【モア ノートン・アンプ:その活用事例から】
【Quad Norton Amp.】
前のBlogはLM359Nと言う高速ノートン・アンプの話しで寄り道しました。 寄り道ついでにポピュラーな(だった?)普通のノートン・アンプでもうちょっと寄り道して行きましょう。
またまたの寄り道なので、具体的な用途・目的は決まっていませんが、いつかどこかで使い道があるかもしれません。回路の素性を掴んでおけば持ち駒が増えたのと同じで、何かの時にきっと役立ってくれます。 ここではオーディオ・ピーク・フィルタ(CW用?)を題材にします。 電子回路の手作りに興味も持つ人には面白いしょう。お暇なら目を通されてはいかがですか?
写真はナショナル・セミコンダクタ社のLM3900Nとモトローラ社のMC3401Pです。引き出しの長期在庫品です。(笑)ここではどちらもまったく同じように使えます。LM2900NやMC3301Pでも良いでしょう。これらICの中身の話しは前のBlogに書いたので、そちらも参照して下さい。
LM3900Nは一時期かなりポピュラーなICでした。部品箱に眠っている確率は高そうです。持っている(いた?)人も多いでしょう。あまり着目もされない地味なデバイスですから、お店に残っていれば安価で手に入るでしょう。持ってなければ一つくらい仕入れておいたら調理法を考える楽しみが増えます。(調べてみたら若松やマルツにて@100円少々で買えます。他所でもまだ売っています)
【バンドパス・ノッチ・フィルタ】
唐突にフィルタを作ってみることにします。アクティブ・フィルタと言えばアナログ系ICの代表的なアプリケーションです。 LM3900系ノートン・アンプの周波数特性はあまり良くないのでオーディオ周波数帯が精一杯です。 従ってフィルタと言っても可聴域・低周波用です。
図の例では4回路入りのノートン・アンプを旨く使ってバンドパス・フィルタとノッチ・フィルタを構成しています。Biquad形式のアクティブ・フィルタです。(図はモトローラ社:MC2900/3900/3301/3401のデータシートより引用)
バンドパス・フィルタの仕様は、中心周波数:f0、選択度(バンド幅):Bw、そして中心周波数に於けるゲイン:G0です。 この簡単な単同調式のフィルタひとつでは高級な特性は無理ですが、設計はごく単純です。関数電卓がなくても、指数表示ができた方が便利ですが、四則演算ができる普通の電卓で設計できます。まあ、どのパソコンにも標準装備の仮想電卓があるのでまったく困りませんね。
まずは中心周波数:f0を決めましょう。続いてフィルタのQすなわち-3dBの帯域幅:Bwを決めます。Qの値は:Q=f0/Bwです。さらに中心周波数におけるゲイン:G0を決めたら計算スタートです。なお、フィルタにゲインを持たせるのは本質的ではないと思います。せいぜい数倍くらいにしておいた方が設計し易いです。このあたりはフィルタ作りのノウハウ部分でしょうか? また、コンデンサ:Cは事前に決めておいても良いのですが、周波数計算の式:f0=1/(2πCR)から仮に求めて、組み合わせる抵抗器:Rとの兼ね合いで決めるのが最善です。抵抗値が数kΩ〜1MΩ程度になるよう決めれば合理的です。E系列で得易い抵抗値に丸めると作り易いでしょう。
この例では組み合わせる抵抗器は62kΩで、4020pF±2%のスチコン(スチロール・コンデンサ)があったのでそれを使うことにします。*1 従って計算上の中心周波数は約639Hzになります。 抵抗器には金属皮膜型±1%を使いました。(*1:ここでは、なるべくオリジナルに近い数値でテストします)
CW用ピーク・フィルタとして検討したいなら3,600pFのコンデンサを使うと良いでしょう。中心周波数は約700Hzになります。また3,300pFで800Hz弱です。ピーク・フィルタとは言ってもQ=3くらいの設計が良いでしょう。
参考:図の回路はDCバイアスの掛け方がノートン・アンプ用になっているので、一般的なOPアンプでは正常に動作しません。注意して下さい。もちろんその部分を変更すれば一般化は可能です。具体的には各アンプの+In端子に電源電圧の中点電位(半分の電圧)を与えてバイアスします。
【ブレッドボードに製作】
