージョン形式を考えるのでまずは検波用の発振器を作ろうと思います。 都合よくマッチする水晶発振子は手持ちにありません。いまどき特注も面倒です。 なるべく少ない消費電電力にしたいので近い周波数の水晶発振子を使ったVXOで何とかならないものでしょうか・・・。

 21世紀になって20年も過ぎた今ごろVXOでもあるまいに・・・という呟きも聞こえてきそうです。(笑) 発振器と言えばDDSやPLLの時代ですからVXOなんて有用ではないかもしれません。 しかし周波数の可変は必要なく目的周波数の水晶発振子がないならVXO形式で周波数をちょっと引っ張るのも悪くないでしょう。 目論見通りWSPRの復調がうまく行くか、受信レポートに現れる周波数安定度は大丈夫なのか、それぞれ確かめましょう。 VXOなんて語り尽くされた昔話のようなものです。 息抜き程度にでもご覧ください。

 【7MHz帯のVXO:実験回路
 まずは受信からでもと思ってシンプルなダイレクト・コンバージョン機を構想します。 高級な路線は狙わず、検波したら増幅してパソコンに接続という単純な形式で行きたいと思います。 そんな思いつき実験のために、7038.6kHzの発振器が欲しくなった訳です。 しかしそんな中途半端な周波数の水晶発振子は持っていません。 でも7040kHzあたりの水晶発振子ならジャンク箱にあったような。

 引き出しを探したらそれらしい水晶発振子が出てきました。 表面の捺印からでは正確な発振周波数はわかりません。何のメモも付いていませんでした。 そこで、さっそく共振特性を調べたら発振周波数は少し高い7045kHzのようです。 どうやら目的周波数に対して6.4kHzほど高いようです。 残念ながら7MHzあたりの水晶発振子はトリマコンデンサを抱かせた調整でそれだけ下げられません。 でも、VXO式なら6.4kHz(約0.1%)など至極簡単です。それにその程度のVXO量なら周波数安定度もまずまずではないでしょうか。図のようなVXO回路でテストすることにしました。見ての通り回路そのものはオーソドックスなものです。 大きく周波数を可変させるVXOとの違いは直列のインダクタ(VXOコイル)の大きさだけです。

 発振回路はクラップ型LC発振器と等価なものです。 発振デバイスはfTの高いRF用トランジスタを使いました。VXOと言えばFET(電界効果トランジスタ)を使う例が多いのですが、バイポーラ・トランジスタでも容易に発振できます。 むしろゲインが高いのでエミッタとGND間は単なる抵抗器で済んでしまいます。 図では発振に2SC207を使っていますが、ここはRF用小信号トランジスタなら何でも可です。安価な中華トランジスタの:S9018Hなど最適でしょう。 バイアスは無調整で大丈夫だと思いますが、必要ならベース抵抗:R1=330kΩを加減してコレクタ電流が2mAくらい流れるようにします。

 VXOでいつも問題になるのはいわゆる「VXOコイル」ですね。 事前の見積もりでは68μHくらい必要そうです。 あとは作ってから実験的に決めることにしました。 その結果が図の定数(L1=47μH)です。 6.4kHzではなく、もっとたくさんVXOさせたいならL1は68μHくらい必要そうでした。 ここではそんなに引っ張る必要はないし少ないインダクタンスで済ませた方が周波数の安定度は優れます。安定なVXOを作るには必要最低限のコイル(=インダクタンス)で済ませるのがコツです。 稀にQの高いコイルを使うと異常発振するかも知れません。そのときはコイルと並列に10kΩくらいの抵抗を追加してみます。
 なお、水晶発振子に並列のコンデンサ:C3=5pFは温度特性の良いものに限ります。 NP0特性(エヌピーゼロとくせい)のセラコンかディップド・マイカが適当です。 このコンデンサはVXO量に大きく影響します。大きくすると少なめのインダクタンス(VXOコイル)でたくさんVXOできますが、発振の起動特性や周波数安定度から考えて10pF以下で済ませる方が良いでしょう。私は3〜5pF程度にしています。

 バッファアンプは近ごろ定番のFET:2SK544F(三洋/ONセミ)を使いました。2SK241GR(東芝)でも良いですし足の並びに気を付けて2SK439F(日立)も使えます。この回路の場合、帰還容量(Crss)が大きな2SK192A、BF256などは不適当です。 VXO発振部の出力波形はあまり綺麗ではありません。発振波形の綺麗さよりも確実な発振を優先しているからです。 そこでバッファアンプはドレイン側に同調回路を挿入した形式にします。これだけでだいぶ綺麗な出力波形になります。 2SK544Fの出力で5dBmくらい得られました。

参考:VXOコイルのインダクタンス見積もり方
以下はたいへんアバウトなものですが、初めに目星をつけておけばVXOコイルの製作はずっと容易になります。 上記回路図のように水晶発振子にC3を並列に入れる形式のVXOついて計算します。 いま、水晶発振子の端子間容量:Cpは2pF程度と見込めます。また、設計値から並列容量:C3は5pFで計算します。 C=Cp+C3=7(pF)となります。 VXOコイルは、概略でこの7pFとで水晶発振子の周波数:Fに共振するようなインダクタンス値にします。 この例では、水晶の周波数:Fは7045kHzで、C=7pFとすれば、コイルのインクタンス:Lは以下の計算で求められます。誰でもできる算数レベルの計算ですけれど・・・。w

 左図のようにL=約73μHと求まります。 近似値の標準的なインダクタは68μHなのでそのあたりの値からテストしてみることになります。あるいはそのくらいのインダクタンスが得られるようなコイルを巻いて試すことにします。

 VXOコイルが用意できたら、回路図のC4とC5の部分を最大容量が100pF程度のバリコンに置き換えます。発振させて十分な周波数変化が得られるかによってVXOコイルが最適か否かを判断します。 最適ならバリコンをいっぱいに回して水晶の表示周波数の約0.5%くらいの変化量が得られます。 この例で言えば水晶発振子は7045kHzですから、35kHzくらいの変化量が得られればちょうど良いインダクタンスです。
 インダクタンスが変えられるコイル(コア入りのコイルなど)を使って試すと、最適量に近付くと急に大きな周波数変化量が得られるようになるのがわかります。インダクタンスの最適値はかなり狭い範囲にあります。 なお、0.5%以上の変化が得られることも多いのですが、周波数安定度がだんだん悪くなるので実用的ではなくなってきます。周波数安定度との兼ね合いなどを考えて概ね表示周波数の0.5%程度を目標にしています。
 言うまでもないと思いますが発振周波数は表示周波数よりも下側に変化して行きます。7045kHzの水晶ではバリコンが最小容量のとき約7045kHzで発振し、容量の増加とともに発振周波数も下がって行きます。バリコンが最大容量のとき約7010kHzまで下げられればVXOコイルは最適と言えるでしょう。

 もちろん水晶発振子には個体差があって、この計算値の「半分または2倍くらい」になる可能性もあります。得ようとする周波数変化量によっても必要なインダクタンスは違います。しかし闇雲にコイルを巻き始めるよりも計算すれば遥かに見通しは良くなります。
 俗に言う水晶を2つパラにする「スーパーVXO」でやりたい時は、Cpの値を2倍にして計算します。 試すとわかりますが「スーパー」にしなくても水晶一つに並列のコンデンサ:C3を加えるだけで十分にVXOできます。 過去にスーパーVXOを試したこともありますが、あまりその必要性を感じなかったので最終的に採用しませんでした。 今回も必要とする変化量はわずかですから水晶一つで十分です。