簡単な回路なので、パーツボックスから部品をピックアップして1時間くらいで製作できるでしょう。 もちろん、配線接続に使うジャンパー線は各種用意しておきます。 このあたりの準備があればごく手軽な実験です。
スチコンはリード線が細くて何となく頼りないです。そのうえ図体も大きいので、ICのピンの所に直接持って行くと収まりが良くありません。 リード線を短めに詰めて近傍に実装してからジャンパー線でICまで持って行きます。 こうすると構造上安定するでしょう。 アナログ回路は外付けCR部品が多くなります。 ブレッドボードの面積を占有するのでゆとりを持ったサイズを使うと作り易いです。 余白には入出力端子を引き出します。
【波形観測・1】
まずは最適なバイアスポイントになっているか動作点を確かめる意味から波形観測しました。 もちろん信号を入れずにテスタで各部をあたりDCバイアスされていることは事前に確認しています。 なお、電源電圧12Vのとき回路電流は約7mAでした。(無信号・無負荷状態にて)
低周波発振器から中心周波数に相当する約638Hzを与えます。(638Hzで信号がピークになったので)画面の下段が入力で上段がバンドパス・フィルタの出力波形です。軽負荷なら最大で8Vppくらい取り出せました。 LM3900Nの出力段はドライブ能力が大きくないので、重い負荷(低い負荷抵抗)では振幅を抑える必要があります。
ゲインは0dB即ち,1倍の設計なので入力とほぼ同じ振幅です。但し位相は反転します。 取り出す箇所が反転アンプの後だからです。 きれいなサインウエーブを入力すると当然のように出力にもサインウエーブが現れます。
【波形観測・2】
上記と同じ周波数の信号を与えていいます。 但し、今度はサインウエーブではなく矩形波です。波形の上段がバンドパス・フィルタの出力です。
このようにバンドパス・フィルタの出力ではきれいなサインウエーブになります。 矩形波には基本波の他に奇数次の高調波が含まれます。 フィルタによってそれらが除去されたため、基本波成分だけが大きく残ります。 それほどQの高くないフィルタでも高調波を除去する効果があります。
【波形観測・3】
今度はノッチ・フィルタの出力を観測してみましょう。 ノッチ・フィルタとはある特定の周波数成分だけを除去するフィルタです。 この例ではバンドパス・フィルタと同じ638Hzの付近が除去されます。
上段の波形がノッチ・フィルタの出力です。 漏れが大きいように感じるかもしれませんが、上段と下段ではオシロスコープのレンジが異なっています。 実際には入力の2%以下の振幅です。 無調整なのでこの程度なのはやむを得ません。 回路図のAmp4、Pin11に接続された330kΩのうち入力側の2つのどちらを微調整することでノッチの深さ、即ち除去量が改善できます。
【波形観測・4】
矩形波を与えてノッチ・フィルタの出力を観測してみました。 上段の波形がフィルタの出力です。 基本波成分が除去された図のような波形が観測されます。
こうした機能を使って、ノッチ・フィルタは歪み率測定に使われます。その為には基本波の除去率が問題になるので入念に調整します。
【バンドパス・フィルタの周波数特性】
周波数特性を測定してみました。 フィルタ・アナリシスモードで観測しています。 それによれば、実測による中心周波数は636.7Hzです。(設計の計算値は638.6Hzなので誤差は-0.30%) またフィルタQは5.31です。(同じく計算値では5.32なので誤差は-0.19%) 部品精度を考えれば、おおむね設計通りでしょう。設計の再現性はなかなか良好です。
こうした単峰特性のフィルタはCWフィルタ用には少々使いにくいかも知れません。 もちろんお好みにもよりますが・・・。 ピークが鋭過ぎてすぐに相手局の信号が逃げてしまいます。 ある程度の通過帯域域を持ちながら、帯域外の減衰傾斜が急峻なフィルタが欲しくなるでしょう。 なおQが5程度なら過渡応答の影響はそれほどありません。比較的素直な応答を示します。
【ノッチ・フィルタの周波数特性】
ノッチ(谷)の部分の減衰が不十分なのは抵抗器に誤差があるからです。 先に書いたように、調整で改善することができます。 本格的なノッチフィルタとして使うならチューニングします。