 【VXO部分
 使用した水晶発振子とVXOコイルの部分です。 VXOコイルは既製品のマイクロインダクタで済ませました。 今回の目的におけるインダクタンスの最適値は47μHよりもう少し小さいところにありそうでしたが、そこまで追い込まなくても十分でした。

 VFOの代わりに使うような「たくさん引っ張るVXO」を作るなら是非ともVXOコイルを最適化すべきです。 ここではたった6.4kHzだけ引っ張れれば十分ですから既製品のインダクタで済ませたのです。(参考:写真で使用している中華製のRFCは温度特性がよくありませんでした。周波数安定度に大きく影響するので要検討です。)

 同じ周波数の水晶発振子が3つあったので再現性の比較をしてみました。 どれもほとんど違いはないようです。 メーカーやロットが違えば最適インダクタンスも異なる可能性はあります。でも極端に違うことはないはずなので、33〜68μHあたりからテストを始めます。

 写真のように発振に2SC207という金属缶タイプのトランジスタを使いました。 実測で1GHzを超えるfTがあってFBな石なのにパーツボックスの肥やしに成り下がっていたのです。 fTがある程度高いRF用のトランジスタならなんでも可ですから型番にとらわれず手持ちをドンドン試してみましょう。 周波数は7MHzですから汎用トランジスタ(2SC1815など)でも十分行けるのではないでしょうか。

出力波形
 2SK544Fのバッファアンプを出たところの波形です。 ちょっと見たらきれいな正弦波ですが、スペアナでみるとけっこう高調波が含まれます。 しかしそのままオンエアに使う訳ではありませんからこの程度で十分でしょう。 それにまずは受信用ですからね。

 途中の回路ロスなど考えて、もう少し大きめのパワーが欲しい気もするので出力部分のコイルを作り替えるかアンプの追加を考えています。 低消費電力の観点からはなるべくアンプは増やさずに行きたいところです。 この先は検波回路とバンドパス・フィルタなどを検討したいと思います。 旨くすればさっそくWSPRで受信テストができるかもしれません。

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 ダイレクト・コンバージョン形式の受信機を作るには受信周波数の発振器が必要です。まずはその手当をしてからその先を進めましょう。 手持ちにちょうど使えそうな水晶発振子があって良かったです。 さらに探したら10140kHzの水晶発振子も見つかりました。 10MHz帯のWSPRは10138.7kHzです。 こちらはVXOせずに調整だけで行けるかもしれないほど近い周波数です。 7MHzのテストが済んだら10MHz帯もやってみましょう。 でも、複数の周波数発生にはDDSが一番かも知れませんね。周波数管理も楽ですから。そっちの方向へ行ってしまう可能性もゼロじゃありません。 ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンク

2019年9月14日土曜日

【回路】Regenerative Receivers (6)

再生式受信機・その6 クリコン+再生検波式
 【クリコン+再生検波式受信機
 再生式受信機をテーマにした第6回目です。 前回(←リンク)はクリスタル・コンバータ(クリコン)をテストしました。

 今回はクリコンで低い周波数に変換された受信信号を再生検波回路で復調する部分から後を作ります。 再生検波回路で復調された音声信号はそのあと十分に低周波増幅されます。クリコン+再生検波式の受信機になります。 単純な再生式受信機と比べて複雑そうに感じるかも知れませんが、実際はかなりシンプルです。

 毎回同じような写真ですが、これはクリコン+再生検波式で製作した7MHz帯の受信機です。ブレッドボードの試作状態ですが成績しだいで本製作へ進みたいと思っています。
 使用デバイスはDual-Gate MOS-FETが二つと低集積度のICが一つです。アクティブ素子はこの三つだけです。 電源電圧は9Vで設計しました。MOS-FETはあまり低い電源電圧に向かないからです。ただし6Vくらいまで下げてもまずまず聞こえます。 なお、再生式受信機と言いつつ、スーパ・ヘテロダイン式でもありますからクリコン部分の水晶発振が停止してしまうとまったく聞こえなくなります。この点は注意すべきところです。

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 SSBも受信できる性能の再生式受信機として低い周波数で再生検波を行なう形式で試作します。セラミック発振子を使ったタイプと比較してみましょう。 QSO(無線交信)に使えそうな「実用的な性能」がとりあえずの目標といったところでしょうか。 SSBが聞こえる性能を目指してはいますがSSBトランシーバのような用途は意図していません。SSBの送信部は簡単ではないからです。また、再生式受信機はトランシーブ操作には向きません。 従ってCWでの交信に実用性があればまずはゴールだと思っています。周波数安定度の観点からSSBが受信可能ならCWにも十分なはずですから。 以下、引き続きシンプルな(しかし実用性能の)受信機がテーマですがもしご興味でもあればご覧ください。
 
 【クリコン+再生検波式受信機・回路図
 3つの部分から構成されています。 シンプルですが受信機に必要な機能は備えています。 以下、アンテナ側から順を追って行きます。

 アンテナから入った信号は可変抵抗器:VRを使った簡易なアッテネータを通ったあと、7MHzの同調回路に加わります。 7MHz帯の入力信号は2ゲートMOS-FETの3SK35GRで周波数変換されます。周波数変換のための局部発振は5.12MHzの水晶発振器です。 7MHzの入力信号は低い周波数へ周波数変換されます。 7MHzのHAM Bandは7.0〜7.2MHzの200kHzあって、1.88〜2.18MHzへと周波数変換されることになります。 第2ゲートのバイアスはVR2で可変できます。変換ゲインが十分得られるポイントにセットします。乾電池を電源にする場合、電源電圧が6V程度に下がっても発振停止しないことも調整の条件です。 一旦セットすれば頻繁な再調整は不要なので固定抵抗に置き換えて支障ありません。ここまでは前回のBlog(←リンク)で検討した部分です。

 周波数変換された信号は検波コイル:T2と小容量で結合されます。 再生検波回路もDual-Gate MOS-FETの3SK35GRを使っています。この再生検波回路はRCA社のアプリケーション・ノートが元になっています。(後述) RCAの資料では3N187というMOS-FETになっていました。(3N187は軍用・工業用で、民生用の40673と同じ特性) 3SK35GRを使いましたが規格を比較して大差はないようです。 回路定数も特に変える必要を感じないため基本的に資料を踏襲しています。
 ハートレー型発振器と等価な再生検波回路です。テストしてみるとスムースな再生調整が可能で感度的にも良好でした。 なお、検波コイルはタップ式ではなく二次コイル式になっています。 このようにすると帰還量の加減が連続的にできるようになります。この工夫はJA1FG梶井OM(故人)が執筆された古いCQ誌の記事を参考にしました。 後ほどコイルの製作方法とともに詳しいデータがあります。 このコイルの構造はこの受信機のキーポイントの一つとも言える重要な部分です。

 検波で得られた低周波信号は音量調整のVRを通ったあと低周波増幅されます。 今回はスピーカは目的とせず、セラミック(またはクリスタル)・イヤフォンを鳴らすようにしてみました。 従って単純な電圧増幅だけで済むため増幅素子にシンプルなICを使いました。 LA3020は三洋電機の旧式な2段増幅用ICです。 いつごろ買ったか忘れてしまいましたが、通販で買ったバーゲン品の残りです。たぶん入手は困難なので後ほど代替の3石アンプがあります。そちらに換える方がローノイズでFBです。

 低周波増幅された受信信号はセラミック・イヤフォンで音にします。 なお、セラミック・イヤフォンはインピーダンスが高いためトランスによる昇圧ができます。 具体的には山水のST-30を使うと約6dBの感度アップになります。その様子も後ほど示しました。

 以上ですべてです。 スピーカを鳴らす必要がないので低周波のパワー・アンプは不要です。そのため消費電流はだいぶ少なくて5〜6mAで済みました。 006P型乾電池でかなり長く受信できます。