このフィルタはAC結合なので、ごく低周波の部分ではダラ下がりの周波数特性です。 またアンプの周波数特性が効いて来るのでオーデイオ帯以上でも右肩下がりの周波数特性です。 単同調回路なので位相はフィルタの中心周波数で大きく回りますが、あとはだらだらと変化して行きます。
参考:測定しませんでしたたがAmp3の出力(Pin9)はローパス・フィルタ特性になっています。設計次第ですが、ユニバーサルなフィルタ・ブロックとして活用できます。
【まとめ】
ノートンアンプを使い、Biquad形式でバンドパス・フィルタとノッチ・フィルタを作ってみました。
この程度のフィルタならMFB形式のフィルタ回路ならOPアンプ一つで実現可能です。 ですからバンドパス・フィルタだけで3回路も使うのは何となく勿体なく感じます。 但し、中心周波数やフィルタのQは比較的単純な計算で設計できますし、再現性のよいフィルタ形式です。一段とHigh-Qなフィルタの実現ではたいへん有利です。 OPアンプの数を厭わないならとても良い回路です。 Biquad Filterはノートン・アンプ専用の回路ではありませんから小変更で普通のOPアンプでも同じように実現できます。
ブレッドボードで試作しましたが「フィルタ・ブロック」として有用性が感じられるので例の「ブレッドボード・パターン」のユニバーサル基板に移植して恒久化しておこうと思います。f0を決めるコンデンサとQを決める抵抗器はソケット式にしておいたら良いでしょう。
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ノートン・アンプを使うと単電源で動作する回路が作り易いです。これはなかなかメリットです。 またLM3900(MC3401)の出力段はA級増幅なのでクロスオーバー歪みは発生しません。 マイクアンプのような小レベルの所から使える汎用増幅ICとして重宝でしょう。トランジスタ代わりに「ちょっとアンプを」と言うときに具合が良いです。 簡単な論理回路やタイミング回路にも向いているので、トランシーバの送受信コントロールとかVOX回路などにも向いています。守備範囲が広いICですね。
☆ ☆ ☆
実験していてノートン・アンプが登場したころを思い出しました。雑誌には新種のOPアンプとして(大々的に?)紹介されていました。 ただ、いま思うとそれは間違いだったようです。 事実、ナショセミ社のデータシートにはOPアンプと大書きされてはいません。 大々的にノートン「OPアンプ」と書いていたのはモトローラの方でした。これにはだいぶ惑わされた感じです。
ちょっと見るとOPアンプちっくに動作しますが+入力端子はどちらかと言えばバイアス設定用の端子です。(・・と考えるとわかり易い) バイアスさえ設定すれば、アンプは単なる反転型負帰還アンプです。 ノートン・アンプは非反転アンプではあまり使わないのです。(使いにくいから) ノートン・アンプをOPアンプ的に使う回路例はそれほど多くありません。
昔々、何となく使い難いと感じたのはそうした見極めができなかったからでしょう。ノートン・アンプをOPアンプの仲間だと思っているならいつまでも惑わされたに違いありません。これまで少々曖昧な理解だったノートン・アンプもだいぶスッキリしました。 扱うのはこれが最後と思いますが、わかって使えば意外に便利なアンプICです。ちょっと古臭いですが持ち駒の一つになってくれたようです。de JA9TTT/1
(おわり)
(参考リンク)←136kHz送信機エキサイタ部の纏めにリンク
6 件のコメント:
加藤さん、おはようございます。
そろそろ3月半ばなのに寒いですね^^;
OPampのBiQuadフィルターの回路と見比べながら拝見しましたが、回路的には記事中に書かれている+In端子の扱いが異なるだけなのですね。
僕にはまだOPampとの違いが良く理解できていないようです^^;
どこかでOPアンプの仲間だと思っている殻なのでしょうね。Hi
昔、リグにCWフィルターを装着していなかった時にOPアンプのBPFを作って使ってましたがハイバンドでは結構使えた記憶があります。
HPのオシロ画面のハードコピーは何を使って取られているのですか?