 以下、各部の様子を写真とともに見て行きましょう。

 【クリスタル・コンバータ部
 クリコン部は前回のBlog(←リンク)と基本的に同じです。

 3SK35GRの第1ゲートの部分を使ってコルピッツ型と等価の水晶発振回路を構成しています。 水晶発振子はHC-49/U型で周波数は5.12MHz(基本波)です。 発振が弱すぎると変換ゲインが低下し、強すぎればスプリアス特性が悪化します。ちょうど良い範囲があるので第2ゲートのバイアス電圧で発振状態をコントロールします。 変換すべき信号は第2ゲートに加えられます。 なお、アンテナコイルはスペースの都合で10K型ボビンに巻いたものを使いました。 前回のBlogのようなトロイダルコイルに巻いたものでももちろんOKです。

 ドレイン側は抵抗負荷です。一般的なクリコンでは同調回路を入れて必要信号のみ取り出すようにします。 ここでは次段が再生検波器なので検波コイルの部分に十分な選択度があります。抵抗負荷で支障ありません。 抵抗負荷にするとゲインの点ではやや損ですが、再生式受信機では感度のほとんどが検波回路で決まるため、クリコン部分のゲインはそれほど重要ではありません。7.0〜7.2MHzのHAMバンドは1.88〜2.18MHzに周波数変換されます。SSBのサイドバンド転換はありません。

 【再生検波部
 1.88〜2.18MHzを受信(復調)する再生検波回路です。 再生検波回路にもDual-Gate MOS-FET(2ゲートMOS型電界効果トランジスタ)を使いました。 この回路はJA1FGご自身が実際に製作され、再生検波回路として優れているとして推奨されたものです。(興味があればCQ Hamradio 1977年8月号 pp232〜239を参照)

  オリジナルは次項で説明の米国RCA社の半導体アプリケーションノートに掲載された回路です。 基本的に同じ回路ですが、検波コイルの部分に梶井OM独自の工夫が行なわれています。 再生検波回路はFETのソースを検波コイルのタップに接続するハートレー型発振器と等価なものです。普通の回路ではコイルのタップ位置を変えて最良の検波状態が得られるように加減します。従ってタップ位置の調整はかなり厄介でした。

 JA1FGの回路では検波コイルに別の帰還用巻線を巻いてタップを引き出す代わりとします。 その帰還用巻線の結合度はコアの出し入れで連続的に可変できるようになっています。 その結果、たいへん面倒なタップ位置のカットアンドトライが不要になります。
 やってみますと、実際には帰還用巻線は巻き数の加減が必要でした。多少の試行錯誤は必要です。 しかしある程度良さそうな巻き数が見つかれば後の加減はスムースでした。コイルの巻き数や構造については後ほど詳しい図面があります。

重要:結合度調整用コアの働きについて
結合の加減に使う「コア」の位置によって巻線間の結合度が変わります。結合度が変わることで正帰還の大きさが変わって再生の掛かり方が加減されるわけです。 帰還用巻線と同調コイルの両方にまたがるような位置にコアがあると結合は最も密になります。 ただしコアを動かして結合度を変えると同調コイルのインダクタンスも変わってしまいます。 当然ですが受信周波数範囲も変わります。 その同調コイルのインダクタンス変化は反対側にあるもう一つのコアによって補正できます。 このように結合度の加減は受信周波数範囲の調整とともに行なうことになります。 二つのコアを持ったコイルを調整することになりますが、それほどクリチカルではないので難しくはありませんでした。

参考:使用するMOS-FETについて
実験では3SK35GRを使いました。比較のため3SK45B、3SK65、3N201Bなど幾つか交換して確認しています。 再生が始まるバイアス電圧に幾らか違いが見られましたが、それを除けば検波器としての性能に違いは見られません。他のFETでも代替できるでしょう。

 【RCAの再生検波回路例
 JA1FG梶井OMが参照したRCAのアプリケーションとはどんなものなのか興味があったので調べてみました。

 たどり着いたのは左図のような回路と説明です。 Dual-Gate MOS-FETのアナログ的なアプリケーションを全般に扱う記事の一部です。 その中で左図のような短い説明と簡単な回路図だけが該当の箇所でした。 なお、説明文には一部ほかの回路図の説明と取り違えているような記述があるようですね。

 具体的な成績などは何も書いてありませんが、JA1FGの記事によれば真空管を使った再生検波回路と同様の好成績が得られたとあります。 実はこの検波回路は25年くらい前にテストしたことがありました。 負荷抵抗を低周波チョークに替えてゲインを欲張る設計に変更して試しました。 その結果、かなり高感度が得られたのですが同時に低周波発振にも悩まされた記憶があります。 今回はオリジナル通りに抵抗負荷でやってみましたが後続する低周波増幅のゲインをその分だけアップすれば同様の感度が得られます。あえて低周波チョークを使う必要はなかったようですね。

参考:RCAのアプリケーションノートが必要なお方はご連絡を。あまり綺麗ではありませんがPDF版のコピーがあります。なかなか面白いアプリケーションが載っています。

 【検波コイルの製作図
 1.88〜2.18MHzを受信するためのコイルを巻きます。 JA1FGの記事には記述のない周波数ですから自身で仕様を決める必要がありました。 同調コイル側のインダクタンスは40μH(リアクタンスは約500Ω)くらいが適当と考えて製作します。(インダクタンスはもっと大きくても良いのですが巻き数もそれだけ増えます)

 巻き数は同調コイル側が100回です。 帰還用の巻線は20回巻きます。 図のように13K型コイルの巻き枠には12段の巻き溝があります。 下側(足ピンの側)の10段の溝に各段に10回ずつ合計で100回巻きます。 ほかの回路への用途も考えて、途中の50回目にタップを設けてありますが、必ずしも必要としないので省いて良いです。
 巻き方向は統一しておけばどうでも良いのですが、ここではコイルを上側から見て反時計回りになるよう巻いて行きました。 上側に2段の溝が残るはずです。その2段に各段10回ずつ計20回巻きます。  詳しくは図も参照を。巻き始めの位置と巻き方向を違えると再生が起こりません。
 巻線には直径0.16mmのポリウレタン電線(記号:UEW)を使いました。 巻き数が多いので幾らか大変ですが製作は難しくないです。周波数が低いのでたくさん巻くのもやむを得ませんね。hi

 設計の趣旨から、上下に二つのコアがある東光の13K型ボビンが適当です。 現在はRF回路でもコイルレスが進んでいるので入手は難しいかもしれません。 昔からジャンク部品を扱っているようなショップに売れ残っている可能性があります。 ほかに455kHzの真空管用IFTを巻き直す方法でも製作可能でしょう。 必ずしも形状や構造に拘る必要はありませんので、各自工夫して設計の趣旨にあったコイルを巻けば良いと思います。

 【東光 13Kコイルの構造
 写真左が完成状態です。  右はボビンとして活用した10.7MHzのIFTです。これは過去にジャンクで入手しておいたものです。信越電機商会だったかも知れませんが、もちろん今はもう売っていません。

 写真のようにボビンは13mm角のアルミケースに入っています。 下部のツメでシールドケースと固定されていますので、アルミケースの裾を少し持ち上げてやると簡単に外せます。 その後で既に巻かれている巻線をすべて除去してしまいます。 台座の部分に同調用のコンデンサが内蔵されているのでこれも除去します。

 巻き溝には高周波ニスが塗布してあるかもしれません。薄い刃物などで溝をキレイに掃除しておくのがスムースな巻線のコツです。少々手間はかかりますが事前の準備(お掃除)が肝心でした。