JE6LVE/3 高橋さん、おはようございます。 今朝も風が冷たいですねえ。 こちらとっても快晴です。
早速のコメント有難うございます。
> +In端子の扱いが異なるだけなのですね。
そうですね。 ノートン・アンプの場合は、+Inに電流を流すことで-Inの電流とバランスさせて出力回路の直流的な動作点を決めています。 一般のOPアンプではいずれも電圧で与えますのでそこが違いますね。
> ハイバンドでは結構使えた記憶があります。
無闇にHigh-Qな設計にしなければ、結構使えると思います。 やはり混んだバンドだともう少しマシなフィルタが欲しいでしょう。
> ハードコピーは何を使って取られているの・・・
ボタン一発で画面をJPEGもしくはTIFF形式で保存する機能があります。古い機種なのでメデイアは3"FDですけれど。(笑)
おはようございます。復興が進んでるようには見えませんが、かの大震災からもう3年も経つのですね。早いものです。やっと暖かくなりそうですが、花粉の飛散で大変なことになりそうです。
これまで、ノートンアンプ=単電源オペアンプくらいにしか考えていませんでしたが、改めて等価回路を見ると「似て非なるもの」ですね。入力側の「定電流源マーク」には大きな意味があったようです(笑)。
TI社のセレクションガイドを見ると、LM2900/3900はノートン「オペ」アンプとして紹介されていますが、LM359は取り上げられていませんでした。ただ、LM359もSOICパッケージのみ細々と生産が継続しているようです。
ノートンアンプは差動入力アンプより低雑音にできそうですが、特に基本の反転増幅器では信号源と直列に入る抵抗から発生する熱雑音が影響するので、ローインピーダンス回路でないとその特徴は生かせないでしょう。
外部にPNP or Pchの差動増幅回路を外付けすれば普通のオペアンプと同じになりますが、そんなことをするくらいなら最初からそのような構成のオペアンプを選択する方が合理的だと思います(笑)。
アナログ回路技術なんてとうの昔に枯れているので、新旧デバイスの違いは主にプロセス(主にMOS化)・低電圧化・形状の小型化でしょう。何十年も前からあるオペアンプの多くは今も現行品ですし、それ以外の品種も旧品種の特性を改善したものが大半です。
一時期オーディオメーカーが大々的に宣伝していた「電流帰還アンプ」も、実は真空管回路で当たり前に使われていた技術です。
参考までに、古いIE8では画像が不鮮明に表示されます。最新版はわかりません。FirefoxではOKです。
さて、これから1608チップ部品と格闘です。あまり小型化しすぎるのも困りものです(苦笑)。
JG6DFK/1 児玉さん、こんばんは。 今日は暖かくなりましたね。 この調子で暖かくなると良いのですが・・・。花粉は願い下げですが、今の季節もう諦めています。
コメント有難うございます。
> 「似て非なるもの」ですね。
回路記号は似ていますが、中身の違いは大き過ぎますよね。(笑)
> オペアンプの多くは今も現行品ですし・・・
そうなんです。 741なんて1968年生まれだそうですから45年以上前の製品ですが現行品ですからね。マイコンの始祖・i8008より数年まえですから。全体にアナログ部品は寿命が長いです。シーラカンスみたい。(笑)
> 古いIE8では画像が不鮮明に表示・・・
気付いておりました。 Blogger(=google)が勝手に画像ファイルをいじって色がおかしくなるので Jpegをやめてpng形式にしてみました。 それは良かったのですが、副作用がありますね。 今回そのままで行きますが、次回以降は考えたいと思います。(googleも困った仕様ですね)他のブラウザはどうなんでしょう。
> 1608チップ部品と格闘です。
このあたりが手で扱うには限度かと思っていましたが、1005くらいは何のことも無いと言う人も居られます。若い人は頑張るようですよ。児玉さんも頑張って。(笑)
ノートンアンプ,最初にオペアンプを知ったころ(1976年ごろ)に流行っていた記憶があります.LM3900Nはなつかしい名前ですね.残念ながら自分では使ったことはありません.中点電位電源を仮想アースにして,両電源のオペアンプを使ってばかりいます.
音楽シンセサイザだとLPFの減衰特性が12dB/octか24dB/octかで違いがかなり出てくる(機種が特定できる)ので,こだわって使っている人達は多そうです.
73 de Kenji JJ1BDX(/3)
JJ1BDX/3 力武さん、こんばんは。 出掛けていて先ほど帰宅したところです。
コメント有難うございます。
> 流行っていた記憶があります.
一時期、なんにでもNorton Ampを使うのが流行った時期がありました。 その当時は安価な素材で重宝だったのでしょうね。
> 中点電位電源を仮想アースにして・・・
その方がわかり易いし、扱いやすいと思いますね。
> 12dB/octか24dB/octかで違いが・・・
これはかなり違いますね。 位相の回り具合も違いますから。
マルチアンプ式のスピーカシステムではチャネルデバイダを使いますが、切れで選ぶか、音色で選ぶか・・・と言うような減衰傾斜の論議もよく目にしたものでした。遠い昔の話です。(笑)
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