 【巻線の様子・途中
 同調コイル側の巻線を完了した状態です。 写真のように下側の10段に各段10回ずつ巻いて合計で100回巻きます。

 巻線はφ0.16mm/UEWですが巻き溝ちょうどくらいの太さです。 もう少し細い方が巻き易いかもしれません。 しかし慎重に行なえば難しくもないです。

 このあと上部2段の溝に帰還用のコイルを巻きます。 帰還用は各段に10回ずつ合計20回です。 巻き方の要領は同調コイル側に同じです。 引出し線を巻き溝サイドの縦溝に沿わせ台座方向へ持ってくると綺麗に作れます。 もし高周波ワニスがあれば塗布しておくと防湿になってFBです。 実験的にはそこまでしなくても良いと思いますが・・・。巻き終わったらシールドケースにもどして完成です。

参考:ジャンク屋を巡ったりローカルの自作好きに尋ねるなど、いろいろ努力しても13Kコイル(または類似品)が手に入らないようならご相談を。少量でしたら対応できます。

 【低周波アンプ部
 同じICが手に入る可能性は低いので書いても無意味かもしれません。 写真は使用した低周波増幅用のICです。 中身はNPNトランジスタ2つと抵抗器5本だけという非常にプリミティブなICです。  おそらく1960年代の末ころ習作のようなICとして製造したものと思われます。

 上記の回路図にあるように内部は2段直結の簡単な低周波アンプです。 ほかのICで代替しても良いですし、スピーカを鳴らせるようLM386Nなどのアンプを使っても良いでしょう。 あえて探して使うようなデバイスではないことを強調しておきたいと思います。 「使う機会がないのも勿体ないから使ってみた」という程度の話ですので・・・。

 LA3020のアンプは、回路図の×印の部分をカットし、コンデンサ:C23(22μF)を点線のように接続するとオープンループとなってフルゲインの状態になります。(ゲイン:約54dB)  コンデンサ:C19は増幅帯域を制限するために標準値よりもかなり大きくしてあります。こうするとノイズカットになり聴感上かなり効果的でした。 集積度の低いICですがこうした低周波回路くらいなら活きる道もありそうです。

参考:LA3020はまだ余ってます。使ってみたいお方に差し上げますので連絡してください。骨董品のICはどんなものか試してみると面白いかも・・・。

 【昇圧トランスとセラミック・イヤフォン
 低周波増幅器(LA3020)の後にセラミック・イヤフォンを直結しても良く聞こえます。

 必ずしもトランスで昇圧する必要はないのですが、消費電流を増やすこともなく2倍の感度にすることができます。 山水のST-30型トランスを入れると音量アップできます。 手持ちがあったらトランスで昇圧を試してください。それだけで感度アップになります。

 セラミック・イヤフォンはインピーダンスが高く、端子間に掛かる「低周波電圧」で音量が決まる特性のためトランスでの昇圧が有効なわけです。 ただし、トランスには周波数特性が付き物ですからHi-Fi用途には向きせん。しかし再生式受信機には悪くないです。

 【代替の3石低周波アンプ・回路図
 LA3020の代替に使う低周波増幅器の例です。ICと同じように2石で設計しても良いのですが1つ足しました。 トランジスタは安価ですから、3石にすると出力インピーダンスが下げられるなど扱い易くなります。 再生式受信機専用というわけではなく、多目的に使える低周波アンプです。

 試作にはBlogで紹介済み(←リンク)の中国製のトランジスタ、C1815GRを使いました。もちろん東芝の2SC1815GRでもOKです。 組み立てたらテスト端子:TP1の電圧を確認します。GND間で測って4.5±0.5Vの範囲にあればそれ以上の調整は不要です。 もし範囲を外れているようならR7:1.1MΩを加減します。  TP1の電圧が4.5Vより高いときはR7を大きくします。4.5Vよりも低いときはR7を小さくしてやります。こうした調整を行なえば2SC1815Yでも大丈夫です。直流増幅率:hFEが200〜400の低周波小信号用トランジスタならほとんどのものが使えます。

 周波数特性はC2:100pFで加減できます。 現状の100pFだと再生式受信機には必要以上に高域が伸びています。-3dBが約25kHzなので伸びすぎでしょう。従って100pFよりもずっと大きくした方が良いです。耳で聞きながら幾つか試します。  逆にC7を33pFくらいにすればHi-Fi用にも使えるほど伸びます。位相補償の意味もあるのでゼロにはしない方が無難です。

 回路図の状態でゲインは約100倍(40dB)になっています。R8(現状36kΩ)を大きくするとゲインをアップできます。R8を取ってしまうとオープンループになり、約1,600倍(64dB)のゲインとなります。これがこのアンプの最大ゲインです。 必要に応じてゲインを加減して使います。

3石低周波アンプ
 上記の3石アンプを試作している様子です。 ICを使うよりも部品は増えますが、回路自体が簡単なので作るのは容易です。  トランジスタがローノイズなので旧式のICて作るよりもずっとローノイズなアンプになりました。

 受信機のほか送信機のマイクアンプ回路のような用途にも活用できます。 なお、600ΩのヘッドフォンをドライブするときはR6:1.5kΩを470Ωくらいまで小さくしトランジスタ:Q3の電流を増やしてやります。 また、8Ωのへッドフォンは直接ドライブできないので1kΩ:8Ωくらいの低周波トランスを介して接続します。

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 受信成績を書き忘れていました。(笑) 作ったら何となく満足してしまったからです。 感度的にはセラミック発振子を使った回路と同程度でした。 低周波アンプのゲインをもう少しアップすると良さそうでしたが、LA3020ではオープンループでも54dB程度が限界でした。3石アンプの方がその点でも有利でしょう。 しかしかなり良く聞こえるのでなかなか使えそうな再生式受信機です。 バリコンの回転角に対する周波数の伸び方は単なるLC同調回路ですから素直でした。 セラミック発振子のVXO形式ではバリコンの容量が大きい方で周波数の伸びが縮んでしまうといった欠点があります。 周波数安定度は周波数が低いので良好です。周波数の引っ張り(Pull-in)現象も周波数が低いことが幸いするようで許容範囲にありました。これは目論見通りでした。従ってSSBも良く聞こえます。CW用としても不満はありません。 以上のような感じです。

 作り方しだいで十分に実用になる再生式受信機が作れることがわかりました。 感度、周波数安定度ともにまずまずと言ったところです。 選択度は再生を強めて発振状態で使うCWの受信なら上々です。正帰還でQが高くなって良い選択度になっています。 もちろんシングル・シグナルではないので発振の上下の局が聞こえるのはやむを得ません。 前にも書きましたが、弱い信号は小さな音で、逆に強い信号は大きく聞こえます。 AGC(自動利得調整)がないのでやむを得ませんが、弱い局の受信中に不意に強い局にオンエアされると耐えられない音量になることがあります。 爆音を防ぎ耳を保護する意味からもピーク・リミッタを付加すべきだと感じました。 低周波のバンドパス・フィルタがあれば快適になりますが必須ではないように思います。 低周波増幅器の周波数帯域を制限しておけばそれだけでもかなり効果的でした。

 ブレッドボードを脱却して製作するのはクリコン+再生検波式で行こうと思います。ユニット交換式に作っておけば取り替えて楽しむこともできるかもしれません。製作時に構造を含めて考えておきましょう。 問題は周波数の読み取りにありそうです。なんなら周測計をお供に受信しても面白そうです。

まだ真空管式などやってみたいことは幾つかあるのですが、ずいぶん長くなったのでとりあえずまとめの意味で「おわり」にしておきます。再生式受信機なんてとっくにオワコンかと思ってましたが、なかなか奥深かったですね。 de JA9TTT/1

(再生式受信機のBlogを初回から見る)←リンク

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